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捨てられオメガの逆転無双~万能翻訳スキルで冷徹皇帝に溺愛されてます~元婚約者の王子が泣いて助けを求めてももう遅い~  作者: 水凪しおん


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第13話「過去との決別と揺るぎない玉座」

 迎賓館の大広間は、張り詰めた冬の空気に満ちていた。

 部屋の最奥に一段高く設けられた玉座には、漆黒の礼服に身を包んだマルコがどっしりと腰を下ろしている。その隣には、ルシアンが真っすぐに背筋を伸ばして座っていた。

 ルシアンの紫水晶の瞳は静かに前を見据え、かつてエルメリア王国で常に見せていた怯えや卑屈な影は、もうどこにも見当たらなかった。

 重厚な両開きの扉の向こうから、複数の足音が近づいてくるのが聞こえる。ルシアンは膝の上で組んだ両手に少しだけ力を込めた。隣に座るマルコが、大きな温かい手をそっと重ねてくる。


「大丈夫だ。お前はただ、私の隣で座っていればいい」


 低い囁き声が耳元をくすぐり、ルシアンは小さく頷いた。

 不意に、巨大な扉が重々しい音を立てて内側へと開かれた。広間の入り口に姿を現したのは、エルメリア王国の使節団だった。

 その先頭を歩く金髪の青年を見た瞬間、ルシアンの胸の奥で微かな風が吹き抜けた。第一王子、ジュリアス。

 ジュリアスは広間の中央まで進み出ると、玉座に座るマルコを見上げてぎこちなく一礼した。


「偉大なるガルディナ帝国皇帝陛下に拝謁いたします。私はエルメリア王国第一王子、ジュリアスと申します。本日は両国の未来のための重要な協議を……」


 そこまで言いかけたジュリアスの声が、突然不自然に途切れた。彼が顔を上げ、マルコの隣に座る人物にようやく視線を向けたからだ。


「……ル、シアン……?」


「なぜ……なぜ、お前がそこにいる! 追放されたはずのオメガが、なぜ帝国の玉座の隣になど……」


 混乱と焦燥が入り混じった叫び声が、広間の壁に反響した。

 ルシアンは瞬き一つせず、冷ややかにジュリアスを見下ろした。今のルシアンの心にあるのは、氷のような静かな落ち着きだけだった。


「お久しぶりです、ジュリアス殿下」


 ルシアンの声は、高く澄み渡り、少しの震えもなかった。


「私は現在、ガルディナ帝国皇帝陛下の直属翻訳官として、この国にお仕えしております。エルメリア王国との協議においても、私が通訳と記録を務めることになっております」


 その言葉を聞いた瞬間、ジュリアスの顔から完全に血の気が引いた。ジュリアスは突如として膝から崩れ落ち、大理石の床に両手をついた。


「ルシアン……すまなかった。私が愚かだった。お前がいなくなってから、我が国は他国との交渉がすべて頓挫し、破滅の縁に立たされているのだ」


 なりふり構わぬ懇願の声が、床に響き渡る。


「だから、お願いだ。エルメリアに戻ってきてくれ。お前を正妃として迎え入れ、これまでの非礼をすべて償うから……」


 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら叫ぶジュリアスの姿は、あまりにも無様だった。

 ルシアンが冷淡な声で返答しようと唇を開きかけたその時、隣に座るマルコがゆっくりと立ち上がった。その瞬間、広間の空気が一気に凍りついた。

 マルコの体から放たれた、猛烈なアルファの威圧感。床にひざまずいていたジュリアスは、見えない巨大な手に押さえつけられたように床に顔を伏せ、息も絶え絶えに苦しみ始めた。


「気安く私の大切な伴侶に話しかけるな、虫けらめ」


 マルコの低く地を這うような声が、ジュリアスの鼓膜を容赦なく打ち据えた。


「お前たちが自ら捨てた宝を、今さら拾い集めようなどと厚かましいにもほどがある。ルシアンはすでに我がガルディナ帝国の最も尊い存在であり、お前のような無能な男が触れていい存在ではない」


 ルシアンはマルコの外套の裾をそっと引き、彼を見上げた。


「マルコ様。もう十分です」


 ルシアンが静かにそう告げると、マルコは一瞬で威圧感を収め、ルシアンに向かって優しく頷いた。

 ルシアンは再び前を向き、床で荒い息を吐くジュリアスに向かって、最後通告を突きつけた。


「ジュリアス殿下。私はもう、エルメリア王国には一切の未練もありません。復縁も、帰国も、絶対にお断りいたします」


 一切の感情を交えない、ただの事実の通達。その冷徹な拒絶の言葉を聞き、ジュリアスは絶望に顔を歪め、大理石の床に力なく崩れ落ちた。


「近衛兵。この哀れな使節団を国境まで送り届けよ。帝国はエルメリア王国との一切の交渉を打ち切る」


 マルコの冷酷な命令が下り、ジュリアスたちは近衛兵に引きずられるようにして広間から退出させられた。

 重厚な扉が閉まり、再び静寂が戻る。マルコがルシアンの腰に腕を回し、優しく引き寄せる。


「よく言った、ルシアン。これでお前を縛るものは何もなくなった」


 ルシアンはマルコの胸に顔をうずめ、その温かな体温と深い森の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。


「はい……。私はもう、何も恐れません。あなたが、そばにいてくださるから」

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