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ナイトキラー  作者: 高菜あやめ
第三部

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32/76

(6) 疑惑

 一夜明けて、いよいよバイト最終日。

「……ねむ」

 何度もあくびを噛みころしつつエポック先生の授業を終えると、簡単な昼食を済ませるべく、ダイニングホールまで重い体を引きずっていった。

 昨日は色々考えすぎて、ほとんど眠れなかった。しかも正直食欲もわかないので、お昼のサンドウィッチ一切れが胃につらい……。

 ――とにかくエミリア先生と話をしてみよう。

 でも今日のレッスンはお休みだ。だからエミリア先生と話をするなら、先生が滞在しているお部屋へ直接たずねるしかない。

 エミリア先生と話す。これが昨夜、いや正確には明け方ぐらいに私が出した結論だ。エミリア先生は何か知っているはずだ。でもうまく話せるかな。

 一瞬ディルクに相談してみようかと思ったけど、その考えはすぐさま却下した。だってあの騎士様のことだ、もしエミリア先生がそういうアヤシゲな人たちの仲間かもしれないって知ったら最後、きっと会うのを禁止される。

 でも王様のお誕生日は明日で、もしかしたら事は王様がらみかもしれない。そうなれば、ここはひとつ娘である私がひと肌ぬがなくっちゃ。

 本当は公にしたほうがいいんだろうけど、そうしたらエミリア先生は犯罪者扱いを免れない。でももし先生がすべて打ち明けてくれて、オジサン達の悪だくみを止める協力してくれたら、きっと罪を免れるにちがいない。

 これは私のものすごーく個人的な意見だけど、エミリア先生はきっと悪い人じゃない。ただ脅されているだけだと思う。だってあのオジサンたち、先生の妹さんがいるから、とか言ってた。きっと妹さんを人質にとられて、むりやり協力させられてるんだと思う。

 ――でも妹さんだって、先生に犯罪まがいの事してもらってまで自分を助けて欲しくないんじゃないかなぁ。

 でもでも、計画のこと誰かにバラしたら、妹さんの命の保証が無いとか脅されているとしたらどうしよう。いや妹さんどころか、先生の命の保証だって……。

 そんな風にぐるぐる考えながら先生の部屋をおとずれた。でも先生は留守だった。しかたないのであちこち探し回っていたら、ようやく人気のない北側のサンルームで先生を見つけた。

 先生はぽつん、とひとり、日当たりのよいソファーに所在投げに座っていた。横顔がとても疲れているように見えた。

「ハンナ姫様?」

 エミリア先生は私の姿を見つけると一瞬顔をこわばらせ、それからソファーから立ち上がると足早に反対側の扉から部屋を出て行こうとした。

「先生、待って! お話しがあるんですっ」

 私の大声に、先生は扉の前で文字通り飛び上がった。ふり返った顔が真っ青で、今にも倒れそうだ。それでも部屋を出ようと扉に手をかける先生を引きとめる。

「お願い先生、お話があるんです!」

「……何のお話しでしょう、ハンナ姫様」

 ようやく観念した先生は、扉を背に私に向き直った。

「えっと、とりあえず座りませんか?」

 私たちは長椅子のソファーに、隣合わせに座った。先生は居心地が悪そうだ。でもそれは私も同じことだ。

 ――き、緊張するっ……。

 私はおそるおそる、昨夜考えた口上で切り出すことにする。

「せ、先生って、何人兄弟ですか」

「は?」

 とつぜんの私の質問に、先生は間の抜けた返事をよこした。

「いやあの、私ひとりっこなもので。いえ正確に言うと半分血の繋がってない兄弟姉妹はゴロゴロいるんですけど。年の近い姉妹がいたら、どんなものかなぁって思って……」

 本当は年の近いお姉さん姫のリーザちゃんがいるけどね。ただリーザちゃんも、一緒に育ったわけではないから、お姉さんというより友達みたいな感覚が強い。

 エミリア先生は面喰いつつも、私の記憶する限り初めておだやかな微笑を向けてくれた。

「……双子の妹がおりますわ」

「へ、へえ……妹さん、ですか」

 きた、予想通りの答えが!

 ここでもう一歩、突っこんだ質問を投げる。

「妹さんとは仲がいいんですか?」

「いいえ、あまり」

 先生はなぜか痛々しい笑みを浮かべて小さく首を振った。これは予想外の返答だった……私の計画では、妹さん思いの先生を説得するつもりだったんだけどなぁ……。

「で、でも、心の中では、お互い大事に思っているんですよね?」

 と、私が食い下がると、先生は少し間をおいてうなずいてくれた。

「そうですわね、いくら疎遠になっても、大切に思う気持ちはありますわね」

「ですよね! 妹さん、心配ですよねっ……!」

「姫様……」

 エミリア先生はなにかを察したように顔をこわばらせると、私を怖いほどじっと見つめる。

「一体何をおっしゃりたいの……まさか」

「あ、あの……」

 ああ、やっぱり私には誘導尋問なんて無理だったか。あわあわと焦っていると、とつぜんサンルームの扉がバタンと大きく開かれた。

「姫様、こちらだったのですね。探しましたよ」

「ディルク!」

 現れたのは、青い騎士装束も凛々しいうちの騎士様だった。

「ヨリが、姫様のお姿が見えないと心配しております。さあ、お部屋に戻りましょう」

 ディルクは怖いほどおだやかに、静かな口調で私に語りかける。

 ――なにかが、ちがう。

「さあ、姫様」

 きっとディルクは知っている。エミリア先生のことを。

「ハンナ姫様、どうぞお行きになって」

 エミリア先生は青ざめた顔で、ささやくように私をうながした。

「でも、先生……」

 けっきょく私はその場に先生を残し、ディルクと一緒にサンルームを後にした。扉で振り返って見た先生は、なにか言いたげな様子だった。でもけっきょくなにも、聞き出せずじまいだった。

 私はがっかりして、それから隣を歩く騎士様の顔を見上げた。固い表情はいつものポーカーフェイスだけど、私には怒っているようにみえた。

 ようやく自室の前まで戻ってくると、私は平静を装って「じゃ、バイトがあるから」と部屋に入ろうとしたが、このまま見逃してくれるようなディルクではなかった。

 騎士様はこのタイミングを見計らったように、私の行く手を遮るようにして扉の前に立ちはだかったのだ。

「あのう、バイトに遅れちゃうから……」

「今日のバイトはお休みください」

「えっ、どうして!?」

「それは姫様が、一番よくご存じなのではありませんか?」

 冷たい視線にぶつかって、私はぐぐっと再び言葉に詰まる。厳しい態度を崩さない騎士様は、さらに容赦ない詰問を続ける。

「姫様は一体何をなさろうとしておられたのです? あの女の正体をご存じの上でのことですか」

「何も知らない! 知らないから、バイトだけは行かせてよ……」

「ダメです、姫様の御身に危険があるかもしれませんのに」

「でも、でも……まだバイト代もらってないし、王様へのプレゼントだって……」

 それに、ディルクのプレゼントだって……。

「なりません」

「どーしてよ!」

 必死に食い下がるも、ディルクはきっぱりとはねつけた。

「バイト代ならば、後で使いの者に取りにやらせます。国王様へのプレゼントにするお茶も、ちゃんと姫様のバイト代から支払って届けさせるように言づけますから、姫様はおとなしくお部屋でお待ちください」

「そんな! そんなの困るっ……お願いディルク!」

「無理です」

「そこを何とか! お願い、後生だからっ」

「ダメと言ったらダメです」

 ――うわーん、取り付く島も無い!

 これじゃディルクの手袋を買いに行けないよ。大体あのアウトレットの店、何時に閉まるんだっけ? 今日が手袋を取り置きしてもらえる、約束の一週間ギリギリなのに……これじゃあ一体全体なんのために、水仕事も含めたバイトを頑張ってきたか分かんなくなっちゃうよ。

 私が泣きそうな気持で立っていると、

「何の騒ぎかな?」

 と、聞いたことのない男性の静かな声が廊下に響いた。声のした方へふりかえると、そこには威風堂々とした、初老の騎士がたたずんでいる……誰だろ、この人?

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