小さな秋もらう
作品の投稿について、お答えありがとうございます。
活動報告にも書きましたが、完結済みを解除し、タイトルを変えて、章を分けて投稿する事にいたしましたm(_ _)m
これからもよろしくお願いいたします。
感想返信もマイペースとなりますが、全て読ませていただいております、ありがとうございます(^^)
●9月◯日
午睡をしていたら、いつの間にか今まで暮らしていた世界とよく似ているが、少しだけ異なる所のある世界へとしれっと転移していた私。
人間なご近所さんはもちろんはじめましてばかりだが、皆さん年上の紳士淑女で良い人達だ。
人間でない方のご近所さんは、隣人なカッパ。それと、とても美人さんなあやかしな男の人。
こちらもとても良い人(?)達ばかりだ。
隣人ガチャ大成功と喜ぶべきかもしれない。
そして、いつの間にか同居していた高速移動する幼女と、勝手に広がっていったり、植えた覚えの無い作物を増やしていく謎めく家庭菜園。
時たま現れている──らしいモンスターを颯爽と狩っていってくださる防衛隊の方々。
──私はそんなほんのりファンタジーな世界でマイペースに暮らしている。
こちらへやって来たのは夏の盛りだったが、数カ月が過ぎて季節は秋へと移り変わっている。
しかし、残暑厳しく、未だに外で作業する時には帽子が手放せない。
だが、朝晩は涼しくなってきているので、油断すると温度差で風邪を引きそうだ。
朝ご飯を食べ終え、日課である家庭菜園での作業のため、勝手口の扉を開けて外へ出ようとした私の足にコツンと何かが触れる。
「ん?」
小石でも蹴ったかと見下ろした先にあったのは数個のドングリだ。どうやらその一つをつま先で蹴飛ばして転がしてしまったらしい。
なんとなく気になったので屈んで拾い集めてみる。
転がっていったのも含めて全て帽子が付いていて、虫食いもなく艶々して立派なドングリだ。
拾い集めたドングリをよくよく観察してみると、帽子がモジャッとした全体的に丸い感じのクヌギの物ではなく、シュッと細い感じのフォルムなので、たぶんコナラのかなと思う。
だからなんだという話で、そもそもの疑問が一つ口からこぼれ落ちる。
「うちにドングリの木なんてあったっけ?」
そんな素朴な疑問が。
植えてもいない植物が発生する事には慣れてきたが、今のところそれは食べられる作物限定だ。
「……そういえばドングリって食べられるのか」
艶々で綺麗なドングリを眺めて思わずポツリと洩らす。
確かに記憶を辿ればそんな事を授業で習った気もするが、とても手間がかかるとも習っていたので試す気にはならない。
これだけ綺麗なドングリなら、カッパくんにあげたら喜ぶかなと友人の顔を思い出してドングリをポケットへしまう。
他にも落ちてるかと周囲を見渡してみたが、どうやら落ちていたのは勝手口の前だけのようで。
ついでにドングリがなっている木を探してみたが、視界の中には見当たらない。
代わりという訳では無いが、木になる何種類かの秋の味覚を見つけてしまい、すっかりドングリの事は頭の名から抜け落ちるのだった。
「きゅわ!」
「おはよう、カッパくん」
「おはようございます」
「おはよう、きゅうさん」
いつも通りやって来てくれた二人とそんな挨拶を交わす。
小学校低学年サイズの可愛らしいカッパなカッパくんと、少し落ち着いた緑の肌を持ち、すらりとした体躯のカッパな九重こときゅうさん。
二人共、妖怪画に描かれているようなおどろおどろしい見た目のカッパではなく可愛らしい感じのカッパで、良き隣人である。
「きゅわきゅわー!」
勢いよくとてとてと走って来て抱き着いてきたカッパくんの頭を撫でて愛でてから、今日の作業を開始する。
本日はゴロゴロと転がっている大きなカボチャと、時期を過ぎても未だに枯れる事を知らない鈴生りのキュウリを採っていく。
ちなみにだが、キュウリは私が植えたものだが、カボチャはいつの間にか生えていた。
これは昨夜、カボチャスイーツの番組を見て「美味しそう」とか呟いたのが原因なのかもしれない。
カボチャはたくさんあっても持て余すので、今出来ている分を全て取ってから「しばらくはカボチャはいらないなぁ」と大きめに独り言を呟いておいた。
これでどうなるか、少し楽しみでもある。
●9月△日
本日も、朝は涼しいが日中は暑くなるという天気予報を聞き流しながら朝ご飯を終え、勝手口から外へと出る。
足を踏み出すと、つま先でコツンと何かを蹴ってしまった。
もう見なくても何かわかってしまったが念の為視線を下へ向けると、そこにはドングリが数個固まって落ちている。
これでもう一週間はドングリの贈り物が続いている。
最初の数日は、風か何かの影響でここへ運ばれているのかと思っていたが、さすがにここまで続くのはありえない。
そもそも、うちの庭の近くにはドングリの木はない。
どう考えても誰かが置いていっているのだ。
なんのために? と考えた時、まず思い浮かんだのは「ごん、お前だったのか」という有名な台詞。
だが、私にはキツネの知り合いはいない。助けたり、恨みを買ったりした覚えもない。
カッパの友人はいるけど。
次に思い浮かぶのは、元いた世界の国民的と言っても過言ではないアニメ映画の妖精(?)だ。
しかし、私はもう子供といえる年齢ではなく、かの存在は見る事が出来なくなってしまっているだろう。
ついでに言うと、子供の時に知り合ってもいないし、当然傘も貸したりしていない。
そこまで斜め上な方向まで思考を飛ばした私に視界に、茂みからゴソゴソと出て来たカッパくんが映る。
こんなに可愛いカッパくんもほぼ妖精(?)じゃないか? と訳のわからない思考へ至った私は、カッパくんへドングリを見せてみる事にした。
というか、冷静に考えてみればカッパくんからの贈り物という可能性が一番高い。
カッパくんならドングリ拾い集めていてもなんの違和感もないし。
森のなかできゅわきゅわ喜びながら拾っているのを想像したら、とても和む。
「きゅーわ!」
「おはよう、カッパくん」
挨拶と共にとてとてと駆け寄って来たカッパくんの頭を麦わら帽子の上から一撫でし、早速本日分のドングリを手の平へ乗せてカッパくんへ見せてみる。
「きゅ……? きゅきゅわ!? きゅわわぁ!」
反応は顕著だけど、これは絶対贈り主がする反応じゃないな。
目をキラキラとさせて私の手の平の上のドングリを見つめてから、次に私の顔を見つめてくるカッパくん。
何を期待されているか、さすがの私でもわかる。
「よかったら、あげるよ」
「きゅ、きゅうわ!?」
いいの!? と私の顔を見てくるカッパくんに頷いてみせると、嬉しそうに笑ってドングリを手に取り、被っている麦わら帽子を少し持ち上げて、その中へひょいひょいとしまっていく。
まさかの収納方法に驚くが、手慣れているので普段から小物はあそこへ入れているんだろう。
「きゅーわ」
「どういたしまして。まぁ、私が集めたんじゃないけど」
ぺこりと頭を下げたカッパくんに、ドングリがコロコロするのではとちょっとした不安を抱いたが、特にそんな事はなかったのでゆるく微笑んで軽く返す。
実際、言葉通りで集めたのは私じゃない。
「カッパくんじゃないなら、きゅうさんでもないだろうし、まさかの美人さん?」
「きゅわわぁ」
「さすがに違います」
ちょうどタイミングよくやって来たきゅうさんから、ある意味美人さんディスってない? というお言葉をいただいて、美人さんからでもない事が判明。
まぁ、あの着流し姿の美丈夫がドングリ拾いしている姿は想像出来ないし……でもワンチャンしてそうではある。
あの不思議系な美人さんだとありえそうで。
「あの方なら微妙にやりそうではありますが、あなたは別にとてもドングリに愛着がある訳ではないでしょう? いくらあの方でも、あなたが興味のない物をおしつ……贈られたりはしません」
私の内心が伝わってしまったらしく、チベスナ顔になったきゅうさんから懇切丁寧に『あの方からではありません』の説明を先回りでされてしまった。
そして、また途中途中美人さんディスってない? と訊ねたくなる。
答えが怖いのでしないけど。
笑顔で「してますけど?」とか言われたら、どんな表情すればいいかわからない。
「そ、そうだね、そこまでドングリ大好きでは……」
ひとまずドングリ愛に関してだけはやんわり否定をしようと口を開いたのだが……。
「ぎゃっ!?」
まるで私の発言に反応したかのように妙な鳴き声みたいなのが茂みの奥──そこにある高い木の上辺りから聞こえ、ガサガサと木の葉が揺らされる音がする。
「きゅわっ!?」
カッパくんがしがみついてきて、きゅうさんは無言で音のした方を見つめている。
「……もしかして、この間来てた黒猫さんかな?」
警戒している二人を安心させようと一番無難な相手であろう存在を口に出してみたが、返ってきたのはきゅうさんの「違いますね」という素っ気ないぐらいの簡潔な答えだ。
物音の正体が黒猫さんだとしたら、ドングリ問題も黒猫さんからの贈り物だった事に……はならないか、どちらにしろ。
カッパくんがぎゅうぎゅうと抱き着いてきてきゅわきゅわしていたが、それ以上特に物音はせず──その後、カッパくんは首を傾げつつ、きゅうさんは何ともいえない表情をして帰っていった。
わかっていなかったカッパくんの方はともかく、きゅうさんは何か言いたい事があったなら言ってって欲しかった。
「きゅうさーん、こんな事になってたんだけどー?」
次の日の朝、私がこんな台詞を叫ぶ事になってしまったから。
いつもありがとうございますm(_ _)m
秋編スタートとなります。
夏よりさらにワチャワチャしますが、主人公は相変わらずゆるゆるでございます。
そろそろ危機感持ってと何処かでゆるいお兄さんが叫んでそうですが、これからもよろしくお願いいたしますm(_ _)m