酔いし者から切り抜けろ
平日はノートに書き溜めすることにしました。
そのあとは特に何事もなく、セレティア国に着いた。
街に入ってすぐに宿をとり、荷物を置いて身軽になった三人は街へと繰り出す。
モグモグ、あ、これうまいな
「ライカは何の用事でノルドレインに行くんだ?」
ライカが住民から聞いた美味しいと評判の店で夕食に舌鼓を打ちながら、ラスは切り出した。
『ラス!
野暮なことを聞くんじゃないよ。』
レイは何を想像したのか、頬を染めながらラスをたしなめた。
「レイ、何を勘違いしているのか知らないが、オレはギルドの仲間に会いに行くだけだ。」
何を想像してたのかな?
ん? おにーさんに言ってみな。
ライカは赤く染まったレイの頬を軽く摘んだ。
『え、てっきり、前に自慢していた恋人さんに会いに行くんだと思ってました。
ノルドレインにいるんですよね。』
ガン!
とたんにライカはテーブルに突っ伏した。
そして、ぼそぼそと言った。
「覚えていたのか。
実はその後、一ヶ月ぐらいで別れたんだ。
あいつ、オレが自分といるより仲間といるほうが生き生きして楽しそうだって言ったんだ。
それを聞いたら情けなくなってよ、結局、今では元のただの仲間に戻ったってわけだ。」
沈黙がその場を支配し、気づいたライカが話を変えた。
「そういうレイは? 恋人とかいないのか?」
やっと収まった頬をまた赤く染めてレイは戸惑う
『…そうですね、まだそういう人はいません。正直、ラスがいてくれるので、あまり欲しいとか思っていませんから。
今は考えられないです。』
ライカはニヤニヤと笑い、固まったラスを見遣る。
「はぁ、嬉しがっていいのか、悲しがるべきなのか、判断に苦しむな。」
ラスはレイに大切に思われていることに喜びつつ、
もし、レイに恋人ができたときに、はたして自分が冷静でいられるか自信が無かった。
ラス、今までありがとう。この人と結婚することになったんだ。ラスも好い人見付けろよ?
ダメだ、耐えきれない。
絶対に認めねぇ!
手を握り締め、背後にほの暗い嫉妬の炎を背負ったラスに呆れた目を向けながら、ライカが腕につけた腕時計型の魔石を確認して年長者の務めを果たそうとする。
「そろそろ宿に戻るぞ。明日は早起きだからな。」
『はい。』
「了解。」
『明日は飛行系モンスターを喚んでほしいんだが、大丈夫か?』
二人部屋に泊まったレイとラスは明日のことについて話し合っていた。
「大丈夫、レイは心配しなくていい。
移動は急いだ方がいいか?」
乗り心地重視か、移動速度重視か。
数種類のモンスターを思い浮かべて問う。
『そうだな、セレスの森はここからそれほど遠くないから、乗り心地重視で。
ただ、国が近くてどうしても人がいるだろうからあまりレベルの高い感知されやすいモンスターはダメだ。』
レイはそう言うと、テーブルに置いていた、屋台で見付けてきた好物のザクロに似たセキルの実を絞ったジュースをグラスに注ぎ、
ラスにもう1つを手渡し、くるくると回して色艶を確認してから口に含む。
『美味しい、流石自家栽培していると豪語しただけのことはある。表皮の色を見て買い溜めしておいて正解だったな。』
驚きに目を瞠らせ、己の選択に安堵する。
セキルのジュースの真っ赤な色がレイの銀の髪によく映えていた。
うわぁ、レイ、綺麗だなぁ。
ラスはレイに見惚れながら明日乗るモンスターを決めた。
ロウソクの灯りにユラユラと部屋の中を照らされ、二人の影が不規則に踊る。
他にも細々としたことを話し合いながら、二人の夜は更けていった。