(11)
夜が白み始めた頃、私達はフロストさんの家を出発した。
雪の積もった獣道を歩くことしばし、ようやくたどり着いたのは……。
「あれ、ここもしかして城下町?」
「ええ」
驚いた。まさかこんな近くに城下町があったなんて。
しかも、こんなにお城から離れてたなんて……私ってば昨夜、一体どんだけ歩いたんだろ? ディルクもよくあんな吹雪の中、私を見つけてくれたよなぁ。
そもそも真夜中なのになんで私がいなくなった事がバレたんだろ?
歩きながらディルクにたずねてみると、あっさりと「夜中でも定期的に見回りしますから」って返された。
「え、じゃあいつも私が寝てるとこ確認しに来るの?」
「国外に滞在する時だけです。いつもの城内では見張りも別にいますので」
そっかぁ、やっぱり公務って周りの人たちも色々大変なんだなぁ。
「私のせいでホント申し訳ないです……」
「そう思って下さるのなら、次からはもう少し慎重に行動してください」
「ハイ……」
お祭りの支度で次第に賑やかになる街中を歩きながら、私はちょこっと反省、ちょこっとお祭り気分で浮かれていた。不謹慎かな? でもお祭りってやっぱりわくわくするしね。そのせいか、今日のディルクもあんまり深刻そうに見えないよ……やっぱり祭り効果かなぁ?
夜時間があったら屋台で何か買いたいな、と思いつつ、私はディルクに連れられてようやく王宮に戻ることができた。
王宮に戻るとすぐに朝食を用意された。それからすぐにお昼寝……もとい朝寝? 私の眼の下に出来たクマに気づき、ディルクは鋭く指摘する。
「多少は化粧でもごまかせますが、まずは少しでも多く睡眠を取って下さい。祭典の準備をしていただく時刻になるギリギリにお起こしします」
「はあい……」
確かに眠かった。
私は着替えもそこそこ、ベッドにダイブするとすぐに眠りについたのだった……ああ長い夜だった……おやすみなさい。
「うわぁなにコレ……重っ!」
私に祭典用の衣装を着付けてくれている、お城からついてきた侍女のヨリが申し訳なさそうに頭を下げた。
「これでも極力シンプルにしたのですが……」
「これでシンプル!?」
だってだって、ドレス三枚重ねだよ? しかも一番外側のガウン、これがまた刺繍やら飾り帯やらがゴテゴテついててまるで(持ったことないけど)シャンデリアみたいな重さなんだよ! そして極め付けがヘッドドレス……なんなの、この長い布とずっしりした頭飾りは!
「申し訳ありません、姫様……」
「あ、違う違う。ヨリのせいじゃないから!」
そう言ってぺこぺこ頭を下げるヨリに、私はあわてて否定した。
ヨリは東の大陸からの移民で、そちらの国民性らしいのだが、とっても控えめで奥ゆかしい性格をしているのだ。
「ところでディルクの方は、もう仕度できたのかなぁ?」
「はい、一階の控えの間で姫様をお待ちしておりますわ」
そう言ってほんのりと頬をピンクに染めるヨリは、密かにディルクのことが気になるらしい……なんであんな堅物がいいんだろ? ヨリみたいに性格も外見も可愛い人なら、もっとやさしい男の人とかいそうなのにさ。
「ところで姫様、祭典へ出られる前になにか少し召し上がりませんか?」
「ムリムリ、体中しめつけられてて何も入らないよ」
「でもいったん来賓席に着かれてしまうと、夜の晩餐会まで何も口にできないようですよ」
えっ、そんな!
でもこのカッコ、まるで鎧兜着せられてるみたいで(実際着たことないけどさ)体中がらんじめのガッチガチに固められてるんだよ。これじゃあ歩くのだって一苦労しそう……あーあ、お祭りだから食べ物とか楽しみにしてたのに!
ずっと昔、街に住んでいた頃のお祭りは楽しかったのになぁ。
近所の友だちと屋台で食べ物買ったり、皆で輪になって踊ったりしてさ。あの頃は……っていかんいかん、過去を振り返ってもしょうがない。
仕度を終えて控えの間へ案内されながら、ヨリが時折心配そうに私の様子をうかがっている。明らかにテンションが落ちているもんなぁ、私……ヨリに手を引かれるまま(そう、やっぱり一人じゃ歩けないんだよ! これが)ずっと無言でとぼとぼと歩き続けた。
控えの間に到着すると、椅子に座って待ちかまえていた正装姿の騎士様が立ち上がった。その姿は……。
「……」
「……」
つい、隣のヨリと一緒にしばし無言で見惚れてしまった。
いや、ホント……かっこいい。
ディルクはシルバーグレーの生地に黒の刺繍が渋い騎士装束だ。ごてごて飾り付けられた私の格好とは対照的に、いたってすっきりした姿だ。うらやましい……。
「クマは取れたようですね。お顔の色もずいぶんマシになってます。これなら大丈夫でしょう」
「……そーですか」
そりゃ、よかったですねぇ。
ただ、こうやって立っているだけでも苦しいですけどね私。
「さあ、姫様こちらへ……」
そう言ってディルクは私の手をヨリから受け取ると、そのままシンプルで背もたれのない椅子へと座るよう促した。座ってみるとお尻のところはちゃんとクッションがあっていいんだけど、背中がよりかかれないから疲れそう……そんな風に思っていたところ、次のディルクの言葉で私は固まってしまった。
「それと同じ椅子が、祭典の来賓席にあります。一番外側のガウンの上には座らないよう、こうやって背中の部分を椅子の向こう側に垂らします。あとはヨリが整えますので……」
「……まさか、この体勢でずっと座ってなきゃいけないの?」
「祭典は午後四時から始まるので、姫様には三時半には着席いただく必要があります」
「さ、祭典ってどのくらいやってるの?」
淡々と説明する騎士様に、私はこわごわとたずねた。
「祭典自体は六時に終了しますが、そのまま短い休憩をはさんですぐに雪像コンテストがありますので……トータルで大体三時間から三時間半でしょうか」
今、さんじかん、っておっしゃいました?
「どうしようディルク、目の前が真っ暗になってきた……」
「情けないことおっしゃらないで下さい」
コレはもうお祭りどころの騒ぎじゃない。
ちょっとした拷問だよ、拷問!