6 スカーフは万能
セスが出かけていった。
今日こそは、スカーフの検証をしなくては。
ビスケット事件から暫くセスが私から目を離さなくなってしまったのだ。
私は、猫らしく振る舞った。つまりずっと寝て過ごした。
セスは諦めて、仕事に出かけるようになった。良かった。
まずは元の姿に戻れるか、試してみよう。
スカーフに爪を引っかけて願う。どうか、人間になれますように。
すると、ピカピカの光が、私の周りに渦巻いて、私は元に戻っていた。目の前には鏡がある。準備は怠らなかった。鏡のある風呂場で、検証したのだ。
「良かった。元に戻れている。でもこのままでは外に行くことは出来ないわ。」
この場所はどうやら、日本人の醤油顔はいないらしいのだ。目立ってしまえば、ここから出ることは出来ない。さらにこの服装も頂けない。灰色のズボンに、茶色のジャケットだなんて。
スカーフはなくなってしまっていた。若しかしてこの服に魔法の力が移ったのかしら。彼方此方触って、魔法を試してみたら、どうやらポケットが魔法を使うためのツールになったようだ。
もう一度願ってみる。以前大ファンだった昔の映画俳優の顔を思い浮かべて。
やはりまた、ピカピカだ。そして綺麗なそして肉感的なあの女優の姿になった。
私の理想の姿。うれしい!一度こんな姿になって見たかったのだ。凄い魔法だ
「服はこのままでいるしかないのかしら。せめてズボンを替えたい。」
ポケットに手を突っ込んだ儘なのに気がついたのは、ズボンがスカートに替わった後だった。
「凄い。何でも出来ちゃうじゃん。若しかしてお金も出せちゃうかも。」
出てきた。出てきた。でも、日本円は此処では使えない。此方のお金を出して、ここから出て行こう。
セスには世話になったけど、この姿を見ればがっかりするでしょうね。あんなに猫好きなら、泣いてしまうかも知れない。どこかに落ち着いたら、可愛い猫をプレゼントしてあげよう。
私は家を出た。
窓からしか診る事が出来なかった、街の姿を見ながら、珍しさに心が浮き立つ。
「外国旅行、只で出来たみたい。言葉の心配もいらない見た目も気にしなくて良い旅行。すばらしい。
「これの値段はおいくら?」
「へい。300ナルでやんす。」
へえ、ナルというのが此処の貨幣なのね。ポケットに手を入れて願って見ると金色の硬貨が出てきた。
其れを店主に差し出すと、おつりがないので銅貨で支払って欲しいという。
ポケットに手を入れ同じ事を繰り返し、買い物を済ませることが出来た。
「これで自由になれる。」