終章 新たなる旅
星系連合は皇星ファムリオールを中心として多くの星系で構成される
各星系の文化はしっかり守られ、政府も星系ごとに存在する
もちろん言語も星系ごとに違う。故に連合に所属する全ての星系の言語が収められた翻訳機が広く流通している
星系間を飛び回る貿易者には仕事上欠かせない物だ
「まいったな」
貿易船の船長室でカイルは困っていた
服の上から自分の体を探るが出てこない
その時室外通信機が鳴った。ララだ
「******?」
翻訳機を無くしたカイルには何を言っているかわからない
カイルとララは違う星の出身で、話している言語は違うのだ
無くしたことをララに伝えると呆れたような雰囲気で何か言い入ってきた
「************」
わからないが表情を見るかぎり多分非難されているのだろう
「ごめんよ」
するとララはポケットからスペアの翻訳機を取り出して差し出した
カイルは受け取り、耳に付けた
「気を付けてよね」
「うん、ごめん」
カイルはこの時初めて翻訳機の重要性を再認識した
「もうすぐ積み荷の搬入が終わるわ。そしたらすぐ出航でいい?」
「そうだね」
「じゃあ早めに来てね」
ララはそう言うと通信機でメンバー達に指示をだしながら出ていった
カイルも船長用の長衣を着込み、少し遅れて船長室を出た
「物資搬入作業、あと五分で終了します」
通信担当が報告する
「作業が終わり次第出航する」
「了解」
ララは慣れたように受け答え、出航の時を待っている
部下達は出航準備の作業に追われている
そこへカイルがやってきた
「遅いわよ、船長」
「これ、初めて着たんだよ」
「もうすぐ作業は終わるわ。出航準備もね」
「さすがだねララ、手際がいい。船長は君の方がいいんじゃないか?」
「私は補佐、船長はカイル」
ララは反論はさせないとばかりに言い切った
カイルは苦笑いをする
「船長、搬入作業が終了しました」
「出航準備は?」
「出来てます」
カイルは船長席から立ち上がり見回した
皆がカイルの言葉を待ち視線を送っている
「……主機関、始動」
「主機関、始動」
《レイフロース》と同様に船の機関を管理するクロムが《サレール》に火を入れた
残るはカイルの一言のみ
ふとララと目が合うとララは笑ってうなずいた
カイルは正面を見据えて胸を張る
「貿易船、出航!」
姿勢制御機関が一瞬弱く息を吐き、《サレール》は宇宙港の連結から離れた
約二ヵ月ぶりの宇宙はいつもと変わらず静かにカイル達を迎える
「進路はミロキア星系へ」
最近のニュースでは星系連合の領域境界付近で、連合への所属を拒み続けているバスカー星系との間で数百年ぶりの人対人の戦闘があったと言う
カイルは高らかに故郷の名前を告げた