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もう1つの約束された永遠

 初めはとても戸惑った。だって私は死んでしまったはずで、だから、こうしてまた彼女のことを見ることが出来ているのは、おかしい。本来許されないはずのことを、急に出来ますよと許可を出されたような気分だ。そして私は、許可を出されたところで何をしようか、思いつかなくて──。



 ──なんてことは、全くなく。



「きゃ~~~~っ!!!! 灯子の言うことに照れてる言葉ちゃん本当に可愛すぎる!? ねぇねぇ今の見た!? 本当にこの時間が永遠に続いてほしい……私永遠に見守り続けるから……」

「ああもう!! 鬱陶しいですねぇ!!!! いい加減黙ってくれませんかぁ!?」


 私──一星ののかは、この時間をエンジョイしていた。


 死んだはずなのに、灯子を見ることが出来ている。でも灯子に話しかけても彼女に聞こえている様子はなくて、私も実体がなくてふわふわ浮いていて……。とにかく戸惑ったよ。でも灯子はなんだか危なげな様子で、でも私には何も出来なくて……そんな時、墓前先輩に出会ったんだ。正確に言うと、私じゃなくて灯子が、だけど。


 灯子のことを溌剌伊勢美と呼び、自分は憑き物が見える、と教えてくれた。……その時、それとなく私を見ていたことに、私は気づいた。

 その視線に敵意はなかったから、たぶん私は灯子の守護霊になったのだと思う。そう分かっただけでも冷静になれたから、墓前先輩には本当に感謝しかない。


 で、私は晴れて守護霊デビュー(?)したわけだけど……特に出来ることがあるわけじゃなかった。たまに、本当に強く祈ると、力が出てくるような感覚はあったけど……でも本当にたまにだ。基本的には、見てるしか出来なくて。やっぱり無力感はあったけど、でも、幸せだよ。

 だって親友が最高にカッコいい瞬間を、こんなに近くで見れるんだから。


 幸いにも私は孤独じゃなかったし。墓前先輩もそうだけど……今私が言葉を交わした、この方も。


 隣にいる……いるって言って良いのかな? まあいるってことにしておこう。隣にいる人……人って言って良いのかな? まあ人ってことにしておこう。隣にいる人は言葉ちゃんの守護神さん!! ……守護神だったら人じゃなくて神さまじゃない? まあ、私もこの人も神さまっぽくないから、やっぱり人なのかなぁ。……細かいことは気にしなくていっか!!


 とにかくこの人は、初めから言葉ちゃんの近くにいた。もちろん同じ守護霊同士、視線を交わすことはあったけど……話すようになったのは、本当に最近だ。それまでは、ちょっと睨まれてる……? って感じだったし。

 言葉ちゃんと見た目が瓜二つの人。その格好はちょっと不思議で、まるで天使みたいに綺麗なんだ!! だから私はその人のことを、天使さんって呼んでいた。名前、未だに知らないし……。


「貴方、言葉のことをどう思ってるんですかぁ?」


 初めて彼女が話しかけてくれたのは、とある放課後のことだった。その日は夕日がとても綺麗で、いい景色だったな。灯子は言葉ちゃんと手を繋いで、体育座りでお互いに寄りかかりながら眠っていた。私と天使さんは黙ってそれを見守っていたんだけれど。

 その時、脈略もなく天使さんがそう聞いて来たのだ。


「……私に話しかけてます!?!?!?!?」

「うるさ……貴方以外に私の声が通じる者は、他に誰もいないじゃないですかぁ。馬鹿なんですか?」

「えーっ!!!! 嬉しいです!!!! 私、ずっとずっとお話してみたいと思ってて!!!!」

「近い!!!! 距離感おかしいんじゃないですかぁ!? 調子もおかしいですよ!!!!」

「逃げられないようにしようと思って」

「迷惑がられる自覚はおありなんですねぇ……」


 天使さんは私にジト目を向けてくる。私は苦笑いを浮かべた。だって、灯子にはずっと「鬱陶しい」と言いたげな目を向けられてたからね……。

 それでもめげる私じゃなかったけどね!! だって、一度きりの人生だよ? 大好きな子には大好き~~~~って伝えながら生きていかないとね!!!!


 えーっと、それはともかく。天使さんの質問に答えないとね。


「それで、言葉ちゃんのことをどう思ってるか、ですか?」

「急に落ち着かないでもらえますかぁ……? 怖いですからぁ……。そうですけどぉ……」

「うーん、どう、ですか……かわいい女の子だな~って思います」

「ふん、分かってるじゃないですかぁ。そうです、言葉は世界で一番かわいい女の子ですぅ」


 私の言葉に、天使さんは一気にドヤ顔になる。世界で一番、という言葉を使うあたり、本当に言葉ちゃんのことが大好きでたまらないということが伝わってくる。


「まあ言葉が世界一可愛いのは周知の事実だとして……本当にそれだけですかぁ?」

「どういう意味ですか?」

「そのままの意味ですけどぉ」


 私が聞き返すと、彼女は指先で毛先をくるくるといじりながらこちらを見つめる。──まるでこちらの出方を窺うような、厳しい目で。


「貴方はこの女の守護霊。つまりこの女に害をなすような人間を、貴方は許すべきではありません。……貴方から見て、言葉は『害をなす人間』ではないのですかぁ?」

「……」


 私は黙って、そして。


「この子は伊勢美灯子って名前があります!! この女じゃありませんっ!!」

「いたぁっ!? ……この偉大なる大天使にデコピンしましたねぇ!? 私の!! 麗しく!! 艶のような肌に傷を!?」

「流石に灯子のことを『この女』とか、あからさまな敵意を向けられたら怒っちゃいますよ!! 守護霊ですからっ!!」


 あんまり怒るのは得意じゃないけど、怒らないといけない場面があることは分かっている。そして今はその時だと判断した。


 天使さんはその大きな緑色の瞳に涙を貯め、額を両手で抑えている。悪いことしちゃったかな、と胸が痛むけど……でも、親友のためだから致し方なし!!


「ふん!! 所詮はあの女の守護霊ですね!! 野蛮で短絡的行動ですぅ!!!!」

「あーっ!! また『あの女』って言った!!!! もう一発デコピンお見舞いしちゃうんですからねっ!!」

「くっ、そうはさせませんよぉ!!」

「てやーーーーっ!!!!」

「とやーーーーっ!!!!」


 私たちはそうやってしばらく手刀を交わし……。


「……私たち、一体何をしてるんですかぁ?」

「……そっちが始めたことじゃないですか!!」


 しばらくすると正気に戻った。どちらからともなく手を下ろし、お互い肩で息をする。死んでも息が切れるんだから、不思議なこともあるもんだよね、本当に。


 それで、何の話をしてたんだっけと記憶を巡らす。すぐに思い出すと、私は口を開いた。


「まあ、本当に言葉ちゃんが灯子を殺しそうになる……とかなら、私は全力で止めるだろうし、それこそ許すことは出来ないのかもしれないけど」

「……何の話ですかぁ?」

「いや、貴方の質問への答えですけど!? ……許せないかもしれないですけど、でも、今は全然……恨みとか無いですよ。だって人は生きる限り、傷つけて傷つけられるものですから」


 私もそうだ。私だって灯子に傷つけられたし、傷つけてしまった。

 そうして私たちの距離は、永遠に離れてしまった。


「でも、灯子たちは言葉を交わした。想いを渡して、心を通じ合った。……それでいいじゃないですか。私は、それが一番いいと思うから」


 灯子は言葉ちゃんと話すことを選んだ。言葉ちゃんは、間に合った。そうして今、こうして手を繋いで一緒に居る。

 灯子がこんなに幸せそうにしている。まさしく言葉ちゃんのお陰だ。


「……貴方、気持ち悪いですねぇ」

「えぇ!? 酷くないですか!?」


 そしてジト目でそれを聞いていた天使さんは、ポツリとそんな感想を漏らす。私は思わずそう叫んでしまった。


「だって私が知る人間は、もっと私欲的で自己中心的で、私はそんな人間の醜さを見つめるのが大好きでしたからねぇ♡」

「わっ、すごい趣味だ……」

「貴方にはそういう面白さが見当たらないんですよぉ。だからなんだか気持ち悪い人間だなぁ、と思います」

「うーん、1周回って褒められてるのかな。これは」


 天使さん基準では褒められてないんだと思うけど……。


「でも、私は誰よりも自分勝手な自信がありますよ」

「はい?」

「だって私は生きることを灯子に託したし、こうして灯子が幸せなところ勝手に見て楽しんでるし……何より、言葉ちゃんに嫉妬してますし」

「嫉妬」

「はい。……だって私は灯子のこと、こういう顔に出来なかった。私、灯子の親友だったのに」


 私が私として最後に見た灯子の顔は……悲しそうに、泣いている顔で。

 灯子には笑っていてほしかった。本人は恥ずかしがるだろうけど、笑顔がとっても素敵だったんだ。いつか灯子は色んな人に愛される。私がそう思ったように。……でも私がしたのは、悲しませることだけだったから。


 なのに言葉ちゃんは、灯子をこんなに幸せにしちゃった。これを嫉妬と言わず何と言うのだろう。


「だから私、自分勝手な人間ですよ!!」


 説明して、そう締めくくる。天使さんはキョトンとしていたが……。


「ふふっ……あっはっはっは、なんですかそれぇ!! 大変愉快ですねぇ!!」

「えっ!? そんなに面白かったですか!?」

「ええ!! はぁ……てっきり貴方は、善性のみで構成されているつまらない聖人君子だと思っていましたが……私の早とちりのようでしたねぇ。申し訳ありませんでしたぁ」

「いやいやそんな、顔上げてください!!」


 でもやっぱり褒められてるのかそうじゃないのかよく分かんない!!


「ちなみに私は、生まれた時から見続けていた可愛くてかわいくて仕方がない言葉をたかが1年で奪いやがったこの女のことを本当にとてもいけ好かないと思っていますが、言葉が一緒に居ると決めた以上、これから貴方と共にいることになるのでしょう。よろしくお願いしますねぇ」

「う~ん、守護神の出番かなぁ」


 差し出された手を素直に取ってしまっても良いのか、ちょっと不安になってしまう。まあ、言葉ちゃんのことが大好きなゆえに言葉ちゃんが悲しむようなことはしないだろうし、面白いからいっか!

 私はその手を握り返す。そしてずっと気になっていたことを尋ねた。


「あの、天使さん……貴方のお名前はなんていうんですか? 私は一星ののかっていうんですけど……」


 私の問いかけに、天使さんは目を見開く。しかしすぐに柔らかく細めると。


「……ふふ、名は剥奪されてしまったので、ないんですよぉ」

「剥奪された?」

「ええ、私、こう見えても結構悪いことをしちゃった天使なんですぅ」


 うーん、こう見えても、と言われても結構想像出来ちゃうな~。


「だから、名前も立場も奪われてしまいましたぁ。こうして言葉を見ることも、私の罰なんですぅ。……本当に言葉を思った時に、私は言葉を助けることが出来ない」

「守護神なのに、ですか?」

「ええ。不甲斐ないですけれど……ツケが回って来たんですよぉ。因果とは、そういうものですからぁ」


 そう言って笑う天使さんに、私は何と返せばいいか分からなかった。だけどそんな私のことを、天使さんは笑い飛ばす。


「大丈夫ですよぉ。本当に不本意ですが……伊勢美灯子が、言葉のことを一生大事にして、守ってくれるんでしょう? ならいりませんよ、貴方も、私も」


 ね、と天使さんは私に告げる。私はその言葉ちゃんによく似た笑顔を見つめ……ようやく笑うことが出来た。


「……そうですねっ!!」





 ところで、私を敬うことは大変素晴らしいことですが、一応長い付き合いになるわけですし敬語やめてもらえますかぁ? と天使さんに言われたこともあり、私は天使さんとタメ口で話す仲になった。話題の中心はもちろん……灯子と言葉ちゃん!!


「貴方は本当にうるさいですねぇ!! 言い方あれですけど、ここは静寂を楽しむエモエモシーンじゃないんですかぁ!? 貴方の副音声で全て台無しなんですけどぉ!?」

「だってこんなっ……!! 灯子の言葉に照れて何も言葉を返せないけど少しだけはにかんでくれる言葉ちゃんは可愛すぎるし、そんな言葉ちゃんを見て幸せそうに微笑む灯子なんてほんと……涙なしで見れないじゃん……!! 叫ばずにはいられないじゃん……!!!!」

「え、泣いてる。気持ち悪いですねぇ……」

「酷い~~~~天使さんも咽び泣こうよ~~~~」

「くっつかないでくれますかぁ!? 同類だと思われたくないんですけどぉ!? というか言葉がどんなモーションをしても世界で一番可愛いのは周知の事実ですが、隣にあの女がいると思うと素直に感情移入できないんですよぉ……」

「あーっ!! また『あの女』って言ったーーーー!!!! デコピンしちゃうよ!!」

「……言葉とあの女が末永く共にいると、私がこの女と末永くいることになってしまうの、何かのバグでしょうこれぇ……」

「私はののかです!!」

「知ってますよぉ、名前を叫ばなくていいですからぁ……」


 ……まあこんな感じで、私と天使さんは一緒に話す日々を送っている。この言い合いは、あれだよ、喧嘩するほど仲が良いってやつだよ!!


 だからね、うん。……守護霊になってすぐは、どういうことか分からなくて、混乱して、寂しくて、不安だったけど……私、今すっごく楽しいよ!!

 だからね、灯子。そっちも永遠とわに幸せにね!!

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