焼き芋したい。
どれだけサツマイモで引っ張るんだろうと思いつつ、ワチャワチャ可愛くて進みは相変わらず遅いですm(_ _)m
●続々・9月▽日
「きゅわ!」
サツマイモの畝を前に、キリッとした表情(当社比)で少年を見上げるカッパくん。
「あ、あの……」
意味がわからず戸惑う少年。
「たぶん、そこら辺掘るとサツマイモがあるって事だよ」
私がそう説明して畝を指さすと、少年はやっと得心がいったのか、こちらもキリッとした表情で頷いて畝へと向かう。
「…………(ぎゅっ)」
てまりさんはたくさん掘って満足したのか私の足にしがみついて離れない。
私の前に姿を現すまで結構かかったし、てまりさんは人見知りなのかもしれない。
大丈夫だよの意味を込めて艶々の黒髪を撫でると、私を見上げてにこりと微笑んでくれた。
うん、うちの子可愛い。
芋掘りは元気な二人にお任せして、私はてまりさんとゆっくり応援させてもらおう。
そう思っていたのだが、てまりさんがくいくいと私の服を引っ張って何かアピールしてくる。
「ん? 何かしたい事ある?」
「……っ(こくこく)」
首を傾げて問いかけると、高速で首を縦に振ったてまりさんが、落ち葉掃除用に壁へ立てかけてあった竹箒を指差して、小さくぴょこぴょこと跳ねる。
なにそれ可愛い……じゃなくて、掃除がしたいのかと内心で首を捻るが、すぐに違うと気付く。
自画自賛じゃないが、なかなかの名推理をしてしまったかもしれない。
目の前には掘ったばかりのサツマイモ。
地面にはいい感じに乾いた落ち葉がたくさん。
そして、そこそこ広い庭。
ここから導き出される結論は一つ!
なんて、そこまでドヤる推理じゃないけど、てまりさんは皆でアレがしたいんだろう。
「焼き芋しよっか」
私の言葉を聞いて、頭がもげるんじゃないかと心配になるぐらい大きくぶんぶんと振って頷くてまりさん。
その可愛らしい仕草に頬を緩めながら、私は竹箒を手に落ち葉を集めていく。
家とか木に燃え移ったら怖いので、焚き火をするのは少し開けた家庭菜園の隅っこ。
まるでここでしろよとばかりに何も植わっておらず、雑草も生えていない。
うちの家庭菜園、意思があるのかもしれない。
今さらなツッコミだけど。
じゃなきゃ、勝手に広がってたり、勝手に作物植えてたり、勝手に間引いてたりしないよね。
とても助かってるので、気にしないでおこう。
そんなこんな考え事しながら、小さな手で落ち葉を集めてるてまりさんの姿にほっこりもしつつ、サツマイモを焼くには十分な落ち葉を集め終える。
「乾いた枝とかあった方が火力安定するかなぁ」
よく乾いている落ち葉は、よく燃えそうではあるがすぐ燃え尽きそうでもあり、継続的な火力が足りないかもと口に出しながら辺りを見回す。
落ち葉ぐらいは家庭菜園まで飛んできているが、さすがに枝の類は見当たらない。
いつの間にか生えていた栗とか柿とかの方に落ちてるかなと歩き始めた私の目に、焚き火にぴったりであろうサイズ感の枝を抱えたきゅうさんの姿が飛び込んでくる。
なんだろう、あのイケメン。
ちょっとキュンとしてしまった。
「焼き芋をされるかと思いまして……」
私の前までやって来たきゅうさんは、恩着せがましい様子など欠片もない笑顔でそう言って、さらに焚き火の準備まで手伝ってくれた。
きゅうさん、手際良すぎるけど、キャンプでも趣味なんだろうか。
思わずツッコミを入れたくなる手際の良さで焚き火の準備を終わらせてくれたきゅうさん。
一応、私も見ているだけではなく、消火用の水の入ったバケツ、サツマイモを包むアルミホイルと新聞紙の用意とかしていたけど、明らかに仕事量に差があると思う。
「私がやりたくてやってるだけですから」
私は口に出していないのに……まさか、カッパは心を読む能力が……?
じっときゅうさんを見つめていたら、きゅうさんは作業をしながら微笑ましげな表情でこちらを見て口を開いた。
何を言われるのかと思ったら……。
「あなたはとてもたん……素直な反応をされるので」
うん、やっぱりきゅうさんはちょっとお口が悪い。
今さらっと『単純』とか言おうとして言い直したよね。
事実だから仕方ないけどと少し凹んでいたら、そっくりな笑顔を浮かべたカッパくんと少年がサツマイモを両手に持って小走りでやって来る。
その笑顔はボールを取ってこいされた犬のように無邪気で可愛い。
だけど、少年の笑顔は私の近くにいた新たなカッパ──きゅうさんを見た瞬間、スッと消えてしまう。
カッパくんは小さいし、ゆるキャラっぽいからすぐ慣れたけど、きゅうさんは明らかに大人のカッパって感じだから驚かせちゃったか。
「少年、こちらのカッパは、ここ……「はじめまして、防衛隊の方。仲良くするつもりはありませんが」」
きゅうさんの代わりにきゅうさんを紹介しようとしたら、思い切りきゅうさんから遮られてしまった。
きゅうさんをどう紹介しようか悩んでたから、きゅうさんの自己紹介を聞き逃してしまったが、仲良くする〜みたいな単語は聞こえたから、仲良くしてねーみたいな定番の挨拶かな。
さすがに自己紹介代理は余計なお世話だったかと反省し、私は苦笑いしながら見つめ合うきゅうさんと少年からそっと離れる。
カッパくんの方は、きゅうさんと少年の様子を気にしてないのか、泥だらけのまま私に突撃して来ようとしててまりさんから怒られている。
ぷんぷんという感じで怒っているてまりさんも、怒られてしゅんとしているカッパくんも、どちらも可愛い。
とりあえず、可愛い二人の頭を撫でて愛でておく。
きゅうさんと少年の話は終わってないようなので、私はカッパくんとてまりさんに手伝ってもらいながら焼き芋の準備を進める事にした。
「──ここへ招かれて入ったならこちらには敵対するつもりはありません。あの方に余計な干渉さえしなければ」
「……はい」
「余計な干渉をした時はどうなるか……あなた方ならよくわかっているでしょうから、私からはこれ以上何も言いません」
「……ありがとう、ございます」
きゅうさんと少年の間で交わされた会話は私には聞こえてこなかったが、カッパくんがそちらを見て呑気にきゅわきゅわ言っているので何か和やかな会話でもしているんだろう。
よそ見をしていたら、てまりさんが焼き芋の準備を終わらせてくれていた。
新聞紙を濡らしてサツマイモを包み、それをさらにアルミホイルで包む。
てまりさんの手によって銀色の塊となったサツマイモを、熾火っていうのかな、落ち着いた感じになっている火の中へ突っ込む。
これであとは待つだけ。
カッパくんとてまりさんが興味津々で火を覗き込んでいるので、それぞれの手を握って少し距離をとらせる。
「ほら、危ないよ。火傷したら大変だ」
ゲーム的な考え方だと、水属性っぽいカッパくんは火に強そうだけど、いくらファンタジーでもここはリアルの世界だ。
カッパくんでもてまりさんでも、きっと火傷してしまうだろうし、痛いだろう。
心配が表情に出てたとはと思うけど……。
「きゅわわぁ!?」
私が火傷したと勘違いされるのは予想外だったね。
カッパくんとてまりさんはきゅわきゅわあわあわして私の周囲をくるくるするし、きゅうさんからは水かけられそうになるし、少年は救急車を呼ぼうとするし。
「みんな落ち着いてねー、私は火傷してません。カッパくん達が火傷しないか心配していただけです」
ゆっくりはっきりと伝えると、やっと全員落ち着きを取り戻してくれたようだ。
今の気分は保育士さんだね。
誤解だとわかった後も、カッパくんとてまりさんが私の足にしがみついて離れないから。
少年は…………まぁ、うん、そういうキャラだとなんか逆に安心した。
しかし、まさかきゅうさんまで私が火傷した程度であそこまで慌てるとは思わなかった。
私がちらりときゅうさんを窺うと、きゅうさんは茂みの方へ向かって「なんでもありません!」と声を張り上げて謎の宣言をしていた。
気恥ずかしかったから誤魔化してるのだとしたら、それ余計恥ずかしいよと言ってあげるべきか少し悩んだが、見なかった事にしてあげるのが一番だとそっと視線を外す。
カッパくんが焼きカッパにならないよう気をつけながら並んで火を囲んでいると、辺りに甘い匂いが漂い始める。
「そろそろ焼けたかな」
さぁ、やっと焼き芋が食べられそうだ。
視界の端の茂みの奥でちらちらしている美人さんには、後できゅうさんから届けてもらおう、そう考えながら存在感のある姿を見なかったフリするのだった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです。
もったいない精神でシリーズとして、小話投稿してあります。
裏話というか、脇話? 読まなくても、たぶん本編に影響は無い予定です←




