表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と騎士  作者: 宮原 ソラ
3章
36/57

収穫祭の夜会2


 小麦の穂が色鮮やかに黄金に染まる秋、収穫祭と、アリストラ国王ジェラール三世の生誕祭が同時に催される。

 先王の突然の病死により慌ただしく王位を継いだジェラールは、在位期間わずか三年、二十四歳になったばかりの非常に若い王であった。

 百年生きた狸も及ばないとされる、狡猾な、いや英明な宰相アデルバートの教育の賜物か、質素倹約、質実剛健を絵に描いたような人物でもあった。

 華美なものを好まぬジェラールの代になってから、税金を湯水のように使う貴族の夜会は目に見えて減ったが、その全てを王は否定しているわけではなかった。

 舞踏会で踊られる古典舞踊は残すべき伝統だと思っているし、夜会は重要な情報交換と交友の場でもある。

 それを華々しく飾るために、服飾、料理、楽団と、様々な手配を民間にかければ、金も流れ、王宮の敷居を低く感じてくれる庶民も現れるだろう。

 締めるべきところは締め、遊ぶべき時は十分に楽しめばいい。収穫祭と生誕祭が同時に訪れるこの期間もまた、無礼講に羽目を外せる息抜きの場として提供できればと、若き王は考えていた。


「夜会の出席者はどうだ? 集まりそうか?」


 ジェラールの問いに、宰相は肩をすくめた。

「集まるも何も。明らかに大広間の収容人数を超える申し込みが来ております。いっそ夜会を二日に分けようかと考え中です」

「やれやれ。みな暇しているな。平和で何よりだが」

「いい年をして一人も妃がいない誰かさんのせいでしょう。女性の出席者が多く、このままでは、夜会の間中、壁の花で終わる哀れなご婦人が続出です」

「まぁ、俺が独り身なのは置いといてだな。壁の花については大丈夫だ。抜かりない」

 あっはっは、と王は快活に笑い、宰相はげんなりと肩を落とした。

 ジェラールの代になってから、夜会の壁の花対策に、騎士たちが引っ張り出されるようになっていた。

 要はぽつりと寂しげな令嬢がいたら積極的に声をかけ、ダンスと会話の相手をし、決して退屈な思いをさせないよう気を配れというのである。

 白騎士団が縮小傾向にある今、そのお鉢は黒騎士団にまで回ってきていた。そして、当然のことながら、武勇の誉れ高い黒騎士からは、「何で俺らが!?」と不満が活火山の溶岩流のごとく噴出していた。

 それを諫める自分の姿を想像するだけで、宰相はいっそう疲労感が増してしまうのである。

「またヴァルトに睨まれますよ。うちの若いのをこき使うなと」

「ヴァルトも出ればいいのにな」

「警備の要たる人物に、そんな事させられるはずがないでしょう」

「意外に人気あるんだぞ、ヴァルトの奴。なにせあの体格だからなぁ。一度相手してもらって壊れてみたいとか何とか……」

 十年も前に亡くなった奥方を未だ想い、一人娘を育てながら男やもめを貫いているヴァルトが聞いたら、裸足で逃げ出してしまいそうだ。

 見た目よりはずっと真面目な騎士団長の顔を思い浮かべ、アデルバートは苦笑した。


「まぁ、ともかく、騎士の手配はさせましょう」


 数日後、ヴァルトがいかにも不満そうに提出した夜会の出席者名簿には、ウォルター・レアリングの名があった。






「えっ? ウォルターさん、舞踏会に出られないのですか?」

 夜会での接待役という理不尽極まりない決定について告げると、ユリアは目に見えてがっかりした表情を浮かべた。

「いや。会場にいることはいるんだが……」

 オスカレイク邸から宮廷までの道のりに同行することは出来ないし、会場入りを果たしてからも自由には動けない。接待役であると同時に、彼は会場の広い範囲を守らなければならない警備兵でもあった。

 スウェンとエメラインの二人が付いていてくれるので、ウォルターが同伴しないところで何も問題はないのだが、どうも一抹の不安が脳裏を過ぎる。

 ユリアは自分の容姿には恐ろしく無頓着だが、ウォルターに言わせればこれほど美しい娘は滅多にいない。大輪の薔薇と見紛う艶やかさはないものの、高山に人知れず咲く白い花のような楚々とした風情があり、それが良くも悪くも庇護欲と征服欲を掻き立てるのだ。

 貴族の子息の中には相当に女癖の悪い者もおり、そういった輩に目をつけられる可能性は非常に高いと思われた。

 出来れば始終虫よけを一人張り付けておきたいくらいだが、フィオルとイアニスは同じく接待兼警備役だし、ライオネルには既に同伴者がいて、適任者がいない。

「会場にいるのですね。じゃあ、私の方から探しに行きます」

「とにかく広いからな……。人も多いし、迷うのが関の山だ。あまり動かない方がいい。時々様子を見に行くから。それと、ダンスを申し込まれても、スウェンかエメライン嬢が許した奴しか相手にするな。極力二人から離れるなよ」

「ウォルターさん、意外に心配性なんですね」

 ユリアはのんびりと微笑んだ。


「何だかお父さんみたいです。子供じゃないんだから大丈夫ですよ」


 子供じゃないから心配しているのだと、ウォルターは一つ大きく溜息を吐いた。



国王と宰相がようやくの登場です。


そしてホスト役に駆り出される騎士たち^^;

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ