06 二○○年ぶりの作戦開始
「みんな聞いてたわね」
ララ達もエルフェスとソリスの映像通信を見ていた
二人の通信が終わるとエルフェスの通信窓が消え、ソリスが今度は戦隊全艦に向けて話す
「招かれざるお客さんは三日後の予定。各艦、準備と休息は怠りなく。以上」
「さぁて忙しくなるな」
通信窓が消えるとクロムが立ち上がった
作戦準備でもっとも忙しいのは彼ら兵匠科だろう
艦の整備点検で目の回りそうな三日間になる
「僕も行ってきます」
続いてカイルも席を立つ。第一艦隊の補給艦からの物資のチェックなどやることは多い
ララはうなずいて見送ると操縦桿を握った
「作戦位置まで移動する」
一○六二戦隊に割り当てられたのは、隕石の予想進路の左側、攻撃の際は主力として参加する
床面の宇宙図に目をやると第三、第四艦隊の輝点を隕石は通過していた
三つの艦隊を通過した隕石は元の体積の三分の一にまで小さくなっている
「作戦位置に到着」
「命令あるまで待機」
待機といってもあまりすることはない
アトリアスは第一艦隊の巡視艦から情報を得るため、情報連結作業をしているがその作業はすぐに終わる
砲術士のイリアムは正直やることはなかった
だがみんなが忙しいときに自分だけ何もしないのが嫌だったのか、忙しくて手の回らないところをやりだした
ララも作戦書を何度も読み返し頭に叩き込むことに没頭した
そして三日後、招かれざる客は予定通りにやってきた
「レーダーに目標補足」
「来ましたか」
エルフェスの視線の先には床面の宇宙図、そして第一艦隊に近づく赤い輝点
「提督。前の二艦隊、残しておいてくれたみたいですよ」
「そうみたいですね」
エルフェスの指先がリズミカルに肘掛を叩く
これを見るとセルスカは安堵する
――機嫌はいいみたいだな――
「提督、まもなく目標を射程距離に捉えます」
正面には外部カメラの望遠映像。ある範囲にだけ星が見えない。隕石の影が徐々に大きくなり第一、第二艦隊に迫ってくる
「全艦に通達。機動爆雷射出、射程距離まで待機」
第一艦隊全艦が射出口から機動爆雷を放った
放たれた機動爆雷は一定距離前進したところで停止し、攻撃命令を待つ
宇宙図の上には無数の輝点が群れを成している
命令が下れば群れは一斉に獲物に襲いかかることになる
「目標、射程距離」
「機動爆雷、攻撃開始!」
エルフェスが声高に命令を下す。待ってましたとばかりに推進剤を噴かし機動爆雷の群れが突撃を開始した。邪魔者はいない
宇宙図の輝点が一斉に動きだす。エルフェスは自分の命令でこれだけの数が動くことに興奮を憶えていた
「着弾まで十秒」
セルスカが秒読みを始めた
「五……四……三……二……一……着弾」
その瞬間、映像に映る巨大な影が無数の閃光に包まれた
「美しい……」
エルフェスは昔見た記録映像を思いだした
連合に所属するある有人惑星の小さな国で、夏の風物詩として空を鮮やかに彩る光の輪
「機動爆雷第一波、全弾命中」
「高戦艦は遊撃戦開始」
「遊撃戦命令が出たわ。相手は石ころなんだから気軽にやってらっしゃい」
ソリスが戦隊全艦に命令を伝えた
「よし、遊撃戦用意。機関始動」
「了解、機関始動」
「隕石破片群、高速で接近中」
「可動砲、反陽子砲ともに動作正常」
命令から一分以内に《レイフロース》は戦闘態勢に入った
周りでは他の高戦艦が次々と動きだしている
この作戦での高戦艦の仕事は、機動爆雷によって砕かれた隕石の破片をさらに小さく砕く
「来ました」
アトリアスが淡々と告げると、ララは操縦桿を握り直す
迫ってくる複数の破片の中には高戦艦に直撃した場合、重大な被害になるような大きさのものもあった
「迎撃開始!」
ララの掛け声で《レイフロース》の戦闘が始まった
開始と同時に放った反陽子砲の奔流がいくつもの破片を砕きながら伸びていく
イリアムも可動砲で懸命に破片を迎撃している
「右舷より大型片接近」
ララはとっさに姿勢制御機関を噴かし船体を上方向へ回避させた
「今のは危なかったですね」
カイルが深く息を吐きながら言った
もし直撃していれば爆散していたかもしれない
ララは頬を汗が流れていくのを感じた
巨大な破片は《レイフロース》の腹をかすめて飛び抜けていき、待ち構えていた戦滅艦の一撃で砕け散った
「上角三○、数四。右角四○、数五」
アトリアスが次々に接近する隕石片を読み上げる
《レイフロース》はそれらを確実に撃っていく
「機動爆雷群第二波命中」
「これは予想以上に大変だ」
カイルが溜め息混じりに言った。休む間もなく破片群の第二波が飛んできている
高戦艦部隊は無数の破片の中から、地表に被害を与えそうなものを選んで破壊していく
「順調ですね」
エルフェスは余裕の表情で宇宙図を眺めている
第一艦隊旗艦、戦滅艦は艦隊の一番奥にあり、強力な電磁防御壁をもつ護衛艦部隊に護られている
「提督!巡視艦部隊より緊急通信です!」
偵察士が声を荒げている。何やらただ事ではない雰囲気だ
「隕石中心部に反物質反応多数!これ以上刺激を与えると一斉に爆発します!」
エルフェスは余裕の表情を一変させ険しい表情で立ち上がった
「最優先緊急通信です!全艦攻撃中止!緊急退避!護衛艦は完全防御態勢で前へ!」
《キルアーク》から最優先緊急通信が艦隊全艦に飛んだ。あらゆる通信を遮ってこの緊急事態を知らせる
もちろん《レイフロース》にもこの通信は届いていた