(15)
しぶしぶ差し出した手を取られ、改めて広間の中央に誘われる。
「まずはご挨拶から始めましょう。『貴婦人の礼』でお願いします」
よおし、こうなったら頑張っちゃうもんね。
スカートのすそをつまみ、ゆっくり丁寧な仕草で『貴婦人の礼』をして顔を上げると、ディルクは一瞬虚を突かれたような表情を浮かべた。ふーんだ、私だってやる時はやるんだからね。
なぜかクスリと笑ったディルクは優雅にお辞儀を返すと、そこから流れるように私の手を取った。そのままフワリと腰に手を回され、グッと引き寄せられる。
「うつむかずに、顔は上げてください」
言われるまま顔を上げると……なんてゆーの? こう、妙に艶のある笑みを浮かべた騎士様の顔があってさ。
――なんか調子狂うな……。
そのままエスコートされて、フワリ、フワリとゆっくりしたステップを踏みだした。
なにこの人、踊りも上手い……さすがウチの城内で出してる会報誌の『騎士にしたい人ランキング』で殿堂入りしているだけあるなぁ。
――これはしまったなぁ……今度もう少し踊りの練習しとかないと。
じゃないと公式の場でディルクに恥かかせちゃうよ。
お城に戻ったら、今度こそ先生呼んで特訓しなくっちゃね……。
それにしても……もたついたり、ステップ間違えたりと、失敗ばかりしてる私を叱ることもなく、ただひたすら優しい微笑を向けてくれるディルクに面食らってしまう。いつものスパルタな教育はどうしたの?
「ディルク、なんかいつもと違う……」
「それは今日の姫様が」
――私が、なんだって?
「……とても可愛らしいから」
「は?」
流れるようなステップが止まった。
なに今、なんて言った?
なんか『可愛らしい』とか変な単語が聞こえたような気がしたけど?
「姫様、お口を閉じてください」
「ハ、ハイ……」
私はあんぐりと開けてた口をあわてて閉じる……ヤバイ。これは……オチる。
女の人なら絶対引っかかるよ、この手口!
この人……真面目な騎士の振りしてて、実はとんでもない女ったらしなんじゃ……やっぱり後でヨリに気をつけるよう、ちゃんと言っておかなくっちゃ。うん。
「さあ、そろそろお時間ですので行きましょう」
さりげなく手を握られた。
一瞬引っ込めようと思った……だって小さい子じゃあるまいし、手をつなぐなんて恥ずかしいじゃん? そりゃ昔オイゲンと手をつないで歩いたことはあったけど、またそれとは違う気がする。
でも……手袋越しに伝わるディルクの手は温かく、それからやさしかった。
この手に守られているんだなぁって感じた。
だから私はディルクと手をつないだまま、ダンスフロアを後にしたんだ。
というわけで、これが私の夏の思い出。
実は帰りもいろいろあったんだけど、そのお話はまたの機会に……。
あ、そうそう。お土産はアリュス名物の雪饅頭っていうのにしてみた。
雪のようにふんわりした口どけの生地に、まっ白いクリームが入っているやつ。ヨリは「私の故郷の『かるかん』ってお菓子にそっくりです」なーんて言って喜んでいた。
お城の皆も、喜んでくれるといいな。
(おわり)




