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マイペースに異世界暮らし  作者: 汐琉
はじめての夏
10/12

夏の終わりに

シリーズ長編化作業、こちらは新たな投稿となります。


本日2話投稿の2話目となりますので、ご注意を。


夏が終わりますが、秋へと舞台へ変えて話は続く予定となりますm(_ _)m

●夏の終わりに




 暦の上ではもうすぐ秋だが、まだまだ暑い。

 一緒にこちらへやって来た扇風機もまだしまわれる事はなく私とカッパくんへ風を届けてくれている。

 今日は小玉スイカをパカッと割って、二人でおやつに食べている。


「あ、今日はあとで買い物へ行くから、明日以降ならいつでも温玉食べに来てくださいって美人さんに伝えてくれるかな」


 おやつのスイカを食べ終えて、今日の分の野菜を手にしたカッパくんに美人さんへの伝言を頼むと、少しだけもにゅもにゅと何かを言いたげな顔をしてから、いつも通りの笑顔で頷いて去っていった。

 少しだけもにゅもにゅしていた理由が気になったが、去り際はいつも通りの可愛い笑顔だったのでたいした事ではないのだろう。


「さて、本日はハーピー予報も出てないし、行こうか相棒」


 愛車の車体を軽くぽんぽんと叩いてから乗り込み、エンジンを掛けてドライブへ出発だ。


 本日最初の目的地は、秋に備えて衣替えをしたいのと、カッパくんときゅうさん用の防寒対策を用意するため、洋服屋さんだ。

 常にほぼ真っ裸な二人に必要かは不明だけど、きっと見ている私が寒いと思うので買っておく。


 その後は、いつものスーパーに寄って食材──特に卵を買い漁る予定となっている。


 脳内でルートを決めて、安全運転を心がけて空きまくっている道路を走っていく。


 相変わらず平日とはいえ、対向車がほとんどいない道は少し不気味さがある。


 元いた世界でも、都会の方に人口が集中し、田舎──郊外の方は過疎化が進んでいたが、こちらでもそうなのかもしれない。

 テレビで見る限り、都会の方は普通にわらわらと人がいて、車がバンバン走っていたし。



 相変わらずラジオでは知らないパーソナリティが軽快なトークを繰り広げている。

 それをなんともなしに聞きながら、快適なドライブを続ける。

 モンスターがいる世界なのにこんな平和なドライブが出来るのは、ゆるいお兄さんをはじめとする防衛隊の皆さんのおかげだろう。


 その中にあの小太りの男性は含まないけど!


 あの時は別にイラッともしなかったのに、カッパくん達や美人さんから心配(?)されてたら、遅ればせながらちょっとムカムカしてる私がいる。


 運転中にイライラすると運転が荒くなったりして危ないので、私は大きく深呼吸して運転に集中する事にする。

 これで事故ったりしたら目も当てられないからね。




 無事に事故る事もなくたどり着いた目的地の洋服屋さんだったが、記憶にある店とは少し違っていて私はしばし足を止める事になる。


「……なんか、可愛い服が少ないような?」


 以前来た時は、カラフルでひらひらふわふわした感じの服がたくさん並んでいたのだが、今日はなんだか地味だ。

 黒とか茶色とか緑色とか、森に馴染むぜ! 的な色合いの服が多く、ひらひらふわふわではなく、ゴツゴツというかガッチリというか、作業がよく似合う服が並んでいる。


「まぁ、いっか」


 私は別にひらひらふわふわを求めて来た訳じゃないから、この品揃えでも何の問題もない。



 入店と同時に盛大な独り言を呟いてしまったせいで店員さんの目が痛かったのもあり、早々に買い物を終わらせて洋服屋さんを後にする事になったのは計算外だったけど。


 次に向かうのは予定通りスーパーだ。


 苦手な駐車をなんとか無事終わらせてマイバッグ片手に入店する。

 こちらは洋服屋さんとは違って特に以前と変わりはない。

 強いて言うなら店舗正面のガラス張りになっている部分に丈夫そうな鉄格子が嵌って…………って、おやまぁ、前言撤回しないといけない勢いで変わってる部分があった。

 前回来た時はあの防衛隊の少年を見つけてしまい、そちらへ意識を取られていたせいで気付かなかった、と思いたい。

 こんな某八番な出口も真っ青な異変に気付けないとは……。

 万が一飛ばされたのがあの世界だったら、一生脱出出来なさそうだ。



 まぁ、幸いにもここはそういう世界ではないので、普通に会計すれば出られるのだが。



 ちょっと不安になったのは内緒だ。



 カートを押して店内を進んでいき、野菜コーナーを横目に見て我が家の野菜の方が勝ってるなと内心ドヤりつつ、卵のパックが積まれたコーナで足を止める。

 いつも買っている白い殻の卵を二パック入れ、もう一つ同じ物を手に取ろうとしたところで視界に入ったのは、赤茶の殻を持つ少しお高い卵だ。

 以前ならお値段の関係もあって買えなかったが、今は失業保険とあの手当てのおかげで口座には少々の余裕がある。

 私の舌では味の差なんかわからないが、卵好きらしい美人さんのためにちょっと良い卵を買おう。


 誰かのために何かを選んで買うという楽しさに、私の口元は自然と緩んでしまっていたようだ。


「何かいい事あったんですか?」



 そんな声をかけられる程に。


「え?」


 驚いて手にしていた卵を落としそうになったのを何とか堪え、そろそろと声のした方を振り返ると、そこには見覚えのある少年が見覚えのある服装で、申し訳無さそうな顔をしてこちらを見ていて。


「す、すみません、声をかけるつもりはなかったんですけど、あまりに楽しそうな表情をされていたので、つい……」


「あはは、大丈夫だよ。元気そうで良かった。また今日も買い出しかな?」


「はい!」


 思い切りよく返事をしてしまった少年は、慌てて口元を手で覆って周囲を見渡す。

 少年のよく通る声に驚いたのか、何人かこちらを見ている有閑マダム達がいたが、少年がにこりと笑って頭を下げると頬を染めて、いいのよいいのよ的な仕草をしている。


 やはり見た目は大事だよね。


 きちんとした服装さえしてれば、少年は成人してるとは思えない見た目で──かなりの美少年だから。

 健気で可愛く、礼儀正しい美少年なんて、有閑マダム達的にはどストライクだろう。


 以前とは真逆な有閑マダム達の好意的な反応に、少年ははにかんだ笑顔を浮かべて、私の方を見てくる。

 そんな顔で見てくるのは止めて欲しい。

 私はちょっとお節介しただけで、もともと少年は他人から好かれるような存在だったんだ。

 別に私が何かした訳じゃないので、尊敬に満ちたキラキラした眼差しで見てくるのは、絶対違う。


 全力で懐いてきているぽい相手にどうやって伝えたものかと悩んでいると、有閑マダム達のギリ黄色な悲鳴が聞こえて来て、少年の頭に大きな手が乗せられる。

 それと同時に、からかうような、しかし隠しきれていない硬質さが混じる声が、


「こぉら、なに一般人に絡んでるのぉ?」


と少年をたしなめる。


「あ、隊長! すみません、絡んでいた訳ではなく、この人が……」


 飼い主が来た犬のような反応を見せた少年は、見えない尻尾をぶんぶんと振りながら相手を振り返って私の事を説明しているようだ。

 ちなみに背中を向けていた少年とは違い、私の視界には少年と同じ制服を着た人物がいつもとは違う表情をして近づいて来ているのが丸見えだったので、少年のようには驚きはしない。

 ただその相手がいつもとは違う表情だったことに驚いて、少年に注意を促すタイミングを逃してしまったのだ。


「へぇ」


 いつもとは違う表情──あのゆるさがまったくない冷え切った表情で少年の言葉に相槌を打ったゆるいお兄さんの目が私の方を向き、驚いたように見張られる。


「え?」


「どうも……いつもお世話になってます……」


 素で驚いたのか一音だけ発して次の言葉を失ったゆるいお兄さんに、私は恐る恐る社会人の習性的な挨拶を口にする。

 あの冷え切った表情のイケメン顔に睨まれたら、私の豆腐メンタルなんてボロボロになるので、少しでも好印象を与えられたらという無駄な抵抗だ。


 効果があるとは思っていなかったが思いの外効果はあったらしく、二・三度瞬きをしたゆるいお兄さんの顔がいつものゆるいお兄さんのゆるさになる。

 どちらにしろイケメンなのは変わらないので、相変わらずそこここから有閑マダム達の黄色い声が聞こえてるけど。

 初めて少年をここで見た時とは反応が全然違う。


 やはり見た目は大事だと納得してしまう。(二回目)


「びっくりしたぁ……この間、遠目で見た時に似てるとは思ったけど、本人だったんだぁ」



 一人内心で頷いていると、すっかりいつも通りな感じのゆるさになったゆるいお兄さんが、ゆるく話しかけてくる。


「はい、本人でございます」


「ぷっ、なにその口調〜。いつもはそんなんじゃないよねぇ」


 流れで丁寧な口調のままで答えたら、ゆるいお兄さんからけらけらと笑われる。

 すっかりいつも通りなゆるいお兄さんの様子に、私も肩の力を抜いていつも通りに返す事にする。


「つい、流れで」


「どんな流れ、それ〜」


「そんな流れ?」


「そっかぁ」


 みたいなゆるい会話をしていると、蚊帳の外になっていた少年がおずおずと話しかけてくる。


「あの、隊長とお知り合いだったんですか?」


「えぇと、何回か命の恩人してもらった感じ?」


 少年の質問に私は疑問符付きの答えを返して、ゆるいお兄さんを見やる。


「まぁ、そんな感じかなぁ」


 ゆるいお兄さんもゆるく同意をしてくれたのだが、少年は戸惑いを隠さず私とゆるいお兄さんの顔を交互に見て小声で何事か呟く。


「ゆるいですね……」


 小声なせいで聞こえなかったが、たいした事ではないのだろう。

 隣に立っているゆるいお兄さんは聞こえただろうけど気にした様子もなく、少年の頭をぽふぽふと撫でてゆるく笑っているし。


「じゃ、改めてぇ。この間は、うちの後輩がお世話になったみたいで、どうもありがとぉ」


「いえいえ、ちょっとお節介しただけなので……」


 なんて会話を──店内なのを思い出したので少し控えめな声量で交わした後、ゆるいお兄さんと少年とお別れした私は、何事もなく買い物を終わらせて帰路につく。

 うちに帰るまでが遠足ですとよく言われるので、しっかり自宅へたどり着くまで気を抜かずに安全運転しないといけないのだが……。



『……◯✕地方で……クマ……九メートル……』



 つけっぱなしのカーラジオから、そうも言ってられないような情報が途切れ途切れ聞こえて来ていて、私はそっとアクセルを踏む足に力を込めるのだった。



[視点無し]



「隊長、あの人が帰った方向でクマが出ました……」


 スマホの画面を確認した少年は、ハッとした表情になって傍らでゆるく笑っている青年を振り返る。


「みたいだねぇ。巻き込まれ体質ってやつなのかなぁ、あれ」


 ゆるく答えた青年は、少年が見ている方向と同じ方を見やって、にんまりという擬音が似合う笑顔を浮かべる。


 そんな会話をしている二人が向かっていたのは、一般車両に混ざって駐車されている、どう見ても装甲車と呼ばれる類いの車だ。


「──どうも人ならざる者を引き寄せてるみたいだし?」


 車に乗り込む直前、青年がポツリと洩らした独り言は、誰に聞かれる事もなく夏の名残の蒸し暑い空気に溶けて消えていくのだった。



「何事もなく着いて良かった……」


 何とか我が家へとたどり着き、愛車を定位置である通り抜けに入れて駐車した私は、座席に背中を預けながら力なく呟く。

 道中、巨大グマが現れるんじゃないかとドキドキしながらの運転は寿命が縮みそうだった。


 そのままエンジンを切った車の中で目を閉じて脱力していた私だったが、何処からか視線を感じた気がして目を開ける。

 通り抜けには明かり取りの窓と、屋内が見える窓という二ヶ所の窓があるのだが、視線を感じたのは屋内が見える方の窓だ。

 勇気を出して窓の方を見ると、そこには艶のある黒髪をおかっぱにした愛らしい幼女の顔が覗き、こちらをじっと見つめている。


「……日本人形みたい」


 思わずそんな声が出てしまったが、それは幼女にも聞こえてしまったようで、目を見張ってやばいやばいといった様子で慌てているのが見える。


「えぇと、驚かせてごめんね? 大丈夫、何もしないよ?」


 慌てまくっている幼女はカッパくんに勝るとも劣らない可愛さで、私は怯えさせないよう優しい声……を心がけて声をかける。


「……?」


 本当? と無言で問いかけてくる幼女の眼差しに、私は大きく頷いて車からゆっくりと降りて、幼女が見える窓の方へ一歩近づく。


 しかし、タイミング悪く町の防災無線からガガッという音がしたかと思うと、直後『ぴんぽんぱんぽーん』という間の抜けた音が響き……。


「……!?」


 突然鳴り響いた音に驚いてビクッとなった幼女は、止める間もなく一瞬で見えなくなってしまった。

 どう考えても普通の幼女が出来る動きではない。


「……この間の見間違いじゃなかったかぁ」


 先日、家庭菜園から台所の窓を見た時にチラ見えしてた黒い物の正体に思い至った私は、そんな呟きを洩らして──とりあえず買った物を車から降ろして家の中へと運び込む。


 その間にも防災無線からは防衛隊が無事にクマを討伐したという放送が流れ、ゆるいお兄さんと少年の活躍を知る事が出来た。


 あの幼女に関しては害意は無さそうだし、今の今まで何にも起きていないのだから放置していても構わないだろう。


 なんとなーくだが幼女の正体はわかった気がするので、お茶菓子とおもちゃを今は使っていない座敷に置いておこうと思う。




 夕日色に染まる室内で冷蔵庫へ買ってきた物をしまいながら、日暮れが早くなってきたのを実感する。

 日中の気温はまだまだ下がらないが朝晩は涼しくなってきたし、外で鳴いている蝉の声は夏の終わりを告げる「ツクツクボーシ」へ変わっている。


 どうやら近くにいるらしく、本日の「ツクツクボーシ」の声はやたらと大きく聞こえてきて風情には少し欠けるけれど。

 それでもヒグラシの声と共に物悲しい雰囲気を漂わせ……、


「ツクツクボッ!?」


 ていたかと思ったら鳴き声が変に途切れてしまい、首を傾げながら窓から外を覗く。

 覗き見た窓の外では、手の平サイズの巨大な蝉を、大型犬サイズの巨大な黒猫が捕まえたところだった。



 ブブブ……ッという声なのか羽の音なのかはわからないが、断末魔の声的なものを上げていた巨大な蝉は、そのまま巨大な猫の口の中へ消えていった。



「んにゃん」



 呆然としている私と目が合った巨大な猫は、こちらを見つめてゆっくりと瞬きをしてから、存外に可愛らしい声で一鳴きをして去っていく。



「チュ◯ルで懐柔出来るだろうか……」



 食べてくれるかはわからないが念の為大きな袋で買っておこうと思う。




 のんびりとそんな事を思いながら、私のはじめての夏は過ぎ去っていき、季節は留まる事なく秋へと変わっていく。




 まだまだわからない事だらけで、驚く事ばかりだけど、意外と楽しんでしまえている私は、友人が言っていた通り『ズレ』ているのだろう。



 まぁ、だとしても誰かに迷惑がかかる訳でもないし、マイペースに暮らしていけたらと思う。

お読みいただき、いつもありがとうございますm(_ _)m


シリーズ短編を長編化作業、無事終了しました。


わかりにくいと思いますので、短編の方はもうしばらくしたらシリーズから外して削除する予定となっております。


これにて夏が終わり、暦の上では秋編へと突入いたしますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
うぉー!!気付いたら連載になってるぅー!!読みやすぅー!!しかも2話も更新されてたぁー!!ありがたやぁー!! 夏編が終わりましたね〜!!手のひらサイズのセミに内心「ヒィー」となりました笑 私異世界行っ…
≫大型犬サイズの巨大な黒猫 ヒョウって言いませんか?それw 声が可愛いのがギャップ萌えですねww 秋編も楽しみに待ってます。 秋だと何だろ?果物系とか栗とか芋とかかな? キュウリが無いとカッパ君どう…
相変わらずかっぱくんは可愛いなぁ。 前話でうるみさんに護られてるのもはっきりしたのはいいけど、防衛隊のお兄さんと一悶着なければいいけど果たして。 流石にゆるゆるな主人公もクマには危機感を覚えてよかっ…
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