異世界最初の料理を作れ
「こん中で料理出来るヤツおるか?
ワイはヘタクソやから頼みたいんやけど。ガリオスも下手そうやな。」
歩きながら、リャスは言い出した。夕暮れが近づき、お腹が空いてきたようだ。
「うむ、一度食堂を爆破させてから調理場への出入りを禁止されておる。」
いったいどんな料理方法をとったら爆発など起きるのだろうか。敢えて聞いてみる者はいなかった。
「論外、だな。しょうがない、オレがやる。レイ、手伝ってくれるか?」
『ん、わかった。』
ラスは自炊できるだけの腕はあるし、レイは副業の一つに料理之達人の称号を取っている。そうとう美味しい物が出来上がることは想像に難くない。
そうとも知らず、二人は、レイはともかく、ラスが作ったら野菜の形とか不均等に切られてそうやな、うむ、火がちゃんと通っているなら我慢しよう。などと不安がっていた。
「悪かったな、料理出来なさそうで!」
「何を怒っておる、別に料理が出来なくとも恥じることはない。」
「決め付けんな!」
「そうやで、もしかしたら出来るかもしれへんで。」
『もし、ってあたりが信じてませんね、目が笑っていますよ。』
ガリオスに言ってくれたリャスだが、信じていないのは明確で、笑いを堪えるためか、顔が強張っていた。
『ラス、シチューとかでいいと思うか?』
ラスの隣で大人しくしていたレイは何を作るか考えていた。
それを聞いてリャスがニンジンは入れんといてな、と頼み、ラスに怒られていた。同じくニンジンが少し苦手なガリオスは寡黙なおかげで気付かれずにすんで安心していた。
幼いころはニンジンが苦手で、ラスに無理やり食べさせられた経験のあるレイは苦笑いを浮かべて二人の言い合いを眺めている。
「料理にはニンジンを入れる! 残したら……覚悟しろよ。」
「そんな、堪忍してやぁ。」
どうやら言い争いはラスの勝利で収まったようだ。リャスはいじけて縁が黒く、中心に向かって白くなってゆくパシエンシアの花を千切っては集めだした。蕾に近い花ばかりを摘んでいるあたり何か意図があるようだ。
レイもそれを見て、ハイポーションを作るために、根元から短剣、何故か道具箱の中にラスの物が入っていた、一応最高級品、で切り取っては放り込んだ。
「あ、それ結構値打ち物、あ、土と汁が…」
『どうせ、一度も使わないくせに。』
「まあ、そうなんだけどさ。」
『ならば問題なし。』
ザク、ザク、ザク
「そうなんだけどさ、やっぱ、こう、くるものがあるというか。」
「分かるぞ、その気持ち、剣士として切ないものがあるな。」
「へえ、ワイは剣士とちゃうからわからへんわ。よう切れる刃やなあ、ぐらいしか。」
そういって意気消沈している剣士二人の気持ちが理解できないリャスは無意識に追い討ちを掛けるようにレイに短剣を貸してもらい薬草を切り取った。
二人の若干間違った花摘みが終わると、再び歩き出した。
二十分も歩けばそこそこの大きさの山小屋が見えてきた。無駄な装飾は無く、つくりがしっかりとして頑丈だ。
内も防湿機能がきちんとしているようで、外よりも暖かかった。
『たぶん、ここで料理をするんですよね。』
部屋に置いてあった箱を覗きこみながらレイが言葉を発した。料理をするために必要な料理道具の一式が木箱に納まっていた。
「そやで、そんなかのもんは何使ってもええんや。便利やろ。」
『そうなんですか、いいですね。ラス、何を作るんだ?』
「シチュー系で、ミネストローネ。ボルシチ、ポトフ、クラムチャウダー、どれがいい?」
『ん、クラムチャウダーかな。』
「分かった、材料を揃えるな。」
次々といろいろな国の代表的なシチューの名前を出して、尋ねると、レイは一瞬考えたが、ちらりとリャスとガリオスに目を移してからクラムチャウダーを選んだ。
ミネストローネやポトフ、ボルシチは普通ニンジンを使うので、リャスのニンジン嫌いを思い出し、ひそかにガリオスも反応していたことに気付いていたレイはクラムチャウダーにはあまり入っていないだろうと推測した。
「レイ、アリガトさん。」
ラスの下に向かうレイに近づき礼を言うと、気付きましたか、と苦笑を浮かべた。