両者の食い違いを正せ
長らく遅くなってスミマセン。
『ここは何処なんだろうな、北の方で採れるビズベリー、西のほうで採れるセキル、ということは北西のセレスの森の近くなんだろうか。』
村の中心部に向って歩いて行きながら小さな果物店を覗いたレイがそう推測する。
「それならワイがどのへんか教えたるわ、これでも歴史学とか得意やねん。
とりあえず、ワイの泊まっとる宿屋にでもいかへん?
っていうか置いてかへんといてや、ひどいで。」
追いついてきたリャスが、ワイ役に立つで、とばかりに笑顔で提案してきた。
どちらでもよかったレイがラスが頷くのをみて、リャスの案内に従い、宿屋へと急いで行く。
ちょうど夕立が雷鳴を連れてやってきたところだった。
宿屋に着いた瞬間、扉の外からザーザーという雨音が聞こえてきた。
やがて雷鳴が鳴り響き始めた頃には既に部屋を取って、三人は円テーブルを囲うイスに座っていた。
レイはひとまず落ち着くために道具箱から好物のセキルの実を三つほど取り出し、技術、《圧搾》を使って、ジュースにしてグラスに注ぎ、テーブルに置く。
レイとラスにとっては何気ない動作だったが、リャスの受け取り方は違っていた。
おっかなびっくりとセキルのジュースを持ち上げて覗きこんでいる。
「それ、どうやったんや?
空中で果物が搾られてったみたいやけど、……ん?
なんや二人とも、こっち凝視して、アレか、ワイの格好よさにやっと気づいたんか。」
くだらないことを言うリャスの言葉を聞きながら、
レイは背筋が冷たくなってゆくのを感じ、ラスも同じようなものを感じているだろうと頭の片隅でぼんやりと思った。
それくらい《圧搾》は一般的なもののはずだった。
「…何を言っているんだ。《圧搾》なんて技術便利だから皆持っているだろ?
NPCだって例外じゃない、バーテンダーだってしなければならないから必須技術なはずだぞ。」
レイは今までの違和感が急速に目の前で形作られていくように思われて、ステータス画面を呼び出して操作し始める。
「技術? NPC?何やそら、聞いたこっちゃ無いわ、さっき使こたんは魔法とちゃうんか?
ワイ、結構生きとるケドそんなん見たことないから興奮してきたんやけど。
それ習得したらいろいろ搾るのに楽そうでええなあ。
……って、ん?」
ここにきて、ようやく双方の食い違いに気付きだしたようだ。
「まさか、まさか、あんさんら本当に異世界から来たんとちゃうか?
異世界から来たんは冗談で、精々遠い地方から移動呪文に失敗でもしてグワーってぶっ飛ばされて来たとか思っとったのに。」
「いや、でも、まさか……」
『もしかしたら、ここは本当に異世界なのかもしれないな。
ラス、一回ログアウトしてみろ。』
今までずっと画面を弄って会話に入ってこなかったレイが唐突にいった。
顔色が少し青ざめているのは気のせいではないだろう。
ラスは疑問符を浮かべながらもレイが言うならとログアウトをする手順を踏むが、徐々に驚愕に染まっていく。
先ほどからレイはログアウトを選択しているのだが、“ログアウトしますか?”の画面で“yes”を押しても元のステータス画面に戻るだけで何の意味もないものだった。
「まさか、本当にここは……」
異世界なのか