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魔女と騎士  作者: 宮原 ソラ
1章
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炎の精霊



 旅の間中ほとんど口を利くことのなかった陰気な女は、実は、レテの魔法使いだった。

 商人たちは、その事実を聞いた時、なるほどだから人に関わろうとしなかったのかと、奇妙に納得したものである。魔法という神秘の力の伝道者たちには、彼らにしかわからない苦労や決まり事があるのだろう。

「何てことはない。あんたはただ単に内気なだけなんだけどね」

 会って間もないアマンダに言い当てられ、ユリアは恥ずかしそうに俯くしかなかった。

 初対面の人とうまく話せないのは、持って生まれたユリアの性格によるものだ。魔女云々は関係ない。


「これから、鉄格子を壊します。危ないので下がっていてください」


 相変わらず、ユリアはフードを被ったままだった。魔女と知れる前はただの怪しい女だったが、そうとわかった後は、神秘の女性に格上げされている。商人たちは、何かありがたいものでも拝むような気持ちで、ユリアの動向を見つめていた。

 鉄格子から少し離れた場所に立ち、ユリアは眼を閉じた。ローブの裾が、風もないのにふわりと揺れる。


 変化は、一瞬だった。


 魔女は何事か呟いていた。大陸の公用語ではなく、聞いたことのない不思議な響きの言葉だった。

 それは、精霊と交信するための古い古い失われた言語だった。レテのみに伝わり、レテの魔法使いしか使えず、いずれはレテの中に消えてゆくであろう…………全ての言語の源とされる音。

 魔女の目の前の景色が歪んだ。凄まじい高温を示すように、その一角だけが陽炎のように揺らめいている。

「な、何?」

 熱が集まるその一点に、何かがいる。見えるわけではない。けれど、感じるのだ…………気配を、存在を、確かに!

「せ、精霊……?」

 鉄格子が、ぐにゃりと曲がった。見えない何かが、その灼熱の手で押し広げているように。

 鉄は、赤く紅く輝いて、ついにはどろどろと溶け出した。溶岩のような塊が音を立てて地面を焦がし広がるのを目にすると、商人たちは、もはや畏怖を超えた恐怖をもって、微動だにしない魔女を見守るより他なかった。

 商人たちの中には、鋳物の知識を持っている者もいたので、あれほど高温になった鉄が冷めるのに、相当の時間がかかることを知っていた。だが、鉄はあっという間に冷えて固まり、魔女は、何事も無かったかのようにその上を歩き始める。


「お前……魔法使いか!」


 見張りをしていたらしい男が、洞窟の中に踏み込んできた。はっとしたユリアが何か魔法を使うよりも遥かに早く、アマンダが突進して、男を突き飛ばした。

「さぁ! 逃げるんだよ! 早く!」

 アマンダがユリアの手を取った。

 しっかりと握りしめてくれるその手は、私は怖くないよと言ってくれているようで、こんな状況なのに、ユリアはほんのりと心が温まるのを感じた。

「ありがとう……」

「何言ってんだい。牢を壊したのはあんただろ。感謝は私たちがするもので、あんたがするもんじゃないよ!」



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