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プロローグ
深い緑に囲まれた、大きくて真っ白なお城。
そこが私の『家』だ。
このお城に住む王様が、遠征先で知り合った女性に産ませた子が、私なんだって。
私の名はハンナ・ボーゼ。ボーゼは母方の姓だ。
生まれてからずっと、王都から遠く離れた田舎町で、母と母の両親である祖父母と一緒に暮らしていた。
母の家は貧乏と呼ぶほどではないけれど、質素でごくごく平凡な家庭だった。私は自分の父親がどんな人か、何も知らずに育った。
町の学校に通って、お友達もたくさんいた。
おだやかで平和で、しあわせな日々だった。
――そんな生活が一変したのは、私が十二になった年のこと。
当時、世間を騒がせていた流行り病で、母と祖父母が亡くなった。そうして孤児になった私は、隣町の孤児院に引き取られた。
悲しみに暮れる中、孤児院にいること数か月……ある日、お城からお迎えがやってきた。
なんと私の父は、この国の王様で、だから私はお姫様なんだって。
私は『姫』で、私の家は『お城』。
慣れないことだらけの中、それでも月日は三年過ぎた……。