ハロウィン騒動 前編
お久しぶりです、生きておりました。
お待たせして申し訳ありませんm(_ _)m
●10月31日 前半
壁に掛けられたカレンダーを見た私は、今日がとあるイベントの日だと思い出す。
ただの月末だった日付が、大騒ぎ出来る日に変わってどれぐらい経っただろう。
それはこちらの世界でも同じようで、そういえば数日前からやたらとテレビやラジオで今日に関する事を放送していたなぁと思い出して一人頷く。
『事前に食料などを用意して決して外へと出ない』
共通してそんな事を何度も言っていた気がする。
これはあれだね。
地域の子供達が仮装して回ってくるから、きちんとお菓子を用意して待機していろよって遠回しにイベント参加を促してるんだろう。
私みたいな新参者でも参加しやすくていいけど。
ここまでお膳立てされてるなら参加するのもやぶさかではない。
インドアで引きこもりな私でも、なんかテンションが上がってきてしまい、ついつい色々したくなってきてしまう。
少し気になるのは、イベント前にテレビでよくやっていたイベント特有の仮装とか、スイーツとかのコーナーがなかった気がするのは、もとよりあまり興味がないので見逃したって事か。
「しかし、回覧板にまで書かれているとは、すっかり日常に馴染んだイベントになってるんだね」
先日回したばかりの回覧板の内容を思い出して一人で笑っていると、とてとてとてとやって来たてまりさんからそっと手を握られる。
何故か心配そうに見上げてくるてまりさんに疑問を抱きかけたが、ある事を思いついてしまい、浮かんだ疑問は吹き飛んでしまう。
「そうだ。私の仮装は無しだけど、てまりさんを仮装させるのは有りだね」
去年、親戚の子にあげようと色々買ったハロウィンの仮装アイテムが押し入れに入れてあったはず。
「カッパくんに色々着けてもらうのも楽しそう」
カッパくんはノリが良いから、そこまで奇抜じゃなければ付き合ってくれるだろう。
きょとんとしたてまりさんを置いて、物置になっている二階の部屋でガサゴソと段ボールを漁っていると、出てくる出てくる。
こんなの買ったっけ? と首を捻るような物まで出てきてしまったが、危険物ではないから気にしない。
とりあえず、てまりさんが着けられそうな黒猫になれるコスプレセットと、カッパくん用にもいくつか取り出してみる。
もちろん二人が嫌がったら着せるつもりはない。
なんだったら私が着ても………………うん、止めておこう。
脳内に浮かべた自分のコスプレ姿を頭を振って追いやり、ワクワクしながら階下へと降りていく。
それなに? と小首を傾げて現れたてまりさんに黒猫のコスプレセットを見せて、着けて欲しいという旨を伝えてみる。
少々不思議そうな顔をされてしまったが、てまりさんの可愛い姿見たいなぁと呟いたら、はにかみながら頷いてくれた。
うちの子、いい子で可愛すぎません?
和服の黒猫さんもキュートでもえもえきゅーんだったとお伝えしておく。
これを私しか見られないなんて勿体無い。
せめてカッパくんには見せたいなぁとニヨニヨしながら思っていると、ちょうど良く裏庭の家庭菜園の方から聞き慣れた声が聞こえてくる。
「せっかくだから、カッパくんにも可愛いてまりさんを見てもらおう?」
てまりさんと手を繋いで外へと出ると、私達を見つけたカッパくんがきゅわきゅわと言いながら駆け寄ってくる。
カッパくんが飛びついてくる事もあるので、繋いでいたてまりさんの手を離してカッパくんを迎える。
「おはよう、カッパくん」
朝の挨拶をする私の隣で、てまりさんは黒猫コスプレのまま微笑んでペコリと頭を下げている。
「きゅわ! きゅ……? きゅきゅう!」
私達の挨拶に元気よく応えたカッパくんだったが、てまりさんの格好に気付いて目を真ん丸くしてから、すぐパァッと光り輝くような笑顔に変わる。
えへへとはにかんでいるてまりさんの周りを、カッパくんがきゅわきゅわと言いながら回っている尊い光景を無言で動画撮影していると、ピタッと動きを止めたカッパくんが私を見る。
「きゅわぁ!」
身構えていて良かったなぁと思いながら、飛びついてきたカッパくんを受け止めて、期待に満ちたキラキラとした眼差しを受けて笑う。
「黒猫じゃないけど、カッパくんにも用意してあるんだ。着てくれるかな?」
「きゅーわ!」
もっちろん! とばかりに反らした胸を叩いてキメ顔をしたカッパくんに、くすりと声を上げて笑いそうになったのを咳払いで誤魔化す。
その流れで私が取り出したのは、黒猫なてまりさんと対になるような風呂敷ぐらいの白い布だ。
なんてね。
対になるとか格好良い事は特に考えてなくて、カッパくんに着てもらえそうなのがこれしかなかっただけ。
頭に皿があるカッパくんに、てまりさんが着けているみたいなカチューシャ系やヘアピン系は着けてもらうのに少し躊躇うよね。
その躊躇いが無ければ、小悪魔系とか可愛らしい小鬼とか魔法使いの帽子とか選択肢は色々あったのに。
来年までにお皿に触らせてもらえるぐらい仲良くなれてたら嬉しい。
そうしたら来年はもっとカッパくんを可愛くコスプレさせてあげよう。
受け取った白い布を不思議そうに眺めているカッパくんを見つめながら、ひっそりと決意する私がいたり?
「これをこうして、スポッと被るんだよ」
私の決意は脇に置いておいて、説明しながらカッパくんに着てもらったのは、白い布で出来たフード付きポンチョだ。
そのお腹部分にはデフォルメされた可愛い感じのオバケの顔が黒い糸で刺繍されている。
「これで可愛いオバケさんと黒猫さんの完成だよ」
「きゅわ!? きゅわきゅわわ!」
可愛いと可愛いが向かい合って手を取り合い、お互いの姿を見てキャッキャウフフする可愛いの二乗の完成に私は思わず天を仰ぐ。
思わず『我が人生に〜』から始まる名言が口から出そうになるぐらいに素晴らしい光景だった事をここに記しておく。
誰に送る訳でもなく自分が鑑賞する用に動画と写真を撮りまくった後、私の視界に入ったのは畑に転がる巨大なカボチャの姿だ。
しかもハロウィンな私の空気を察したのか煮付けたりして食べるカボチャではなく、飾り付けに使うタイプの黄色いカボチャがポツンと一つだけ転がっている。
昨日まではなかったので、明らかにハロウィンを意識して家庭菜園が生やしてくれたと思われる。
「ついにこんな生え方しちゃったよ」
なんとキュウリの棚からツルが伸びていて、その先に大きなカボチャが実るという『なんでやねん』案件発生に思わず乾いた笑いが洩れる。
「ありがたいけど、無茶はしなくて大丈夫です」
伝わるかわからないが、しゃがんでカボチャを採りつつ、軽く畑の土をぽふぽふと叩いてお気持ち表明をしておいた。
しゃがむ私の両隣で、可愛い黒猫さんとオバケさんが真似をしてしゃがんで地面をぽふぽふと叩いていて…………この二人は私を殺す気だろうか。
危うく死因が萌えの過剰摂取による動悸になるところだったじゃないか。
ある意味命がけで採ったカボチャへマジックで顔を描いてなんちゃってジャック・オ・ランタンにして勝手口に飾ったり、私が猫耳を着けさせられるという誰得なイベントなどを行って、ハロウィンな一日は過ぎていった。
なんだったら人生で一番楽しめたハロウィンだったかもしれない。
残念なのは近所の子供達が仮装して訪れるかと思っていたのに、それが無かった事だ。
用意したお菓子はカッパくんとてまりさんのおやつにしよう。まぁそもそもほぼ二人用のお菓子だったんだけどね。
問題はテンション上がり過ぎて仕込んじゃった大量のおいなりさんだ。
お祭り騒ぎ→ごちそう→寿司じゃね?→太巻きは海苔が足りない→油揚げあったぞ!
みたいな謎思考が回覧板を見てから脳内を駆け巡り、ついついいなり寿司なんかを仕込んでしまった私がいる。
よく母が作ってくれて、私も一緒に作った懐かしい思い出の料理だ。
冷静になった今なら、そもそもやって来た見知らぬ子供達に手料理を食べさせたりするのは食中毒とか不安なので子供達が来なくて逆に良かったかもしれないと考えている。
私の作ったカボチャスイーツといなり寿司は、カッパくんとてまりさんが美味しそうに食べてくれているからそれで十分だよ。
「んー、カッパくんに持って帰ってもらったけど、まだ結構あるねぇ」
これもついつい油揚げを買い過ぎていた私が悪いよね。
油揚げの賞味期限が迫って大量消費レシピを検索したまでは良かったんだけど、思いの外美味しそうなレシピがごろごろ出てきてしまい、油揚げを大量に買い足してしまうという本末転倒な事を数日の前の私がしたせいだ。
冷凍しようかと思っていたところにタイミング良くハロウィンな回覧板が来て、さっきの謎思考でいなり寿司を作ろうと思いついてしまって、大量のいなり寿司が出来上がった訳だ。
とりあえずラップをして冷蔵庫へ入れておこうと結論づけた私がうむうむと頷いていると、外の方からしゃらんしゃらんと鈴の鳴るような音が聞こえてくる。
音がしてきているのは勝手口の方ではなく玄関の方。
普段聞き慣れない賑やかな音に、やっとハロウィン御一行が来たんだ! とお菓子の袋を手に取った私は、深く考えずに小走りで玄関へと向かう。
視界の端でてまりさんが「あっ!」という表情をしているのが見えた気もしたが、その表情の理由も深く考えずに辿り着いた玄関の引き戸を勢い良く開け放つ。
カラカラと乾いた音を立てて開いた引き戸の先に見えたのは、いつもはクルマが通る道路をしゃなりしゃなりと歩く艶やかな着物を身に着けた美女と、その取り巻きというか従者のように続くお稚児さん姿の数人の子供達の行列だ。
まず思ったのは『ハロウィンなのに和風で攻めてるのか』という見たまんまからの捻りのない感想。
次に浮かんだのは『子供達が主役じゃないんだ』というどうでもいいであろう突っ込み。
でも、そんな事を吹き飛ばす勢いで浮かんだ感想は単純な一言……。
「うわぁ……綺麗……」
これに尽きる。
私の声が聞こえたのか、しゃなりしゃなりと進んでいた御一行の歩みが止まり、行列の全員が揃ってこちらを見る。
そこで初めて、お稚児さんの格好をした子供達が全員白い狐面を着けている事に気付く。
某ホラーゲームでイケメンが着けていた口元が出ているタイプではなく顔全体を覆うタイプの狐面なため、子供達の表情が窺えないのが少し恐ろしさを感じさせる。
「おや、人間じゃの?」
ちょっとコミュ障発動しそうになっていた私は、主役である美女さんから話しかけられて曖昧な笑顔を浮かべて会釈する。
美人さんには緊張しないのに、この美女さんにはなんだか身構えてしまうのはなんでだろう。
というか、なりきっている感がすごい発言を聞いた気がする。
なんとこちらを向いた美女さんはただの花魁系な着物美女コスプレではなかったのだ。
脳内でナレーションをつけてしまうぐらい、美女さんの格好は違和感がない。
美しく結われた真っ黒な髪に映える白い獣耳。
ウサ耳でも似合いそうだが、美女さんの頭にあるのは先の尖った三角の耳だ。
犬のものにしては大きめだから、狐耳かな。…………やけにリアルな太い尻尾が背後に見えているし、子供達が狐面着けてるし。
「しろきつねさんですか?」
思わず口から出た問いはかなり間抜けっぽかったけど、ギリ相手のロールプレイには乗っかってるから私として頑張った方だと思う。
ちなみに『ビャッコ』と呼ぶのもありかもだけど、白い虎の方と音が一緒で脳内がややこしくなるので『しろきつねさん』と呼びかけさせてもらった。
つまり深い意味はない。
そんな私の問いを受けた美女さんは、艶やかそのものな微笑みを浮かべてさらに私へと近づいてきて……。
「おぬし、なにやら変わった匂いがするのう?」
間近になった美女さんに意味ありげな言葉をかけられ、困った私が口にしたのは──、
「とりっくおあとりーと!」
ハロウィンの定番のご挨拶だった。
美女さんをきょとんとさせたので、ある意味トリック成功してしまったらしい。
それを口にするのは本来美女さんの方だと気付いたのは、美女さんが声を上げて笑い出した後だった。
「おぬしは変わっているのう」
何故だろう、とても面倒な事態になった気がした。
上機嫌に笑う美女さんを見ながら、私は引きつった顔でそんな事を考えていた。
いつもありがとうございますm(_ _)m
久しぶりに書いたせいか、主人公のゆるさが増してほわほわ度増量中となっております。




