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マイペースに異世界暮らし  作者: 汐琉
実りある秋
13/13

新たな同居人

ドングリの贈り主ほぼ確定。

●9月□日



 早朝、私が手にしていたのはドングリを保管しているプラケースだ。


 実は昨日、ハーピーと我が家の庭というか家庭菜園で遭遇するというハプニングの後、ハーピーのいた辺りでドングリを見つけてしまっていた。

 しかも、細長いコナラのドングリではなく、どてっとした感じのあるクヌギのドングリだ。


 私が前のドングリにそこまで興味がないと知って、別の種類のドングリを持ってきてくれた?


 それより驚いたのは、ドングリを置いていってたのはハーピーだと思われるという事だ。


「……危うくリアル『お前だったのか』的な展開になるところだったんだねぇ」


 今まで貰ったドングリが入ったプラケースを眺めながら、思わずそんな独り言を洩らす。

 本家の物語の方では猟銃で撃ち殺されたかして悲劇的な終わり方してたけど、こちらも黒猫さんに襲われて、あわやだったからね。


 美人さんに脅されはしたが元気よく飛び去った姿を思い出して、改めてよかったよかったと頷いていた私は、ふと今さらながらというか、一番気にすべき根本的な疑問に気付いて動きを止める。


「なんで、ハーピーが、私にドングリをくれてるんだろ?」


 手の中にあるドングリへ問いかけてみても答えがあるはずもなく。


 もしこりずにまた来てくれたなら、訊ねてみるとしよう。


 美人さんがかなり脅しちゃったから、もう来ないかもしれないけど。


 仲良くなれそうだったのにと少し残念に思っていると、遠くからいつもの元気な声が聞こえてきて、思わず頬が緩む。


「きゅわきゅわー!」


 そんな掛け声と共に茂みを突き破って現れたカッパくんは、私の前でピタッと止まって可愛らしくドヤ顔だ。

 何に対してのドヤ顔かと思っていると、カッパくんから少し遅れてきゅうさんが落ち着いた足取りで姿を現す。


「おはよう、カッパくん。もしかして、きゅうさん。競争してたのかな?」


「きゅーわ!」


「そうか、そうか。勝ったんだね、カッパくんは足が速いねぇ」


「きゅわ!」


 ドヤ顔なカッパくんの頭を撫でながらきゅうさんを見ると、呼吸が乱れた様子もなくカッパくんを微笑ましげに見ている。

 どう見ても手加減してあげてるね、きゅうさん。

 優しいなぁとこちらも微笑ましげにきゅうさんを見ていたら、バッチリ目が合ってしまった。


「ないしょですよ……」


 悪戯っぽい笑顔を浮かべて小声で囁いたきゅうさんに、私は共犯としてニヤリと笑って頷くのだった。




 野菜の収穫と手入れを二人から手伝ってもらうと、待っているのはおやつの時間だ。

 本日のおやつはカボチャの茶巾絞り。

 自画自賛ながら美味しく出来たと思う。

 目をキラキラとさせているカッパくんときゅうさんとで茶の間のローテーブルを囲んでいると、何処からか微かな物音が聞こえてくる。


「二人は食べててね」


 不思議そうなカッパくんと、訳知り顔で頷くきゅうさんに一声かけてから、小さなお盆を手に茶の間を出る。

 お盆の上に置かれているのは、カボチャの茶巾絞りが置かれた皿と麦茶の入ったコップだ。

 それらが乗ったお盆を持って向かうのは、今はほとんど使っていない座敷。

 掃除だけは定期的にしているが、ここへ招くようなお客さんも来ないので、人の気配のない部屋となっている。

 襖を開けると窓から入る外の光が畳敷きの部屋の中を柔らかく照らしている。

 古き良き……といえば聞こえは良いが──我が家で板張りなのは、廊下とリフォームした台所ぐらいで。

 ロボット掃除機を買ったら確実に持て余すだろうなぁという感じの一軒家な我が家。

 その中の一室である座敷には、床の間があり、作者不明の山水画の掛け軸が掛けられている。

 茶の間の物より高そうなローテーブルはなかなかに重く、動かすのにも一苦労するのだ。


 そんなローテーブルの上に持ってきたおやつのセットをそっと置く。


 座敷に入った瞬間から感じていた視線の方向をチラ見すると、床の間におかっぱ頭の幼女がちょこんと正座をして私を見ている。

 直視してしまうと恥ずかしがって逃げてしまうので、少し視線を外しながら笑いかける。


「今日はカボチャの茶巾絞りだよ。召し上がれ」


 視界の端でニパッと笑った幼女が大きく頷いてから頭を下げたのを確認して、私は静かに座敷を後にする。


 幼女本人に確認した訳ではないが、彼女の正体はアレ一択ぐらいしか私には思いつかない。



「座敷童さんはお元気でしたか?」



 こっそりとドヤ顔しつつ、珍しくシリアスぶって推理していた私の思考は、笑顔のきゅうさんの言葉で終了してしまった。


「…………そっか、やっぱり座敷童さんなんだねー」


 そう相槌を打った私の顔は、たぶんチベスナ顔になってたと思う。


「きゅわ?」


 カッパくん、無邪気に追撃してくるの止めて欲しい。


 可愛い笑顔がちょっとだけ憎らしく………見えなかった、今日もカッパくんは可愛い。



 これは紛うことなき真理だ。



●9月✕日



 我が家の座敷に住んでいる幼女が座敷童だと判明して数日。


 座敷童さん呼びだと可愛さに欠けるとベッドの上で悩み、もしかしてもともとの名前があるのではという気付きを迎えた朝。


 私は早速座敷へと足を運び、


「おはよう、ちょっといいかな?」


と座敷童さん(仮)へ呼びかける。

 すっかり私に慣れてくれた座敷童さん(仮)は、すぐ姿を現してくれ、なに? と言いたげに可愛らしく首を傾げて私を見つめてくる。

 カッパくんとは違った可愛らしさにやられそうになりながら、私はしゃがんで座敷童さん(仮)と目線を合わせて問いかける。


「君の名前を教えてくれるかな?」


 ちなみにこれを道端でその辺の幼女相手にやった場合は、即通報されるか防犯ブザー鳴らされる案件確定だと思う。


 ま、私が話しかけているのは我が家の座敷童さん(仮)だから問題無しだ。


 問われた座敷童さん(仮)も嫌そうな顔とかはしてない…………けど、少し困った表情をしてゆるゆると首を横に振る。


「それは、教えられないから? それとも名前がないとか?」


 喋れない座敷童さん(仮)が答えられるように、それぞれの選択肢と同時に握った状態の右手と左手を前に出す。

 座敷童さん(仮)が右手に触れたなら『教えられない』。左手に触れたなら『名前がない』という答えになる。

 そして、座敷童さん(仮)が小さな手で迷う事なく触れたのは私の左手だ。

 つまり座敷童さん(仮)には名前がないという事になる。


「そっか。じゃあ、座敷童さんって呼ばれるのと、私が名前を付けて呼ぶのならどっちがいい?」


 また先ほどと同じ方式で座敷童さん(仮)へ質問すると、嫌そうに頭を横に振って、私の左手をペチペチと叩いてくる。

 これはまた可愛らしくてわかりやすい反応だ。

 私も『ニンゲンさん』って呼ぶね、と言われたら同じ反応すると思う。

 そう考えるとカッパくんって、大物というか……もしや私が失礼してる?

 カッパくんはきゅうさんが『まだ名前をもらってない』みたいな事を言ってたし、それから呼び名を考えるべきか。

 まぁ、座敷童さん(仮)とは違ってカッパくん本人は全く気にしてないし、構わないか。


 脳内で数秒そんなカッパくんに対する考察をしていた私は、期待に満ちた眼差しで見つめてくる座敷童さん(仮)に気付いて、しゃがんだまま──がちょっとキツくなったので畳に膝をついて微笑みかける。


「君の名前、てまりってどうかな? 初めて君を見た時に、綺麗な着物の柄だなって思って、調べてみたんだ」


 私の言葉に首を傾げた座敷童さん(仮)は、自らの着物を見下ろして、これ? とばかりに裾をちょんっと摘んでみせる。

 薄紅色というか桃色というか、柔らかい色をしている座敷童さん(仮)の着物には、鮮やかな色とりどりの糸で柄が縫い描かれている。


 花と──丸い手鞠。


 私が調べたところによると、手鞠は縁起物で、七五三の着物にもよく使われる柄らしい。だから、座敷童さん(仮)の名前にもいいんじゃないかと考えた。


 以上を座敷童さん(仮)へ説明というかほぼプレゼンすると、嬉しそうに頬を染めてにこりと微笑み、大きく頷いてくれる。


「よかった……改めてよろしく、てまりさん」


「っ!」


 名前を呼ぶとパァッと笑顔になったてまりさんが、嬉しそうにその場でぴょこぴょこと小さく跳ねる。

 その姿を膝立ちの体勢のまま微笑ましく見守っていると、不意にピタッと動きを止めたてまりさんが、私の顔をじっと見つめてくる。

 てまりさんは和風美幼女なので、真顔になった時の目力が強い。


「な、なにかな、てまりさん」


 思わずどもりながら話しかけると、てまりさんは気合を入れ直すような動きをしてから、私の方へ小さな手を伸ばしてくる。

 相変わらずの目力でじっとしてとばかりに見つめられてるので、じっとしていると、小さな手は私の頬へと触れて優しくさわさわと撫でられる。

 幼女らしく小さくあたたかい手にほっこりしていると、触れられている頬の辺りがじんわりと熱を持つ。

 何をされるのかとそのままじっと待っていると、つま先立ちなったてまりさんの顔が近づいて来て、頬へチュッと可愛らしく唇が触れて離れていく。

 驚いててまりさんの顔を見ると、えへへと聞こえるような笑い方をした彼女の口が「おまもり」と動いて音無く言葉を紡ぐ。


 美人さんに続いて、てまりさんもか。


 私はそんなに危なっかしく見えるんだろうか。


「……ありがとう」


 感謝の言葉を口にしながら、私は自分のこちらへ来てからの行動を振り返ってみる。



 そこまで危ない事は…………。



「してるな、私」



 思い返してみると、心配されるのになんだかとても納得してしまった私がいるのだった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


カッパに続いて、定番ともいえる座敷童ちゃん回でした。

これで屋内は座敷童ちゃん、そとは美人さんとカッパくん達がいるので、守りは……どうなんでしょう。


『ちゃん』か『さん』で悩んで、さん付けで落ち着きました(*´∀`*)


この主人公のキャラ的に、ちゃん付けはなんか浮いてしまいまして……。


何処かに直し忘れ等ございましたら、誤字脱字報告いただけると助かりますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
座敷童ちゃん改め、てまりちゃん!やっとちゃんと会えたねー♪ 主人公のゆかいな?仲間たちが増えて行くのがとっても面白いです!!あとハーピーのどんぐりは、何でどんぐりだったんかなー?笑 なんだかんだでハー…
この独特な世界観、読んでてとても引き込まれます 続きが楽しみです
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