万年雪を融かし尽くせ
「轟け雷鳴、天に在りし莫大なる力よ、其の一筋の光を我らの敵に落とし給え。《雷槍》!」
雪山にて、敵が現るごとに戦闘態勢を取るのが面倒になったレイ達は、レイが詠唱している時はラスが、リャスが詠唱している時はガリオスが護衛するという形に収まった。
レイに至っては詠唱を前もってしておき、術を保留状態にして、魔物が出ると最後の術名と唱えるという離れ業を披露していたが。
術を保留するということは想像以上に難しいというのが常識である。
集中力が途切れると途端に術は消失してしまうし、魔力も一緒に消えてしまうからリスクが高く、敬遠される傾向にある。
幸い魔物が大量発生する時期は過ぎていたので大怪我を負うこともなく、順調に進んでいた。
『《光弾丸》!』
そうこうしている内にも二メートルはあるかという一匹の雪狼が襲い掛かってきた。
「可笑しいで、雪狼は普通群れで狩りをする習性があるんや。一匹でおるなんて・・・。」
ウオオォーン……
慌てて声のした方を見ると、四人がいる所より少し高い崖の上から雪狼がこちらを眺め、空に向かって遠吠えをした。
「マズイな・・・。」
「何か不都合でも有るのか?」
『雪狼が遠吠えをすると最低でも九匹は集まってくるんです。
時には他の種族の魔物も。』
…ゥォォー
遠くの方から近付いてくる雪狼の鳴き声。
「確かに、これは少し、難儀だな。」
『考えがあります。どうにか一ヶ所に集めてください。
出来ればあの崖の辺りに。』
レイが指差したのはちょうど崖の上になっており、万が一足を滑らせたら谷間にまっ逆さまに墜ちていってしまうだろうと思われる場所である。
「谷間に落とすんやな、よっしゃ、一丁やったろやないか、ラス、ガリオス、援護は任しとき!」
「オイ、お前はやらねぇのかよ!」
「右に同じく。」
「何を言うとんか、せぇへんに決まっとるやろ。
こないなお年寄りに何をさせようっていうんや。
あー、ゴホゴホ。」
ラスは今までまだ見ぬ敵に威嚇も篭めて向けていた殺気をリャスに向けた。
『・・・何といいますか。』
「下らぬ。」
言葉を濁すレイときっぱりと切り捨てるガリオス。
ウウー! グルルァ!
ふざけたことを言い合っていたが戦闘態勢に入った。
「1,2・・・12匹か、レイ、リャス、身体強化を、ガリオス、オレが突っ込むから二人に行きそうなヤツだけ頼む。行くぞ・・・3,2,1!」
ラスはレイの魔法が身体に掛かるのを感じながら一気に加速をかけ、群れの中に躍り出た。
襲い掛かってくる雪狼を時に切りつけ、時に吹き飛ばし、少しずつ目標の場所まで誘導していく。
レイたちに向かってくる雪狼はガリオスが防ぎ、その間に魔法を完成させたレイとリャスが仕留める。
もう少しで目標に着くだろうという時にレイが深く息を吸ってから呪文を唱えだした。
明らかに今までに繰り出していた下級魔法ではなく上級魔法、もしくは古代魔法かと思われる魔力の膨れ上がりだ。
思わずリャスは呪文を中断してレイの方を振り返ってしまう。
(なんちゅう力や、こんなけったいな量の魔力、感じたことないで・・・!)
リャスがそんなことを考えているとは露とも思わず、レイは詠唱を続ける。
『・・・・空に散り逝く雪花、降り積もりては万年雪、永らく支えし腕よ、今その力を緩めよ。
ラス、戻れ!
総てのものを飲み込め、雪崩!』
レイが詠唱し終わると山頂の方から土煙、いや雪煙が現れ、瞬く間に目の前の木々は薙ぎ倒され、雪狼と共に飲み込まれていった。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・。」」
「おー、レイのアレ、久しぶりに見たな。」
『威力は大きくても雪山じゃないと出来ないからな。』
二対二での二極化、二人は思う。
((・・・こいつら本当規格外!
ラスも後一歩遅れていたら巻き込まれていたぞ、それでいいのか!))
と、しかしながら、その思いは太陽と月には届かなかった。
そして更にリャスは思う。
(雪崩って、確かアホみたいに魔力使うから生命に関わるって理由で禁術指定されてはったような・・・
うん、考えたらあかんことやな。)
周りの、正確には約一名の精神衛生に関わるリャスの心の内での呟きは、丁寧に深淵へと仕舞われた。