おおかみ少年と赤ずきん
そういえば、あの童話、何てタイトルだったっけ?
狼と赤いかぶり物をした少女の物語――――。
「ねえ、また狼少年現れたんだってー」
ホームルームが始まる十分前。前の席に座っている親友の相坂夏帆が声をかけた。
「それも、あんたのバイト先の高見原の屋敷に」
夏帆に指差された少女、鳴沢柚留は思わず頭を抱えた。
「知ってる……。だってその日、あたし警備してたもん……」
この地域で最も豪奢で広大な屋敷を所持している領主、高見原。巨額の富を手に入れた方法は悪徳商法と名高く、実際その噂は的を射ている男の屋敷で、柚留は警備員としてバイトしていた。
「見つけたのは先輩警備員なんだけどさぁ。電子銃どんだけ撃ってもキレーに避けるらしくて全っ然ダメ」
警備員には侵入者を確保するため電子銃が支給される。撃たれると麻痺毒により体が痺れ、じわじわと苦痛に苛まれる。電子銃と共に解毒注射も渡されるが、撃った侵入者を捕らえて警察に突き出すまでは使用出来ない規則になっていた。
「身体能力だけはいいあんたがダメって言うくらいならもー捕まえんの無理じゃない?」
だけ、の部分にやたら力が入ってたような気がするのは気のせいか?
夏帆の言うように、身体能力の高さを買われて十八歳でありながら警備員として働くことを許可された。当然職場は柚留より年上の男ばかりで、麻痺毒の電子銃も彼らが持てば軽いものだろうが柚留にとってはかなり重たい銃だった。それを抱えて走り回るのだから任務が終わった頃には体中悲鳴を上げている。
「それに相手狼じゃん。普通に考えて無理っつの」
「一人少年も混じってるけどね」
かなりの頻度で高見原の屋敷に侵入し、金目の物を奪っていく侵入者。狼四頭を引き連れ、自身もまた狼のように俊敏に動く少年を、各メディアは『狼少年』と表記した。
「今日も仕事だしー……」
机に伏せた柚留の頭を夏帆がいなすように軽く叩く。
「月並みなことしか言えないけど、あんたは選ばれて警備員になったんだから頑張んな。なりたくてもなれない奴の方が圧倒的に多い仕事なんだしさ」
「ありがと夏帆ー……」
柚留が愚痴を吐く度に何かしらの労いの言葉をかけてくれる夏帆にいつものことながら涙が出そうだった。
一度家に戻っていたら仕事に間に合わないので学校帰りに直接高見原の屋敷へと向かう。
屋敷に向かう途中にある森は割と大きい山と繋がっていて、その山と森が狼少年の住む場所だった。
と言っても、出会ったことは一度もないのだが。
薄暗い森は見る者によっては恐怖を感じるほど不気味だが、慣れてしまった柚留にとってはどうということはなかった。
が。
「……――――」
風に乗って、微かに鼻をかすめたのは、屋敷で嗅いだことのある獣の匂い。
瞬時に悟り、肩にかけた鞄を持つ手に力が入った。教科書やノートを詰め込んだ学生鞄は振り回せばちょっとした武器になる。
「狼……――――」
柚留の声に反応するように。
「――――っ!」
突如、森から一頭の狼が飛び出した。
「春希!」
誰のものか分からない名前を怒鳴るように叫んだ少年の声に、今まさに柚留に飛びかかろうとしていた狼がぴたりと静止した。
しかし鞄で殴ろうとしていた手は突然止まってはくれない。
どん、という鈍い音が響く。狼の横っ面に見事にぶつかり甲高い鳴き声が上がった。鞄を振り回した反動で思わずふらつき背中から倒れた。
「春希っ!?」
怒鳴るような呼び方だった名前が今度は心配するような声音で呼ばれた。同時に、森から少年が現れ柚留に殴られた狼に駆け寄った。
「大丈夫か?」
狼が甘えるような鳴き声を上げて少年にすり寄った。首の付け根を軽く叩いていた少年が初めて柚留に目を向けた。
「よくも……っ!」
「先に襲いかかってきたのそっちじゃない!」
「まずいと思ったから春希呼び止めただろ!」
確かに狼の動きは止まった。だが人間、そうそう簡単に動きを停止することなど出来ない。
言い淀んで口籠もっていると、少年が物珍しげに瞬きした。
「……ああ、お前知ってる」
「へ?」
少年が狼から離れ、柚留の髪に手を伸ばし無造作に掴んだ。
「いった……っ!」
「赤髪の女は魔女の血を引く者。お前もそうなんだ?」
――――知ってるってそのことか。
背の中程まで伸びた柚留の髪は赤かった。
この地方に昔からある魔女の言い伝え。赤髪の女は魔女の血を引く者とされひどい扱いを受けていたという。
実際、柚留もこの髪のせいで幾度となくいじめに遭い、気味悪がられてきた。
「高見原の屋敷に侵入したら、屈強な男に混ざって赤髪の女がいたからさ。あれってお前だろ?」
目の前の少年の目が興味津々と言わんばかりに柚留を捉える。
「やっぱ気付いた……?」
「赤髪で高見原の警備員やってる女なんてそう何人もいるかよ」
全くもってその通りだ。反論する余地も隙間も有りはしなかった。
「……てことはあんた狼少年!?」
「今更?」
呆れたような声とともに、少年が柚留の髪から手を離して立ち上がった。
「瑠夏! 秋穂! 冬架!」
その名前に応じるように三頭の狼が森の中から現れる。一頭だけでも迫力満点なのにそれが三頭も増えたら……っ!
合計四頭の狼が少年を取り囲むように集った。
「俺、こいつらと暮らしてんの」
「さっきの名前って狼のだったんだ……」
少年が鼻先をこすり付けてきた狼の頭を撫でる。柚留にはどの狼も一緒に見えたが、少年は誰なのか認識出来ているのだろう。
「あんた名前は?」
「千隼」
「あたし、鳴沢柚留」
「ふうん。変な名前」
人の名前聞いて開口一番に言うことがそれ!?
「千隼、今日も高見原の屋敷に侵入する気?」
「敵のお前に教える訳ねえじゃん」
敵という単語を真っ正面から投げつけられて、思わず固まった。
ああ、あたしは千隼から見れば敵なんだ。
運動会の赤組と白組のような敵同士ならいくらでも経験したことある。だけど、真っ向から敵だと拒絶されたことなんて一回もなかった。
「……そっか」
何に対しての「そっか」なのか自分でも分からなかった。
「取り敢えず、その子、殴ってごめんね」
合計四頭の狼のうち、一番千隼に寄り添っている狼を指差して謝った。あの狼があたしが殴った子だろう。……多分。
「あたし、今日シフトだから。じゃね」
まともに千隼の顔が見れない。何で見れないのかすら分からなかった。
領主である高見原の屋敷に向かって走りながら、気付いた。
あたし、もしかして傷ついてる?
千隼に敵だって言われたことに? 何でそんなことで。
あいつの言ったことは全部全部正しかった。あたしが千隼の敵であるように、あたしの敵は千隼なのだ。
「甘っちょろい考えかもしんないけどさ……っ」
上がった息の間からかすれるように言葉を吐き出した。
「ホントは撃ちたくないし、敵にもなりたくないよ……」
こんなこと警備員の先輩の前で言ったら気でも狂ったかと本気で心配されるか、罵倒されるかのどちらかだろう。
そんな考えを巡らせている間に屋敷に到着した。
これ以上にないほど情けない話だが、柚留はまだ一度も侵入者を撃ったことがない。
正確に言うと撃つ機会は――――、撃たなければならない時は幾度もあった。だけど銃口を相手に向けて照準を合わせると、途端に恐怖で体が震えた。
撃ちたくない。だけど先輩警備員からは撃て! と怒鳴られる。
やっとの思いで引き金を引いたとしても、目は閉じてしまうし顔も背けてしまうので当然侵入者には当たらない。
「割り切らないと一生無能のままだぞ」
何度そう言われたか分からない。何度謝ったか分からない。
でも不思議と辞めたいと思ったことはなかった。
運動神経だけは無駄に良く、その点は男ばかりの先輩警備員に褒められてかなり嬉しかったのが心の支えになっているからだと思う。
「あたし、辞めませんから」
今日のシフト終わり、警備員のリーダーである遠間に向かって柚留が放った言葉だ。
「お前毎回言ってくるな。それ」
シフト終わりに遠間に「辞めませんから」と言うのは既に日課になっていた。
「撃てないんじゃない、撃ちたくないんです」
遠間が口を開く気配がした。「割り切らないと一生無能のままだぞ」が来るか。
「でも!」
それを遮るようにして柚留が声を上げた。
「絶対に割り切りますから。撃ちますから。だからこんなとこで辞めません」
一方的にそれだけを告げると玄関に向かって歩いて行った。
既に時間は深夜と呼んでもおかしくない時間帯だった。
今日の睡眠時間どのくらい取れるんだろ?
もしかしたら学校休むかも知れないと、頭の片隅で考えた。
そしてその日の朝。柚留の睡眠時間は三時間ちょっとと言ったところだった。
とんでもない眠気と体の重さから学校欠席を決意。この状態で学校行ったらまず間違いなく全教科寝る。
結局、自分の睡眠欲の赴くままに寝たいだけ眠り、すっきり起きられたのは十時過ぎだった。
「何しよっかなー……」
朝食とも昼食とも言える食事を摂りながら呟く。ふいに、テーブルの上に広げられた色鮮やかなチラシが目についた。
「あ!」
我ながらいいこと思いついた。
菓子パンを即行で食べ終わるとチラシを掴んで家を飛び出した。
「千隼ーっ! いるー!?」
家を飛び出した帰り、柚留が立ち寄ったのは千隼とその狼たちが暮らす森だった。
森と一言で言ってもそれなりに広大なのでたった数回柚留が呼んだところで現れてくれる可能性なんて限りなく低い。
「千隼ー!」
それでも何度か呼んでみると、突然ざざっと葉の揺れる音がして近くの木から千隼が飛び降りてきた。
「何?」
微妙に不機嫌そうな顔に見えるのは気のせいなんかじゃないだろう。
「これ、この前のお詫び」
そう言って柚留は握っていたスーパーの袋を千隼に手渡した。
「お詫び?」
「この前、千隼の狼殴っちゃったから」
テーブルに広げられた近所のスーパーのチラシには、「今日は肉の特売日!」と真っ赤なフォントで書かれてあった。狼=肉食というイメージがぼんやりとあった柚留は、スーパーに赴いてありったけの肉を購入したのだった。
「四頭もいるから足りないかもだけど、お小遣い、一気に飛んだんだから」
「……あんた、馬鹿みたいに素直だよな。わざわざお詫びの品持ってくるとは思わなかった」
千隼が呆れを含んだような何とも言えない笑い方をした。
「ありがとう。貰っとく」
――――うわ、嬉しすぎて顔ニヤけそう。
寂しくなった財布を眺めた時はかなり辛くなったが、たった一言、千隼にそう言ってもらうだけで気持ちががらりと変わった。
思わず俯いて緩むのを抑えきれない口元を掌で隠す。長い赤髪が良い感じでカーテンになってくれた。
それが収まったころ、言わなければならないことがあったのを思い出す。
「――――ねえ、お願いだから、今日は高見原の屋敷に侵入しないで」
唐突に真剣みを帯びた柚留の声とその内容に、千隼が眉根を寄せた。
「今日、いつもあたしたちが使ってる麻痺毒の電子銃が一斉点検で、この日だけ使用銃器が拳銃になるの。致命傷になりかねない部位を狙うのは禁止されてるけど、そんなのどこまで守られるか分かんない」
侵入者を、特に千隼を見つける度、とにかく捕らえろと電子銃を撃ちまくる警備員ばかりだ。勢いに任せて撃った弾が千隼の命に関わらないなんて言い切れない。
「前にもいったろ。敵のお前に侵入するかしないかなんて言う訳ねぇじゃん」
先ほどまでの少しだけ温和だった表情が一気に硬く、鋭いものに変わる。
また、敵だからって線引かれるの? 壁作られるの?
警備員だからってだけで、あたしの言葉は千隼に受け入れられないの?
「ねえ、お願いだから……っ!」
ただ撃つことなら簡単だ。敵に照準を合わせて引き金を引けばいい。だけど。
「撃ちたくなんかないのに……っ!」
撃ちたくない。その思いはいつだって、柚留の中に在り続けた。
夜十二時前。
千隼の元を訪れてからそのまま高見原の屋敷に来た柚留は祈るような気持ちで警備についていた。
お願いだから今日は来ないで。来ないで。来ないで……!
機械仕掛けの人形のように、ただその一言だけを繰り返していた。
しかし――――。
「狼少年が来たぞ――――!」
「何で……っ」
警備の情報を敵に漏らすという、これ以上にないほどの規則違反を犯してまで、来ないでって言ったのに!
瞬時に屋敷内が騒然となった。走り回る警備員の足音が振動と共に伝わってくる。
『二階の書斎にて目標発見!』
片耳に挿したイヤホンから低い声が入ってきた。
「二階書斎って……」
すぐ近くだ!
警備員の仲間にも一目置かれる運動神経。それだけが柚留の長所だ。それを最大限に生かして走った。
「いたぞっ!」
そう声を上げ、書斎の戸口で叫んだのは警備員リーダーである遠間だ。
その手に握られているのはいつも使う麻痺毒の電子銃よりも随分と小ぶりな、拳銃。
電子銃で撃たれるより、拳銃で撃たれた方が銃傷はひどい。当然だ。電子銃なら麻痺毒の苦痛だけで死ぬことはありえないし解毒注射もあるが、拳銃なら撃たれた部位によっても死の危険性があり、もし急所を逸れたとしても出血死の可能性だってある。もし弾が貫通なんかしたら大手術は免れない。
そんなの絶対嫌!
「……っ、どいて下さい……っ!」
戸口に立つ遠間を押しのけて、柚留は書斎の中の侵入者に銃口を突きつけた。
そこにいたのは、やはり千隼だった。
何でここに来たの。あんなに来ないでって言ったのに。
おそらく柚留の表情からそんな言葉を読み取ったのだろう。千隼が苦々しく顔を歪めた。
「おい、お前のそれ……っ!」
ふいに遠間の声が耳に突き刺さった。ぎょっとしたような声音も仕方ない。なぜなら。
「点検不要の試作品です!」
柚留の手に握られていたのは小ぶりな拳銃ではなく、普段の電子銃より一回り大きい銃だった。
現在の麻痺毒の電子銃の試作品にあたる、言ってしまえばもう使用されていない旧式の銃だ。
どれだけ正確に照準を合わせても狙い通り撃てない、重すぎるなどの理由ですでに利用されなくなった型だが、電子銃であることには変わりない。
普段の電子銃でさえまともに撃ったことない。それよりも劣悪な武器を使いこなせる自信なんて欠片もない。でも――――。
「…………っ!」
息を詰めて、引き金を引いた。
「つぁ……っ!」
引き金を引いて、最初に耳に飛び込んできたのは、明らかに人体に当たった音と、痛みを伴った声。
窓枠に足をかけていた千隼が右の二の腕を押さえて苦痛に顔を歪めていた。
そしてそのままぐらりと窓から落ちていく。
「……っ!」
柚留が異常に重たい電子銃をその場に落として窓枠に駆け寄った。
身を乗り出すようにして下を覗くと、狼の背に乗って走り去る千隼の姿が確認できた。
「すいませんっ! ちょっと抜けます!」
書斎を出て行く寸前、呆然と戸口に立ち尽くしていた遠間を振り返る。
「勝手にプロトタイプ使ってすいませんでした! 後で始末書書きますから!」
それだけを言い置いて、柚留は森の中に走って行った。
「千隼! 千隼――――っ!」
声の限りに名前を呼びながら森を走っていると、木の幹にもたれかかっている千隼を見つけた。
そして寄り添うように、一頭の狼。
柚留の足音に気付いたのか、狼が低い唸りを上げてこちらを睨んだ。屋敷で何度も目撃しているとは言え、今にも襲いかかってきそうな迫力に思わず竦んだ。
「冬架!」
苦しそうな表情を浮かべながら千隼が狼の名を呼んだ。瞬時に狼が静かになる。
「まだ高見原の屋敷に春希たちがいるだろ? あいつらつれて戻っとけ。やばいなって判断した時は呼ぶから」
冬架と呼ばれた狼の頭を撫でながら千隼が言い聞かすように命令した。一度、甘えるように千隼にすり寄った狼は次の瞬間、柚留の横を通り抜けて駆けだした。
「……で。俺を撃った警備員さんは何でここに来たの?」
「説明あとでするから!」
そう言って柚留がポケットから出したのは細身の棒のような物体。半透明のキャップを外すと出てきたのは五ミリ程度の注射針だった。
「ちょっと痛いよ」
言い終わるのと同時に千隼の首筋に注射針を突き刺した。その状態でボールペンのように片方の先端をノックする。
「たっ……!」
針を突き刺していたのは三秒程度だろう。引き抜いた解毒注射が柚留の手の中から音を立てて転がり落ちた。
「来ないでって、言ったのに……!」
そう呟いた瞬間、心の箍が外れた。涙腺が壊れたようにボロボロと涙が零れた。
「撃ちたくなくて、今までまともに撃ったこともなかったのに、一番撃ちたくなかった人、今日、あたし撃っちゃった……っ!」
台詞が上手く組み立てられない。やたらと同じ言葉ばかり繰り返して、何を言いたいのか、言わなければならないのか分からなくなった。
「……お前の忠告、無視して悪かった。その罰だな、これは」
そう言って、千隼は自分の右二の腕に目をやった。そしておもむろにその腕が持ち上げられる。
「泣き止めよ、頼むから……」
わしわしと柚留の頭を撫でる。その手つきは狼の撫で方とどことなく似ていた。
不器用な優しさにかえって涙が止まらない。
「どうやったら泣き止んでくれる?」
かなり困り果てた声音で千隼が問うた。狼以外の存在なんてどうでもよさげな男が、案外女の涙には弱いのかも知れない。
「……あたしのこと信じてよ」
素面じゃ恥ずかしくてとても言えない台詞が涙の勢いで口をついて出た。
「警備員だからって線引きしないで。あたしのことそんな風に切り捨てないで」
泣きながら思ったままを吐き出した。
「……分かった」
ほんの少しの間を置いて、千隼がそう呟いた。
「あんたが馬鹿正直なのはこの前知ったしな。信じるよ」
おそらく狼を殴ったお詫びの品を持って行った時のことだろう。
あれ、そんなに非常識なことだったのかなぁ。
「……約束だからね。裏切ったら電子銃で頭撃ち抜いてやるから」
「……撃ち抜かれたくないから裏切んないよ」
千隼の微苦笑に、ようやく柚留の涙が止まった。つられるように緩く笑う。
柚留の赤い髪が月明かりを受けて微かに光る。
そういえば、何だっけ。
狼と赤いかぶり物をした女の子の出てくる童話。
……まぁ、今は思い出せなくてもいいや。
遠くから狼がこちらに向かって駆けてくる音が聞こえた――――。