思い出を語る(音宮鳴子)
誰が最初に言い出したかは分からない。でも同窓会をすることになった。かつて通っていた、明け星学園で。
「同窓会するほどまだ卒業してから日が経ってない気がするのですが」
『まあまあすぅちゃん、こまかいことは気にしない!!』
「……まあ、別にいいんですけど……」
2人の会話を聞きながら、俺は苦笑いを浮かべる。確かに、このメンツもまだ別に大して懐かしいと思わない。
「ただ単に、集まる口実なんじゃないかな」
「結構な人を巻き込んだ口実ですね……というか偲歌は、仕事でよくここにきているわけですし、場所的な意味でも大して懐かしくないのでは?」
『ふふん、まあね!! 明け星学園のことならおまかせあれ、だよ!!』
「それは私たちもそうなのですが……」
「あはは、大して校内図も変わってないしね」
『というかなるこくんも、よく学校きてるよね?』
「あら、そうなんですか?」
「あー、まあね」
俺は思わず少しだけ目を反らしながらそう答える。何故ならその理由を正直に話すのが少し気恥ずかしいから。
『ほら、すぅちゃん。新しい図書いいんちょうの子!! なるこくんの彼女!!』
「ああ……って偲歌!! そういったことを大きな声で言わない!! 音宮さんが憐香惜玉にしている彼女さんと会うために学校に頻繁に足を運んでいることを、皆さんに知られてしまうじゃないですか!!」
「あの、聖は素だろうけど、瀬尾に関してはもうわざとだよね?」
「あら、ごめんなさい」
「全然悪いと思ってなさそう……」
別にいいんだけど。隠してるわけじゃないし。ただちょっと恥ずかしいから、自分から言わないってだけで。
「それはそうとして、記憶が正しければ結構続いていますよね?」
「え、話す流れなの?」
『聞きたい聞きた~~~~い!!!!』
「えー……あんまり面白くないと思うけど……まあ話せる範囲ならいいよ」
『やった~!!』
俺の返事に、聖がぴょこぴょこ跳ねながら喜ぶ。その喜びに相応しい話を提供できるか分からないけど……まあそこは、元放送委員長としての腕の見せ所かな。……別に見せなくてもいいか……。
「えーっと……俺が2年の終わりくらいから付き合い始めたから、ちょうど1年くらい続いてるかな……って、言うほどそんなに続いてるかな?」
「高校生でそれだけ続いていればいい方だと思いますよ。高校生なんて、気軽に付き合っては別れての連続じゃないですか」
「瀬尾さん、なんか考えが捻くれてない?」
「校内で不純異性交遊を何度も取り締まった私の気持ちになってください」
「あっ……お、お疲れ様でした……」
そうだ、瀬尾って風紀委員会の委員長だったんだよね……。それはなんと言うか、心中お察しする。
なんの話? と首を傾げる聖に、こっちの話だよ、と瀬尾と2人でこの話題を終わらせてから。
「音宮さんは確か、ラジオパーソナリティをしてるんですよね? やはり仕事の合間に会いに行く感じですか?」
「そうだね、担当の曜日があるから……仕事がない日に行く感じかな」
明け星学園で何度か喋っていたのを、たまたまラジオを運営している人が聞いてくれていたらしい。まあ明け星学園、よくイベントの様子を動画で生配信してるからね。で、俺は運良くそのトークスキルを買われて……晴れてラジオパーソナリティとして仕事を貰えている。
……瀬尾とかそこらへん苦労しているらしいし、本当に、俺は幸運だと思う。
『ねぇねぇ!! かのじょさんとはいつも、どんな話してるの!?』
「え、えー、どんなって……別に普通だよ」
『ふつうって?』
「えー……お互いの近況とか……」
『きんきょう?』
「最近自分にあったこと、ということです。例えば偲歌だったら、初めて花束作りの仕事を1から10まで任された……とかですね」
『なるほど!』
「あれ、それってなかなか許されないことだってこの前言ってなかった? ……すごいじゃん、聖」
『えへへ!! がんばったからね!!』
聖は花屋で働いていると、瀬尾から聞いていた。上手くいってるようで良かったな。
『それで、なるこくん!』
「うん?」
『いちゃいちゃ、はしないの!?』
「……ノーコメントで」
それは流石に話せない。
えーなんでなんでー、と喚く聖を、やめなさい偲歌、と瀬尾が冷や汗をかきながらいなす。申し訳ない。けど話せないものは話せない。というか、人にするべき話ではないと思う。
「え、えーっと、人だいぶ集まりましたけど、まだ始まらないんですかね!?」
「あ、あー、えっと、そうだね。まだいない人とか、いるのかな……」
瀬尾が無理矢理話題を変えてくれたのをいいことに、俺は辺りを見回す。いない人、と口に出してから、思い至る人が1人だけいた。
……小鳥遊。
念のため人混みの中から探してみる。だけど、やはりその姿は見えなかった。
『ことはちゃん、来ないのかなぁ』
すると俺の視線の意味を察したのだろう。聖がのんびりとした口調でそんな風に告げる。口にしにくい話題でもこう、シリアス感ゼロではっきりと言えてしまうのが聖の良いところだと思う。
「……来ない気がする。小鳥遊、こういうとこ苦手だし」
「そうですか? 彼女は人前に出ることには慣れていると思いますが」
「慣れてると苦手は、両立することだと思うな。……というか、ああいうことをした以上、顔を出せないと思ってそう」
「……そうですね」
俺の言い分に、瀬尾は神妙な顔で頷く。
──小鳥遊は本来、人前に出ることがあまり得意ではない。俺がそれを知ったのは、1年生の最後の方だった。
副会長として働く小鳥遊。何故か放送委員長に気に入られて幹部会議とかに連れ回されていた俺。だから関わりを持つのは自然な流れで。
ただ同席する俺とは違い、小鳥遊は発言する機会も多かった。同じ1年生なのにあんなに堂々として……すごいなって視点で俺は見てたんだけど。
ある時、見たんだ。発言する機会を控えている小鳥遊が、誰もいないところで1人、蹲って震えているところを。
そこで初めて知ったんだ。小鳥遊は本当は、そういうことをするのが苦手なのだと。
特に声は掛けなかった。だから小鳥遊は、俺が知っていることを知らないと思う。
蹲っていたあの小さな姿。あれは、生徒全員を人質に取って喋っていたあの時と、よく似ていた。
良くも悪くも暇があったからもちろん色々考えたけど、あの時一番考えていたことは、「小鳥遊、すごく無理してそうだけど大丈夫かな」だった。これから自分を殺すかもしれない相手を心配するなんて、変な話だけど。
「小鳥遊、元気だといいな」
「元気ですよ」
「え?」
俺がぼやくと、瀬尾がすぐにそう答える。思わず聞き返すと、瀬尾はジト目をしながら続けた。
「小鳥遊さんがもし不調だったら、伊勢美さんがこういう機会を与えたりしていないでしょう。今の彼女はあの人第一ですから」
思い出す。「言葉を探している」と言っていた、あの子を。
……確かに、そうだな。あの子は小鳥遊のために命を張って救い出してくれた子だ。今もそれは、変わっていないのだろう。
「……そうだね。それもそうだ」
俺は微笑んで頷く。そんな俺を見て、瀬尾もようやく小さく笑ってくれた。
「ところで音宮さんはどうして私たちといるんですか?」
「え?」
「えって……貴方も同性の友人とか、いるんじゃないんですか?」
『なるこくん、おともだちいないの?』
「いやいるよ!? いるけど、もうそっちとは結構話したし普段から連絡取ってるし……滅多に会わないし余程のことじゃないと連絡取らない2人と話したいと思って」
『うれしい!! ボクもしゃべりたかった~!』
「あはは、それなら良かった」




