第八話:激動
~翌日~
俺は他の二人よりも早く起床し、羅神器と言う名の端末を弄りながらいろいろと確認作業を行っていた。その内容は多岐に渡り、最重要案件と言える『天啓』は元より、同士からのメールも多数届いていたようで、かなりの数が溜まっていたのである。
しかも笑うしかないのが、百にも達する夥しい量のメールの殆どが『天啓』関連の内容なのである。どうやら俺の二十一人の同士は全員もれなく星職者に選ばれたようで、全員が現在進行形で職務に追われているようである。嘆きの声や不満の声等が所狭しと書き連ねられていた。
それはそうと、俺も明確に職務の内容が判明している以上こなさなければならない。しかしここの所バタバタしていた事もあり、『天啓』にて任された職務について、詳細情報を未だ確認出来ていなかったのである。
そんな肝心な事を後回しにしているようで、本当にやる気があるのか?と問われそうだが、ハッキリ言って無い。
しかし同時に、俺は職務を無暗にボイコット出来ない理由も同時に把握していた。大半の星職者は言われるがまま職務に励むしか選択肢を与えられていないのだろうが、俺には少々特殊な伝手…と言うか事情があり、幸か不幸かその神髄に己が知見を及ばせてしまっていたのである。
こうなった以上、仕方無しではあるが…本当に仕方無しではあるのだが、ちゃんと真面目に職務は遂行する所存である。気は乗らないけど、せいぜい最低限の成果は挙げなければなるまい。気が重くなるこの頃である。
…
余談だが、昨晩は実に大変だった。
温泉に向かった二人を部屋で待っていると、突然大きな爆発音のようなものを聞き入れるに至った。その直後に間髪入れずフラウに呼び出され、「これは何かあったな」と言う嫌な予感を胸に急遽温泉に駆け付ける事になったのである。
そして辿り着いた先で絶句する。本来体を癒す場所である温泉の設備が無残に破壊され、地獄絵図の様相を呈していたからである。
一先ず、騒動の間に何とか浴衣に着替え終えたフラウに聞いてみた。
どうやら自分たちの後に入って来た客が男湯で喧嘩を始め、キアンが巻き込まれてしまったらしい。その時キアンは脱衣所に居たのだが、一瞬扉の近くに近づいた途端、客が魔法…多分魔術だと思われる、を使ったのだそう。これによって辺り一面に爆風が発生し、爆風に充てられて脱衣所の扉が吹き飛んでしまう。この時、キアンは吹き飛んで来た扉の下敷きになってしまったのだ。
扉によるクリーンヒットを食らったキアンは、意識不明の重体…では無かったけど、気絶して倒れてしまったらしい。辞世の句を詠む暇も与えられなかったそうだ。
『馬鹿野郎!お前…どうして扉に立ち向かわなかったんだッ!』
『あの、ルディには人の心は無いのですか?』
フラウが何か言っていたが、俺は俺なりにキアンの心配をしているのだ。曲がりなりにも、奴は「英種」なのである。もし当時扉に向かって行ったならば、あわよくば無傷で済んだかもしれないのに…痛いとは思うけど、確実に安全な手段ではあるのだ。
しかしフラウの視点は俺とは違うらしく、会話が見事に噛み合わない。俺達はそんなズレたやり取りをしていたのだが、この時信じられない出来事が起きる。
何の前触れも無く急遽キアンが目を覚まし、咄嗟に立ち上がるや否や喧嘩をしていた両者の間に割って入ったのだ。そして両者の顔面に、容赦ない「報復」と言う名の拳撃を加えて有耶無耶にしてしまったのである。
正直言ってこれだけならばまだ良いのだ。ところがこの時にキアンが発揮したパワーは常軌を逸したものであり、キアンは喧嘩の当事者達の顔面に拳をめり込ませた挙句、そのまま相当な勢いで吹っ飛ばしてしまったのである。
顔面を破壊された哀れな男達は性別を隔てる壁にその身を投げ打ち、そのもろい壁を見事に粉砕して見せた。ここに本人の意思は介在していない為、決して疚しい事は無いのだが…結果的に男湯と女湯の壁は崩壊し、合わさって一つになってしまったのだ。
俺達は戦慄した。目覚めたキアンはこれまでとは全く別人のようで、その拳の破壊力は常軌を逸していた。殴り飛ばされた二人が正真正銘意識不明の重体になってしまい、処置が間に合わないと後遺症が残るかもしれない程のものであった。顔面も一目見て分かる程に変形している、形成でもしないと日常生活を送る事もままならない位に…それ以前に、彼らの命が危ないまであった。
フラウはその惨状の凄まじさに、俺はこの後に強いられるであろう後処理と責任追及の応酬に怯え、顔面を青ざめさせたものである。
結局、女将さん達が場に姿を現した事で事情聴衆が行われ、その後街の警備隊を巻き込んでの大惨事となった。このせいで俺とフラウは貴重な睡眠時間を奪われてしまったが、これも已む無しか。
結果、宿屋の施設の修繕費用を喧嘩の当事者たちが負担、喧嘩の当事者たちの治療費を俺が負担と言う形で話は纏まった。
俺以外の二人には現状支払い能力が無かった為、しわ寄せが俺に来たのである。これが思いの外高くついた、ハッキリ言って辛いです。
因みに、キアンはその直後気絶して再び倒れてしまった。先程暴れていたキアンが別人のようであった事から推測するに、恐らく多重人格か何かの精神疾患を有しているのだろう。
全く、とんでもない地雷を抱えていたものだ。それとは別に、先に暴れていたキアンはまるで暴力の化身のようで、話が通じる様子も無く、常人には抗う事すら許されない圧倒的な暴力を振りかざしていた。このキアンが暴れると人間は愚か、ある程度名を馳せるような魔物であっても命は無いかもしれない。そう感じさせる程の迫力がああり、俺とフラウは只々身震いするしかなかったのである。
あれから彼はそのまま就寝中なのだが、結局何時目を覚ますのだろうかコレ?
どっちみち、後で目覚めたらキアンを〆ようと思います。
…
そんな事より、重要度が高いのが『天啓』である。
実は気絶しただけの野郎より、第弐拾参神祖の無茶振りの方が心配で仕方無い俺である。
現状、俺に託された職務は合計四つ。一つは完了している為良いとして、後三つの内俺が最優先で遂行するべき職務は「ソロモン王の伝説」になるだろうか。それによく似た「ソロモン王の伝説:異伝」って言うのもあるけど、内容をざっと見た感じ、重要度は前者の方が高いように思われた。
それ以前の問題として、後者に比べて難易度も桁違いに高いので、前者を先に取り組んでおかないと期限に間に合わなくなる可能性が高かった。
また後者は、前者のオマージュのようなニュアンスも含んでおり、職務の内容も似たり寄ったりなのは有り難い。何はともあれ手を広げ過ぎると仕事がおろそかになってしまう事を考慮し、先ずは前者を通じて試行錯誤しながら、後者の対策や手法を考える位の姿勢でいようと思っている俺である。
道具の作成についてはそもそも作成可能な環境が用意出来ないので、とても直ぐの話にはならない。最悪仮設住宅の中にある施設を使わせてもらうでもしない限り、当分は作業に入る事さえままならないだろう。
またこれは明確に期限も定められておらず、職務の終了条件が明確に定められていない為、無理に急ぐ必要は無いと判断した。最悪、警告があってから動くでも良いと思っている。
と言う訳で、最も優先順位が高く、パッと見では内容が予測不可能な「ソロモン王の伝説」の詳細内容を確認する事にした。
しかしそこに書かれた理不尽極まりない内容に、俺は唖然とする羽目となる。
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①「ソロモン王の伝説」⇒未
基本路線:ソロモン王の伝説を再現する。
概要:この職務は、容認、関心、不安、呆然の四名合同で行う。
職務①魔導書「グリモワール」を作成し、「悪魔」の使役を可能とする。
職務②「ソロモン72柱の悪魔」を再現する。尚、担当を均等に区分する。
容認と関心→白羊宮、双魚宮、宝瓶宮、天蠍宮、磨羯宮、巨蟹宮
不安と呆然→金牛宮、双子宮、処女宮、獅子宮、天秤宮、人馬宮
詳細情報
・「悪魔族」と呼ばれる新種族を誕生させる。現存する王種または帝王種に適性に合わせた「悪魔種」を埋め込み、「悪魔族」への覚醒を促し達成させる事を原則とする。
・星職者は「悪魔種」を作成する必要がある。適性を有する特定の王種または帝王種に埋め込むことで反応し、種族と存在構成に「悪魔族」の要素を追加して覚醒を促す「種子」を作成する。
・星職者は種子を埋め込んだ後、付帯業務として対象が適切に「悪魔族」に覚醒するまでの監視、補助業務を行う事。「悪魔族」に正しく覚醒する事で職務遂行と見なす。
・覚醒を見届けた後、対応した悪魔族に合わせた「封印の指輪」の制作を義務付ける。均一神話級の等級で、該当の悪魔族のみが依り代に出来る品質で作成し、魔導書「グリモワール」との同期作業を行ったうえで封印効果を付与した後、悪魔種本人に所持させておく事。
必要条項
〇「悪魔種」について。
・「悪魔種」は王種または帝王種に因子に反応し、「悪魔族」または「悪魔種」と言う種族を追加し覚醒する「種子状」の物質を作成する事。
・「悪魔族」を追加した際、従来の階級に影響を及ぼさないようにする事。その上で特定の特殊能力を付加し、使用可能な状態にする事。
・下記のリストに従い、特定の要素を確実に盛り込み、不具合や誤作動が起きないように作成する事。
・「悪魔種」を埋め込む際、必ずその際のシチュエーションが被らないようにする事。また「悪魔種」は同一存在に対し一つを順守する事。尚、これは担当分野内では無く、全体において実施する事。
〇「悪魔族」について。
・以下のリストに従って作成する事。
担当内
◎白羊宮(風属性)
〇王級:バエル
〇公爵級:アガレス
〇大公級:ウァサゴ
〇侯爵級:フェネクス
〇伯爵級:ハルファス
〇総裁級:マルファス
◎双魚宮(水属性)
〇伯爵級:フルフル
〇侯爵級:マルコシアス
〇大公級:ストラス
〇大公級:セーレ
〇公爵級:ダンタリオン
〇伯爵級:アンドロマリウス
◎宝瓶宮(水属性)
〇公爵級アムドゥスキアス
〇王級:ベリアル
〇侯爵級:デカラビア
〇総裁級:フォラス
〇王級:アスモデウス
〇大公級×総裁級:ガープ
◎天蠍宮(土属性)
〇総裁級:アミー
〇侯爵級:オリアス
〇公爵級:ウァプラ
〇大公級×伯爵級:イポス
〇公爵級:アイム
〇侯爵級:ナベリウス
◎磨羯宮(風属性)
〇公爵級:フラウロス
〇侯爵級:アンドレアルフス
〇侯爵級:キマリス
〇公爵級:ベリト
〇公爵級:アスタロト
〇侯爵級:フォルネウス
◎巨蟹宮(土属性)
〇総裁級:ブエル
〇公爵級:グシオン
〇大公級:シトリー
〇伯爵級:ビフロンス
〇公爵級:ウヴァル
〇総裁級:ハーゲンティ
担当外
◎金牛宮(火属性)
〇侯爵級:ガミジン
〇総裁級:マルバス
〇公爵級:ウァレフォル
〇伯爵級:ラウム
〇公爵級:フォカロル
〇公爵級:ウェパル
◎双子宮(雷属性)
〇侯爵級:サブナック
〇侯爵級:シャックス
〇王級×伯爵級:ヴィネ
〇侯爵級:アモン
〇公爵級:バルバトス
〇王級:パイモン
◎処女宮(氷属性)
〇公爵級:ゼパル
〇伯爵級×総裁級:ボティス
〇公爵級:バティン
〇公爵級:アロケル
〇総裁級:カイム
〇公爵級×伯爵級:ムルムル
◎獅子宮(雷属性)
〇公爵級:クロケル
〇騎士級:フルカス
〇王級:バラム
〇王級:ベレト
〇侯爵級:レラジェ
〇公爵級:エリゴス
◎天秤宮(氷属性)
〇公爵級:サレオス
〇王級:プルソン
〇伯爵級×総裁級:モラクス
〇大公級:オロバス
〇公爵級:グレモリー
〇総裁級:オセ
◎人馬宮(火属性)
〇伯爵級×総裁級:グラシャボラス
〇公爵級:ブネ
〇侯爵級:ロノウェ
〇王級×総裁級:ザガン
〇総裁級:ウァラク
〇侯爵級:アンドラス
・職務の進捗状況は此方から確認出来る。対応外の職務も遂行可能だが、星職者自身の功績としてはカウントされない。
・各項目に詳細情報を記載してあるので、それを参考に種子の作成を行う事。
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…何だこの情報量、これをたった四人でやれと?ふざけてやがるな。
しかもその情報量たるや想定をはるかに凌駕しており、ここだけでは全てを一度に表示し切れないようで、各項目を選択すると更に詳細情報を確認出来た。
例えば、一番上にある「王級:バエル」の場合。
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◎白羊宮、王級:バエル
・条件対象:Lv50以上の帝王種
・指定種族:悪魔種(固有種族)
・指定属性:主属性→風属性(白羊宮悪魔の主属性)
優勢属性(副属性)→魔属性
・指定性能:対象の種族に「悪魔種」を上書きする。その上で元の主種族を優勢種族に変更する。
対象の主属性を風属性に、優勢属性を魔属性(固有属性)に変更する。
対象の種族を帝王種に固定しつつ、パラメータを星種並に強化し制御可能にする。
権能「無色透明」(あらゆる情報体を透過させる能力)を付与する。
権能「魔導皇爵」(悪魔種の基本となる権能)を付与する。
魔導書に記載し、ここから召喚、封印、制御可能な状態にする。
召喚時、「契約」が自動発生するようにプログラミングする。
「契約」により、悪魔種の行動を制限するシステムを構築する。
「契約」遂行により、次回召喚まで制限を解除するシステムを構築する。
・概要:白羊宮に住まう悪魔の中で最上位の大悪魔。
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これがいわゆる設定なのだろう。完全に同じとは行かないが、最低条件をクリアしつつ、これに出来るだけ近づけてねと言う暗黙のメッセージ性を確かに感じ取った俺である。
加えてマニュアルで必要情報を確認したのだが、要するに未知の固有種族「悪魔種」を誕生させるのが俺達の役割らしい。
勿論俺はそれを実際に見たことが無いし、既に他に存在している訳でもない、完全に未知の種族だ。
想像すらおぼつかない…となる筈なのだが、俺には幸か不幸かその方面で知識があった。と言うより、新種族誕生に至る為のヒントに心当たりがあったのである。
個人的に、その要領が既に存在している「神種」と非常に酷似しているように感じるのだ。
極めて共通点が多く、その在り方も恭順する相手が違うだけで、本質はあまり大差が無いのではないだろうかと睨んでいる。無論一部未知数な要素が混じる為同一とは言い難いが、それでも基本路線は神種に近い種族に仕上げていく、としておけば何とかなりそうだ。
そうと分かれば、気が楽になると言うものなのである。
補足だが、そもそも「神種」は固有種族の一つで、自身のパラメータ(身体能力)を一段階(一階級分)上昇させる代わりに、成長上限が「天種」の一つ下「星種」に限定されてしまう種族である。その代わり、生みの親である神祖の権能の一部を流用する権利を与えられ、神祖の手足となって雑務を遂行する義務を担う。
これが悪魔種の場合は、新たな権能と固有属性を獲得する権利を与えられ、魔導書と契約に縛られる義務を担う訳である。こんな感じで、案外重ね合わせてみると似通った点が多い事に気付くだろう。
因みにここで言う「階級」だが、これには『超醒』と言う概念が必要不可欠となってくる。これを語りだすと余計にややこしいのだが…
全世界にて生活を営む全ての存在は、全世界に共通して存在している「超醒」と呼ばれるシステムを利用する事によって、獣種→基種→主種→王種→帝王種→星種→天種と言う具合で自身の「種族階級」を上昇させる事が出来る。
この時、自身の身体能力値を、階級が一つ上がる毎にその平均値の桁を一つ上昇させる事が出来る。またこれに応じて身体構成が変わったり、保有する能力の在り方に変化が現れたりするわけだが…これが「基本種族」や「固有種族」と呼ばれるカテゴリとは別のジャンルになる為、ややこしいのである。
細かい事はさて置き、今回の職務はこの「超醒」のシステムの応用。それと固有種族「神種」の転用、と捉えれば良いと思われる。
それとは別に、加えて把握しておくべきは「属性」についてだろう。更にややこしくなるが…
先にも軽く触れたが、「基本種族」にも「固有種族」にも同様に、最も親和性の高い属性が一つ設定されている。これを「主属性」と呼称するのは最早言うまでもない。そして、その他の属性で親和性が認められる属性を「副属性」と呼称するんだよな。
その主属性(同一対象における最も親和性の高い属性)だが、基本種族の主属性…別名「基本属性」となる「火・水・土・風・雷・氷」の何れかで固定、優勢属性(同一対象における二番目に親和性の高い属性)は「固有属性」である魔属性に固定。
能力は権能として「魔導〇爵」と言う共通規格の物と、各々に定められている固有の物を一つづ付与する。これを「魔導書」を用いて管理する体制を組み立てる必要がある訳である。
この「悪魔種」だが…これまた「天使種」と呼ばれる未知の種族と対になっており、属性も「法属性」と呼ばれる未知の属性と対になっているらしい。
またこの「悪魔種」、これが俺目線純粋に興味深い種族に思える。と言うのも様々な手段を用いて「悪魔種」の下僕を生み出せる他、他にも特殊で厄介極まりない生態を多数有しているらしいのだ。仮にこれが世界中で暴れたならば、甚大な余波をまき散らしそうな予感さえする際物なのである。これを生み出す俺は完全にダークサイドだな。
最も、成功例が一つも存在しない以上、ここまで論じた内容は飽くまでも机上の空論に過ぎない。実際に用意してみて、そこから対策や細かな調整を繰り返す必要はありそうである。
しかしこの職務…四人で分担するにしても、難易度が高い上に色々と制約が多く、非常に面倒な職務となっているのは間違いない。
まず「種子」について。話では「預言者の種」等で聞いた事はあるが、俺自身はその実物を直接視認した事が無い。作成しようにも、「見た事も無い、作り方も知らない物を作れ」はあまりにも無茶が過ぎる。とは言え、こうして職務として割り当てられている以上俺にも出来る事ではあると思うので、まずは入念な事前調査に励む所存である。
まず材料は何なのか、媒体をどのように構成するか、媒体にどのようにプログラミングを施すか。まず作成の段階での情報が不足している為、ここを補う必要がある。正直に言ってまだこれはいい、何とかなると思っている俺である。
そして「適合者」の探索についてだが、これが結構問題だ。
そもそも、そう都合よく適性を有する王種以上の者と巡り合えるのだろうか?
王種や帝王種と言えば、全体で見ても上位10%も占めない位の割合しか存在しない。その中で適性の有無まで鑑みるならば、五年間と言う僅かな期間でこれを七十二名も探し出すのは無茶としか言いようがない。その後のアフターケアも含めるならば猶更だ、到底四人では完遂出来ないだろう。何かしらの対策を講じる必要があるな。
更に同一存在に複数の種子を与えてズルする事は許されないし、更には種子を提供するシチュエーションを合計七十二パターン用意せねばならないらしい。しかも「悪魔を隷属させる指輪」なる物の政策も必要とかで…何だろう。俺は改めて、第弐拾参神祖の顔面を殴りたくなってきたのであった。
何であれ、一度他の三人と話し合っておいた方が良いだろう。いや、一人は限りなく困難なので、他二人とは確実に対談の場を設けておきたい。現状を鑑みるに、話の内容によっては担当区分が変わる事もあるだろうしね。
そしてそれより先に、ある程度は「悪魔種」作成の目途を立てたいところだが…何でこんなに真面目に思案してるんだろう、俺。ふと我に返るとそう思ってしまうな。
後余談だが、この四人の中で、一番最初の成功例を出しそうな者はある程度見当が着いている。
そいつが何かしらのアクションを起こすと思うので、それから本格的に始めるでも悪くは無さそうかな。
それに丁度、同士の一人である「容認」からメールが来ている、後で確認しておこう。
…
それとは別の話、「ソロモン王の伝説:異伝」の方だが、此方では「悪魔種」と対となる「天使種」を生み出す為の種子の作成を依頼されていたのであった。
数は同数で七十二柱、「ソロモン王の伝説」と同じような区分のされ方が為されていた。但し此方は種子を作成するだけしておいて、これを保管しておくように指示されている。適合者を探して覚醒を促すまではしなくても良いらしい、そういう意味では若干良心的か?
だが一つだけ言わせてくれ。結局、俺達が天使も悪魔も作る事になるんかい!
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とまぁ、こんな感じで考えていても仕方ないだろう。現状出来る事は何も無いのだし、そろそろ気分転換が必要だと思い始めていた。
そこで昨晩部屋に運んで来ていた、ここ一週間分の新聞に目を通してみる事にする。
それも、全ては国が不本意な拘束をして来た事に起因する。長らく情報媒体から隔離されていた事もあって、俺達は世界情勢を殆ど知らないままここまで来てしまったからだ。
また個人的な推測だが、恐らく『天啓』関連で、世界各地で騒動に発展しているんじゃないかな?と思っている。
今回の『天啓』の内容を鑑みるに、周囲に与える影響は甚大なものになると予想されるのだが…
…
…うわぁ、想像以上だわコレ。見なきゃよかったかも…
一人後悔の念を抱き顔を顰めさせていたのだが、丁度一人だけ別の部屋で就寝していた筈のフラウが部屋にやって来た。因みに俺はキアンと同室で、あ奴の容態観察も兼ねている。
余談だが、キアンは未だに目を覚まさない。ただ本当に気絶しているだけのようなので、看病などは不要だと思われるが…
「おはようございます…ってあれ、ルディ起きてたんですね」
「うん、新聞読んでた」
そう言って、ベッドの上で無造作に広げているそれを指差す。
そんな俺は依然顔が強張っており、これを見たフラウも察してしまったらしい。嫌な予感がするとばかりに、フラウも表情を引き締め直す。
「何かあったみたいですね、凄い顔してますもん」
「寝起きだから、って訳は無いわな。でも凄いよ、色々大変な事になってる」
「あ、新聞ですね。私も見ておかないとですね…」
後に「どれどれ…」と続けながら、前のめりになって新聞を覗きに寄って来る。
そんなフラウも乗り気と言う訳では無いようだが、それ以前に現在の立場を踏まえると見て見ぬふりは出来ない。いや、逆に世界情勢を知らないと怖いと考えているのかもしれない。どのみち、新聞を見ないと言う選択肢は無さそうであった。
結局、再度二人で新聞を細部まで読み込む事になる。
今現在、『天啓』が下されてから凡そ一週間が経った。俺達もそうだが、直接『天啓』を受けた星職者達は、恐らく全員が各々の職務を遂行する為に動き出している筈だ。個人差は有れど、必要な場面では派手に動かざるを得ない場面も多々ある事だろう。
そんな俺の想定は残念ながら的中しているようであった。その間、何と世界各地ありとあらゆる方面で『天啓』絡みだと思われる十大な事件が多数、乱発していたのである。
それはもう…列挙すれば暇がない程で、もう世界情勢はしっちゃかめっちゃかである。
当事者たる星職者がご愁傷様と言うのは元より、特にこれに振り回される無関係な人々が本当に可哀そうである。身の回りで常識がひっくり返るような事件が多発しているにも拘らず、その起因に心当たりを得る事も出来ない訳だからな。
どうやら今回の『天啓』はほんのごく一部、氷山の一角の面々にしか行き届いていない筈だが、その選ばれた面々に影響力の大きい者が多数含まれていたようだ。国家元首や各方面の権力者、特定の方面に顔が利く有力者等に広く届き渡っていたようである。
念の為、その一部を並べてみようか…
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
〇国際朝廷における実質上最高権威「国際公爵(先月即位したばかり)」の十二人が同時期に全員失踪。国際朝廷から捜索隊を派遣しているが未だ行方は知れず。
〇世界各地で「魔獣災害」が活発化。都市部に甚大な被害が出る。調査によれば、何らかの特殊個体、或いは異常種が発生した可能性大。
〇世界各地で同時期に不可解な政権交代相次ぐ。また従来の指針と大幅に異なる政策を施行する国も多数。前例のない斬新な法令が幾重にも発令され、市井で混乱相次ぐ。
〇世界各地で秘密結社、裏組織の活動が活発化。世界各国で大規模テロやゲリラが多数発生。革命志向の団体も同様に活動を活発化、全世界での治安悪化や世界秩序の混沌化が懸念される。
〇世界各地で大規模な商会が多数、経営路線を変更すると達しあり。各商会にて急激な改革が実施され、一部の各種業務が新たに独立した営利団体へと移譲される動きもあり、経済方面に深刻な影響出る。
〇七聖教内で有力者への襲撃事件、行方不明者も多数発生。教会上層部から中堅辺りにかけて大幅な欠員が出たようで、組織運営が困難と言う声明の発表があり。またこれを受け、世界各地の教会でも動乱の予兆あり。
〇その他行方不明者も世界各地で同時期に発生、災害指定「Sランク(災禍級~天災級)」に相当する被害が多数観測され、世界各地の国家運営や安全保障に甚大な影響が出る。…etc.
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ざっと纏めると、こんな内容の記事が紙面の大半を埋め尽くしていた。もう無茶苦茶だね。
また聞けばここの所、事件が多すぎるからか新聞の厚さが増大し、値段も微妙に値上がりしているようだ。
最もこれら一連の案件は、星職者の面々ならば見当を着ける事が適うだろう。全てが同様とは言い切れないが、『天啓』と照らし合わせてみれば何だかんだで説明出来そうなものが多いからだ。
説明出来ないにしろ、怪しむ事が出来るだけの判断材料は持っている訳だからな。
しかし、他の有象無象からすれば見当が着く筈も無し、不可解極まりない…所か右も左も分からぬまま狼狽えるしかないのでは無かろうか?
また俺達は知ってしまっている。かと言って、今回『天啓』を受けていない有象無象に出来る事も同様に皆無である事を。
事の規模が大き過ぎて、俺達星職者ですら完全に対処し切れていないのだ。これを星職者とは違い何の説明もされていない彼らに何とかしろ、と言う方が理不尽が過ぎると言うものである。
それにしても、一度の『天啓』でこれか…
今後第二第三の『天啓』が追加される事も考えられる今、この程度の混乱などまだまだ序の口に過ぎないのかもしれない。怖い事に、一度の『天啓』では未だその内容の全貌が明かされなかったのだから。
まだ信じられざる内容が秘匿されていても不思議ではなく、これらが明かされる毎に世界中が混乱の渦に巻き込まれると思うと…
これら一連の記事を頑張って見渡した俺達は、起床早々どんよりとした倦怠感に襲われていた。起床寸前とは思えない程に疲れてしまったのだ。
「これ、場合によっては「星職者」全体で、世界中を敵に回す事になりかねないよな…」
「と言うか、解釈によっては既に敵対意志を示してしまっていますもんね…身の振り方に気を付けないと、ふとした間に首を狙われそうな気が…」
フラウの指摘もごもっともだと思う。本人の意思とは裏腹に、言い訳の出来ない行動の数々を引き起こしてしまっているからな。事情の説明をしても信じてもらえない…所か説明出来ないし、そんな中で無知な面々に何かを求めるなんて烏滸がましいにも程がある。俺達の立場が非常に危ういのは、最早議論の余地すら無いと言えた。
更に俺達は「自然勢力」、俺に至っては職務の内容からしても、完全に人類の敵である。開き直っても、言い訳しても無駄だな。
加えて俺は、人類社会の中に居ないと遂行出来ない職務も担わされており、故にこれから先も文明社会に潜り込んで生きていかなければならなかった。これらを踏まえるに、今後相当に巧く立ち回らないと生きていく事すらままならないだろう。
「あ、私の件も載ってる…」
フラウ…と言うよりイヴに至っては、名指し且つ顔写真付きで行方不明になった件が記事に記されていた。こんなの見せられたら、瞬く間に特定されてしまうに違いない。
しかしそうなるとだ。先程遭遇した一部の人間には知られてしまっている事間違いなしだし、もしかするとフラウを認知した記者によって、追記の記事が新たに書かれるかもしれない。そうなるとセルフで追跡される事となり、七聖教の凶悪無慈悲な情報網を駆使した捜査網を敷かれる事となり…追っても差し向けられ続ける訳で、フラウに至っては俺よりも目先の問題であると言えた。
しかし不明点が多いとは言え、職務の内容を鑑みるに、今回フラウは教会に連れ戻される訳にはいかない立場であった。七聖教の追手だけでは無く、全力で記者の追跡も躱す必要があるだろう。
「あの時は文句も言いましたけど、こうして変装を施してくださった事にはお礼を言わないといけませんね…」
「ああ?まぁ、あれは俺にも必要な事だったし。でもここまで騒ぎになれば、変装しない選択肢の方がなくなるよね」
フラウから唐突に感謝の意を向けられたが、一瞬戸惑うも「確かに」と思う俺である。
他に打算があったのは否めないけど、今となってはファインプレーかも知れない。これを知った以上、生身では街の傀儡を無防備にほっつき歩けないもんなぁ。
そんで早いとこ、この街も脱出しないといけない訳だしさ。
とは言え、大前提として二人からすれば俺に心象が依然宜しくないのは変わりないだろう。一時的に派閥は組んだものの、一連の行動を鑑みれば信頼はされていないだろうな…と言う自覚だけはあったのである。
「ところでルディは、今後どうするか考えはあるんですか?」
そんな感じで一人投げやりになっていると、フラウから実に現実的な質問が飛んで来た。これを受けて、俺もフッと我に返る。
「ん-…取り敢えずお姫様との対談は絶望的だし、一応魔王とやらとの対談は取り付けたから一度迷宮には向かわないといけないよね」
俺は思わず考え込んでしまう。
この国の王女様「ヴィオラ」との会談は、今の俺達の立場を見るに実現が厳しい。身分の問題もあり、少なくとも俺達の意思ではどうする事も出来ないと言えた。
事情が事情なので向こうも割り切ってくれるとは思うが、奇しくもこちらは決裂と言う前提で進めさせて頂こうと思う。お断りの連絡を入れられないのが何とも心苦しい限りではあるが…
それとは別に今回対談の予定が入っている魔王、名前は確か「ジュラキュリオン」と言ったか。此方に関しては決裂とはなっておらず、返答までした以上最低限は誠意を見せる必要があるだろう。アポを入れる手段が無いのが心苦しい所だが、一度魔王のホームグラウンドである「血契迷宮」には顔を出した方が良いだろうな。
しかし迷宮は、一般人が気楽に侵入していい領域では無い。それもそう、何せ迷宮内には数多の強力な「魔物」…いや。「魔種」が生息しているのが通例であり、これらは一般人から見れば脅威でしかないからだ。
しかし迷宮は国家からしても不可侵領域であり、此方から特定の働きかけを行う事は出来ない。そこで各国が規定を定めたらしい。
この規定により、迷宮内部に侵入する際には、何らかのライセンスを所持しておく事が必要となっているそうなのだ。迷宮の入り口には各国が独自の「関所」を設置しており、ここでライセンスの確認を行い、照合が取れた者のみ内部への侵入を許可するのである。
正直、それは国がする事じゃないだろう…とは思うのだが、現状迷宮側から何も抗議が為されていない為、結果的に通例となっているようだ。それはそうとして。今後魔王と直接面会を行うに当たって、これから最低一つは取得しておく必要があると言う事だな。
ライセンスの代表例としては「傭兵クラス」や「狩猟者クラス」、一部「採集者クラス」なんかが該当する。後、最近出来た「冒険者クラス」って言うライセンスでも良いらしい。
そしてその大半が「マグノリア商会」の管轄か、もしくはこれのライバル商会の管轄である事が殆どだ。ただなぁ…俺の立場が面倒な物なので、マグノリア商会含めライバル商会にもあまり深く関わりたくない思いがある。何か手ごろな物は無いだろうか?
「マグノリア商会と関わるのがダメなんですか?」
「ああ。そもそも俺はマグノリア商会の中である程度の立場が確保されている、ある種VIP待遇の人間だから」
フラウの最もな質問に答える俺、だが何処か釈然としないのは偶然か?
大前提として、マグノリア商会の商会員は原則「多重契約」を禁止されている。一応先にお邪魔した「諜報工作部」等で疑似的に在籍するなどの裏ワザはあるが、それは飽くまでも例外であり、原則は「正当と判断出来る理由」の提示が必要不可欠となる。
そして仮にマグノリア商会で傭兵クラスを取得すると、実は多重契約に該当し商会の規定に触れてしまうのだ。なので今の俺がそれをすれば職権乱用となってしまうし、何より俺の立場からして関係者特権の遂行に大きな支障をきたしてしまう。商会からそれなりの立場を与えられている以上、それ相応の義務や貢献も求められるのである。
更にマグノリア商会は、現状における数少ない、信頼のおける味方陣営の一つでもある。俺としても彼らの方が『天啓』なんかより大切だと思っているし、これを裏切る程の価値は『天啓』には無いと思っているのだ。
「あまり大層な理由ではない気が…」
フラウさんは何も解ってございませんなぁ!
俺は心の叫びをぐっと押し込み、話を続ける。今やるべき事は怒鳴る事じゃない。
「それだけじゃないけどね。でも何だかんだでライセンスの取得は必須みたいだから、傭兵クラスも最終手段で考えるかもね」
正真正銘「最終手段」だな。ただ面倒なので、出来るなら他に良いライセンスがあると良いんだけど。
『天啓』と言い、細かな取り決めの数々と言い、この世界はSで満ち溢れているよなぁ。
しかしここまで説明しても、フラウは何処か納得いっていない様子。まぁ、完全に私事ではあるから…気持ちは分かるけど、ちょっとだけ目を瞑ってもらえると嬉しいかな?
「…」
「とりあえず、キアンが起きたら街を散策してみようか」
「ええ…ところで彼、何時目を覚ますんでしょう?」
知るか!そんなもん、俺が聞きたいわ!
思わずそんな事を叫んでしまったその時、突如として通信端末にメールが届いた。
見れば差出人は「容認」、内容は案の定『天啓』…それも「ソロモン王の伝説」に纏わるものであった。内容はいたって淡泊、「いつもの通りに担当を分担するから、後は宜しく」と書いてある。
タイミングが絶妙と言うか何というか、流石と言うべきだろうか。
そして見れば、俺以外の三人も何だかんだ真面目に動き出したようだ。あいつらは俺と同様、第弐拾参神祖の事も、『天啓』の事もある程度正確な知識を有している。間違えてもこれに逆らうような愚かな真似は絶対にしないと思っていたが、間違いなかったようだ。
しかし実に簡潔な物言いである。いつもの、となれば俺のすべき事は自ずと決まってくるではないか。
しかし困った事に、現状ゴールに行きつくための手掛かりが無い…いや待て、一つだけ思い当たる物があった。後で検証してみよう。
その旨を記載の上、俺は同様に幾つかの提案を載せて返信する。
やはりぶっつけ本番は事が事だけに厳しいと思うんだ。念の為に試験運用は行いたいもんね。
一部物議を醸す提案も混ざっているが、あいつらはそう言うの割と好きだし、乗ってくれると思うんだよなぁ。そんな希望的観測を胸に、返信を待つ俺である。
とは言え、結局キアンが目覚めるまでは不用意に動けない。
仕方ないので、それまで二人で新聞を読み漁る事にしたのだった。
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結局、キアンが目を覚ましたのは昼前に差し掛かる時間帯の事であった。
軽く朝の挨拶を交わした後、昨晩の件について問い詰める。
優先順位としては高くないのだが、俺達は大変な迷惑を被ったのである。文句を言うくらい許されて然るべきであろう。
「ねぇ、昨晩の事忘れた訳は無いよねぇ?」
「え?昨晩?」
俺は前言に従い、キアンを〆る事を忘れない。そこで〆ると題して尋問を行う事にする。
と言うのも、多重人格にしろ何にしろ、同じような事が今後起こり得るなら何らかの対策は必須だからだ。状況によっては、二次被害が尋常では無いものになりそうだし…
ところが昨晩の騒動、一連の内容をキアンは覚えていないようだった。どうやら俺の予想通り…かどうかは兎も角、解離性同一性障害に近い症状が出ているようなのである。
しかし記憶喪失と言い、物忘れの天才なのだろうか?コイツ。
「ほら、何か屈強そうな男二人を殴り飛ばしてたじゃん?」
「ん?んん??」
俺の問いかけに、何も知らないとばかりに首をかしげるキアン。惚けている訳では…ないようだった。クソッ!これでは迂闊に〆られない。
しかし昨晩のキアンには、何やらキケンそうな雰囲気がプンプンと漂っていた。この時、俺とフラウの共通認識として、キアンは要警戒人物の一人として無事認定する運びとなったのである。
勿論その後に、世界情勢について情報の共有は行っておき、これからの行動指針についても予定を伝えておいた。勿論反対意見など出る事も無く、すんなり話は纏るのだが。
「ルディ、人生楽しい?」
「お前さ、もしかして喧嘩売ってる?」
俺の苦労を知ってか知らずか、余計な事を漏らしたキアン。やっぱコイツ〆る、俺はそう胸に誓ってその拳を振り上げる。
その後、部屋中に響き渡る絶叫を目覚まし音として、今日と言う長い一日が始まろうとしていたのであった。