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マイペースに異世界暮らし  作者: 汐琉
実りある秋
14/14

芋掘りしたい

芋掘りまでたどり着けませんでした。

●9月▽日




 早朝。


 勝手口から出る時、つい足元を確認してしまったが、もうそこにドングリは置かれていない。

 ハーピーの気まぐれが終わってしまったのか、美人さんの脅しが効きすぎたのか……なんとなく後者かなぁと思うのは、希望的観測過ぎるだろうか。


「……ドングリ、ありがとう」


 少し扱いに困りはしたが、贈り物をしてくれたという気持ちは嬉しかった。

 聞こえないだろうけど、感謝を口に出して伝えておく。

 もしかしたら、風に乗ってあのハーピーに届くかもしれない、という考えはさすがにファンタジーか。


 そう自嘲してふと気付く。


 ここはまさにファンタジーな世界だったと……。


 ハーピーにお礼が伝わっていたら嬉しい。


 ついでにドングリくれた理由を説明しに来てくれたらさらに嬉しい。


 それはさておき、今はハーピーより気にしないといけない事が目の前にある。


「おやまぁ、こうなるかぁ」


 苦笑いしつつ洩らした独り言が向けられていたのは、先日カボチャが植わっていた辺りの畝だ。

 ご近所にお裾分けしてもまだ余ってるぐらいなので、カボチャはもう十分と独り言を口に出した結果、それを聞いていたかのようにカボチャは姿を消している。

 しかも、まるで最初からこちらが植わってましたみたいな顔で違う植物が畝を覆っている。


「んー、これはもしかしてサツマイモかな」


 少し枯れかけてはいるがその特徴的な葉には見覚えがある。

 小学生の頃、学校の畑で育て、秋に皆で芋掘りをしたというセンチメンタルな思い出と共に、サツマイモの葉の形は脳裏に刻まれている。

 もしかしたらよく似た別の作物な可能性もあったので、一番手前の一本を引っ張ったところ、見事に育った紫色の芋がぞろぞろと土の中から顔を出した。


「うん、間違いない」


 改めて、作物はファンタジーしてなくてよかったよかったと思いながら、引っ張り出したサツマイモの土を払う。


 数にして五本。


 その全てが太く長い、見るからに『いい』って感じのサツマイモだ。

 多少の曲がりはあるものの、形もほぼ真っ直ぐ。

 そんなサツマイモを抱えながら、私はわさわさと茂った葉に覆われた畝を見つめる。

 相変わらず家庭菜園の域をはみ出した広さの畑に、サツマイモ用になった畝は三つ。

 長さは十メートルに少し足りないくらい? ……って、本当にうちの家庭菜園は何処まで範囲を広げるつもりなんだろうか。

 敷地内全部畑になってしまったら、カッパくん達に手伝ってもらっても作業が終わる気がしない。

 しかも、家庭菜園の隅には果樹までも増えちゃってるし……。


 未来の不安はとりあえず脇にぶん投げて置いておくとして、目の前にある当面の困り事へ目を向ける。

 それは、十メートル近い畝三列分を覆うサツマイモのツルから予想される収穫量。


「……これ全部に同じぐらいお芋ついてるのかなぁ」


 サツマイモは好きだけれど、これは収穫するのも、した後の方も難儀しそうだ。

 確かサツマイモはしばらく置いておく方が良かったはず。

 たくさん収穫されるであろうサツマイモを何処へ置いておこうかとしばし悩んでから、私は自嘲気味に笑いながら頬を掻く。


「まぁ、まずは掘り出してからの話だよね」


 これはカッパくんときゅうさんに手伝ってもらったとしてもかなりの重労働になりそうだ。

 元気いっぱいなその他の家庭菜園の作物達を見つめ、開き直り気味に笑っていると、家の方から視線を感じて振り返る。

 そこには台所の窓から顔を覗かせてじーっと私を見ているてまりさんがいる。


「てまりさんもサツマイモ一緒に掘る?」


「……っ!?」


 私の言葉を聞いてパァッと花が咲くように笑顔になったてまりさんは、大きくブンブンと首を縦に振ったかと思うと、すぐ見えなくなる。

 相変わらずの高速移動っぷりに目を見張っていると、勝手口の扉がそっと開かれて、黒髪おかっぱの頭頂部がちょこんと覗く。


「ほら、大丈夫だから出ておいで、てまりさん」


 外が怖いのかなと声を掛けると、恐る恐るといった風にてまりさんが外へ足を踏み出す。

 しかし、一歩進んだところで止まってしまったので、私は驚かせないようゆっくりと近寄っていき、手を差し出す。


「さ、行こうか」


「……っ」


 控えめにちょんっと握り返してくる手は小さくて、ほんの少し誘拐犯の気分を味わいつつ、てまりさんの手を引いてサツマイモの畝へと向かう。

 そこへタイミングよく、きゅわきゅわという鳴き声が聞こえてきて、カッパくんが元気いっぱいで茂みを突き抜けて現れる。


「きゅっ!? ……きゅーわ?」


 私と手を繋いでいるてまりさんを見た瞬間、カッパくんの動きがピタッと止まり、誰? とでも言っているのか首を傾げながら私を見上げてくる。


「カッパくん、おはよう。ほら、前にきゅうさんが言ってた座敷童さんだよ。名前は、てまりさん」


 喋れないてまりさんに代わってそんな紹介をしている私の横で、てまりさんははにかんだ笑顔を浮かべてカッパくんへ頭を下げて挨拶をしている。


 可愛い。


「きゅわ!」


 それに元気よく答えて、にぱっと笑顔を浮かべるカッパくんも可愛い。


 可愛いと可愛いが合わさって、可愛いが渋滞しているなぁとニマニマしていると、カッパくんとてまりさんによって両側から左右の手を握られる。

 そのまま二人揃ってぐいぐいと私の手を引っ張ってくる。


「きゅわきゅわ!」


「……っ」


 二人はどうやら早く芋掘りがしたいらしい。

 二人がかりの可愛らしい催促に頬を緩めながら、私は二人にとって残念であろう一言を告げる。


「ごめんね。まずはツルを切った方が掘りやすくなるから……」


「きゅっ!?」


「っ!?」


 何だと!? と揃って私を振り返ったカッパくんとてまりさんに、罪悪感がチクチクするが、たぶん作業的にはちょい枯れとはいえ、生い茂っているツルを取り除いた方が楽だろう。

 特にカッパくんとてまりさんは小柄なので、ツルが生えている状態でサツマイモを引っこ抜くのは難しいだろう。

 うんしょうんしょと頑張る姿はきっと可愛いけれど、抜けなくてしょぼんとしてしまったら可哀想だ。


「きゅわ」


「……(こくこく)」


 鎌でぶった切るか、園芸用の鋏でぶった切るかと悩んでいると、カッパくんとてまりさんが視線を交わし合って頷いているのを視界の端で捉える。

 可愛いなぁとほっこりしていると、茂みが大きく揺れて何かが飛び出してくる。


「んにゃん」


 何か……とか言っちゃったが、思い切り見覚えのある黒猫さんだった。


 ちょっと身構えた私を不思議そうに見ながら、いつも通りゆっくりと瞬きをした黒猫さんは、可愛らしい挨拶と共に二又の尻尾をゆらりと揺らす。


 大型犬サイズな猫さんだという事を気にしなければ、とても愛らしい仕草だ。


「きゅーわきゅわ」


「……(ぶんぶん)」


 黒猫さんの乱入に顔を輝かせるちびっこ二人は、通じ合っている様子でまた頷き合って、仲良く手を繋いで黒猫さんへ近寄っていく。


 何あれ、尊い…………じゃなくて。


 黒猫さんがちょっとじゃれただけで吹き飛ばされそうなコンビに、私はドキドキしながらこっそりと背後からついていく。


「んにゃっ」


 少し警戒するような鳴き声の黒猫さんへ向けて、純度百パーセントの笑顔を向けるちびっこ二人組。

 カッパくんもてまりさんもいい子だから、いきなりヒゲ引っ張ったりしない……よね?

 

「きゅわっ!」


「……(ぺこり)」


 挨拶をしてくる二人に、これどうしたら? と言わんばかりの表情でこちらを見てくる黒猫さん。

 君もなかなかに表情豊かで可愛いね。


「じゃなくて……カッパくんとてまりさん、黒猫さんに用事かな?」


 戸惑っている黒猫さんのため、二人へ何をしたいのか訊ねると、揃ってブンブンと手を振り回しながら、サツマイモの畝の方を指差す。


 うん? もしかしなくても……。


「サツマイモの葉っぱとツルの部分片付けるのを黒猫さんに手伝って欲しい、とか……?」


 揃った動きでバッと私を見た二人が、さらに揃った動きでコクコクと大きく頷く。

 確かに猫といえば鋭い爪を持ってるし、黒猫さんの体の大きさならへたな鎌より大きくて鋭そうな爪を持っていそうだ。

 ちょっと失礼するねーと声をかけて、黒猫さんのクリームパンのような丸みのある手……前足を確認させてもらう。

 お手を求めるように手の平を黒猫さんへ向けて差し出すと、小首を傾げてからちょいっと遠慮がちに前足を乗せてくれる。


「肉球ぷにぷにで可愛い…………こほん、爪見せてもらうね」


 少々内心が駄々洩れてしまったので、咳払いして誤魔化して肉球を押すと普通の猫と同じようにニュッと爪が出てくる。

 サイズ的にはほぼヒョウとかライオンな黒猫さんだが、こういう爪の感じはちゃんと家猫さんなんだなぁと感動しながら、爪の確認をさせてもらう。


 ヤバいぐらい鋭かった。


 私の頭なんか、豆腐みたいにサクッとやられそうだ。


「鋭い爪だね、黒猫さん。──少し猫の手を借りたいんだけど、力を貸してくれる?」


「きゅわわ」


「……(ぺこり)」


 お願いをする私の両脇に陣取ったカッパくんとてまりさんが揃って頭を下げる。



 目を細めた黒猫さんは、喜んでといった風に可愛らしく「にゃん!」と答えてくれ、喜んだカッパくんとてまりさんが私の周りをくるくると回り出す。


「よかったねぇ、カッパくん、てまりさん」


 微笑ましげに二人を目で追いながら、ふと気付いてしまった事に頬を緩ませる。


 まぁ大した事じゃない。



 ──これはリアル『猫の手も借りたい』ってやつだな、とそんな事を思っただけで。



 二又の尻尾を持つ大きな黒猫と座敷童、それとカッパ。



 ファンタジーながらほのぼのとする光景。



 これが今の私の秋の日常だ。

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想、リアクション、誤字脱字、ありがとうございます(^^)


『芋掘りしたい』が『芋掘り死体』と予測変換されてしまったのは、なかなかのミステリーです(*ノω・*)テヘ


小さめカッパと幼女がキャッキャウフフしてるのは、とても癒されると思います。ガン見して通報される自信があります(๑•̀ㅂ•́)و

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。 毎話楽しく拝読しております。 キャラクターがみんな可愛い(.❛ᴗ❛.) 可愛いと可愛いともふもふで大渋滞ですね。 ガン見したい〜!
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