表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイペースに異世界暮らし  作者: 汐琉
はじめての夏
9/13

言いつけ……てはいない。

シリーズ短編を長編化、こちらは新たに追加した投稿となります。


本日2話投稿で、一応はじまりの夏編終わらせる感じとなります。


こちらは1話目となりますのでご注意ください。

●8月▷日



 招かれざるお客様第二弾が来た次の日、私はいつも通り家庭菜園にいた。

 本日もカッパくんが手伝いに来てくれている。


 作業の手を止めてちらりとカッパくんを見ると、ちょうどキュウリをつまみ食いしているところだった。


「きゅ、きゅわ……」


 私と目が合ったカッパくんは、見つかっちゃったとばかりにバツが悪そうな表情になり、食べかけのキュウリを背後に隠す。


「ふふ。別につまみ食いぐらい構わないよ。お手伝いしてくれた特権だね」


「きゅうわ!」


 私の言葉を受けてパァッと満開の笑顔になったカッパくんは、背後に隠していたキュウリを取り出してポリポリと美味しそうに食べ出す。


 あれだけ美味しそうに食べてもらえればキュウリも本望だろう。

 そういえば先日テレビでゴーヤを見て「ゴーヤチャンプルー食べたくなってきた」と呟き、来年はゴーヤでグリーンカーテンをするかと思っていたら、気付いた時にはしれっとゴーヤが生えていた。

 いい感じに育ったゴーヤを数個もぎ取り、残りはあえて残しておく。

 熟すと苦味が減ったゴーヤになるらしいので、どうせなら試してみたい。

 あと、ゴーヤを一気にそこまでは食べられないし、さすがのカッパくんも緑色のゴーヤは……。


「きゅぅ……!」


 ちらりと見やると、ゴーヤを丸かじりしたカッパくんが苦さのせいか、キュッと酸っぱい物でも食べたような顔をしてジタバタ足踏みをして悶えている。


「カッパくん、さすがにゴーヤはそのままは苦いよ?」


 微笑ましい光景に癒されつつ、私は甘い香りを漂わせているマクワウリへと近づいて、熟れていそうな物を選んでもぎ取る。

 ここからさらに追熟すると美味しいらしいが今でも十分甘そうだ。


「ほら、口直しにどうぞ」


 本来なら皮を剥く必要があるが、カッパくんなら問題なくそのまま食べられるだろう。

 そう安易に考えて渡したのだが…………。

 私の予想した以上に問題なくマクワウリはカッパくんのクチバシの中へと消えていく。

 歯とか無い様に見えるけれど、どう食べているんだろうなぁとジッと見つめていると、カッパくんと目が合ってしまった。


「きゅわ?」


「なんでもないよ? 甘いかな?」


「きゅわ!」


「なら良かった。ゴーヤは調理すれば少しは苦味が減るから、お昼に出してあげるよ」


「きゅーわ!」


 期待に満ちた眼差しで見てくれているが、残念ながら私の腕では調理してもゴーヤはそこそこ苦い。

 まぁ、生でかじるよりは百倍マシだろうけど。



 スマホの充電は終わってるので、カッパくんの期待に応えるため、こっそりとレシピを検索しておこうと思う。




「きゅ……きゅわぁ!」


「口に合ってよかったよ」



 今日のお昼はゴーヤチャンプルーとゴーヤとツナの佃煮。それと炊きたてご飯。

 こっそりとレシピを覗き見したかいあってか、最初は恐る恐る食べていたカッパくんも、感動した様子でバクバク食べてくれている。

 その姿に胸を撫で下ろしながら私もゴーヤ料理を口へと運ぶ。


「きゅわきゅわぁ」


 この苦みがいいのとでも言ってるようなカッパくんの表情に、思わずくすくすと堪えきれなかった笑い声が溢れてしまう。


「きゅわ?」


 何かあった? とカッパくんが不思議そうに見てくるので、私はゆるゆると首を横に振る。

 それでもカッパくんの視線が外れないので、ちょうど視界に入った空になったご飯茶碗を話をそらす為の話題にする事にする。


「カッパくん、ご飯のおかわりは? たくさん炊いたから遠慮しなくていいよ?」


「きゅ? きゅわぁ……」


 それは成功したようで、カッパくんはパァッと表情を輝かせると、空になっているお茶碗をそっと差し出してくる。

 今さらだけど、カッパくんの手には当然水掻きがあるのだが、器用に物を持ったり、箸を握ったりしている。

 今も、炊きたてご飯が山盛りになったそこそこ重いお茶碗を危なげなく片手で受け取っている。


「たくさん食べて大きくなるんだよ」


「きゅうわ!」


 元気よく返事をしたカッパくんに頬を緩めながら、私もご飯を口へ運ぶ。

 二人で囲む食卓で食べるご飯は、いつもより美味しく感じた。





「いつもすみません」


「私一人だと食べきれないから、もらってくれると助かるよ」


 カッパくんを迎えに来たきゅうさんへ野菜を渡しつつ、そんなほのぼのとした会話をしていたのだが、不意にきゅうさんの表情が変わって視線が私から外れる。

 カッパくんほど大きい訳では無いが、それでも大きめなぱっちりしたきゅうさんの目がスッと細められ、何故か我が家の方を見つめる……というか睨んでいる。

 訝しんできゅうさんの視線を追うと、見ていたのは台所の窓辺りらしい。


「うん……? あれ……?」


 私が見た瞬間、チラッとだが窓の下辺りに黒っぽい髪らしきものが覗いていた気がする。

 思わず瞬きしたタイミングで見えなくなったので、気のせいかもしれないけれど。


「……昨夜は大丈夫(・・・)でしたか?」


 見間違いかと首を傾げていると何の前置きもなくきゅうさんがそんな質問をぶっ込んできて、数秒思考が停止する。


 カッパくんから聞いた?


 いや、心配させてしまうだろうからとカッパくんにも昨夜の事は話していない。


 もしかしてだが、先ほど意味ありげに我が家を見ていたのは、我が家から何かを読み取っていた、とか?


 それとも、やはり先ほどのは見間違いではなく『ナニか』がいて、きゅうさんに『言いつけ』たんだろうか。


 じっと見てくる二人の視線を受けながら、私は今さらながらにゆるいお兄さんが口にしていた意味ありげな去り際の一言を思い出す。


「言いつけないでね、と言われたので……」


 その結果、絶対これじゃないという一言を返してしまった気がする。


「そうですか。つまり、言いつけられると困るような事をした相手がいる、と?」


 にっこりと笑ったきゅうさんの圧がヤバい。


「あー……えぇと、ですね。いらっしゃった時間が少し問題だっただけで、他はまぁ治安維持のためなので……」


 悪戯を叱られる子供の気分で、なんとなく丁寧な口調でやんわりと……あくまでもゆるいお兄さんを擁護するための言い訳を紡いでいく。


 しでかした張本人であるあの小太りの男性が多少痛い目を見たとしても、薄情な私はまったく胸が痛まない。


 餅つきをしている芸人さんの決め台詞(?)が頭をぐるぐるし、悩みすぎたのかくらりと軽い目眩を起こしてふらついてしまい、背後から誰かに支えられる。

 その途端、ふわっと香ったのは水のような清涼な匂い。

 きゅうさんは目の前にいるので、一瞬カッパくんかと思ったが、カッパくんは私よりだいぶ小柄なので押し倒してしまう未来しか見えない。

 だが、今現在私を支えてくれている相手は私より上背があるのが見なくともわかる。

 何故見ていないのにわかるかと言うと、頭上から覗き込まれるている気配があるから。

 察し悪く「だれ?」とでも言おうかと思ったが、相手の予想はついていた。


 一瞬カッパくんかと思ったのは……軽い現実逃避だ。


 視線をそっと上へと向けると、予想通り軽い現実逃避をしたくなる相手が私の顔を覗き込んでいる。

 相変わらず覗き込んだら抜けられなくなりそうな美しい美人さんの金色の瞳が私を見下ろしていて──ぺちぺちと額を触られる。


「熱ならありません。少しくらりとしただけなので……」


 行動の意味はよくわからないが心配してくれてるんだろうと説明したが、ぺちぺちが止まっただけで、今度は額に手をあてられる。

 美人さんの手はひんやりしていて気持ちいいが、顔を少し上向きにさせられているので首が痛いし、何より良すぎる顔面が近くて落ち着かない。


「きゅわきゅわ、きゅわわ!」


 どうしたものかと思っていたら、カッパくんが駆け寄って来て私の足へ抱きつき、美人さんへ向けて何かを訴えてくれる。


 きゅうさんの方はというと、美人さんのする事に口出しする気はないのか、静かに微笑んで佇んでいる。


 カッパくんがきゅーわきゅーわ頑張ってくれたので、やっと美人さんの手が額から外され……たかと思ったら今度は肩を掴まれてくるりとその場で回転させられる。

 私の足に抱きついていたカッパくんも、とたとたと軽い足音を立てて一緒に回る羽目になり、きゅわきゅわと騒がし可愛い。

 手を離せばいいだけなのに、私が心配なのか一緒に回ってくれてるところがカッパくんらしくて可愛い。


 思わず二回可愛いと言ってしまうぐらい可愛い。


 足に抱きついているカッパくんの頭を撫でていると、向き合う形になった美人さんからじーっと見つめられる。



「…………なにか、あった?」


「いえ。あなたが助けてくださったので、私には特に何も」



 吸い込まれそうな色をした瞳を見つめ返しながら、私はゆっくりと否定の言葉を口にする。

 やはりもしかしなくとも、ゆるいお兄さんが言っていた『言いつけないでね』の向けられた相手は、この美人さんだと思う。

 なので、ここで絶対「実は〜……」とかやっちゃいけないやつだ。



「きゅわ、きゅきゅわ! きゅうわ、きゅわ」



 たとえ、私の足に抱きついていたカッパくんが美人さんの方へと移動して、身振り手振り付きで思い切り何かを言いつけてる気がしても。


「…………入らなかった?」


 カッパくんの言葉を聞いた美人さんは、私の方を見て唐突にそんな問いを口にする。



「あ、はい。そこは律儀な方々で、玄関にすら足を踏み入れてません」



 主語が無くてわかりにくいが、カッパくんがこのタイミングで言いつけたのなら、どう考えても昨夜の闖入者の方々の事だろうと思って答えると、美人さんは満足げに目を細めて無言で頷いている。



「あの……ありがとうございました」



 察しが良い方でない私でも、美人さんの表情で悟ってしまう。


 たぶんというか、ほぼ確だろうけど、昨夜彼らが入って来なかったのは律儀だった訳ではなく、入れ(・・)なかったのだ。

 そして、その原因は美人さんだったんだろう。

 どうやったかはわからないけど、二回も助けてもらったのだからお礼はきちんと言わないといけない。



 それと、今は友好的な存在だけれど、決して距離感を間違えてはいけない────、



「…………また、おんたま、食べたい」



 そんな存在のはずなのだが。



「はい。たくさん卵買っておきますね」



 どうしても気が緩んでしまうのは、美人さんと一緒になってきゅわきゅわと笑っているカッパくんのおかげだろうか。

お読みいただき、いつもありがとうございますm(_ _)m


シリーズ短編を長編化作業、無事終了しました。


わかりにくいと思いますので、短編の方はもうしばらくしたらシリーズから外して削除する予定となっております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いつの間にか連載形式に!!ありがとうございます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ