歴史を紐解き理解せよ
ダークエルフ、それは御伽噺などではたいてい悪役として語られている。
血の気が多く、残虐で、魔物を率いて人を襲う、と。
実際には戦闘好きなだけなのだが、そのことを知る人はあまりにも少ない。
大昔、ツンフト国がある所にはとても大きな国があった。
そこではエルフもダークエルフも竜族も魔族も皆それなりに仲良く暮らしていた。
しかし、あるとき突然事態は急変した。
その当時の、当時からハイエルフは希少だった、ハイエルフの王に一部のダークエルフと魔族が突然反旗を翻したのだ。
幸い反乱は鎮圧されたが、王は首謀者によって殺害された。
王は死に際で、ある呪いをかけた。ダークエルフや魔族が自分よりも魔力のあるハイエルフに惹かれるという呪いを。これは禁術と呼ばれる物で、命をかけないといけないため、封印され、王にのみ継承されてきていたものである。
事態を重く見た王の一人息子の王子は南東にダークエルフと魔族を、北西にエルフと竜族を、とに分けて暮らさせた。
そして二つに区切るために真ん中に傭兵を雇い、見張らせた。
百年もすれば傭兵たちの世代もかわり、国のようなものが出来始め、ツンフト国へと到る。
やがて、南東にはグリムリ国と、北西にはセレス国となった。
王子は人徳者であったため、首謀者を殺すことなくグリムリ国初代国王として監視付だが、治めさせていた。
グリムリ国は豊富な海洋資源があるが病原菌が多く、文明もやや遅れている。
とはいえ東西南北の国よりかは進んでいるが。
セレス国は豊かな森に鉱山資源、人材資源など、潤沢に潤っている。
そのため長年グリムリ国はセレス国との統合、もしくは侵略を狙っているのが暗黙の了解として浸透している。
現在のグリムリ国王は首謀者の孫であり、高齢、老害の可能性あり。
晩年に生まれた双子の息子がおり、兄は出奔し、放浪の旅に出たため、弟が王位に就く予定である。
兄弟仲は良かったらしく、何故いきなり兄が国を出たのかは不明。
現在、セレス国に攻め入るために戦力の増強を図っている様子。
『以上、この世界の歴史と常識について、リャス著』
先ほど食堂を出るときに渡された冊子を読み上げたレイはその分厚さに感心した。
どうやら寝る間も惜しんで書き上げていたようだ。
ほかにもギルドについて、宗教について、魔法関連について、など多岐にわたって書かれている。
「へえ、腐っても学者、か、必要なことばかり書かれているな。」
レイに読み上げてもらったラスはそう評価する。
時間は既に昼に差し掛かり、昼食を食べ終えた頃である。
外に出てみようと思うのだが、リャスが出かけたまま戻ってこないので悩んでいた。
まさかダークエルフを探しているとは思ってもいない二人である。
レイは好奇心で会ってみたく思っていて、買い物のついでに探してみようと軽く思っていて、ラスもそのことを承知していたのだが、二人との交流が浅いリャスはダークエルフを連れて来いと言ったと思って両者の間に食い違いが生じていたのだ。
リャスがダークエルフを探しているとは知らない二人はリャスを待たずに買い物に行こうかと宿屋の出入り口に向かった。
『何か珍しいものは売っているだろうか?』
「さあ、でも基本ベースは月の王とそう変わりがないみたいだから望み薄だろうな。
食材とかだけ纏めて放り込んどけばいいんじゃないか?」
『まあ、確かにめぼしい物はなさそうだな。』
外に出ると太陽は中天を少し過ぎたほどで、何かの花弁と、春のような香りを風が運んできた。
ざっと見てみると、野菜や果物、家畜の肉などを売っている店が大半を占め、買い物をしている人も大量に買って運んでいるあたり、仕入れをしているようだ。どうやらこの村は食料の村であるらしい。
「武器屋と言うよりは農具屋みたいだな。」
ようやく見つけた武器屋に入ってみると売っている物は鎌や鍬などの農具、斧や弓矢などの猟具ばかりで、隅のほうに大剣が置かれているだけだった。
それを見て、異世界の武器に心躍らせていた武器マニアでもあるラスのテンションはガタ落ち、つられてレイも機嫌が悪くなり、武器屋の店主も何か粗相をしたかとそわそわとしだして、ある意味での異空間が店内に出来上がり、ダークエルフをやっとのことで見つけ出したリャスがその店を通りかかるまでそれは続いた。
「何やねん、この重たい雰囲気は、何かあったんか?」
『逆です。何もないから落ち込んでいるんです。』
「あー、この村は野菜とかの産地やからな、他の物とかはあんまり売ってないんや。
そんなことよりほら、言っとったやろ、連れて来たで。」
「は? 言ってたって、誰をだよ。」
ようやく底辺から這い上がってきたラスが疑問を口にした。
「誰って、言っとったやん、ダークエルフに会いたいって。」
忘れたのかとリャスが幾分か呆れをにじませた声で応じた。
『確かに会って見たいとは言いましたけど、つれて来いと言った訳じゃないんです。すみません。』
言葉が足りなかったか、とレイが申し訳無さそうに顔を曇らせて謝る。
「そうやったんか、スマンな、ワイも早とちりしとったみたいやわ。」
両者が謝罪し合うことで丸く収まった・・・かのように思われた。
「ふむ、ところで我のことは無視なのか。」
『「「・・・あ。」」』