ハロウィンの置き土産?
色々ありましたが、生きております!
これからもよろしくお願いしますm(_ _)m
●11月◯日
今日は朝からカラッと秋晴れとなったので、色々と溜まっていた物を洗っていく。
その中にはカッパくんに着てもらったハロウィン衣装も含まれている。
それを家庭菜園に覆われている裏庭の一角にある物干し竿へ干していると、今さらな疑問が湧いてきて口からぽろりとこぼれ落ちる。
「あれって……もしかして、ハロウィンというより百鬼夜行と呼ぶべき? 昼だったけど……」
私が目撃したのは美女さん(狐耳付き)だけだったとはいえ、その後にも通っていたみたいだし。
答えがある訳でもなく、そもそも答えを求めていた訳でもないので私の思考はそこで終わってしまう。
というかよくよく思い出してみれば、元の世界のハロウィンも死者だったか化け物がこちら側へ出て来るから、自衛として混ざるために仮装するイベントじゃなかっただろうか。
「つまり、迷惑系動画配信者がやっている事が正解だとでも……?」
呟く私の脳裏に浮かんだのは、ハロウィンの次の日流れていたニュースの一幕だ。
『動画配信者の〇〇こと本名〇✕▲さんが、仮装をしてモンスターの大移動へ紛れ込むという無謀な配信を行い──』
「アナウンサーさん濁してたけど、アレって見つかっちゃったんだろうしなぁ」
ちょっとした好奇心から件の動画配信者さんの投稿を見てみたが、すでに閲覧が規制された後だった。
見つかったらどうなるのか。
少し試してみたくなるのは怖いもの見たさというやつなのか。
湧き上がる子供心を物理的に胸を押さえて押し留めていると、いつの間にか足元にちょこんと黒猫さんがお座りしていて私を見上げていて。
まぁサイズはヒョウなので、ちょこんとと表現するには少々障りがあるかもだけど、私を見上げてゆっくりと瞬きする表情は普通の猫と対して変わりはない。
「んにゃん」
「おはよう、黒猫さん」
ちょうど洗濯物は干し終わっていたので、しゃがみ込んで挨拶を返して遠慮なくもふもふと全身を撫で回させてもらう。
そのまま黒猫さんはゴロンとお腹を見せてくれるサービスタイムに突入。
しばらく無心で黒猫さんを撫で回していたのだが、私の方へと顔を向けた黒猫さんが面白可愛い顔をして固まってしまう。
この表情はあれだ。猫が臭い物を嗅いだりした時にするブレーメン……違ったフレーメン反応ってやつだね。
間違えかけたがきちんと思い出せた事に満足してうんうんと頷いていた私だったが、はたと気付いた事実にしゃがんだままじりじりと後退する。
「……もしかして私、臭うのかな?」
突然距離を取っておずおずと訊ねる私に、黒猫さんはいつもの可愛い顔に戻って「んにゃ?」と鳴きながら首を傾げてみせる。
黒猫さんのリアクションからすると、どうやら臭いとかではないらしい……そう一安心出来たと思っていたのだけれど。
そういえば先日お会いした白狐な美女さんも、私の匂いについて何か言ってたような気もする。
そんな事を考えながら黒猫さんと微妙な距離感で見つめ合っていると、
「きゅわわ〜っ!」
という元気の良い挨拶と共に腰辺りへ何かがぶつかって来て、体幹そこそこな私の体は大きくよろめいてしまった。
「にゃっ!?」
黒猫さんが驚きの声を上げるのを聞きながら、体勢を立て直す事も出来ず倒れかけた私の体を抱えるようにして支えてくれたのは、もう一人のカッパな友人のきゅうさんの腕だった。
表情がコロコロと変わる幼いイメージのカッパくんとは違い、大人な雰囲気で落ち着いた性格のきゅうさんは常に微笑んだ顔ばかりを見せてくれていたのだが……。
私を抱えるように支えたきゅうさんは、不機嫌さと呆れが混ざったような表情で私を見下ろしていて。
「ご、ご迷惑をおかけして申し訳ないです……」
そんなきゅうさんの表情を見上げた私の口からは、思わずお礼より先に謝罪の台詞が飛び出してしまった。
私の言葉を聞いたきゅうさんは、驚いたように軽く目を見張ってから困った人だと言わんばかりの微笑みへと表情を変えていく。
「あなたへの感情ではありません。勘違いさせて、申し訳ありません」
常と同じ柔らかい言葉と共にスマートな動作で私を立ち上がらせてくれたきゅうさんが、意味ありげにスッと目を細めて見やる先にいたのは……。
とてもわかりやすく、やっちまった! と表情と全身で語っているカッパくんだ。
今にも泣き出しそうな表情でオロオロと私の方を見ているカッパくんの様子と、先程のきゅうさんの発言から私へぶつかって来た物体の正体は私でもわかってしまった。
なんて真剣に語るまでもない。
ぶつかって来る直前に元気の良い挨拶が聞こえていたなと時間差で思い至った私は、オロオロしているカッパくんへ向けて腕を広げる。
「おはよう、カッパくん。元気の良い挨拶は嬉しいけれど、いきなりの体当たりは少し控えめにして欲しいかな、私でも受け止められるくらいに」
「きゅ……きゅわっ!」
「ひ、控えめとは……」
「……どうやら反省が足りていなかったようですね」
この一連の流れだけで何があったか察してもらえそうだが、オロオロから復活したカッパくんの控えめな突撃を食らってよろめいた私を、再びきゅうさんが支えてくれたのだ。
「助けてくれてありがとう、きゅうさん。カッパくん、私はそこまで体幹に自信がないから、突撃はもう少しお手柔らかにお願いします」
まずはきゅうさんを顔だけで振り返って、さっき言えなかったお礼をきちんと伝えてから、やっちまった(再)顔をしているカッパくんの方へと顔を戻してやんわりと注意をしておく。
「きゅわっ!」
何処で覚えたかは知らないけど、元気の良い返事付きでビシッと敬礼をしたカッパくんの可愛さは、身悶えしそうなぐらい可愛くてあざとかったと日記に書きたいと思う。
お前日記なんて書いてないだろという突っ込みは無しで。
「全く……おや?」
カッパくんの可愛さはきゅうさんにも多少は効果があったらしく、背後から支えてくれているきゅうさんから呆れ混じりの笑みを含んだ声が聞こえたが、それを打ち消すようにきゅうさんが何事か呟いた。
聞き直そうとした言葉は、背後からスンと匂いを嗅がれているような気配で行き場を失う。
本日二度目の体臭チェックに、さすがの私も固まってしまったのだ。
ちなみに一度目の体臭チェックの犯猫である黒猫さんは、カッパくんの声が聞こえたあたりで「んにゃー」という挨拶を残して姿を消している。
「わ、私、臭いのかな?」
きゅうさんに訊ねるのは怖くて、逃げ場を求めてカッパくんにあわあわと訊ねてみる。
これでカッパくんから笑顔で頷かれたら、二・三日布団から出てこれなくなる自信がある。
幸いというか、
「きゅわ? きゅわわ、きゅわ、きゅーわ!」
という感じで、首を傾げたカッパくんからは『全然臭くないぜ』的な反応をもらえたので一安心しつつ、私の匂いを一嗅ぎして黙っているきゅうさんをチラ見する。
救助の際に腰辺りを支えてくれた腕は離れていないので、ここはカッパくんを信じて決して私が臭かった訳ではないと思いたい。
たとえチラ見したきゅうさんが真顔になって考え込んでいたとしても。
そこでふと現実逃避のために思ついたのは、こちらが良い匂いだと感じても相手が同じように感じるかはわからないという当たり前の考え方だ。
犬猫と一緒にするのは少し違うかもしれないが、私が好きな柑橘類なんかは犬猫は苦手な香りらしいから、カッパ類が苦手な香りを私がいい匂いと感じてしまってるのかもしれない。
真顔なきゅうさんを真似た訳ではないが、そんな真面目な考察を脳内でしていた私は、いつの間にかカッパくんがいなくなっている事に気付いてきゅうさんを振り返る。
腰にあった手は外れているが、相変わらず何か考え込んだ表情をして佇むきゅうさん。
邪魔するのは悪いかと静かに待っていると、遠くから「きゅわきゅわ」という賑やかな声が近づいて来て、やがて茂みから元気良く声の主が飛び出して来る。
とてとてとてと駆け寄って来るカッパくん。
私の目の前ぐらいでハッとした表情をしたかと思うと、「きゅわっ」と言いながら減速してぽすっと足に抱きついて来た。
カッパくんは私を萌え殺す気かもしれない。
私がカッパくんの可愛さにヤられて胸を押さえて天を仰いでいると、背後から青色に包み込まれる──物理的に頭からガバッと。
おかげで天を仰いでいた視界も綺麗な青一色だ。
この綺麗な深青色には見覚えがある。
美人さんの着物の色…………って、まさか脱いでる?
頭から被せられた布っぽい物から顔を出して恐る恐る周囲を窺うと、やはりというかそこにはこちらを見つめる美人さんの姿があった。
そして、私に被せられていたのは予想通り美人さんの着物らしい。
こう言うと美人さんが現在進行形で露出狂してると思われてしまいそうだが、私に被せたのは洗い替え用の物のようで美人さんはいつも通りの着物をきちんと身にまとっている。
ひとまず安心したが、なんで私は突然頭から着物を被せられる事になったかという疑問は消えない。
叙述トリック的なやつで、実は私が最初から全裸でしたみたいな展開のお話を書いたらウケるだろうか。
なんて感じに一瞬とんでもない方向へ思考が飛んだが、一体誰が何のために誰へ向けてする叙述トリックなんだという当たり前すぎる疑問というかツッコミにより即現実へ引き戻される。
──目の前には勝手に広がって作物を増やしていく家庭菜園と、そこに立つカッパ二人に美しいあやかしが一人。
目の前の現実の方がとんでもないという事実に、くらりと目眩を覚えたような感覚で体が揺らぐ。
これぐらいで目眩なんて今さら過ぎるし、疲れでも出たんだろうか。
すぐさま気付いた美人さんが支えてくれたおかげで、よろける事もなく済んだのでお礼を伝えようとしたのだが……。
「…………何があった? 何処であの性悪狐とまで会った?」
珍しく早口な美人さんによって遮られる形になり、お礼を伝えるタイミングを逃してしまう。
「性悪狐……?」
表情がほとんど変わらないのでわかりにくいが、もしや美人さん不機嫌っぽい?
あと反射的に相槌を打ってるけど、私には『性悪狐』なる存在に思い当たる節が………………あるな。
「……もしかして、それは美しい女性な白いお狐様でしょうか?」
あやかしである美人さん相手に濁さなくてもいいだろうと先日出会った美女さんの事を口にすると、私を見下ろす美人さんの目の色が変わる。
比喩ではなく文字通り、にだ。
正確には目の中の瞳というか黒目というか瞳孔というべきか、その形が変化したように見える。
「あの! ええと、その、会ったというか、たまたま遭遇してしまいまして……でも、何かされたりしてないですよ? 少しお話ししただけですので!」
あの美女さんは遭遇するだけで美人さんに相当心配かけてしまうような相手だったのかと焦りながら説明すると、美人さんから深々とため息を吐かれてしまった。
「……私の匂いがしっかりと戻るまでそれを被っていなさい」
「へ? 私、やっぱり臭いですか?」
被せられた着物は臭いものには蓋しろ的な事だったのかとショックを受けているときゅうさんが、
「いきなりすみません。先程あなたを支えた時に、不快な香りがベッタリと付けられている事に気付きまして、この方を呼びつけたんですが……」
と説明してくれたんだけど、つまりはやっぱり──。
「私、なんか臭ってたのかぁ……」
優しさなんだろうけど、濁されると逆になんかダメージ大きいよね。
とりあえず美人さんの着物を被ってしばらくすれば大丈夫らしいから、今日はもうおとなしく引きこもる事にしよう。
カッパくんときゅうさんと美人さんに挨拶をして、お借りした着物をマントのように被りながらとぼとぼと家の中へ戻るために歩き出す。
「……少し待て」
訂正だ。
歩き出したかったが美人さんに止められてしまい、足を止めて美人さんを振り返る。
気配なく歩く美人さんが思いの外近距離にいて固まる私。
ここまで気にするぐらい臭うのに平気なんだろうかと心配していると、美人さんの顔が近づいて来て額で濡れたなにかを感じる。
…………舐められた?
またキスでもされるのかと油断していたので、ちょっと驚いたが嫌悪感はなかった。
美形はズルいなぁ。
満足そうに微笑んだ美人さんにそんな感想を抱きながら、今度こそ屋内へと入る。
すぐにやって来たてまりさんは、私の格好を見てあからさまにムッとした表情になると、足元でちょいちょいと着物を引っ張ってくる。
「ごめんね、てまりさん。なんか私臭うみたいで、美人さんの匂いが戻るまでこれを……」
声に出してみて初めて違和感を抱いた。
「…………あれ? そもそも私って美人さんの匂いさせてたの?」
呆然としててまりさんを見ると、何を今さらみたいな表情をされた後、困った子ねみたいな大人びた表情で肩を竦められた。
最終的にてまりさんは、仕方ないわねという感じで美人さんの着物を被る事を許してくれ、裾を引きずらないよう上手くまとわせてまでくれた。
そのおかげで問題なく一日を過ごし、お風呂へ入っている間以外は美人さんの着物に包まれて、寝る時は布団みたいに掛けさせてもらう事にした。
布団に横になると無意識にスンスンと匂いを嗅いでしまっていて、誰に見られている訳でもないのに咳払いをして誤魔化す。
美人さんの着物からは、なんとも言えない不思議ないい匂いがした。
その夜見た夢は、深い深い森の奥の湖で、大きな何かに出会って、包まれている。
そんな不思議な夢だった。
次の日の朝。
「あれ? どこいった? 私そんなに寝相悪かった?」
確かに掛けて寝たはずの着物を見失い、探し回る私がいた。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます(*´∀`)
今回はやたらと匂いを嗅がれる主人公回です。
美女さん、こっそり主人公に匂い付け(マーキング)していた模様。
お狐様からのハロウィンの悪戯です! たぶん←




