揺らめく意識を繋ぎ止めろ
遅くなりまして、無事? にテストも終わりました。
幸い一番近くにいたレイは虹晶が避けるかのように割れたので傷を負うことはなかったが、何か声が聞こえたような気がしてぼんやりとしていた。
それを勘違いしたのかラスがレイに傷がないか確認するために覗きこむ。
「…レイ?」
『…ぁ……うん、なんでもない、大丈夫。』
破片が床に散らばって思わず歩くのに躊躇しそうな中、リャスがレイの下に跪いて手をとり、自分の額に押し付けた。
『何を……』
「頼む! 不在の王でええ、セレス国の王になってくれ。
百年間王を待っとったセレス国の民の悲願、叶えたってくれ!」
そう言われてしまうと、おもわず頷いてしまいそうになるが、国王という大役ゆえにすぐに決めることは出来なかった。
考えていて欲しいと言われ、レイは戸惑いつつも承諾した。
リャスは隣の部屋に引っ込み、静寂が二人の間に落ちる。
ひとまずレイは技術、《掃除》を使って破片を取り除いた。
『国王、か、大役すぎて考えられない、でも、百年も待っていたと言われたら断りづらいな。
ラス、どうしたら良いと思う?』
あまりのことに精神的に疲れきってしまったレイは、残っていたセキルのジュースを飲み干すと、昔から混乱すると親しい人に抱きつくという少々可愛らしい癖を発揮してラスに抱きついた。
慣れたことなのでラスも手を広げて、むしろドンと来い、とばかりに抱き返す。
ラスの胸元に頭を寄せて、心臓の音を聞いていると段々と心が落ち着いてくるのが分かった。
どんな時でもそばにいてくれる人、それがラスだった。
ラスも同じように思ってくれているとレイは信じている。
ラスがレイ以上に自分に依存しているとは気付かないまま。
「オレはレイが国王になっても良いと思う。
別に国王になったからって引き離されるわけじゃない、城とかに縛られるわけじゃない。
そりゃあ、最初は城にいないといけないだろうケド。
気楽に拠点が出来たとでも思っとけよ。
オレはレイ専属の護衛剣士にでもなろうかな。」
『ふふっ、言ってくれる。
確かに、国王といってもグリムリ国への牽制になれば後は自由にしてもいいみたいだし。
国王か、考えてみれば面白いことが起きそうな職業だ、どう掻き回してあげよう。』
『「楽しみだ(な)。」』
ふふ…ふふふ…
くくく……
果たして国王は職業で、掻き回してもいいものだろうか。
リャスに聞かれれば泣き出されそうな発言をサラリと聞き流したラスはレイを抱きしめたまま、部屋の奥へと歩いてゆく。
『ラス? 何処に…』
「ん?
久しぶりに一緒に風呂にでも入……ガス!…グッ!」
紫電一閃、空中より取り出した杖でラスを殴る、しかも先の一番細く鋭いところで。
気を抜いていたのかもろに入り仰け反ったままのラスを更に遠心力を利用した杖で吹き飛ばしたレイは一人で風呂へと入っていった。
「これでちょっとは落ち着いたか。」
一人部屋に残り、倒れ伏したラスの誰にも聞かすつもりのない呟きが部屋に落ちて消えた。
『…ラスの馬鹿。
聞こえてるよ、恥ずかしい奴。
でも
……アリガト。』