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ナイトキラー  作者: 高菜あやめ
第二部
15/76

(4)

 晩餐会のための仕度が始まった。


 久々にドレスを着るといろいろ大変だ。

 姿見の前に映る自分の姿に、私は内心『やっちゃった』とため息を漏らした。


 まず肌焼き過ぎちゃった。

 最近暇さえあれば魚釣りに出かけてたからなぁ……夏前なのに腕なんか妙にこんがりしちゃってる。しかも半そでのあとがくっきり。


 それから髪形。これはもーどうしようもない。

 ここまで切っちゃうとごまかしようも無いしね……ドレスとかなりにアンバランス。


「姫様、お仕度は整いましたか」


 そう言って隣の部屋から颯爽と現れたのは、華麗な騎士装束姿のディルクだ。


「どうされました?」

「いやあ、すっごくキマッてるなぁって思ってね」


 あきれ顔の騎士様は、それでもやっぱりカッコイイ。

 シルクの黒い上下には所々渋めの金糸で細かい刺繍が施されており、豪華だけど悪目立ちしないし嫌味がない感じ。金色の長い髪は細い金のリボンできっちりまとめられ、整った顔立ちをいっそう際立たせている。仕上げには、騎士の中でも最高位の証である黒サッシュがふわりとなびかせるように腰に巻かれ、まさに非の打ちどころがない。


 ――どーみてもディルクの方が王族に見えるなぁ。


 最近は王子様たちの間でも「カッコイイから」という理由で騎士装束を公式な場で着るのが流行ってるのだ。ただディルクは、王子にしては不自然なくらい大振りな剣を帯刀してるから、かろうじて騎士だって分かる。


 ――ま、うちの騎士様ほどカンペキに騎士装束を着こなせる王子なんていないだろーけどね。


 ちょっと自慢したい気分だ。

 そんなディルクは「イヤリングを着け忘れていますよ」と、鏡台の上の宝石箱を手に取り、ふたを開けて私に差し出した。


「……それ、やっぱりつけなきゃダメ?」

「国王様からの贈り物でしょう?」


 しずく型した大粒のブルートパーズをかざされ、私は「ちぇっ」と眉を寄せてみせた。

 だって重そうなんだもん……それにドレスには合うだろうけど、肝心の本人には合わないよ。それでも有無を言わせずディルクの手によってイヤリングをつけられてしまった。


 ああ、ウエストのリボンはぎゅうぎゅうしめつけて苦しいし、ヒジまであるレースの手袋はごそごそして気持ち悪いし、ホント軽い拷問だよ。


 それでも「どうよ?」とディルクに感想を求めたら、無愛想に「それでよろしいですよ」と一言。

 なんだか聞いて損した気分だ……。






 晩餐会は一階にある『舞踏の間』という部屋と、それに続く大広間みたいな場所を二部屋ぶち抜きで行われた。


 アリュスの王族と、ごく限られた貴族の面々のみの内輪な会だとかいうけど、かなりの大人数。

 ただし気楽な感じに、という配慮があるのか完全立食形式で自由なムード。オーケストラも入っての賑やかで軽快なダンスが繰り広げられていた。


 ……でも踊れない私は完全に浮いてる。


 ディルクは以前外交関係の任務についていたから仕事上の知り合いも多いらしく、そういった関係者の皆様にごあいさつするので忙しい。なるたけ私のそばに居ようとしてくれるけど、そもそもこの訪問では私がオマケみたいなもんだし、気を使われるとかえって落ち着かないんだよなぁ。


「大人しくここにいるから、いってきなよ」

「……ではすぐ戻ってまいりますから、ここから絶対に動かないでください」


 ディルクは念を押すと、グラマーな女の人の手を取って向こうへいっちゃった。

 仕事関係? あれが? ふーん、へー、ほー……楽しそうでよござんしたね、まったく。


 いいもんね、私にはここにお皿いっぱいのごちそうがあるもんね。

 あーこの肉おいしーわ。


「また会ったね、壁のお花さん」


 顔を上げると見知った姿……銀色の髪に水色の瞳、女性と見まごう綺麗な顔……昼間に町のレストランの前で会った人だ!


 昼間とは違う服装で、なんだか王子様みたいな格好している。

 あれ、もしかしてこの人、王族だったりする?


「どうして踊らないの?」

「……踊らないんじゃなくて、踊れないんだもん」


 そこで言葉を切った私は、少し迷って、でも本当のことをこっそり耳打ちした。


「実はダンス苦手なの」

「あはは、僕と同じだ」


 隣の椅子に座った彼は、親しみやすい笑顔を向けてくる。

 仲間だ、仲間。なんかうれしいな。まったくの初対面じゃないし、実は一人でちょっと心細かったんだよね。


「あなたも王族の人?」

「まあ一応ね。君も会ったと思うけど、コルティの兄だよ。名はフリード」


 ――え、あのお姫様の……?


「父は違うから、半分しか血はつながってないけどね」

「そっかぁ」


 『道理で』という言葉を飲み込んだ私。

 やはり血が半分しかつながってないと、兄妹とはいえそっくりになるとは限らないようだ。だって同じ銀色の髪をしているけど、顔は似ても似つかない。性格も、だけど。


「ところで……いつまでもここで壁のお花さんしててもつまんなくない? ちょっと外の空気吸いに行こうよ。夜にしか咲かない、めずらしいお花を見せてあげる」

「そうしたいけど……」


 ディルクに怒られる。

 それが真っ先に私の頭に浮かんだ。


「ここに居るよう、コワイ連れに言われちゃってて」

「そうなんだ……なんか大変そうだね」


 ――そうそう、大変なんですよ。


「壁の花でもいーんです、どうせ『ハナ』ちゃんだし」

「ハナちゃん?」

「どっか東の異国の言葉で、お花って意味らしいんです。私のあだ名なの」

「へえ、ハナちゃんか。僕もそう呼んでいい?」

「うん」

「東洋の花なら、たしかサンルームの温室にあったな……」


 ――へえ……ちょっと見てみたいかも。


 ちょこっとぐらいなら抜け出しても大丈夫かな。

 フリード王子に頼んでみると、快く案内してくれると言う。


「例の怖いお連れさんは大丈夫なの?」

「うん、すぐに戻ってくれば平気」


 バレる前に戻ればいい、そう思った私は気軽な気持ちで席を立った。

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