15夏休み
それから一週間、つまり夏休みまでの間、旺司は休み時間に華と葵翔の元へ欠かさずやってきた。初めは戸惑っていた華と葵翔だが、一週間も当たり前に側に居ると、もう旺司がいない事に違和感を覚えるまでになった。初日同様に旺司は華だけでなく葵翔にも会話に入れるよう誘導した。やがて旺司が葵翔を会話の輪に入れなくとも、葵翔は自然と口を開くようになった。何者でもない、相手が旺司だからこそ葵翔にここまで心を許させることができたのだろう。
「今日で学校終わりだな。嬉しい」
終業式の後、旺司はいつものように華と葵翔のもとにやってきた。
「そうだね。とはいえ、僕は何も予定とかないけど」
「本当にね。明日からお休みだと思うと今からワクワクしちゃう」
葵翔と華は各々そのように返答した。
「たださ、一つ問題があるんだ」
すると、ワクワクとしたテンションから一転、突然深刻なトーンで話しだした旺司に、葵翔と華は何事かと目を合わせる。
「夏休みになったら、友達と会えないじゃん。七瀬と大花とだって。それは寂しいよ」
旺司は恥ずかしげもなくそんなことを堂々と言う。流石は旺司である。華と葵翔は面食らったが、次第に笑みが浮かんでくる。
「そんなふうに思っていてくれるなんて嬉しい」
まずつい最近まで友達のいなかった葵翔は、数週間会えないだけで深く悲しんでくれる旺司の存在に、しみじみと頬を綻ばせた。
「確かに悲しいね。もしよかったらみんなで――」
次に華が口を開き、もしよかったらみんなで遊びに行かない、と言いかけ、口をつぐんだ。なぜならその〝みんな〟には想い人である葵翔の存在もあるわけで。旺司がいるとはいえ、葵翔を自分から遊びに誘うなんて芸当は華にはとてもできない。せっかく葵翔を誘ってもおかしくない話の流れなのに途中で怖気付いてしまうなんて、華は自分の勇気のなさにため息をついた。
「でさ、提案なんだけど。夏休みにさ、みんなで遊びに行かない?」
すると、厚い雲に覆われた華の耳に、雲間から覗く一筋の光のような旺司の言葉が飛び込んできた。
「行きたい!」
華は思わず食いついて、大きな声を出してしまった。旺司と葵翔は突然身を乗り出した華に一瞬目を見開いたものの、すぐに目を細めた。
「僕もすごく行きたい」
「二人がそう言ってくれてるなら、決定だな。じゃ、具体的に決めようぜ」
葵翔も頷くと、旺司は大層嬉しそうに目を輝かせた。その後、三人で日程や行き先について案を出し合った。
「ただいま、お兄ちゃん!」
「おかえり、華。ずいぶんとご機嫌だね。何かいいことでもあった?」
学校を出て家に着くなり、華は兄の部屋に飛んで行った。漫画の中であれば音符が浮かんでいそうな華の様子にいち早く気づき、玲はふんわりと笑みを浮かべる。
「聞いて聞いて! なんとね、夏休みに葵翔くんと遊びに行くことになったんだ!」
「えぇ、何それ。どういうこと? 華が誘ったの?」
華が満面の笑みでピースサインを突きつけると、玲は目を見開いた。
「ううん。前に話したことあると思うんだけど、私、旺司っていう友達がいるんだ。その子が最近葵翔くんと仲良くて、三人で遊ばないかって誘ってくれたの」
基本的に玲にはことあるごとに恋愛相談をしている華だったが、旺司が最近葵翔と仲良くなって嫉妬している、という情報は話していなかった。なぜなら、葵翔に友達が増えることは良いことだし、何より男子同士の友情にまで嫉妬していたらいよいよ末期だからだ。
「旺司くんって、すごいイケメンの子だよね。あと性格がめっちゃいいっていう。で、その子が誘ってくれたのか。へぇ、よかったね! え、めっちゃ嬉しいじゃん、それ」
「うん!」
華は玲の言葉に大きく頷いた。また、華の話をちゃんと覚えてくれていることに嬉しさを覚えると同時に、自分ごとのように喜んでくれる兄のことを、華はやっぱり大好きだと実感した。
「で、どこに行くの?」
「USJ!」
玲の問いかけに、華は待ってました、と言わんばかりに食い気味に行き先を告げる。そう、その行き先とは、日本に住んでいて知らない人はいないであろうテーマパーク・ユニバーサルスタジオジャパンである。
「へぇ、楽しそうだね」
「うん、今から楽しみで仕方ないよ!」
華が嬉々として玲に葵翔と遊びに行けることを話していたその頃、
「母さん、ただいま。今日、学校でいいことがあったんだ」
葵翔も喜色満面で、帰宅してすぐに母親の元へ駆け寄っていった。
「まぁ。一体何があったの?」
いつもに増して楽しそうな息子の姿に、日葵の頬には自然と笑みを浮かぶ。友達がいないと発覚し、日葵がアドバイスをした後、葵翔は華という女の子と仲良くなった。それからというもの、葵翔は毎日楽しそうにしている。その見違えた姿を見て、日葵はこれまで葵翔がよっぽど退屈な思いをしていたのだと気付かされた。同時に、どうしてそんな息子の悩みに気づくことができなかったのか、と何度も自分を責めた。ただでさえ母親がこんな様子で、葵翔に迷惑をかけているというのに。さらに最近、華に加えて、旺司という友人が増えたらしい。話によると、旺司という人は稀に見る性格の良さをしているらしい。
「実は、夏休みに友達と遊びに行くことになったんだ」
「まぁ! 誰と行くの? 華ちゃんと天城くん?」
身を乗り出してそう切り出した葵翔は、今年見た中で紛れもなく一番の輝きを放つ笑顔を浮かべていた。日葵はそんな息子の様子に感動を覚え、思わず目が潤んだ。
するとその時、普段よりも感情が動いて身体に対して刺激になってしまったのか、ベッドの上にゴミ屑のような〝負〟の怪物のようなものが具現化されて現れた。日葵がそれを消す前に、葵翔がすっと剣を作り出してそれを切る。
「葵翔……強くなったわね」
日葵は久々に生で息子が具現化能力を使う姿を見て、その実力が劇的に上がっていることに驚いた。時に命の危険を伴う戦場において、息子のレベルが上がっていることに嬉しさを覚える反面、魔法少女・少年に対して複雑な思いを抱いている日葵は、その二つがごちゃ混ぜになった表情を浮かべる。
「まぁね。こんだけ長い間続けてたら。……それより、さっきの話だけど」
日葵の複雑な思いを読んでか、葵翔はその話題を打ち切り、話を元に戻した。
「そう、華ちゃんと天城くんとUSJに行くんだ」
「えぇ、すごいじゃない。遊園地行くの⁉︎ うわぁ、葵翔が!」
またしても刺激になりそうなくらい感情を動かされた日葵は、すんでのところで興奮を抑え、具現化されるのを防いだ。
「『うわぁ』ってなんだよ」
日葵の喜びように、葵翔は思わず苦笑した。確かに少し前まで友達がいなくて悩んでいた葵翔が、友達と遊園地に行くなんて誰が想像しただろうか。
「ごめんごめん。いや、それにしても嬉しいな。葵翔がこんなに変わるなんて。そうだ、写真撮ってきてね、写真! 母さんも華ちゃんと天城くんがどんな子か見てみたい!」
まるで自分ごとのようにはしゃぐ日葵を見て、葵翔はクスッと笑みが溢れた。こんなに楽しそうな日葵を見たのは久々だ。よっぽど葵翔に友達がいなかったという事実が発覚して気に病んでいたのだろう。葵翔は嘘をついていたことを申し訳なく思うと同時に、信頼できる友人が二人もできて心の底から喜びが湧き上がってくるのだった。
最後まで読んでいただいてありがとうございました!
久々に続きを書きました。やっぱり執筆って楽しいな、って改めて実感しました。
華と葵翔のUSJデート(?)、これから書くのワクワクしてます。ちなみに私はディズニーには行ったことがないのでUSJチョイスになりました(笑)。




