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14/14

14新しい関係性

それは体育祭の種目決めを行った、その翌日の出来事だった。


「おはよ〜!」


華がいつも通り声を張り上げ、教室に足を踏み入れる。いつものように、花が咲いたような笑顔をした葵翔が、「華ちゃん!」と駆けてきてくれる様子を思い描いていたのだが、


「七瀬、おはよう」

「えっ、旺司? お、おはよう」


葵翔が駆けてくる前に、旺司が笑顔で自席から歩いてきた。華は突然の出来事に戸惑いながらも、笑顔で挨拶を返す。その後で、葵翔が不満そうな顔つきで、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。


「華ちゃん、おはよう」

「う、うん。おはよう」


葵翔はムッとした顔を旺司に向けると、二人はヒソヒソ声で話し出した。


「易々と俺に先越されたな、大花。そんな不満なら、俺より先に回り込んで挨拶しに行けば良かったのに」

「天城くんがどういうふうに華ちゃんに接するのか、まずは様子見しようかと。それに……天城くんが勝手に張り合ってるだけで、別に僕は勝負しようとしてないし」

「そうか」


華は小声で囁き合う二人を見て、何が起こったのかとただただ困惑していた。その内容は華に聞かれると不都合なものなのだろうか。そもそも、昨日まで二人には接点すらなかったはずだ。だのにどうして、秘密話なんてする仲になったのか。葵翔は華以外に話す時は、あんなに流暢に話せないはずだ。なのにどうして。


「……ねぇ、旺司に葵翔くん、いつの間に仲良くなったの?」


華は二人の話が終わり、こちらに向き直ったタイミングで、微妙な笑顔を作って尋ねる。自然な笑顔を作ろうとしたのだが、予期せぬことに頬が引き攣った。すると、二人は一瞬目を丸くした後、同時にお互いに向き直った。


「僕ら、仲良くなったのかな?」

「えー、冷たいなぁ。俺ら友達だろ〜」

「あ。そ、そうなんだ。ごめん」

「いや、別に謝らなくても。これからはお互い友達ってことで」


噛み合わない不思議な会話に、華はより一層混乱する。華は頭の中を疑問符で埋め尽くしたまま、荷物を置くために自室へ向かう。葵翔の自席も華の隣なので、一緒に着いてくる。そこまでは予想通りだったのだが、なぜだか旺司までが後ろに従っている。


旺司は仲の良い友達であることに間違いはないが、わざわざ自席まで話に来るほどではなかった。華は昨日、葵翔と旺司の間に何かがあったことを確信し、また、それが旺司の行動の理由であるのだろうと踏んだ。しかし、二人は昨日あった出来事を話さなかったので、きっと追求しても教えてくれはくれないだろう。華は疑問を抱きながらも、別に旺司と一緒にいることは苦ではないので、すんなりと現状を受け入れた。


「昨日大花と話してたんだけど、あと一週間で夏休みだよな。そんで空けたらすぐに体育祭で、その一ヶ月後に文化祭。行事がぎっしり詰まってて、今からワクワクするよな」


華がリュックを机のフックにかけ終えたタイミングを見計らい、旺司がそう話しかけてきた。葵翔も隣に腰掛け、二人の様子を眺めている。

旺司の口調からも彼の高揚感が伝わってきて、華は自然と口角が上がる。


「そうだね。私も楽しみ」


それからしばらく華は旺司と夏休みの予定などを話し合った。その間、葵翔は二人の会話を横で聞いていたようだが、何も口を挟んでこなかった。きっと自分が参加しているのかわからない状態では、他の二人が話している間に入っていく勇気がないのだろう。華は是非とも葵翔と話がしたかったので、彼を会話の輪に入れようとしたのだが、


「――なあ、大花はどうなんだ?」


と、目の前から自分がまさに発そうとしていた言葉が降ってきた。華は思わず「え?」と口に出してしまう。


「ぼっ、僕?」

「うん。大花は夏休み何か予定あんの?」

「うーん……特にないかも。天城くんはおばあさんのお家に行くんだってね。楽しそう」


旺司は葵翔も会話に入れて当然、というふうに自然に葵翔に話しかける。葵翔は突然声をかけられて目を白黒させていた。そしてまた、華も葵翔と同じ気持ちで。


(二人ってほんとどういう関係性なの? 葵翔くんは旺司を友達だと思ってないようだったけど、旺司は友達のつもりだし……。てかほんと、昨日何があったの⁉︎ 葵翔くんが一晩でこんな流暢に話せるようになるなんて……)


時間をかけて葵翔に心を許してもらった華は旺司に嫉妬の念を覚えた。たったの一日、それも放課後の短時間で葵翔と話ができるようになった旺司に負けた気がしたのだ。

葵翔の心のうちを読めない華は不満げに頰を膨らませるが、実際には葵翔の他人への壁が薄れたのは、他でもない自分であることを華は知らない。


「大花はばあちゃん家とか行かないの?」

「行かないね」


旺司の問いかけに対し、葵翔の返事は短い。葵翔はそれを自分で承知しておきながらも、これ以上言葉を紡げなかった。なぜなら、葵翔の父方の祖父母とは顔を見合わせたことがないし、母方の祖父母に会おうとも、肝心の日葵が家を出ることができない状態のため、遠出はそもそもできない。何か一言でも言葉を付け足したら、そこから話が展開しそうで怖かったのだ。葵翔自身としては昔から変わらないし、それに大して感情が動くことはないのだが、話を聞いた人から同情されるのはごめんだった。


「ふーん」


葵翔は旺司がさらに質問を重ねてこないかヒヤヒヤしていたのだが、葵翔の気持ちを悟ったのか、それ以上追求してこなかった。葵翔は旺司の気遣いに感謝する。


その後、夏休みの抱負やらやりたいことやらを言い合って朝の時間は終わった。時折、旺司と華が楽しそうに話している様子を見て、やはり自分は華には不釣り合いなのだという実感が沸々と湧いた。しかしその度に、華も旺司も黙り込んだ葵翔を会話の輪に再び入れようとしてくれた。葵翔にはそれが嬉しくてたまらなかった。自分はここにいてもいいのだと再確認することができた。何より、必要とされていることが嬉しかったのだ。


「葵翔くん、ほんと、いつの間に旺司と仲良くなったの?」


と、華はひたすらに困惑して不思議がっているようだったけれど。


その後も一・二時間目の休み時間、二・三時間目の休み時間、三・四時間目の休み時間には必ず旺司がやってきた。五分という短い休み時間でも欠かさず。葵翔は心を許せた唯一の友達である華との時間が削られるのが嫌だと思っていたが、旺司は華だけでなく、葵翔にも平等に話しかけてくれた。華のように時間をかけて友情を築いた相手ではないので、彼女ほど会話を弾ませることはできない。けれども、その度に昨日聞いた〝思ったことをそのまま話せ〟という旺司の優しさに溢れた言葉が蘇り、言葉を発することができる。旺司ならば何を言っても構わない。例え自分の言葉で不快にさせたとしても、旺司は葵翔の失態を許してくれる。それがわかっているから、内心で思っていることがすらすらと口から出てきた。


そんなふうに一日の前半を過ごして、昼休みに突入した。昼休みは華は女子の友達と一緒にお弁当を食べるため、葵翔は一人になる。旺司も流石に女子の輪に入り込んで華と話をしようとは思わないだろうから、彼もまた、いつもと同じメンバーで固まってお昼を食べるのだろう。だから、葵翔は昼休みは中一の頃から変わらないひとりぼっち。前半の充実した時間と比較して、いつもと変わらないにも関わらずしんみりとした気持ちになった。


仲の良い友達と固まってお弁当を食べるクラスメートたちを横目に、葵翔は一人、自作したお弁当を包んでいた風呂敷を解いた。その時、


「大花、一緒に食べない?」

「えっ?」


と、頭上から思いもよらぬ言葉が降ってきて、葵翔は反射的に顔を上げた。そこには頭の中で思い描いていた人物と同じ、旺司が立っていた。


「な、なんで。え。と、友達は?」

「別に毎日一緒に食べないといけないっていうルールなんてないだろ。それに、大人数で固まって食べてるから、一人抜けただけなら別に構わない」


旺司は淡々と理由を告げる。しかし、それは葵翔と一緒にお昼を食べるという理由づけにはなっていない。


「も、もしかして僕と食べるため……? 待って、華ちゃんはここにはいないよっ?」

「七瀬が女子と食べてることくらい見ればわかる。俺は大花と一緒に弁当を食べるために来たんだ」


旺司はそう言ってお弁当をぐいっと前に差し出す。見ろ、とでもいうように。


「え、で、でも、よくわからないよ。天城くんがそこまでしてくれる義務なんて……」

「義務とかそんなんじゃないだろ。俺は単純に、お前ともっと仲良くなりたいと思ったから誘いに来ただけだ。そんなに不思議なことか?」


旺司の言葉に、葵翔は言葉も返せずに口をあんぐりと開けて硬直した。


「なんか言えよ……」


固まってしまった葵翔を前にして、旺司は少々困ったように頭をかいた。葵翔は自分の行動で彼を困らせてしまった、不快にさせてしまったという気持ちが慌てて湧いてくる。それをぶち壊したくて、葵翔は気持ちをいっぱいに込めて言った。


「あ、ありがとう! すごい嬉しい!」


満面の笑みにストレートすぎるお礼をぶつけられて、旺司は先ほどとは別の意味で困った様子を見せた。ほんのり赤くなった頰を掻きながら、


「お、大袈裟なんだよ。お前はいちいち……」


と、照れ隠しに葵翔を批判するような言葉をぼそっと呟く。しかし、


「でも……そんなに喜んでくれるとは思わなかった。こちらこそありがとう」


すぐにその言葉を覆すように、照れながらも眩い笑顔を浮かべてお礼を言った。


(さすがツンデレ。いや、ツンデレ以上だな。初めはツンデレって思ってたけど、別に普段からそんなツンツンしてないか。天城くんは常にいい人なんだから)


葵翔は内心でそんなことを思っていた。旺司には近い将来、完全に心を許せる。華に向けるような態度を取ることができる。葵翔はそれを確信したのだった。



「……」


その頃、葵翔と旺司の様子を遠くからじっと、睨むように見つめている者がいた。そう、他でもない華である。


いや、睨むように見つめているのは華だけかもしれないが、クラスの関心は二人に一斉に集まっていた。これまでに会話している姿を見たことのない葵翔と旺司の組み合わせに、クラスメート全員が気になっていたのだった。一方は華以外に話すことができない生粋のぼっちで、もう一方は誰もと会話を弾ませることができる学年最大級のムードメーカー。しかし、要因はそれだけではない。


「二人ともビジュが良すぎるんだけど……」

「なんか二人がイケメンすぎて、ドラマ見てる気分だわ」


そう、まずは旺司と葵翔の容姿が端正すぎることである。一人ずつでも目を惹く容姿をしているので、二人合わさるとその破壊力は絶大だった。それに加え、


「ていうかさ、なんかあの教室の角だけお花咲いてない?」

「わかる。二人だけ薔薇に囲まれてる気がする」


会話からもわかるように、ボーイズラブ感が半端なかった。王道イケメンの旺司に、女子のように美少年の葵翔。彼らが微笑み合う姿は、目にする者全員の頬を赤らめさせた。


無論、葵翔の想い人は燈華、旺司の想い人は華なので、そちらの方面とは一切縁がないのだが。むしろ、単純に同一人物へ想いの矛先が向いているわけではないものの、主人公を取り合う少女漫画のようではある。


(む〜! なんで旺司が葵翔くんと仲良くなってんのよ!)


おそらくこの教室でたった一人だけ、華は二人の様子に苛ついていた。


「華、どしたの。怖い顔して」


すると、華の様子に気がついた結衣がギョッとした顔を見せた。


「いや、なんでもない……」

「ははーん。さてはあれでしょ、大花が天城に取られる〜!とか思ってんでしょ」


華が誤魔化そうとすると、結衣は華の心のうちを読んだかのようなコメントをした。


「な、なんでわかるの」

「えー、だって華わかりやすいもん。華の信条が〝同級生全員と仲良くなる!〟なのは知ってるけど、大花とやたら話してるじゃん。華のことだから、初めは一人で可哀想だから仲良くしてあげよう!とか無意識的に思ってたかもしれないけどさ、今は違うでしょ。確実に明確な意志を持って、大花に話しかけてるよね」


結衣は揶揄うような目つきで顔をこちらに向けて、唖然とする華にニヤリと口角を上げてみせた。まるでお前の心中は全部わかっている、とでもいうふうに。


「華、大花のこと好きなんでしょ」


結衣は華の耳元でそう囁いた。華は他人に自分の気持ちを指摘されるのは初めてで、顔から湯気が出そうな勢いで顔中を真っ赤に染めた。


「ほらやっぱり」


華の反応を見て、結衣はケラケラと笑う。華はふと心配になる。


「もしかして、私の気持ちって周りから見てバレバレ?」

「まぁバレバレだね。でも別にいいじゃん。指摘されたって、大花のこと好きだけどそれが何か?って態度で開き直ったらいいよ」


華はこれまでとってきた自分の行動に恥じらいを覚えるも、結衣の割り切った言葉を聞いて、自分の性格ならばそうするのが最適だと気付かされた。恋心を知られることは恥ずかしいけれど、葵翔を好きだという気持ちは本物だ。


「てか、初めの頃に比べてさ、華と大花ってすごい仲良くなってるじゃん。最初は大花の態度冷たかったし、脈なしか、どんまい華、って思ってたんだけどね」

「え、そんな最初からバレてたの?」


思わずツッコミを入れる華を無視して、結衣は言葉を続ける。


「でも今では、大花が心許してるのって華くらいだから、今なら告ってもOKもらえると思うけど。華が最後の勇気を持てないから、天城に横取りされるんだよ?」

「もう、旺司は関係ない!」


華は最後に旺司の名前ができて、思わずムッとして言い返してしまう。だが、結衣の言う通り、勇気が出なかったのは華だ。葵翔の想い人が燈華であると判明して、華としてもっと仲良くなってから告白しようと思っていたが、親しくなった今、想いを伝えるのが怖くなったのだ。葵翔の一番を持っている今、この居心地の良い関係性を壊したくない。燈華の正体が華であると知られたら、あまりのギャップに幻滅されてしまうかもしれない。最悪の場合、意中の人である燈華と、唯一の親友である華は違う、と、どちらの関係性も壊してしまうかもしれない。それが怖くて怖くて、足がすくんでしまったのだった。


「告白はしないの?」

「うん……まだ、しないかな」


結衣にそう問われ、華は恐怖に打ち勝てずに小さく首肯した。だが、そんな悠長なことを言っていたら、葵翔を好きだと思う人が現れるかもしれない。これまでは隅に隠れて魅力が隠れてしまっていたが、華が周りに見えるように、葵翔の本当の姿を引き出したのは他でもない華だ。


(でもこんなこと言ってたら、いつまで経っても告白できないよ。葵翔くんが好きなのは燈華だから、私に恋愛感情を抱いてくれるとは思わないし。このままだと、いつまでも友達のまま……)


その日の休み時間は、暗澹たる気分のまま、お弁当も三分の一ほど残して終了した。


五・六時間目の休み時間、七・八時間目の休み時間は昼休み前と同様に、旺司が華たちの元へやってきた。旺司に心を開きたいと思い始めた葵翔は先ほどよりも少し口数が増え、葵翔を取られたくない華は反対に口数が減ったのだった。


終礼を終えて、旺司が華と葵翔のもとへやってくる。華にアピールするために、これから華との会話量を増やす、と言っていたにもかかわらず、旺司は隣にいる葵翔もその会話の輪に入れてくれている。たった一人の友人との時間を奪われるために、昨日は旺司に負の感情を抱いていたが、現実は全く異なっていた。むしろこれまで以上に充実している。


(華ちゃんにアピールするんじゃなかったの? なんで僕まで仲良くしてくれるんだろう。……いや、理由なんてないんだろうな。天城くんははただのお人よしだから)


葵翔はいつもの癖で、旺司が自分と親しくしてくれる理由を探してしまう。旺司は華に好かれたいのは紛れもない本心である。だから頻繁に話しかけにくる。そこまでは理解できる。それならば葵翔まで会話に入れてくれなくてもいいのではないか。昨日、旺司は確かに葵翔の口下手を解消する手助けをする、と言ってくれたが、華へのアプローチに比べれば優先度の低いことだろう。だから葵翔にまで手を差し伸べてくれる旺司の意図がわからない。だが、理由なんてきっとないのだろう。勝手に理由を推測するとすれば、性格の良い旺司のことだから、一人でぽつんと座る葵翔を放って置けなかったのだと思う。


「なあ、三人で帰らないか?」


旺司が突然そんなことを言ってきたので、華も葵翔も目を見開いた。しかし一秒も経たないうちに、葵翔は大きく頷いた。残った華はどんな返事をするのかと思っていたが、


「ごめん。誘ってくれてありがたいんだけど、私、いつも一緒に帰ってる人がいて、ドタキャンになっちゃうから今日は無理。また誘ってよ。あれ、ていうか――」


と、丁重に断った。いつも女子と一緒に帰るのを知っていた葵翔は、その返事を予想できていたものの、少々気落ちする。華は最後に何かを思い出したように顎に指を添え、


「佳純ちゃんはどうしたの?」


佳純ちゃん、という葵翔の聞き覚えのない名前が飛び出した。すると、その言葉を向けられた旺司の頬が明らかに強張った。


「佳純ちゃんと一緒に帰ってたよね」

「……あいつとは、今年クラスが分かれてからは、もう一緒に帰ってない」


旺司は低いトーンでボソボソと呟くようにそう言った。佳純ちゃん、という人物を葵翔は知らないが、旺司が彼女のことに触れられたくない、という頑固たる意思を持っていることは確かだった。


「……そう。じゃ、私そろそろ行くね。葵翔くん、旺司、また明日!」


華も旺司の気持ちを察して、自分が〝佳純ちゃん〟の話題を振ったせいで空気が重くなってしまい、居心地が悪かったのか、すぐに切り上げて教室を出ていった。


「……」

「……」


残された男子二人の間に沈黙が流れる。


「……大花、帰ろうぜ」

「う、うん……」


旺司にもきっと、〝佳純ちゃん〟の他に最近一緒に帰る人がいただろうに、また同様に休み時間も葵翔達に時間を使って、彼らを蔑ろにしていいのか、と思っていた葵翔は、二人で肩を並べて廊下を歩きながら、思い切って旺司に聞いてみた。すると、旺司は華のことが好きで今後アプローチするから一緒にいられる時間が減る、と事前に伝えていたことがわかった。今日は初日だからグイグイ行ってみたけど、明日からはもう少し回数を減らす、とも言われた。確かに今日は突然すぎて、華も初めは混乱していた。


「ごめんな、大花。突然キツイ態度取っちゃって。佳純のことはまたおいおい話すから。もう少し仲良くなってから聞いて欲しい」


外履に履き替え、校門を出た瞬間、旺司はそう切り出した。葵翔も〝佳純ちゃん〟のことが頭から離れなかったので、旺司から話を切り出してくれて助かった。


「別に無理に言わなくてもいいよ」

「いや、大花には聞いて欲しいんだよ。でも、それには時間と勇気と……あと、お前への信頼が必要だから、ちょっとだけ待って欲しい。てか、待って欲しいって、ちょっと上から目線かな。なぁ大花、その時は聞いてくれる?」


旺司はわざわざ言い直して、葵翔にお願いをしてきた。時間と勇気、それに葵翔への信頼。どうやら〝佳純ちゃん〟に関わっていることは相当重大なことらしい。葵翔は佳純は何者なんだろう、どういう関係性なのだろう、くらいしか考えていなかったため、思いの外重い事情がありそうな旺司に態度との隔たりに困惑した。しかし、頼られて嬉しいという感情が沸々と湧いてくる一方で、断る理由なんてこれっぽっちも見当たらない葵翔は、強い気持ちを込めて「うん」と一言だけ発した。


「佳純と帰らなくなったこと自体の理由は、七瀬が好きだったから、以上なんだけど。それじゃ意味不明だろうから」

「うん……意味不明だね。そもそも佳純ちゃんとどういう関係性かも知らないし」

「ああ、佳純とは幼馴染なんだ」


幼馴染。漫画や小説でよく登場して物語のキーパーソンになったりするが、実際にはなかなかいなくて憧れる例の人物か。物語が好きな葵翔は、そのワードを聞いただけで目を輝かせた。幼馴染とは何かあるという相場が決まっている。葵翔はいつか聞かせてくれるという旺司の過去についてより一層関心を抱いた。


その後は打って変わって他愛もない話をして、昨日と同じように分かれて帰路についた。

葵翔は帰ったらすぐ、新しくできた友達について日葵に語ろうと決めたのだった。

最後まで読んでいただいてありがとうございました!

今度こそ(実は過去に一回ありました。とりあえず佳純ちゃんまでは名前だけでも登場させたかったんです)、受験勉強のために最低でも一年半ほどお休みします。読んでくれていた方には大変ご迷惑をおかけします。大変身勝手ながら、待っていてくださるととても嬉しいです。ここまで読んでくださった方々、誠にありがとうございました。

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