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ナイトキラー  作者: 高菜あやめ
第二部
23/76

(12)

 華やかなパレードに綺麗な踊り子さんたち。

 ひらひら、ふわふわ、そして賑やかな音楽に沸き立つ拍手、拍手、拍手。


「姫様、拍手」

「……ハイ」


 ぱち、ぱち、ぱち。

 音が鳴ってなくてもいいんだって。だから手を軽く合わせるの、こんな風に、ね……ぱち、ぱち、ぱち。


「姫様、笑顔」

「……ハイ」


 とにかく歯を見せておけば遠目なら笑顔に見えるんだって。

 ニィって口を横に開くんだよ、こーんな風にね……ニィ。


 背中に当たるのはディルクの足。なんとか百歩譲って、つっかえ棒代わりに後ろで支えてくれている優しい騎士様に感謝、だよねマッタク。


 ――ああ、首が、肩が、イタイ……イタイよぅ。


「姫様、あのパレードが過ぎて、もう一つ踊りが終われば休憩に入ります。それまでご辛抱を」

「……ハイィ」


 ――時よ、早く過ぎろ……過ぎて……過ぎて下さい、後生ですから……!


 体中の力をふりしぼって姿勢を維持することしばし。

 ようやく待ちに待った休憩が訪れた。


 でもその頃には頭からつま先まですっかり硬直しちゃってて、ディルクに引っ張り上げてもらわなければ立ち上がることするできない有様だった。


「さあ、控えの間へ行きましょう」

「……」


 もはや返事する気にもなれずに立ち上がると、視界の端にコルティ姫の姿が飛び込んできた。 コルティ姫もやはりお付きの人らしき人物に支えてもらいながら、ゆっくりと立ち上がりつつ、それでも笑顔で群衆に手を振っている。


 ――おそれいったよ……。


 さすが次期女王、立派だ……性格についてはノーコメントだけど。






 控えの間には私のような立場の来賓客がたくさんいて、そのお付きの人たちも含めごったがえしていた。皆ぐったり疲れている様子で、飲み物飲んだり体を伸ばしてストレッチしてたりと、それぞれ緊張をほぐしているみたい。


「この苦労、私ひとりじゃなかったんだねぇ……」

「もちろんですよ、皆さん我慢されていらしたのです」


 祭典前はまるで私ひとりだけ堪え性が皆無みたいで後ろめたかったけど、この様子を見てなんか安心した。そーだよ、頑張ったよ私たち……『同志よ!』という気持ちで私は部屋全体を見回した。


「よく頑張りましたね」


 まるで私の心を読んだかのように、ディルクに褒められた。

 隣で飲み物を持って控えているヨリも微笑んでいる。


 二人にも感謝しなくっちゃ。そりゃ実際この重い衣装を着て座っていたのは私だけど、ディルクだってずっと後ろに立って支えてくれてたわけだし、ヨリだってきっとこの日の為に色々と準備してくれてたに違いない。


「ありがと、ヨリもディルクも。私ひとりじゃ乗り越えられなかったよ」

「姫様……」


 やさしく微笑みながら私の顔を覗き込んでくるディルクに、私も微笑み返す……だが。


「まだ、雪像コンテストが残っていますよ」

「……!」


 そうだった。あと一時間くらいかかるのか……あはは……はあ……。

 ズーンという暗い効果音が聞こえてくる気がする……そんな私の前に現れたのは。


「……コルティ姫」


 輝くような透明の石をいっぱい散りばめた、見るからに重そうな衣装を身にまとったコルティ姫が目の前に立っていたんだ。


 反射的に身構えてしまう私に、コルティ姫はじいっと私を見つめてから一言、


「悪かったわね」


 ……謝られた。


 私はつい、目の前に立つ無愛想な少女の顔をまじまじと見つめてしまう。するとコルティ姫は気まずそうに「チッ」と舌打ちをした。


「今朝あんたの騎士に聞いたわ。まさか遭難しかかってるなんて思わなかった」

「……」

「言い訳はしたくないけど、氷の花のこと教えてくれたのは他でもない、フリードなんだから。別にあんたのことだまして、あそこまで酷い目に合わそうと思っていたわけじゃないわ」

「……そーだったんだ」


 あんなに騙されたってゆーのに、私はなぜだかコルティ姫の言葉を素直に信じていた。だって、今度は明らかに『素』の感じなんだもん。


 しばしの沈黙。それを破ったのは私でもコルティ姫でもなかった。


「コルティ様、もうお席にお戻りになりませんと……」

「うるさいわねコオ大臣、少し待っててって言ってるでしょ」


 コルティ姫の言葉に、いつの間にか後ろに控えていたコオ大臣が困ったように立派な口ひげをくねらせていた。よくよく部屋の中を見回すと、どうやら残っているのは私たちだけみたい。


 今度は私の肩にそっと、後ろで控えていたディルクの手が触れた。


「姫様、そろそろお時間です」

「あ、うん……」


 でも、と私は立ち上がってコルティ姫と対峙する。

 コルティ姫は愛想笑いも何もない、氷のような銀色の双眸でじいっと私を見つめた。


「あんたの騎士様、結構怖いから怒らせるつもりはないわ。とにかくなるたけ早いうちにあんたに直接あやまった方がいいって思ったの」

「うん」

「昨日のことはお母様はもちろん、フリードも知らないんだけど……言いつけたかったら、言いつけてもいいわよ。お母様には怒られ慣れてるし、フリードにはこれ以上嫌われようもないからね」

「別に、言いつけたりしないよ」


 反射的にそう返答すると、コルティ姫は一瞬目を見開いた。


「あんたって……つくづくお人よしなのねぇ」

「そうかな」

「そうよ。でも、これ以上は言わないどく。後ろの騎士さんが目光らせてるからね」


 その言葉に思わず振り返ってディルクの顔を仰ぎ見た。

 たしかに絶対零度の表情だよ……でもコレ、結構デフォルトなんですけど?


「言いたかったのはそれだけ。じゃあね」

「あ、待って」


 立ち去りそうになったコルティ姫を、私はあわてて引き留める。


「あのさ、告げ口とかしないから……ひとつお願いがあるんだけど」

「言ってみなさいよ。その方が、黙っててくれる信憑性があるってもんだわ」


 どうもこの姫の思考というか、テンポについていけない気が……ま、今更だけどさ。


「雪像コンテスト、公平に審査してくれないかな。その、正直にって言うか……」

「なんだ。変なこというのね、そんなのあったり前じゃない」

「なら、良いんだけど」


 思い出したのは、フロストさんが作っていたあの雪像。

 あれを見て、フリード王子と仲直りするきっかけになってくれたらいいなーなんて、そんな都合のいい事を思っている私はやっぱりお人よしなのかな。見送るコルティ姫の背が、ふと扉の前でくるりと翻した。


「そうだ、コレありがと」

「あ、それ……」


 さっとコルティ姫の両手が挙げられ、私は目を丸くした。

 指先がきらきら、銀色に輝いている。


 ――つけてくれたんだ。


 私があげた、コルティ姫へのお土産のマニキュア。

 昨日サンルームでなくしちゃったかと思ったけど、ちゃんと拾っといてくれたんだなぁ。


 氷の結晶のような輝きは思った通り、雪の国に住む姫君の指先にとってもマッチしていた……なんだかミョーに感動してしまい、今度はジーンといった擬音が胸の奥で心地よく鳴り響いていた。

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