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魔女と騎士  作者: 宮原 ソラ
3章
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悪夢の胎動1


(狂いし精霊は、生きた人間に憑り付くことが出来る。では……死んだ人間には?)


 スウェンの研究書にもそれについての記述は多少はあったが、彼にとっては興味のある分野ではなかったらしく、内容はひどく薄いものだった。

 詳しく知るためには、やはり実際に試してみるしかなさそうだ。

 精霊が憑り付いた死者はどのような状態になるのだろう。ただ動き回るだけなのか。それとも、生前の知識や記憶をある程度持ち、それを語ることが出来るのか。

 レオンには知りたい事があった。

 

 自分が何者なのか。何処から来たのか。

 レテの力を持つ身であることはわかる。だが、その力が強すぎた。自分自身、異常だと思えるほどに。


 以前、虹石をくれたあの老婆なら、何か知っているのではないかと考えた。ただ一度会っただけの少年に、貴重な魔女の分身を惜し気もなく与えた、あの不思議な老婆なら。

(ヒルダの婆さん……俺は、あんたに聞きたい事がある)

 魔女ヒルダの墓を探し当てるのは、レオンの力を持ってすれば容易かった。王都の平民墓地の片隅に、彼女はひっそりと葬られていた。

 あの銀の髪の魔女の祖母だと知った時には、運命の皮肉のようなものを感じないわけにはいかなかったが……。

 墓の日付を確かめると、魔女ヒルダは九年も前に死んでいた。九年前といえば、レオンはまだ十五歳。ヒルダと出会ったのは、十四歳の時だったから、あれからわずか一年後に老婆は亡くなったことになる。

 だが、老婆から譲り受けた命の石は、その本体の死をもってしても壊れることなく、更に二年もの間、レオンの身を守り続けた。

(……なぜ残った?)

 それほど強かったということか。老婆が、レオンの身を守ろうとした、その想いが。


(婆さん、もしかして、あんたは俺を知っていたんじゃないのか……)


 魔女を蘇らせてみせる。たとえ、それが一時的なものにしても。

 だが、失敗は許されない。死体が「物」であると単純に考えれば、魔法具の作成の失敗時と同じように、再生できないほどに粉々に砕けてしまう可能性がある。

 実験体が必要だ。あらゆる年齢、性別、立場の、大量の死体が。

 だが、王都の墓地は使えない。さすがにここでは目立ち過ぎる。死体が次々と掘り返されるような事態になったら、都中ひっくり返るような大騒ぎになってしまうだろう。


(ああ……あるな、一つだけ。山ほどの死体。時期も、七年前……婆さんが死んだ時と、そう大きく違わない)


 王都より遥か西方、滅ぼされた町がある。

 焼け野原にされたその町は、結局復興することはなく、町民たちも、騎士団と警備隊の手によってかの地にひっそりと埋葬された。


 切っ掛けは、些細なことだった。


 アリストラの西の隣国の、長らく続いていた内乱がようやく終わり、職を失った大量の傭兵が、徒党を組んで襲ったのだ。

 一説には、西隣国がアリストラの町を襲ったことにして、今度は二国間戦争を引き起こしたかったと言われている。

 アリストラの誇る名宰相と黒騎士団長が、無論そんな浅知恵を見抜けないはずがなく、愚かな傭兵たちはほとんどが捕えられ、処刑された。

 町を襲った傭兵たちの中には、当時十七歳だったレオンも含まれていたが、彼は捕まらなかった。


(町の名は、何だったか……。そうだ、ザカリアだ)


 この時のレオンは知る由もなかったが、そのザカリアこそが、黒騎士ウォルターの故郷であった。



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