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本当の目的を、達成するために(千馬茜)

 こんにちは! 千馬ちばあかねです。茜は明け星学園で生徒会書記兼会計としてやってます。正直なんで指名されたのか全然分かっていません!! だって茜は馬鹿だしドジで間抜けだし何も出来ない子なんだもん。高校生にもなって、ぬいぐるみ──お友達のミーくんがいないと外に出ることも出来ないし。茜にとってはこれが普通だけど、普通じゃないってことはよく分かってるんだ。


 生徒会は茜の他に2人居る。まずは3年生の墓前糸凌先輩。男の人だけど髪が長くて紺色のセーラー服を着ている、変な人だ。見た目で言うとこの人に比べたら茜は普通だと思う。ちなみに女性になりたいわけじゃないみたい。意味が分からない。だけどそんなことを正面から言うと睨まれるのは目に見えているので言えない、言うつもりもない。

 お仕事に関しては、とても優秀だ。会長はよく仕事など二の次でどこかに行っちゃうから……実質副会長さんが生徒会長の仕事をやってるんじゃないかな、と思う。副会長さんは毎回ブツブツ文句を言いながら、なんだかんだ仕事をこなしていた。


 それで、そのもう1人の生徒会メンバーであり生徒会長が……2年生の伊勢美灯子。長い髪をお団子ハーフアップにしていて、紺色のブレザーに灰色のスカート、というどこかの制服を身に着けている。なんか、結局入学をやめた高校の制服らしい。

 お仕事に関しては……さっき言った通り。よくいなくなってしまう。……小鳥遊言葉に関することで。会長さんがやる必要がないだろう、と思うようなことまでやる。そんなことをする暇があるなら仕事をしてほしいのに。でも副会長さんは何も言わないから、茜もあまり大きな声では言えなかった。


 そしてこの人が──茜を、生徒会に入れた人だ。


「千馬さん。僕は貴方を生徒会書記と会計に任命したいと考えています。もし良ければ、検討してみてください」


 入学式の次の日、茜のもとに訪れた会長さんはそう告げた。もちろん茜は開いた口が塞がらなくて、そんな風に呆然とする茜を放っておいて会長さんは書類を押し付け、去って行ってしまった。

 しばらくしてから茜はようやく意識を取り戻して、書類に目を通した。……本当はこういう、責任重大な役職とか嫌いなんだけど……でも、検討する価値はあると感じていた。



 ──伊勢美灯子は、近づく価値がある。


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「……頑張らないと」


 茜はそれらしい理由を用意した。学校に居ても友達がいないから暇を持て余すだけだし(悲しいけどこれは事実)、特別技能点も加算されるし……と、そういう具合に。


 書類に署名をして持ってきた茜を、会長さんは歓迎してくれた。これからよろしくお願いします、と笑って。



 茜は、知らないといけない。

 この人のことを。茜の目的のために。





 というわけで茜は、会長さんを取り巻く人たちとお話をして知っていくことにした。……え、どうして会長さんについて聞かないのか、って……直接聞くと怪しいじゃないですか!! ……それに、関わっている人のことを知るのって、とっても重要なことだと思うから。


 というわけでまず茜は、副会長さんに聞いてみることにした。


「ん、何か用か? かがみ千馬」

「だから鏡ってなんですか……」


 副会長さんは人のことを変な呼び方をする。もう慣れたけど、やっぱり「鏡」と付けられる意味が分からない。


 まあまあそれは置いといて、と言われる。別に茜も聞きたいところはそこじゃないので、茜は改めて口を開いた。


「えっと、その……副会長さんについて教えてくださいっ!!!!」


 そして直球な聞き方しかできない茜だった。


 副会長さんは驚いたように目を見開いた後、教えてと言われても、と顎に手を添えると。


「……墓前糸凌。3年生で、生徒会副会長。異能力は『絹の道しるべ(シルク・ロード)』。糸が持つ記憶を読む、っていう能力だ。代償は記憶障害。服飾部とオカルト同好会に所属してる。最近の悩みは多忙で死にそうなこと。……これでいいか?」

「ぅえっ、あ、だ、大丈夫です、ありがとうございます……」


 思ったより色々教えてくれて、茜は声を詰まらせながらお礼を言う。別にいいけど、と副会長さんはじと……とこちらを見つめて。


「悪だくみなら、ほどほどにしておけよ」

「……わ、悪だくみなんて、ししし、してないですよぉ~……」

「へぇ?」


 肩を震わせてそう言う茜に、副会長さんはすぅ、と目を細める。その目の前に立っているのが嫌で、茜は慌てて生徒会室から出て行った。


 ふ、副会長さん、たまに鋭いから嫌!!!! 要注意人物!!!!





「あれ、茜ちゃん」


 後ろから声を掛けられ、茜はぴゃっとその場で飛び上がる。そして後退りつつ振り返ると、そこにはとある2人がいた。えっと、確かこの人たちは……。


「あ、覚えてる? あたし、持木心音。灯子ちゃんの友達。で、こっちはあたしの義兄あにの持木帆紫」

「あ、こ、こんんちはっ……」


 茜がよく覚えていないことを察してくれたのだろう。女性の方──心音先輩が簡単に紹介をしてくれる。帆紫先輩も軽く頭を下げてくれて、茜は慌てて深々と頭を下げた。


 そう、この人たちは……会長さんのお友達。よく生徒会室にも遊びに来て、会長さんと話しているのを見ている。主に心音先輩の方だけど。お兄さんの方にはあまり馴染みがない。でも、会長さんと関わり深い人であることには間違いないだろう。


「あ、あの、お2人について教えてくれませんか!?」

「「え?」」


 2人に同時に聞き返され、茜は肩を震わす。に、睨まれてる!? いやこれは、目力が強いだけ……!? わ、分かんない、怖いよぉ。うぐぐ、でも……!!


「あ、怪しくないです!!」

「自分で怪しくないって言うやつ、大概怪しいだろ……」

「そ、その、会長さんを見習って、茜も生徒のことを知ってみようと思って!!!!」


 口から突いて出てきた言葉はそんなもので。冷や汗をだらだらと流す茜を前にして、2人は顔を見合わせた。や、やっぱり怪しいかな……。


「……あたしは持木心音。2年生で、スイーツ同好会に所属してるよ」

「……へっ」

「異能力は『Telepathy』。人の心が読めるけど、同時にあたしの心の声も相手に伝わっちゃうんだよね。それが代償。趣味はスイーツ作りかな。こんなものでいい?」

「えっ、あっ、はい!! ありがとうごじゃいますっ!!」


 慌てるあまり、噛んでしまった。そのことに顔を赤くしていると、次いで帆紫先輩が口を開いた。


「俺は持木帆紫。部活とか委員会とか、特に所属してない。異能力は『V-flare』で、炎を操る異能力だ。まあやりすぎるとこっちも燃えるのが代償だな。趣味……校内で他のやつらと勝負をすること。お前も、一戦やるか?」

「ひぇぇぇぇ!? あ、茜はそんな強くないので……!!!!」

「3年が1年に喧嘩を売るな!!!!」

「いっでぁ!?!?!?!?!?」


 にやりと笑われ茜が慌てていると、心音先輩が帆紫先輩の頭を思いっきり叩く。帆紫先輩は床に沈み、ふんっ、と心音先輩は思いっきり息を吐いた。


「……でも、戦えないとは言わないんだね。ちょっと意外」

「へっ?」

「いや、あたしとか戦闘系の異能じゃないからさ。……あっ、ごめん。別に戦えって言ってるわけじゃないからね? この学校、そういうのも自由だし」

「あ、え、あっ、はい……」


 茜はこくこくこくと必死に頷く。そんな茜の様子を見て、心音先輩は笑って頷き返してくれた。





 なんか、もうちょっと上手い返し方があったんじゃないかな。お2人と別れた後の茜は、そんなことを考えながら廊下を歩いていた。

 へ? とか、えっと、とか、ひぇぇとか、全然会話してない。すぐびっくりしちゃうし、そのせいで相手に気を遣われるし……さっきも心音先輩に、謝らせちゃったし……。茜って本当にダメダメだ。うう、茜ってどうしてこうなんだろう……。


 そんなことを考えながら角を曲がると……どんっ、と誰かにぶつかってしまった。


「わぷっ。……ごごごっ、ごめんなさいっ!!」

「大丈夫だよ、怪我はない?」


 尻もちをついた茜とは対照的に、向こうの人は特に転んでいないらしい。頭上から声と手が伸びてきた。茜は顔を上げ、思わずうっひゃぁ、と声をあげる。

 何故ならそこには、超イケメンさんがいたから……!!!!


「ああああ茜がボーっとしてて!!!! すみません!!!!」


 手を握るなどおこがましい、と思い、茜は自力で勢い良く立ち上がる。すると彼は驚いたように目を見開き、次いで面白いと言うように微笑んだ。


 ……あれ、そういえばこの人……。


「茜ちゃん、なんか考え事してたみたいだけど、どうしたの?」

「えっ、えぇぇぇぇ!? なんで茜の名前を!?」

「え? ……あははっ、だって自分のこと、名前で呼んでるでしょ?」

「あっ、そ、そうだった……!!!!」


 うう、やっぱり茜は馬鹿過ぎる……そんな簡単なことにも気づかないなんて……。


 そう落ち込んでいると、目の前に立つ彼がずいっと顔を覗き込んでくる。その距離感の近さに固まっていると、彼は笑いながら告げた。


「何か悩み事?」

「えっ」

「俺で良ければ、話を聞くよ。……女の子は笑顔が一番可愛いんだからさ!」

「かわっ……えっ、えぇぇぇぇ!?」


 思わず思いっきり後退ってしまう。顔が熱い。このまま死んじゃうんじゃないか!? というくらい、茜の心臓はバクバクと鳴り続けていた。


 すると彼はキョトンとしており、すぐにどこかきまり悪そうな顔になった。


「……こういうのやめようって思ってたのに、癖出ちゃったな……いや、まあ人は笑顔が素敵なのは事実だし……」

「? えっと……?」

「あ、ごめんね。……俺は雷電閃だよ。改めて、ぶつかっちゃってごめんね」

「あっ、千馬茜です、その、こっちもよそ見してたので、ごめんなさい……!!」


 そう名乗られて思い出す。そうだ、この人。


「あの、副会長さんの親友の……?」

「うん、そうだよ。……茜ちゃん、生徒会だもんね。糸凌がいつもお世話になってます? ……って言うと、なんか保護者みたいだけど」

「え、えぇっ、そんな、茜の方がいつもお世話になってますっ!!」


 茜がお世話したことなんてない。いつも迷惑しか掛けてないから……なんか心なしか脳内の副会長さんが、そうだぞってジト目でこっちを見てる気がする……。


「あ、あの」

「ん?」

「雷電先輩のこと、教えてくれませんか。あの、今、生徒のこと知ろうキャンペーンしてて」

「え? なんか面白そうなキャンペーンだね。いいよ~」


 確かこの人も、会長さんと関わりが深い人だ。だから茜がそう自己紹介を持ちかけると、雷電先輩は優しく頷いてくれる。


「3年の雷電閃だよ。うーん……雷を操る異能を持ってるよ。『Jupiter』っていうんだけど……代償は失明。……そんなものかな。ごめんね、あんまり面白い属性とか持ってなくてさ」

「い、いえっ。ありがとうございましたっ」


 確かにちょっと自己紹介が短かったけど、茜も似通ったものになりそうだし……何より、知ることが目的だから全然いいのだ。茜が頭を下げると、雷電先輩はやはり優しく笑ってくれた。





 会長さんに近しい人、いないかなぁ、と探しながら廊下を宛もなく歩き回る。するととある人が視界に写った。背の高い人と低い人。それぞれ花瓶を抱えていて、中には花が生けられていた。綺麗だなぁ、と思いながらすれ違うと……ぱさ、と、花瓶の中から1つ、花が落ちた。


 慌てて振り返るが、2人とも気づいていない様子だった。茜は5回くらい落ちた花と2人の背中を見比べ、迷った末落ちた花を手に取る。


「すっ!! ……みませんっ」


 一言目で声が裏返り、全身が熱くなる感覚を味わいながら言葉を続ける。すると2人が振り返った。


「あの、これ、落として」

『……あ~~~~っ!! ありがとう!!』

「えっ、えっ」


 すると背の高い方がパァァァァッ!!!! と表情を輝かせ、こちらに駆け寄ってくる。急に図体の大きな人が近寄ってきて、茜は思わず悲鳴を上げた。


「偲歌!! 急に近寄ってしまっては驚かせてしまうでしょう。……申し訳ありません。拾ってくださってありがとうございます」


 すると背が低い方も茜に近寄ってくる。あ、この人、身長同じくらいだ……同年代の人かな……。

 背の高い方に花を手渡すと、その人は嬉しそうに花を花瓶に戻す。それをぼーっと見ていると、あら、と背の低い方が声を出した。


「貴方、新しい生徒会の子じゃありませんか?」

「……え、あ、そ、そうですけど、何、何か」


 同世代だと思うと途端にいつも以上に声が上ずってしまう。しかし彼女は気にする様子もなく、言葉を続けた。


「突然すみません。私、瀬尾風澄と申します。去年までこの学年に通っていた者なのですが……今生徒会長である伊勢美さんとは知り合いで、度々近況を聞いているのですよ」

「……」


 その自己紹介に、茜は思わず動きを止める。そして思わず。


「年上!? 同い年かと思った!?」

「なっ!? 貴方、無礼千万ですよ!!!! 私は18歳!!!! 貴方よりも年上ですっ!!!!」

「ひぇぇぇぇごめんなさいっ!!!!」


 思いっきり怒鳴られて、茜は慌ててその場で土下座をする。こ、怖いよ~~~~!!!!


『ボクもねぇ、まえまでこの学校にかよってたんだ!! 聖偲歌っていうの!! よろしくね~!!』


 そして背が高い方──聖さんは茜の様子など欠片も気にせず、のほほんと自己紹介をする。瀬尾さんに、聖さん……どうやら、会長さんと関わりがある人、らしい。


「ほ、本当にごめんなさい。あっ、あの、もし宜しければ、貴方たちのことを知りたいのですが……」

「え? ……まあ別に、いいですけど」


 床に正座をしながらそう言うと、瀬尾さんが腕を組みながらそう言ってくれる。あれ、意外と優しい……。


「先程も言った通り、瀬尾風澄です。『風月玄度』という風を操る異能力を持っています。今は……花屋でこうして手伝いをしています。元風紀委員長です」

「ひぇ、委員長様……」

「様を付けられるような役職ではありませんが……」

『ボクはね~! 聖偲歌だよ! えっとね、花屋さんではたらいてるよ!! ボクの声は人をあやつっちゃうからね? この機会でいのうがかってに使われないようにしてるんだ~』

「そ、そうなんですね……」


 してもらった自己紹介に茜は頷く。……瀬尾さん、風紀委員長だったってことは……小鳥遊言葉とも関わりが深かったのかな。


「それで、貴方は?」

「え?」

「えって、自己紹介されたならし返すのが礼儀では?」

「あ、茜は面白い自己紹介とか出来ないので……!!!!」

「自己紹介に面白さなど求めていません」

「ひぇぇぇぇ」


 瀬尾さんに責められ、茜は震えあがる。しかしその鋭い視線から逃れることなど出来るはずもなく、茜は口を開いた。


「ち、千馬茜です。1年生で、生徒会書記と、会計を、しています……」

「生徒会の仕事は大変でしょう」

「は、はい、本当、仕事が多くて……」

「でしょうね。もう少し人員を増やしてもいいとは思いますが……小鳥遊さんの時とは違い、今は3名いるみたいですからね。いくらかは楽かもしれません」


 やっぱりこの人、小鳥遊言葉のことを知ってるんだ。

 もっと聞きたいな、と思ったけれど……そこで聖さんが、すぅちゃん、と声を出した。


『そろそろ行かないと、じかんないかも』

「え? ……あっ、いけない!! すみません千馬さん、私たちはこれで失礼します」

「あっ……お疲れ様、です」


 慌てて駆け出す2人の背中に、茜はそう声を掛ける。もちろん届いてないだろうけど。


 ……茜がもっと、喋るの上手かったらなぁ……。





 校内ばかり歩いていてもあれなので、外に出てみることにした。生徒の姿もチラホラあり、だから茜はなるべく彼らの視界に入らないよう、日陰を歩いていく。


 やっぱり校舎に戻ろうかな、と考え始めていると……そこでとある少女を見つけた。見覚えがない子だ。あんな綺麗な子……ここの生徒だったら絶対覚えてる。覚えてないってことは、ここの生徒じゃないってことだ。というかあれ、有名なお金持ち私立校の制服じゃ……!? なんでこんなところに!? 直立不動だけど、迷子かな!?

 迷子なら声を掛けるべき? それとも放っておいても大丈夫なのか、とグルグル茜が考え始めると。


「ねぇ、どうしたの?」

「ホワァッ!?」


 いつの間にかその美少女が茜に近づいてきていて、茜に話しかけに来た。


 近くで見ると、より綺麗な少女だと分かる。真っ白な髪、虹色に輝く幻想的な瞳、すっと細い鼻筋も小さな口も小さな顔もまるでフランス人形のようで、この世の物ではないみたいだ。モデルでもおかしくないくらいの美少女。え!? 茜なんかが隣に並んでたら、茜、灰になっちゃうよ!? いや、灰になるくらいが丁度いいか……。


「カーラさん、どうしたんですか?」

「あ、大智」


 するとその美少女が顔を上げる。それに伴って茜は振り返り……。


「オワーーーーッ!?!?!?!?!?」

「ぇわーーーーーーーーーーッ!?!?!?!?!?」


 茜が悲鳴を上げると、その人も悲鳴を上げる。だって、で、で、でっか!? 身長大きすぎる!? あ、茜踏み潰されちゃわない? というかこの美少女、この高身長の人のこと怖くないの!?


「この子がカーラのことじっと見てたから、何か用があるのかなと思って話しかけたです」

「えっ……あ、ああ、なるほど……すみません、急に背後から現れてしまって……」

「ひぇ!? いっ、いえ!! 茜こそすみませんっ!?」

「わーーーーっ!? 土下座しないでください!?」

「大智も土下座してるじゃないですか」


 茜が慌てると、つられてこの高身長の人も慌ててしまうらしい。茜と一緒だ……と少しだけ親近感がわいた。

 とりあえずお互い落ち着いてから、ようやく冷静に話を始めた。


「カーラは、カーラ・パレットっていうですよ。中学1年生で、今日は仕事でここに来てるです」

「し、仕事、モデルとか……?」

「え? 警察だよです」


 警察? と首を傾げてしまう。まずこんな花も折れなそうな可憐な美少女が警察なのか? ということと、警察が明け星学園に何の用だろう……ということである。


「別に事件とかは起きてないですよ。隊長……上司が灯子……ここの生徒会長に用があるので、ついでに遊びに来ただけです」

「よ、用って?」

「定例報告、みたいですよ」


 定例報告。会長さんから少しだけ聞いたことがある。会長さんは小鳥遊言葉の監視の役割を担っていて、だから定期的に様子を報告しているのだと。

 ……そういえば、警察の人がよく来るから、来てたら僕を呼んでと言われていたな……と思い出した。会ったことなかったから、すっかり頭から抜けていた。


「僕は尊大智、20歳で……一応僕も、警察です……」

「あ、えと、千馬茜です。生徒会書記兼会計をしてるから、もしかしたら今後関わる機会があるかも……ですね……」


 主に仲介的な意味で……。


「尊、パレット、その子誰だ?」


 するとそこで声が増える。茜は振り返り、また悲鳴をあげた。


「あ、隊長。この子、生徒会の子らしいですよ」

「え? ……ああ、噂の新入生の子か。初めまして。対異能力特別警察の青柳泉です。……こっちは俺の部下の忍野密香。今後何度か生徒会室にお邪魔することになると思うから、よろしくね」

「あ、あわわわわわ初めまして……」

「……溺れてるのか?」


 やって来たのは、青髪の人と灰髪の人。どちらも顔が良く、そのオーラに茜は倒れそうになってしまった。情報過多……。


 い、いやでも、この人たちも会長さんと馴染み深い人っぽいし、色々話が聞けるかも!!


「あっ、あのっ、茜は千馬茜っていいます。あの、1年生で、生徒会の書記で会計で……」

「……もっとしっかり喋れねぇのか」

「ひぇっ!? すすすすみません、あの」

「ひーそーか、圧掛けるんじゃねぇよ」


 喋ろうとしたところを灰髪の人──忍野さんに苦言を呈され、その氷より冷たい声に茜は震えあがってしまう。青髪の人──青柳さんがごめんな、と謝ってくれたけれど、茜は無言で首を横に振るしかなかった。

 だ、駄目だ、怖い。茜、喋れない!!


「そいつに構ってる暇ねぇだろ。次急ぎの仕事入ってんの忘れたのか」

「あ、忘れてた。……にしても言い方。千馬、本当にごめんね。今日のところはこれで失礼するから、また」

「は、はい……」


 青柳さんに優しく挨拶され、それだけ返す。彼は申し訳なさそうに微笑んだ後、3人を引き連れて去って行った。


 警察である4人の姿が見えなくなった後、茜は深々とため息を吐く。こ、怖かった……あの人たちから話を聞くの、茜には無理そう……。


 全身にドッと疲れが襲ってきた。校舎、戻ろう……。





「千馬さん、お帰りなさい」

「会長さん……」


 生徒会室に戻ると、そこには会長さんの姿があった。そして代わりに副会長さんの姿がない。どこに行ったんだろう。


「墓前先輩なら、後輩に呼び出されて服飾部の方に行きましたよ」

「あ、そうですか……」


 思考を読まないでほしい。たぶん、茜の無意識な仕草で考えていることを読まれたと思うんだけど……普通に怖い。


「随分色々な人のところを回っていたようですが……収穫はありましたか?」

「……あまり」

「そうでしたか、残念でしたね」


 会長さんが苦笑いを浮かべながらそう言う。茜は黙って頷いた。


 ……たまたま、会長さんに関わりのある色々な人に会えたけど……何も話は聞けなかった。なんかもっと上手いやり方、探さなきゃ。

 こんなことで、折れるわけにはいかないから。


「……会長さん」

「なんですか?」

「会長さんは、なんで茜を、生徒会に入れたんですか」


 茜がこの人と初めて会ったのは、入学式の日。茜は、絡まれている人を見ていただけ。会長さんは絡まれていた人を助けた。ただ、それだけ。茜は会長さんが気に入りそうなところなんて見せてないし、そもそも自分が誰かに気に入られる人だなんて、思っていない。

 なのにこの人は、翌日に茜を生徒会に勧誘してきた。


 茜としては都合がいいけど、理由は分からない。


「さあ、どうしてだと思いますか」


 茜が回答を待っていると、会長さんは少し悩んだ末そう聞き返してくる。茜は思わず言葉を失ってしまった。


「こ、こっちが聞いてるんですけど」

「すみません、返し方がズルかったですね。……理由は言いません。僕の勘違いの可能性もあるので」

「勘違い……?」


 何をどう勘違いするのだろう。少しだけ目を、言葉を交わしただけの、あの瞬間に。


「勘違いであることを願います」

「……それを茜に言われても、困るんですけど」

「そうですね。正論です。……何はともあれ、これからもよろしくお願いします。千馬さん」


 真っ直ぐな、その瞳を見つめ返した。


 自己紹介されなくても、彼女のことは知っている。──伊勢美灯子。物を生成する能力、そして消去する能力の2つを持っている。よく武器として日本刀を用いており、恐らくこの学校で一番強い。色んな人から慕われる一方、怖がられていることもあるけど、本人はあまり気にしていないようだ。彼女が気にするのは、いつだって1つだけ。


 ──小鳥遊言葉。かつて世界中を震撼させた、凶悪な異能犯罪者。


 伊勢美灯子は、そんな小鳥遊言葉を命懸けで止めた。その勇姿はあっという間に世界中に広がり、彼女は世界を救った英雄になった。


 しかし一方で、彼女は異能力で人を殺したことがある、らしい。どうやら彼女はそれを、生徒会長になる際に全校生徒の前で言ったそうだ。茜はそれについて、知らない。でも彼女がそれを否定するような様子はないから、たぶん事実なんだろう。


 そんな伊勢美灯子は、いつだって小鳥遊言葉を第一にし、大切にしている。彼女たちの間に何があったのか、茜は知らない。だけどその間にある空気は温かく、何て言えばいいんだろう……他の人が入れない何かがある感じがする。


 茜にはそれが、理解できない。

 だから、理解しないといけないと思う。


 ──茜の、本当の目的を達成するために。


「……こちらこそよろしくお願いします。会長さん」


 茜は微笑みながら、頷いた。

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