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ナイトキラー  作者: 高菜あやめ
第二部
17/76

(6)

 コルティ姫に連れていかれた先は、昨夜フリード王子に案内されたサンルームだった。

 一夜明けた室内は朝日の中で静まりかえっている。


 後ろ手で扉を閉めたコルティ姫はクルリと私に向き直った。

 どうしたんだろう、なんか目が怖い……。


「昨晩フリードと、ここで何を話していたの?」

「え……?」


 コルティ姫は先ほどとはガラリと変わって剣呑な口調になり、私はまたまたあっけに取らてしまう。


「私の兄上と、勝手に仲良くしないで」


 ――うわ、そうきたか!


 そっか、このお姫様きっとお兄さんのことが好きなんだね。それで私にヤキモチ焼いてるんだ。そっか、なるほど……。


「ちょっと、人の話聞いてるの?」

「はあ……あ、そうだ」


 昨日の部屋着を着てきてよかった、お土産ポケットに突っ込んどいたままだったから。とにかく機嫌を直してもらわなくっちゃと、私はいそいそお土産の包みをポケットから取り出し、コルティ姫に差し出した。


「これ、お土産です。国境近くで買ったんだけど、気に入ってもらえたら嬉し……」

「馬鹿にしてんの!?」


 パシン、と音が鳴った。


 コロコロと小さなリボンをつけた包みが、私たちの間をなさけなく転がっていく。

 払われた手は痛くなかったけど、さすがに心がツキンときた……。


「いい加減にしろよ、コルティ」


 コルティ姫と私は、ほぼ同時に声が響いた方へ顔を向けた。

 大きな長椅子の向こう側……そこから唐突に現れたのは、なんとフリード王子だった。王子は眠そうな表情で髪をかきあげると、ちょっと意地悪そうな笑顔を浮かべてる。


 ――うわっ、今のやりとり聞かれてた? 気まずい、気まずいよちょっと……。


 内心焦ってる私に、しかしコルティ姫は堂々としたものだった。


「……なんでフリードがここにいるのよ」

「ごあいさつだね、麗しの妹姫さん。君のヒステリックな声のせいで、せっかく気持ち良くうたたねしてたのに起こされちゃったよ」


 優雅な足取りでやってきた王子は、私たちの前に来ると足元に転がっていたお土産の包みを拾い上げた。


「おはよう、ハナちゃん」

「お、おはよ……」


 銀髪の王子様は包みを私に手渡し、にっこりと爽やかに微笑んでみせた。

 その横でコルティ姫がいらいらと足を踏みならす。


「出てってよ」

「なんで? 僕の方が先にこの部屋にいたんだよ? 出て行くのはそっちだろう。大体ハナちゃんに失礼なことするな」

「なによ、余計な口はさまないで!」

「また始まった、ヒステリー」

「あんたなんか大っきらい!」


 突然始まった兄妹喧嘩に、私は二人の間で右往左往するばかりだ。


 ――なんだこりゃ……せっかく王子にこの場を取り成してもらおうと思ったのに、かえって状況が悪化してるじゃん!


 私は平和主義なので、こういう状況は非常にニガテだ。

 いや、普通の人だってニガテかもしんないけど……とにかく修羅場にならないようにせねば。


「まあまあ、二人とも落ち着いて……」

「さわんないでよっ!」


 ドン、と派手な音がして、気がついたら私は床に尻もちをついていた。

 年下なのに、なんて馬鹿力だ……これもアリュス人の特徴のひとつか? いや、今はそんなこと感心してる場合じゃないか。


「ハナちゃんに何するんだよ」

「きゃっ」


 パンッと音をたてて、今度はフリード王子がコルティ姫の頬をぶった。


 一瞬呆けたような表情をした姫君は、その灰色の瞳をみるみるうちにうるませる。次の瞬間、天井までつんざくような悲鳴ともつかない泣き声を上げた。


 ――だ、誰か助けてぇーーー!


 すると私の心の叫びを聞いたかのように、急に廊下からバタバタとあわただしい足音がいくつも響いたと思ったらサンルームの扉がバタンと大きく開かれた。


 わらわらと数人の侍女がやってきて、あっという間に半狂乱の姫君を取り囲む。侍女のひとりがためらいがちにフリード王子に近づいた。


「フリード様、申し訳ありませんが……」

「……分かっているよ。出て行けばいいんだろう」


 フリード王子は踵を返すと、さっさと奥の温室へと姿を消してしまった。

 その場に取り残された私はしばし呆然としていたけど、女官のひとりが私に気付いて目を見張った。まるで私が急にどこかから沸いて出た、とでも思ってるように。私、はじめっからここにいましたが……あはは……って愛想笑いはちと苦しいか。


「ハンナ姫様ではございませんか?」

「はあ……」

「申し訳ございませんが、この場は……」

「ああ分かってます、すぐ席外しますんで……その、すいません気がきかなくって」


 私はペコペコおじぎしつつ扉へと行きかけて、ふと思い直すと温室へと足を向けた。だってフリード王子がどうしたかちょっと気になる。一応かばってもらったんだし。






 温室の中は静まりかえっていて、フリード王子の姿は見当たらなかった。

 遠慮がちに小さく名前を呼んでみたけど応じる声がない。どこ行ったんだろう?


 温室の一番奥までやってきた時、その謎が解けた。

 そこには外の庭へと続く通用扉があったのだ……きっと王子はここから出て行ったにちがいない。そおっと扉を開けてみると、凍りつくような外気が顔をなでる。


 ――ひゃっ……めちゃくちゃ寒い……!


 足元には、その主の行き先を告げる足跡が真っ白い道に残されていた。

 少し迷った末、私はえり元を両手でかき合せると、思い切って雪路に足を踏み込んだ。


 ――ひー、寒いよ寒いよ……なにやってるんだろ私、コートも着ずに雪の中歩いてるなんて。


 追っていた足跡はすぐ近くに見えた小屋へと続いていた。

 あの中、暖房とかあるのかな。ありますようにっ……そろそろ鼻水が出てきたよ。


 重そうな木枠の扉をノックしようとして、それがわずかに開いているのに気がついた。

 そっと押し開けて部屋の中をのぞくと、背を向けて立つフリード王子の姿があった。私の登場は王子の予想外だったようで、ちょっと、いやかなり驚いた様子である。


「ハナちゃん……どうしてここに」

「えっと……入っていいかな?」

「もちろん、外よりマシだよ」


 小屋の中に入ってきっちり扉を閉めると、確かに外よりマシだった……外よりは。外よりって意味は、ここも相当寒いってこと。


 ――ぶるぶる、歯の根が合わない……。


「悪いけど、ここには王宮のように近代的な暖房設備がないんだ。代わりに暖炉をつけてあげる」

「ど、どおも、あり、がと」

「ほら、こっちにおいでよ」


 フリード王子は慣れた手つきで、テキパキと暖炉に薪をくべ始めた。

 どこからかマッチを取り出して、そばにある油紙のようなものに火をつけると暖炉に投げ込む。


 室内がだんだんあったまってくると、私もようやく身体の緊張がほぐれてきた。

 パチパチと陽気に踊る炎は見ててあきない。


「……さっきは妹がごめんね」


 ポツリとつぶやいた王子に、私は大きく首を振った。


「別にいいって。兄妹喧嘩なんてよくあることだよ」

「それもだけど、お土産とか突き飛ばされたりとか」

「ああアレはその、大したことないよ……」


 そう言いながら、私ははた、とポケットに手を入れた。

 無い、お土産が。


「どこかに落としちゃったのかな……」

「何が?」

「あ、ううん。何でもないよ」


 代わりに指先に当たったのは、昨夜外したブルートパーズのイヤリングだ。急いで外したから、この部屋着のポケットに入れっぱなしにしてたよ……ディルクに気づかれないうちに、鏡台の上の宝石箱に戻しておかなくっちゃ。


 とにかく、これ以上余計なこと言って王子を気遣わせるのはやめよっと。

 どうせコルティ姫は迷惑そうだったし、お土産なくなっちゃっても別にいいや……。


「あいつ、僕のことが気に入らないからって、僕の友達にまで意地悪することないのにな」

「へ? 何のこと?」

「コルティのことだよ」


 いや、だから何の事? 誰が、誰を嫌ってるって??


「気に入らないって、王子のことを? コルティ姫が?」

「そうだよ。昔から仲が悪くてさ。嫌われているんだ」

「まさか!」


 あれはどー見ても『私のお兄さんを取らないでよ』的な雰囲気だったよ!?

 勝手に仲良くなるなって言われたし。完全なヤキモチでしょう?


「ホントだって。あいつは僕のことを嫌ってる」


 そういってムスッとした顔のフリード王子は酷く子供っぽくみえた。もしかすると、実際まだ若いのかも。背も高いし大人っぽい顔しているから、ついかなり年上なのかなぁと思ってたけどさ。


「あのさ、王子っていくつなの?」

「僕? 十四だけど」

「げっ!」


 私より年下じゃん!


「なーんだ、あはは……」

「どうしたの?」

「いやあ、てっきり私より年上かと思った」

「え、ハナちゃんっていくつ?」

「十五だけど」

「ええっ!」


 今度は王子が驚く番だった。

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