新たな街の名を告げろ
《主、このたびの召喚は何用でしょう。》
「ああ、ここから移動したくてな、道はコイツ、リャスが知っているから、リャスに従ってくれ。重量的に一番軽いレイと一番重いガリオス、オレとリャスで乗ってくれ。」
前半はグリフォン二頭に後半は三人に話し掛けた。すぐに了解の返事が返ると、ラスはグルーの上にリャスを放り投げ、自分も飛び乗った。ガリオスは馬に乗るように、初めてとは思えないほど軽々と乗り、レイを自分の前に引き上げた。
「よし、皆乗ったな、行け!グルー、フィン!」
ラスが手綱を振り上げ合図を出すと二頭は同時に翼を広げ飛び立った。
「……張り切っとるとこ悪いけど、目的地はあっち、反対側や。」
「それを早く言え!」
「言う前に命令したんやろが!」
ぎゃいぎゃいぎゃいぎゃい
「どうにかならんのか、あれは……。」
遠ざかる地上を見ていたが、いい加減呆れて、はぁ、と大きなため息を洩らし片手で頭を押さえながらガリオスが呟いた。もう一方の手では手綱を握りレイを支えていた。
少し離れているにもかかわらず聞こえてくる騒ぎ声に、辟易としているようだ。向こうのグルーからも何とかしてくれと先ほどから念話が届いてきていた。
『うーん、難しいですね、下手に近づいて巻き込まれたくありませんし、ここはグルーの冥福を祈りましょう。』
そう言って、この超高度の中両手を離して手を合わせた。
合掌、南無。
「ふむ。それにしてもこのグリフォンというモンスターはすごいな、あっという間に景色が過ぎてゆく。」
眼下に広がる雄大な光景はまさしく飛ぶように通り過ぎてゆき、ときおり飛行系のモンスターが危うくグリフォンにぶつかりそうになり、あわてて回避行動に移っているのが確認できた。
速度にして300キロほどであろうか、一時間も飛行すれば到着しそうな勢いである。
そうしてレイとガリオスの二名が景色に目を奪われていると、前方の二人を乗せたグルーが高度を下げ始めた。
今回が初フライトのリャスは地面が猛烈に迫ってきていることに恐怖を覚えたのかギャアアアァ!! と叫び続けているがラスは目も向けていない、リャスの足にロープを巻きつけているので問題ないと判断しているようだ。
腕ではなく足に巻きつけたのはラスのちょっとした悪戯であるが、そもそもレイがロープの必要性を訴えていなければ命綱はなかった。そのことを知らないリャスは幸せである。
フィンが翼を傾け、着陸態勢に入ってもリャスと違い、ガリオスは多少身体を強張らせたのみで落ち着いていてレイはホッとした。
「ん? 着いたのか、いくらなんでも早くないか?」
『そうですね、何かあったのでしょうか。』
そうこうしている間にも地面は近くなってゆく。
バササ・・・・バサ・・・・・バサバサ・・・トス
「どうした。」
地上に降りると先に来ていた二人に尋ねた。皆がグリフォンから降りると二頭は頭を下げ、挨拶をしてから光の粒子へと還って行った。
リャスは広げた地図を見ながら確認をしているようだ、視線の動きが同じ点を行き来している。
「ああ、それがこの先に街があって、住民に見つからないギリギリのところに降りたみたいだぜ。」
地図に目線を落として顔を上げないリャスに代わってラスが質問に答えた。
「こん先にある、サンサーラの街なんやけど。ちょっと変わった奴らが多い街やねん。別に悪い奴らってわけやないんやけど、学者気質なきらいがあるんやよね。」
「サンサーラ、聞いたことがある。
その街はセレス国にありながらも、人間との国境に近いがためにエルフの長命と人間の知識欲を併せ持つ種族、ハーフエルフが数多く住んでおり、街の八割の住民が学者の学術都市であると。」
「そや、そやから学者やない余所者らには風当たりがキツイんやよね。街に入るときにはローブを着といた方がええで、大分扱い違うから。」
リャスはガサゴソと荷物からローブを取り出して被りながら説明した。以前にも通ったことがあるのだろう。
「そういえばそういう名前の街があったな。魔術書が沢山売ってあったっけ。NPCが大抵みんな黒いローブとか着てて辛気臭かったぜ。」
『魔術書探究クエストが多かった気がする。それ系のスキル取得もあったし。』
前を行くガリオスに聞こえない程の小声で二人は会話した。