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12天城旺司登場

その日の放課後、体育祭委員が取り締まりながら、体育祭の種目決めが行われた。まずリレー選手候補の発表が行われる。学年を跨いで行われる大掛かりな組対抗リレーで、ひとクラスから男子二人、女子二人が選ばれる。アンカーはその組で最も早い人が選ばれ、これまで華は最高学年でないにも関わらず、それに選ばれていた。申し訳なさを覚えつつ、それでも最後尾に颯爽と走り抜けてゴールテープを切る快感を味わいたいので、それ以上手加減することはできないのだった。


(でも、今回はどうなんだろう。全力を出せば、一般人とはかけ離れた速度で走れるけど、流石にあんまり常識外な速さで走ったら魔法少女だってバレるから、六秒後半に止めるけど……。葵翔くんは男子だし、もう少し速く走っても変だと思われないよね。何秒に調整したんだろう。葵翔くんによっては、今年はアンカー無理かもな〜)


そんなことを思いながら、華は体育祭委員が黒板に書き並べた名前を見た。すると、


【男子:大花葵翔・天城旺司(あまぎ おうじ)  女子:七瀬華・太田璃乃(おおた りの)


と書かれてあった。


(やった、もう一人は璃乃だ!)


もう一人のリレー候補である太田璃乃は、いつも一緒に行動している女子グループの一人だったので、華は共にリレーを出られることを嬉しく思った。癖っ毛のある髪をショートカットにした璃乃は、足は速いけれど、陸上部ではなくバレーボール部に所属している。そして、


(男子の方は……もう一人は旺司か)


天城旺司もまた、男子の中で華が親しくしているうちの一人だった。葵翔と親しくなる前、華が登校してきて男子で一番初めに挨拶をしてくれていたのは他でもない彼だ。流石に仲の良い女子以上に話すことはないけれど、近くを通りかかった時などに少しばかり会話をするくらいの仲である。


「以上四名の方、リレーに出場しますか?」


体育祭委員から確認がとられ、華ははい!と元気よく返事をした。これまでの葵翔ならば、ここで断っていただろうが、今年は違う。華に続いてコクっと首肯し、リレーへの出場が決定した。璃乃も旺司も頷き、リレー選手はこの四人に決まった。その後で、


「それから、大花くん。赤組で一番速かったから、リレーのアンカーになれるけど、なりますか?」


やはりか。華は納得していた。


「は、はい……!」


葵翔はいきなりアンカーという大役を任され、少し緊張した様子だったが、それでもこくりと頷いた。その時、華はクラスの一部で起こったざわめきを耳にした。


「大花ってそんな足速かったんだ。しかもアンカー。頭いいだけじゃなくて運動もできるとか、なんか意外だな……」

「そうなんだよ。俺、あいつと三年間同じクラスなんだけど、去年も一昨年も断ってたんだ。なんで今年は出る気になったのかな。このクラス、七瀬も旺司もアンカー経験者ですごいなぁ、って思ってたら、まさか大花まで俊足だったとは」


華は彼らが抱いている印象にうんうん、と頷いた。しかし、ふと引っかかる。


(葵翔くん、賢い上に運動もできる……それってもう、モテないはずなくない? え、もしかして今この瞬間の決定で、葵翔くんが運動できるってこと、全生徒にバラしちゃった? リレー選手の名前はしおりに掲載されちゃうから、もし葵翔くんのことを知ってる生徒が見たら……。葵翔くんは文武両道なんだ、って知られちゃう! うわぁ、どうしよう……。私、恋敵いっぱいになっちゃうよ……!)


華はあまりに葵翔に惚れすぎて、そんな阿呆な妄想をしてしまう。文武両道ならば誰しもがモテるなんて、そんなはずないのに。更に、


「え〜、大花くん走るんだ! あんな美男子が走ってるとこ見れるなんて眼福だよ!」

「相変わらずの面食いだね……」


という女子二人の会話が聞こえてきて、


(違うじゃん。葵翔くん、文武両道なだけじゃなくて顔もいいんだった! え、どうしよう、葵翔くんの格好よさが全生徒に知られちゃう……。このままだと、全女子が葵翔くんに惚れてしまう!)


と、葵翔が好き過ぎなあまり、そんなありえない考えにまで至る華。しかし、その女子二人の会話が続き、


「しかも天城も走るよね」

「そう! 大花くんもいいけど、やっぱり私は正統派イケメンの天城くんがタイプだから! 天城くんが走ってる姿を見るのが、体育祭で一番楽しみ!」

「この面食いめ……」


誰しも葵翔がタイプでないという簡単な事実にハッとして、華は先ほど自分が抱いていた馬鹿げた妄想を恥じた。


(そういえば、旺司もイケメンだったな)


華は友人の特徴を今更のようにふと思い返す。そう、天城旺司は先ほど彼女が言ったように、誰もが思い浮かべるような正統派イケメンであった。切れ長の双眸の上には、凛とした眉。すらっとした高い鼻に、引き締まった口元。土台となる輪郭はシャープで精悍とした印象を与える。更にサッカー部に所属していて、男性らしいガッチリとした体つきをしている。天城旺司は学年を超えてモテることで有名だ。


(ま、私は葵翔くん一択だけどね!)


華は語尾に音符がつきそうな口調で、心の中でそう呟いた。


その後、他の種目決めが行われた。男女別なので葵翔と一緒に決めることはできない。華はじゃんけんで綱引きと五十メートル走を勝ち取り、思わずガッツポーズをした。


その頃、男子側では。男女別なので、華と一緒にはできないものの、葵翔は華がしたいという綱引きと五十メートル走に希望を出した。しかし、綱引きは出場することができたものの、五十メートル走は一人オーバーになってしまった。走ることに対してそれほどの熱量を持ち合わせてないし、オーバーするくらいならいいや、と譲ろうとすると、


「お前、別に走るの好きじゃないのか?」

「え……?」


と、隣から急に話しかけられた。見上げると、そこに立っていたのは天城旺司だった。葵翔は思わずその場に硬直する。無論、彼と話をしたことなんて一度もない。葵翔の印象では、旺司はそのまま華の男子版のような存在であり、クラスのムードメーカーだ。


「走るのが好きなら、自ら譲ったりしないだろ」


(そりゃ、僕が走るのは生まれ持った能力があるから不公平だって思っちゃうし、個人的にも別に好きじゃないから……。でも、なんで天城くんがそんなこと言うんだろう)


その通りであるし、旺司の意図が読めないので黙っていると、


「……なんでなんだよ」


旺司は怒りを絞り出すようにそう言い、葵翔は自分が何か不快なことをしただろうか、と不安になる。しかし、


「なんで走るの好きじゃないのにアンカーなるんだよ! 俺だって出たかったんだぞ!」


と、涙目で、どこか子供が駄々をこねるような態度で本音をぶつけられ、葵翔は思わず瞠目し、ポカンと口を開けた。


(え、え? 天城くんってこんなキャラだったの?)


葵翔は予想外の言葉に、返事ができずに黙りこくる。すると、周囲にいた男子らが、


「大花、ごめんな。旺司って王子様だからわがままなんだよ〜」

「でもすぐ本音ぶつけるから、かえって付き合いやすいんだよ。悪いやつじゃないから嫌わないであげてな」


と、彼を擁護するようにそう言い、頬を膨らませる旺司の肩に手を置いた。


「もうっ、子供みたいに扱うなって!」


旺司は頬を膨らませたまま、左右に置かれた手を振り払った。葵翔はその様子を見てふと疑問を抱く。普段からこのようなわがままな振る舞いをするのであれば、どうして大勢から好かれているのだろう、と。確かに素直に感情を伝えるから、慣れてしまえばわかりやすいのかもしれないが、それでもこの性格は葵翔的には好きになれない。それに対し、華が好かれる理由なんて、誰の目から見ても明らかなのだが。


(ま、華ちゃん以外に友達がいない僕が、偉そうに判定するな、って話だけど)


「……でも、俺のこと褒めてくれてありがとう」


しかし、葵翔の疑問は一瞬にして消え去った。旺司はころりと態度を変え、ほんのりと赤らめた頬をかきながら、男子二人に向かってそう言った。


なるほど、これは好かれるのも納得できる。


率直に意見を言えるから付き合いやすいし、反抗的な態度を取ったとしても、きっと最後には謝罪したりお礼を言ったりするのだろう。それに、


(なんていうか……これって所謂ツンデレだよね)


と内心で呟き、葵翔は思わず吹き出しそうになった。まさか実在するとは思いもしなかった。


「大花もごめんな。俺、走るのが大好きで毎日走ってて、去年も一昨年もアンカーになってたんだ。だから今年もなれるかなって思ってたんだけど、予想外にも大花が選ばれてさ。お前が走るの好きなら仕方ないか、って割り切ろうとしてたんだけど、五十メートル走譲ろうとしてるの見て、ちょっとカッとなっちゃって。急に言われてびっくりしたよな。ごめん」

「い、いや、全然大丈夫。気にしないで……」


葵翔は華と仲良くなって、好感が持てる人は疑うまでもなく良い人なんだと実感した。だから旺司に対しても、この人絶対に良い人だ、と直感を覚える葵翔。しかし、華以外だとやっぱり尻窄まりになってしまう。葵翔は旺司に向けて両手を振りながら、自身に少しばかり失望して苦笑する。すると、


「大花、ずっと気になってたんだけど」

「な、何……?」


旺司はずいっと葵翔に距離を込め、至近距離から真剣な瞳で葵翔の顔を見つめる。


「お前、なんでそんな可愛いの?」

「は?」


予想の斜め上をいく、意味不明な質問を投げかけられ、葵翔は思わず素っ頓狂な声を出してしまう。「は?」なんて相手を馬鹿にしていると捉えられるような声を出してしまい、葵翔は慌てて口を押さえた。しかし、旺司は不快だと思っているような様子はなかった。


「顔が可愛いのはそうなんだけど、仕草がまた可愛らしいんだよな。どうしたらその雰囲気を醸し出せるんだろうと思って、ずっと気になってたんだよ」

「何その質問……」


謎すぎる質問に、思わずツッコミを入れてしまう葵翔。これにもまた、相手を咎めるような発言をしてしまい、旺司の気に障っていないだろうかと心配になる。しかし、ちらりと彼の顔色を伺っても、やっぱりなんとも思っていない様子でホッとした。


「いや、違う、違うんだ、その……」


葵翔が突っ込むと、旺司はなぜか急に視線を逸らして頬を赤らめ出した。口調もしどろもどろになり、葵翔は急激な変化についていけず、思わず身体をビクッと震わせる。


「え、ど、どうしたの……⁉︎」


どこか体調でも悪い?と続けようとして、旺司にそれを遮られる。


「ほ、ほんとになんでもないんだ。気にしないでくれ……」

「え、えぇ……?」


おろおろとする葵翔に、旺司は数秒考えるような仕草をした後、


「……大花、この後、ちょっと時間あるか?」


と、唐突に葵翔の予定を尋ねてきた。葵翔は目をパチクリしながらも、コクっと頷く。


「じゃあ、終礼終わっても、クラスメートがいなくなるまでしばらく残ってて」


旺司がそう言ったきり、その後二人の間に会話はなかった。


(天城くん、一体僕に何を話したいんだろう)


種目決めの間、葵翔は時折、隣で友人らとふざけ合う旺司を一瞥し、その度に同じ疑問を抱いていた。今日初めて喋ったと言っても過言はない相手に、二人きりで何が話したいというのだろうか。先ほどの挙動不審が何やら関係していそうだが、普段華以外の人と会話をしない葵翔には、考えてもさっぱりわからなかった。


体育祭の種目決めは最終的に、葵翔は五十メートル走には出場せず、綱引きと玉入れに出場することになった。華は目当てだった綱引きと五十メートル走に両方出場することができたらしく、上機嫌で席に戻ってきた。

最後まで読んでいただいてありがとうございました! 旺司くん登場です^ ^


そして、続きに不安を覚えている人に向けて……

少々ネタバレになりますが、私は異性恋愛が好みなので、同性恋愛は今後も一切ありません。

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― 新着の感想 ―
魔法少年少女たちも、大変なんですね~ こんだけの能力格差あればバレやすいですよね 体育の授業でバレてしまう人、多そう。 しかし、急なBL展開 旺司くん、えっ、まさか、葵翔との濃密な……一瞬の気の迷い…
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