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08 夢の実現へ

 

 隕石破壊から一ヵ月後、皇星ファムリオールにある軍病院の個室でカイルは熱心に端末に表示されている写真や文章に見入っていた

 

 端末上には≪星系間貿易に関する資料≫として様々な条文や注意事項が画面いっぱいに次々と表れる

 

 カイルは時折その難解さに唸り声を上げながらも、ゆっくりと一つ一つ読み進めていく

 

「カイル、そんなに近づいたら目が悪くなるよ」

 

 個室に入ってきたララが言った。カイルは端末をベッドに出来る限り寄せて、まさに目の前で読んでいた

 

「でも片目じゃよく見えないんだよ」

 

 カイルは右目に眼帯をしている。一ヶ月前の≪レイフロース≫が爆散したときの事故で、右目を負傷したのだ

 

「もう痛くはないの?」

 

「ちょっと痛いけど大丈夫だよ」

 

「もう眼帯は取ってもいいって言われたでしょ?」


 カイルは眼帯にそっと触れて


「これからは死ぬまでこうなんだ。軍には戻れないし早く慣れないとね」


 右目の傷は予想以上に深く、視神経を損傷し右目は完全に光を失っていた


 カイルはそれが理由で軍を退役したのだ


「それにしても君まで辞めることなかったのに」


 カイルは読む手を止めララに言った


「その怪我は私を庇ったからよ。もしあのまま軍に残っても後味悪いし、なにより私が嫌だったのよ」


「……そっか」


 カイルは一言笑顔で言うと、再び端末に向かった

 

「で、まだまだ長い残りの人生はそれでやってこうってわけね」


「うん。父さんが星系間貿易船の船長でさ、子供の頃に何度か付いて行ったことがあるんだ」

 

 貿易者になりたいというのは、軍に入りたての時から考えていたことだ 

 軍に入ったのも他にやりたいことがなかったからで、宇宙に行きたいという友人と一緒に入った 

 その後友人は早々に辞めていき、計務科に入ったカイルも軍と取引のあった貿易船に出入りしている内に興味を持ち始めていた


「でも肝心の船がないじゃない」


「今まで貯めてきたお金があるから、それで小さい船から始めるよ」


「それに私たち二人じゃ貿易なんか出来ないわよ?」


「それは……」


 カイルは危うく聞き流しそうになり、ララの方を見た


「私たち?」


「何よ、私じゃ迷惑なの?」


「いえ、滅相もない。よろしくお願いします」

 

「そうそう、船のことなら良い話があるのよ」


 その時ララの通信機が鳴った


「よおカイル」


「クロムさん?」


 通信機から聞こえた意外な声に、カイルは驚いた


「どうしたんですか?」 

「お前が船探してるって聞いたから良いのを見つけてきてやったんだ」


「本当ですか!?」


「これだ」


 ララの携帯端末から貿易船の立体映像が映し出された


「型は一つ前だが最新型とたいして変わらない。かなりお買い得だぞ」


「いいんですか?」


「おれも軍辞めてから仕事ないんだよなぁ」


 クロムは遠回しに仕事を要求している。もちろんカイルはわかっているが


「もちろん喜んで!」


 カイルは二つ返事で了承した


「詳しいことは近いうちにそっちに行くからその時に」


「わかりました」


 カイルは通信を切った 

「ありがと、ララ」


「んー?」


 ララは窓から外を眺めていた


「クロムさんに言ってくれたんでしょ?」


「なんのことかしら」


 ララは笑顔でとぼけた 

「それより責任者なんだからちゃんと勉強しなさいよ」


「はいはい」


 カイルは言われた通り端末を埋め尽くす文列に向かい始めた

 




 二日後、クロムがカイルの病室を訪れた


 カイルは翌日の退院に備えて身の回りを整理していた


「以外に元気そうだな」


「まぁ目だけですから」


 よく見ると眼帯から傷がはみ出している。この傷はカイルの印象を大きくかえるだろう


「これが船の詳細だ」


 クロムの端末から自分の端末に情報が送られてきた


 すぐに呼び出してみる 

 画面には船の積載能力や航続距離、居住区の見取り図などが表示された 

「これはすごいですね」


 クロムが見つけてきた貿易船は有名貿易船団が使っているものと遜色なく、初めて持つ船にしてはかなり立派な船だった 

「他のメンバーもおれの部下を中心に集めといたんだが、まずかったか?」


「いえ、ありがとうございます」


 ちょうど他のメンバーのことを考えていたところだった


 カイルはその手際の良さに改めて感心した


「で、これだ」


 最後に出したのは《貿易活動申請書》


 すべてを記入して星系間貿易協会に提出すれば正式に貿易者として登録される


 当然主な記入はクロムが済ませていた


「あとは責任者の署名と団体名だ」


「団体名か……」


 カイルは記入欄を見つめながらしばらく考えた 

「よし」


 カイルは決心して署名と団体名を記入した


「じゃあこれで」


 カイルから申請書を受け取ったクロムは

「なるほどねぇ」

と笑って言った


 そして端末から申請書を協会に送信した。不備がなければ今日のうちに返信がくるだろう


「返信はお前の端末に来るからな。じゃあおれはやることあるから」


「色々ありがとうございます」


「なんたって就職先だからな」


 クロムが出ていった後一人残った病室で、カイルは外を眺めながらこれから始まるであろう貿易人生に思いを巡らせた


 その日の夕方、正式に登録が完了したと協会から返信があった





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