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ナイトキラー  作者: 高菜あやめ
第三部
34/76

(8) 手袋

 買おうと思っていた手袋が、お店のショーウィンドから消えていた。ちょっと高いけど、ディルクのお誕生日プレゼントにしようと思って、だからバイトをがんばったのに……。

 だってディルクに喜んでもらいたかった。驚くかな、もしかして笑ってくれるかもしれない……そんなふうに、プレゼント渡した時の光景を想像してワクワクしていた。

 ――だけど、この結果はどうよ?

 ディルクには変な誤解されるわ、プレゼントの手袋は買えないわ、ふんだりけったりだ。ふと両手を見下ろすと、あかぎれでボロボロ。なんだか力が抜けてしまって、思わず地面にへたりこむ。うつむいた顔から水滴がポツ、ポツと石畳の地面に当たって黒いシミを作っていった。

 ……と、そこでフワリと頭を押さえられた。

「待っていてごらん」

「……パパさん」

 パパさんはにっこり笑うと、その場に私を残して店内へと入っていった。私はグズグズとその場にしゃがみこんでいたら、やがてパパさんが店主のおばさんを連れて戻ってきた。

「おや、あんただったのかい」

 おばさんのあきれ声に私はノロノロと顔をあげた。

「この子をご存じでしたか」

 とパパさんが問うと、

「ご存じもなにも、つい先週うちの店にやってきたんだよ。彼氏にプレゼントする手袋が欲しいってさ」

 と言ったおばさんと視線が合った。

「ほら泣きやみなよ。あんたが来ると思って、ちゃんと手袋は取っといてあるからさ」

「……へ?」

 私は間抜けた声をあげた。おばさんはやれやれ、とかったるそうに舌打ちをした。

「ウィンドウに飾っとくと、他の客が欲しがるかもしれないだろう? だから店の奥に隠しといたんだよ……って、ちょっとコラあんた、あたしのドレスが汚れるってば」

 私は思わずおばさんに飛びついていた。涙と鼻水がおばさんの派手なドレスについちゃったけど怒られなかった。

 パパさんと一緒に店内に入ると、おばさんは奥から手袋を取り出してくれた。

「ほら、これだろ」

 差し出されたのは真っ白い、騎士用の手袋だった。控えめなツタ模様が、細い白銀の糸でていねいに刺繍されている。私は思わず顔をほころばせた。現金なものだ。

「……なるほど、うちの馬鹿息子にはもったいないな」

 パパさんの言葉に、私はびっくりした。

「えっ、そんなことないですよ。ディルクは黒サッシュの騎士なんだもの、本当はもっと立派な物がいいくらいだけど、私のバイト代じゃあこれがギリギリで……」

 手袋を手にしたまま必死に弁解めいた説明をしたら、なぜかパパさんに大笑いされてしまった。

「いやはや、やはりもったいない。これじゃディルクも目が離せないわけだ」

 ……意味がわからない。

「とにかくハナちゃん、そろそろ出発しないと日が暮れてしまうよ? きっと今ごろ堅物で融通のきかない騎士が、心配しながら主人の帰りを待っているだろうしね」

 パパさんの言葉に、私はいそいでお会計を済ませた。おばさんは「サービスだよ」と言って、包みにリボンをつけてくれた。それをつぶさないようにそっと抱え、小さな希望を胸に店を後にしたのだった。

 ――これを渡して、ディルクと仲直りしよう。


 お城まで送ってくれたパパさんと別れ、ようやく自室に着いた頃には、すでに日が暮れかけていた。そろそろ夕食の時間なのでダイニングへ向かおうとしたら、扉の向こうから控えめなノックが聞こえてきた。

「姫様、お夕食のお時間ですよ」

「……ああ、ヨリかあ。うん、今ダイニングへ行こうと思ってたところだよ」

 なんだ。一瞬ディルクかと思った。ヨリの笑顔に、にわかに走った緊張感がどっと抜けた。

「それなのですが、今夜はディルク様のご指示で、姫様にはお夕食はお部屋で召し上がっていただくようにとのことです」

「え、ここで?」

「ええ。ただ今、給仕の者に申しつけて参りますね」

「あ、うん……」

 ヨリは部屋を出て行こうとして、だが何か思い出したようにふりかえった。

「あともうひとつ、ディルク様からのご伝言です。姫様には、明日お迎えにあがるまでお部屋から出ないように、とのことです」

「え……?」

「お夕食をたくさん召し上がって、今夜はゆっくりとお休みくださいね。そうそう、明日のパーティーのためにご用意した、新しいドレスがありますのよ」

「明日の……」

 私がぼんやりしていると、ヨリがけげんそうな顔をした。

「いやですわ姫様、明日開かれる王様のパーティーのことですよ」

「パーティー……」

 ディルク、明日のパーティーまで、私を部屋に缶詰にする気なんだ。それはたぶん、エミリア先生の件があるから。いったいあの後どうなったんだろう。エミリア先生は無事なのかな……ディルクから直接話をききたい。

 ふと気がつくと、ヨリが心配そうに眉をひそめていた。

「姫様……バイトでお疲れなのですね。今夜はお夕食を召し上がったら、早めにご就寝くださいませね」

 その夜、ここしばらく続いていたディルクの訪問がなかった。

 ――エミリア先生のこと、早くききたかったのに。

 ううん、そうじゃなくて……それもあるけど、それだけじゃなくて、本当は少しでも早くプレゼントを渡して、ディルクと仲直りしたかったのだ。

 ――まさかと思うけど、顔も見たくないほど怒ってないよね? てゆうか、プレゼント受け取ってくれるかな……。

 そんな不安が胸によぎった。灯りを消してもなかなか寝付けず、ベッドの中で何度も寝返りを打ちながら、やがて短く浅い眠りについた。

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