5 喧嘩に負けた
俺は、同族の匂いに気がついた。
此方に近づいくる。なんだ!俺よりも大きなオオカミ。これは、逃げないと、やばい。
俺は必死に逃げたが、凄いスピードで追いかけてくる。もう追いつかれる。
仕方がない、降参だ。尻尾を尻の間に挟み、こびを売る。それでもだめなら、腹を見せて降参のポーズを取る。流石オオカミの気質が染みついている。自然に出来た姿勢だ。本当に俺はオオカミになったのだ。
「ぐるるるーっ。」
怖そうな、雌だ。彼女は俺の首に噛みついた。俺の首に付いていたスカーフがちぎれ飛んだ。
丁度良かった。苦しく締め付けるスカーフが取れて、スッキリした。
かまれた首から血が流れてきた。痛むが、それほど深くない傷だ。オオカミなら直ぐに治ってしまうさ。
その後、俺は彼女の群れの一匹になった。
彼女から雌の匂いがしている。発情期が近いに違いない。群れの雄達は我先にと彼女に挑むが誰も勝てそうにない。俺はその戦いには参加出来ない。
俺は、群れの中では新参者だ。何時も皆に追い回されて、何時も尻尾を下げていなければならない。
少しでも他の奴らの前に出ようものなら、噛みつかれる。奴らの女を奪うだなんて考えてもいないさ。オオカミの気質の女はもう沢山だ。女は大人しく付いてくる方が良い。
もうくたびれてしまった。何時も腹を空かせて、食い物は皆のおこぼれを貰うだけ。オオカミも、楽ではなかった。今更ながら思い知ったのだ。
元に戻りたい。一人になりたい。どうやったら、この状況から逃げ出すことが出来るのか。
神様、どうか御願いだ。俺を元に戻して欲しい。
この群れはどうやら、何かに追われている。空を見上げると、大きな鳥が飛んでいた。
何という大きさだ、小山ほどもあるのではないだろうか。大きなかぎ爪で、一匹また一匹と捕まっては、喰われていく。恐ろしく怖い。あんなものに対抗するだなんてどだい無理な話だ。
俺は仲間がけなげに戦っているのを横目に、物陰に隠れ、この窮地を切り抜けようとした。
群れの長であ雌に俺は見付けられて仕舞い、引きずり出されてしまった。
無理だ。俺に如何しろと言うんだ!キャンキャンと、情けない声で鳴き必死に抵抗した。
暫くすると、大きな鳥は腹が満ちたのかどこかに飛んで行って仕舞った。
良かった。命拾いした。
群れは半分になってしまた。群れの長は、俺を群れから追い出した。俺の片耳を食いちぎって。
耳くらいくれてやる。命あっての物種だ。俺はまた、自由になることが出来たのだった。