第七十九話:移行
本章最終話です。
~讃銃士、最上階の会議室~
俺が正式に「銃将星」となったその直後、俺は同建物内にある秘密の会議室に招かれていた。この会議室は讃銃士の所有する建物の最上階にあり、最高幹部である「銃将星」にしか入る事を許されていない。
かく言う俺もこの場所の存在を聞かされている訳が無く、今回銃将星となった事で漸く教えて貰う事が出来た。造りを見ても非常に機密性が高く保たれた場所となっており、部外秘の話し合いを行うにはうってつけの場所となっていると思う。
そうして連れて来られて早々、先達の讃銃士の人達が、らしからぬ素顔を披露してきた。俺も空気を読んで、素に近い態度でこれに応じる事とする。
「敢えてこっちの言葉遣いにするか。ユナイテッド君、やってくれたっすね」
「いえいえ、滅相もございません」
「ああ、別に恭しくしなくて良いっすよ。ここはマグノリア商会じゃ無いっすからね」
「お許しいただけるのであれば、お言葉に甘えさせて頂きます」
そう言って尚、低調に頭を垂れるユナイテッド。俺からすれば見慣れた光景なのだが、他二人の銃将星からすればやはり違和感が拭えないようで。
「話には聞いていたけど、本当なのですね…」
「おじさんも最初に聞かされた時は、どうしたものかと思ったけどねぇ」
とボヤいていた。しかしその言動の節々を見ても、特段驚いた様子は見られない。
と言うのも、どうやらユナイテッドの奴。俺の素性について、既に他の銃将星とも情報共有していたらしいのだ。
だがここまでは俺も想定していた他、俺の素性が知られる事自体も然程問題では無かった。そもそも俺とユナイテッドに面識があった時点で、隠し通せない事は明白であったからだ。
だが俺が口撃したいのはもっと別の箇所なのである。まぁそれについては後程…
「にしても驚いたっすね。銃将星、とんだ際物揃いじゃ無いっすか」
「ボクはまだましだと思うけどね。僕は所詮、マグノリア商会の御隠居の紐付きでしか無いしね」
「その紐付きに選ばれるだけでも凄い事なんすけどね。マグノリア商会の創業メンバー「八巨星」なんて、滅多に表に出て来ないっすからね」
折角なので、俺が知っている彼らの真のプロフィールを勝手に紹介していこうと思う。
先ずは旅団総領「ユナイテッド=オパール」。彼は「八巨星」の内の一人、人事部の初代代表取締役「パトリシア=リュー=グランヴィス」の秘書官を務めていた人物である。
秘書官と聞けば大した事無いようにも聞こえるが、これが八巨星の秘書官となると意味合いが全く異なって来る。世間一般の常識に準えれば、かなりの大物に該当するのだ。
「それ、「八巨星」本人が言うと大した事無いように聞こえるから止めて欲しいかな」
「ええ?別に冷やかしのつもりは無いんすけどね」
「先程「八巨星」が表に出て来ない等と言っていた割には、今目の前に居るのは如何程に?」
「おじさん、未だに信じられないのだが…」
「本当だよ。証明するのは難しいけど、ボクが証人になるよ」
そして俺は、先程話に出て来た「八巨星」の一角、初代技術部代表取締役を務めた「マスティファ=ピリカ」としての顔も持つ。マグノリア商会から戸籍を確保する為、顔を出した際に持ち出して来ていた名義の一つであり、歴としたマグノリア商会のお偉いさんなのである。
ただ、流石に商会内では世代交代を済ませていた事もあり、実務に至ってはほぼ完全に手離れしている状況。直接俺に手を出せる分野は少ないが、それでも依然ゆるぎない権力だけは持っているという、厄介な御隠居の一人なのだ。
と言うか八巨星とか何とか仰々しい呼び名が着いている割に、その実態は過去の栄光にかまけているだけの老害でしか無いんだよね。だからマグノリア商会に籍を置きつつも、大亜工房法人なんて副業に走り、チマチマとお金稼ぎに終始している訳だ。
今更ながら長命種って、時と場合によっては邪魔者でしかないよね。本当。
「あとアルフレッドさん、ウチのエレインがお世話になってます」
「エレイン?」
「ちょっ、何故その名前がここで⁉」
「勿論、本人から聞いたからに決まってるっす。ああ、彼女は別に組織を裏切った訳では無いっすよ?仕事中に運悪く、偶然自分と居合わせただけの可哀そうな人っす」
「その話、あまり広げないで貰えないかね?それ、二人には伝えていないエピソードなんだが」
「「?」」
「ああ、気にしないで欲しいっす。自分がアルフレッドさんの黒歴史を知っちゃっただけの事っす」
「黒歴史…良かろう。だがくれぐれも覚えておくと良い」
そしてキャラが濃いおじさん、アルフレッド=アベンチュリンは…聞いて驚け!何とクォーツ一族の最高幹部「虹師将」の一角を担う、裏社会で有数の圧倒的強者なのである。
因みにこのおじさん、前もってこの旅団内に、自分の息がかかった者を潜ませて探りを入れて来ていたらしい。だからエレインが俺に奴隷として買われ、紅翼団に所属している事も知られてしまっていたのだ。
また他にも色々と裏で暗躍していたようで、何なら以前エレインに面向かって俺のことを警告したのもこの男だったりする。しかしエレインからの供述曰く、その時点では紅と鋼の関連性までは見抜けていても、この二人とマスティファとの関係性にまでは辿り着けていないようだった。
そこまで知っていたなら、俺とマスティファが同一人物である事までは判らずとも、俺とマスティファにラインがある事位は調べ上げて欲しかった。別にマスティファの名義を使ってなかっただけで、隠すつもりは微塵も無かったんだけどなぁ。
「ふざけた餓鬼だ、後で覚えておくと良い」
「紳士らしからぬ暴言っすね。それで?エステルさんも中々におかしい事なさってるみたいっすね」
「私の素性について、貴女には話して居なかった筈ですが」
「この世界でも有数の魔法の権威「七賢者」の一角、別名「デュラルヘイズの賢者」と言えば判りやすいっすか?何で世界屈指の魔法使いが、こんな所に居るのか甚だ疑問っすけど」
「嘘…何処からその情報が漏れたのでしょう」
そしてエステル=ターコイズ、彼女はこの世界で至高と名高い七人の天才魔法使い「七賢者」の一角を占める人物である。この「七賢者」はそれぞれ別の種族もとい人種毎に一人づつ定められており、各人種における至高の魔法使いがここに名前を連ねている。
彼女は人間、つまり幻人種の「七賢者」で、別名「デュラルヘイズの賢者」。確か信仰魔法と呼ばれる特殊な魔法に特化した魔法使いだった筈。
この世界では能力の影響により魔術と法術の区別が曖昧で、これらをひっくるめて「魔法」と定義するのだが、信仰魔法はどうだったかな?俺が魔法にあまり詳しく無いので断言は出来ないのだが、確か法術寄りの系統で、主に光属性に纏わる術式が豊富な魔法だったと記憶している。
そして信仰魔法とある癖して、七聖教は関係無いのがミソだろう。どちらかと言えば、固有種族の聖種族…あ、エステルさん、よく見れば聖種だわ。それならば納得である。
まぁそんな事はどうでも良いとして。そんな世界屈指の信仰魔法の使い手である彼女が、どういう訳か銃を握っている状況は何なんだろう?
そしてどういう訳か、銃の腕を以て高い評価を得ているのが不思議でしかない。信仰魔法、何処に行った⁉
「にしても銃将星、凄いメンツっすね。八巨星とその側近級、更には七賢者と黒歴史とは…驚きっす」
「おじさんの事を黒歴史呼ばわり…いや、ここでは何も言うまい」
「言われてみれば凄いメンツだね。そして旅団総領な筈のボクが一番の小物に見える始末…」
「本当に何処から私の情報が漏れたんでしょう?心当たりが無さ過ぎて不気味なのですが」
「そんなに身バレするのが怖かった?そんな事より大事な話し合いをしないとね」
「そうっすね。自分もこの喋り方止めよ…」
そうだ。今回俺がこの部屋に呼ばれたのも、銃将星全員で重大発表に纏わる打ち合わせを行う為だ。それに加え、俺がいきなり銃将星に据えられた経緯についても説明してくれるとの事だが…
「とは言っても、大層な理由なんて無いんだけどね」
「あれ?そうなの?」
「うん。だって君、冒険者総合協会の本部の人間…何なら組織の幹部なんでしょ?」
「そりゃそうだけども、それとこれとは話が別では?」
勿論、両組織間での齟齬があってはいけないので、俺が協会の幹部である事はユナイテッドらにもきちんと共有してある。だが協会幹部の権限は飽くまでも冒険者総合協会と言う母体組織に対して通ずるものであって、旅団単体に対しては大した権限を有して居ない筈である。
そして何より、現状俺は協会幹部としてそれらしいことを何もしていない。任命されて相互スパイ的な立ち位置にされたは良いものの、現状これと言った仕事を与えられていない為、実質上名誉だけの役割と化しつつあるのだ。
社内ニートってこんな感じなのかな?まぁ第二次の『天啓』も下された事だし、これから本格的に仕事が割り振られそうな予感はするけどね。
だが、俺と世間一般の認識は違うらしい。
「君さ、協会幹部のメンツを見て同じ事が言えるのかい?」
「ここだけの話、他の協会幹部については一人だけしか知らなくて…まだ幹部集会とか一度もした事無いし」
俺が知っている協会幹部は、呆然だけだな。他の幹部については…居ると言う事だけ知らされていて、その具体的な陣容までは知らされていなかった。
だがユナイテッド曰く、既に判明している幹部連中がそれはそれは大物揃いなのだとか。中には旅団のスポンサーに名乗りを上げる資産家が居たり、特定の分野で強大な権力を有する者が含まれていたりするらしい。
たかが冒険者の組織として見れば、何故そこに居るのか判らないような大物が多数、幹部として在籍しているようなのだ。その中の一人がマグノリア商会が誇る「八巨星」の一角、マスティファ=ピリカと言う事だな。大物かどうかは知らないけど。
因みに俺達第二世代の幹部連中は、第二世代でない幹部達にも名前だけは共有されているとの事。俺達第二世代の幹部にはその逆の措置がされていない辺り、激怒が俺達の事を嘗め腐っている事が手に取るように判る。
流石は知る人ぞ知るノンデリ、礼儀の欠片も存在しないようだ。
「って事で、そもそも協会本部の幹部と解れば、こちらも蔑ろには出来ないでしょ?その癖、ボクが未だに籍を置いているマグノリア商会の超大物で?その人が偶然にも、銃の腕前が超一流って事で有名で?しかも事務作業や技術開発もお手の物?こんなの、是が非でも最高幹部として留まって貰うよう仕向けるしかないじゃないか」
「理由が煩悩塗れと言うか、忖度ですら無い…」
「謙遜しないでよ、嫌な奴だよ」
このユナイテッドとか言う男、別部署とは言え上司に向かってかなり失礼だな。まぁ、俺が言えた口でも無いけど。
しかし、ユナイテッドの物言いには他二人も賛同している様子。うんうんと頷いている様が見て取れた。
「私もかのマスティファ=ピリカ…様が、銃撃の天才と言う噂だけは聞いた事があります。軽く拝見させて頂いただけではありますが、確かにその片鱗は垣間見えていましたね」
「おじさんは未だ見た事無いんだよねぇ。そんなに凄いのかね?」
「基礎はばっちりですし、何より驚きなのがこの人。銃撃能力を持っていないにも拘らず、特待生合格したみたいなんですよね」
「は?それ本気か?と言うか銃の天才とも呼ばれる程の人物が、銃撃能力を持っていないなんて話が存在するのかね?」
存在します。でも「八宝術」って言う魔術に似た特殊能力が使えるお陰で、何とか誤魔化す事が出来ているってだけの話だ。
ただやはりこの世界の常識で量るならば、銃の猛者は総じて銃撃能力を持っているものなのだろう。しかし金輪際俺が銃撃能力を獲得出来ない以上、持っていない事で何かしらの逆風に煽られるかもしれない。
まぁ、その時になれば考えれば良いと思うけどね。
って言うか、マスティファ=銃ってイメージ何処から湧いて来た?俺、何も知らない。
「兎も角、彼女がピリカ氏であれば、銃将星も問題無く務まるだろうって判断だ。ボクがその証拠品を見せて貰ってるし、本人確認もバッチリって判断したよ」
「後射撃訓練を拝見させて頂いた限りでも、その後の依頼の受注状況を見ても、実力面に問題点は見受けられません。何なら、他の特待生達と比べても頭一つ抜けている印象ですね。なので私は彼女を銃将星に推薦させて頂きました」
謎に俺、エステルさんからの評価が高いらしい。特段変わった事はしていないんだけどなぁ。
「一冒険者としては平均以上って感じなんだけど、課外活動がちょっと驚きだよね。本来上司として仰ぐべき対象を部下としてこき使えるって所にロマンも感じるし、ボクもエステルと同様推薦させて貰ってるよ」
ユナイテッドは論外。今度パトちゃんにチクっとこ。
「勿論、おじさんは面識も無かったし推薦してないぞ」
「うん、どうでも良い情報ありがとう。他にも君の妹さんやヴァン君辺りからも推薦があったから、こうして何もかもすっ飛ばして最高幹部に据えちゃったって訳。ま、今後はボクの部下として頑張ってくれたまえよ」
「ユナイテッド!お前相変わらず、おじさんに対する扱いがぞんざい過ぎないか?持ち前の性格の悪さが見え透いてるぞ!」
「おじさんに同意だわ。この人、完全にアタシの事舐めてるよ。許せねえよ!」
何であれ、俺の知らない所で多方面から推薦が届いていたらしく、割と銃将星の面々は俺の銃将星就任に納得している様子。他の団員達は兎も角、ここに反対意見のある人間がいない事は救いかもしれない。
周囲の雑音がうるさい日々は続くかもしれないが、少なくともこの場所においてノイズを気にする必要は無さそうだ。ただ周囲を納得させる為に最低限、形だけでも試験は実施して欲しかったのだが…
仕方ない。後は俺が結果で黙らせる他あるまい。
「はいはい、おじさんに対する扱いはぞんざいだし、羅紅玉の事は舐めてるよ。それで良いでしょ?」
「「良くない!」」
「何よりそうやってゴネてる時間が勿体ないよね。本題でもある「銃将星審査」の内容を詰めてくの、手伝ってね」
「相変わらず、凄まじいスルースキル発揮していやがるな」
「あまり接点無かったから知らなかったけど、流石はパトちゃんの秘書官って感じがするよ」
「はい煩いよ。良いから手伝ってね」
とこんな感じで謎に強いユナイテッドの啖呵を皮切りに、俺達銃将星の視線が一様に同じ方向を向く。流石は旅団総領が務まる器の持ち主、なんて心の中で感心しながらも、議論は大筋に向かって行く。
「さて、今回実施する銃将星試験だけど…今回が二回目だから、依然色々と手探りな状況なんだよね」
「あれ?そうなの?」
「そうだよ。最初の試験では合格者が出なくてね。現職の銃将星は初期メンバーか特例で就任した人だけなんだよ」
「猶更アタシ、一緒に試験受けた方が良かった気が…」
いや、だからこそか…と俺は自分の認識を改めた。案の定、俺の推測通りだったらしい。
「ボクもそうだけど、初期メンバーの三人ってなまじ腕自慢な分、どうしても細々とした作業が苦手でね。ボクはパトリシア様の秘書官だったから問題無いんだけど、他二人はバリバリの武闘派で、デスクワークとか全然やってくれないからさ」
「実質、ユナイテッド君がワンマン運営してるって事?それって普通に不味くない?」
「そう、実際前回の試験は試験の体を為して居なかったと言うか…トラブルが相次いで、結局試験どころじゃ無かったと言うか」
おいおい!
因みに前回の試験で合格者が出なかったと話したが、厳密には合格に値する人物が居なかった訳では無く、試験官側の不備により、納得のいく形で合格者を選定出来なかったらしい。システムエラーや試験結果が正常に出なかったり等、合格判定を行うにあたっての前提条件そのものが崩れ去ってしまったのだと。
勿論、団員達に向けてそのような事実は公表しなかった様子。それらしい理由を付けて、合格者が出なかった事だけを伝えていたようだ。
俺はただ、そんな足元もおぼつかない状態で試験なんか実施するなと言いたい。
「なのにまた、試験実施しちゃうんですか…」
「だからこそ、先んじて君を銃将星に据えさせてもらったんだよ。羅紅玉ならばその手の経験、豊富なんじゃない?」
「アタシ頼りかー」
「そうですね。残念ながら私とアルフレッドは、試験官なんて向いて無さそうですしね」
「懐かしいねぇ。おじさん達二人は、常にユナイテッドの足を引っ張ってばかりだったね」
「そして残りの二人が開き直っていやがる…」
特待生の素行云々を言う前に、自分達の行いを一度改めた方が良いのでは?と俺らしくない真っ当な感想を抱かされる始末。だが敢えて口にはしない。
それはそうとしてだ。
つまり試験を行うに当たって、ユナイテッド以外の二人が試験官として機能するかどうか未知数だから、一応裏方仕事も出来る俺を急遽補充したって訳ね。そんな状態で試験を実施しようと…いや、俺を迎え入れる前提で試験の実施を発表したのか。
そうなると話が変わって来る。コイツ等の運営体制、ガバガバじゃねーか!
そして端から俺に仕事を丸投げする為に、と言うかほぼその為だけにこんな強引な手段を使ったと言う訳だ。確かにさっきの演説で、ユナイテッドが「新たな銃将星に審査委員長を任せる」と言った内容の話もしていたが…成程、違和感の正体はコレか。
「って事でまず、羅紅玉には筆記試験の問題を作成してもらおうと思います」
「え?アタシが作成するの?」
「うん、ボクが前回作った時はあまりにも評判が悪かったから、いっそその道のプロに委託しようかと」
「いやいや、その道のプロってアンタらもでしょーが!」
聞けば筆記試験の問題は、現状全てユナイテッドの自作らしい。しかし銃士長や銃士将向けの問題はまだしも、銃将星向けの試験問題については意味不明だの理解不能だの、受験者全員から酷評を浴びせられる始末。
多分難易度を高く設定したせいだと本人は語るが、本当にそれだけだろうか?ただ何はともあれ、ユナイテッドは「もう二度と銃将星用の問題など作るものか!」と息巻いており、問題作成に関しては思いっきし俺に丸投げしたいようだった。
ユナイテッドの発言、仕草を見るに、異常なまでの本気度が伺えた。目がガン決まっている、これを断るのは何処か気が引ける気がした。
「まぁやりますよ、ただ参考程度に、銃士長向けと銃士将向けのも含めて、過去問のデータは送って欲しいかな」
「良いよ、普通に助かるし。後、期限は試験日の丁度二週間前ね」
「タイムリミット短っ⁉」
つまり二週間弱で、前例を踏襲せず、まっさらな状態から銃将星用の試験問題を作成しろと。かなり無茶なスケジュールを組むか、車両改造の時のズルを使うでもしない限り無理なんじゃないかな。
ああ、無理するだけで普通に何とかしてしまいそうな自分が憎い。いざと言う時の為に調整していたオーバースペックが、まさかこんな形で俺に弓引くとはなぁ。
「なら筆記試験の問題作成については…いや、面倒だし全部任せちゃう。一応中身だけはこちらで見分させてもらうけど、筆記試験の実施についても丸投げするね」
「すんな!」
しかし俺の訴えは聞き届けられなかった。悲しい。
「後は実技試験なんだけど…これはボクが、事前に外部の著名人に協力を依頼している。その人物が所有するエリアを用いて、実戦形式で試験を行えるようにしてあるよ」
「あれ?前回の試験では、実戦形式の試験なんて行いませんでしたよね?」
「うん。僕なりに冒険者達の射撃テストの結果と依頼の受注状況を確認してみたんだけどね。この二つの結果に相関性が見られなかったんだよね。だから一度、見直した方が良いかなって」
ここ讃銃士では実技方面において、正所属審査を始め、銃士長試験や銃士将試験の他にも不定期で射撃の腕をテスト形式で計測する機会が複数ある。このテストでは訓練形式の種目で点数を算出し、その点数に応じて実技の暫定的な評価を下す形式を執っていた。
しかしここで出た結果は、必ずしも依頼に直結するとは限らない。実技の点数が高い人でも依頼の成功率が高く無いケースはあるし、逆に実技の点数が低いのに依頼の成功率が高いケースも存在した。
結論、実技テストの点数に然したる意味が無い事は明白なのだ。
そんな中銃将星となるべき人物に求められるのは、実技テストが高い事は勿論、それをきちんと実践に活かせる人材。この時点でハードルが高い事はさる事ながら、この実力を正確に推し量る事もまた難しい。
そこで現状ユナイテッドが考えていたのは、以前と同様実技テストも実施した上で、同時に実戦形式のテストも併用して行う。これら二つの結果を加味して合否判定を行おうと言うものだ。
だがここで直面させられる目先の問題として、この実戦形式の試験の内容も勿論の事、これを何処でどうやって実施するかと言うものだ。試験会場となる土地、銃将星以外の試験官、仮想敵等用意しなければならないものが色々とある中でどうするのか。
この解決策として、事前にユナイテッドが話を通していたらしい。ただ、外部の著名人と言う言い方が引っかかるんだよなぁ。
「外部に協力をお願いしたのは分かった。でもその人、本当に信用のおける人物なの?」
「大丈夫、ボクが保障しよう。って言うかその人、この旅団のスポンサーをしてくれてる資産家だから」
「スポンサー⁉資金援助だけじゃ無く試験用の会場まで用意してくれるとか、一体どこのお人好し…」
「それ以上言わないでね。その人、怒らせるとすっごい怖い人だから」
言ってる途中で察したよ。俺の予想通りの人物なら、確かに信用出来るし、怒らせたらどちゃくそ怖い人なのも分かる。
どっちみち相手がスポンサーなら、こちらから喧嘩を売るような真似に走るのは得策では無い。機嫌を損ねないよう努めるのは勿論の事、何ならその意向を全て汲む位の気概が必要だろう。
因みにこんな上から目線で話を進める事が出来るのは、そのスポンサーの正体に気付いてしまったからに他ならない。ただ俺の予想通りならそのスポンサー、俺がご機嫌取りしてると直ぐに気づいて嚇怒してくるのが如何し難い所。
でも、確かにあの人物ならユナイテッドの希望にも応えてくれそうだ。喜々として。
「兎も角、その人物の手引きで実戦形式の試験も行えるようになると思う。そちらの交渉はボクが主導となって行うとして、それとは別に皆にも同行して欲しいかな。中身を詰めるに当たって、皆と相談したい事もあるしね」
そう言って、アルフレッドおじさんを睨みつけるユナイテッド。これを受けて、目を泳がせるアルフレッドおじさん。
ああ、前科持ちなんだね…
「前科って言い方は止してもらおうか。おじさん、何物にも縛られない枷哭き漢だからね。天翔けるおじさんの恋路は誰にも邪魔させないぞ」
「恋路って…またキャバクラですか」
「キャバクラ?その程度の娯楽でおじさんが満足すると思ってるのか?勘違いも甚だしい」
「アルってさ、何時も出張って言いながら外をほっつき歩いてるけど、実はサボってるだけなんじゃないの?一応完遂報告は寄越してるけど、アルにしては何時も時間かかってるもんね」
「見解の相違だね。おじさんこう見えて真面目で紳士的だから」
「(アンタら、特待生の素行が悪いとか言えるタチじゃないでしょ)」
いや、逆にかもしれない。アルフレッドおじさんが居るからこそ、他の銃将星に問題児を据えたく無いのだろう。
何故こんな人を最高幹部に据えてしまったのか。俺目線では疑問だったのだが、聞けばこの旅団で最強と聞かれれば真っ先に挙がるのがこのおじさんであるらしい。
何なら問答無用で最強戦力。その癖依頼だって失敗した事が無いらしく、実力と実績と言う二点において他の追随を許さない。
しかし見ての通り、やはり素行に難がある様子。その癖…どうしようもないなコレ、俺は何も言わない事にした。
「このおじさんは、ボクが縄で縛ってでも連れて行こう。他二人は縛らなくても着いて来てくれるよね?」
「私達ってそんなに信用無いでしょうか?勿論付き合いますけど」
ここで俺もエステルさんの後に続いて頷こうとしたのだが、ここでとある推論に思い至る。もし俺の予想通りの人物であれば、そんな面倒な事する必要も無くなるのでは?
「もしかしてだけどさ、ユナイテッド君の言うスポンサーってあの人じゃない?アタシが呼び付けようか?そっちの方が早くない?」
「そんな事…出来るのか。もう隠す意味ないから言っちゃうけど、そのスポンサーってマグノリア商会におけるボクの直属の上司、パトリシア=リュー=グランヴィス様だからね。成程、その同僚が部下に居るの強いな」
ちょっと何を言っているのか解らないが、大方俺の想定通りだったようだ。それなら、いっそ俺が呼びつけてしまった方が早そうである。
それにパトリシアとは、個人的に二人きりで話したい事もある。別に呼び出すでも呼び出されるでも構わないが、近い内に一度『あの件』に纏わる意見交換をしておきたかったのだ。
そして向こうもまた、俺と同じことを考えて居る筈。案外呼び出せば、二つ返事で了承してくれそうな気もする。
「だったら私から話は付けておくよ。出来るだけ呼び出すようにする。そっちの方が集合場所で困る事も無いんじゃない?」
「うーん…あの人をボクのホームグラウンドに呼び付けるのは、些か気が引けるんだけど」
「でも逆に、向こうのホームグラウンドに押しかけるのも…パトちゃん、案外秘密主義なところあるから」
「それは同意だね。それ以前にあの人、フットワーク軽かったような」
パトリシアを知る両名から反対意見が出なかった事もあり、彼女の事を知らない他二名も俺達の判断に異論は無いとの事。早速俺は、パトリシアに向けてメールを送る事とする。
「それじゃ、あの人に関しては羅紅玉にお任せするとして。あの人との話し合いで細かい変更が入るかもしれないけど、暫定的に決まってる内容については共有しておくよ」
そう言ってユナイテッドは、現状計画段階にある実戦形式の試験について、その草案を俺達三人にも共有してくれた。成程、草案段階でもパトちゃんが大いに役立ちそうなのが見て取れる。
「取り敢えず、草案段階では何とも言えませんね」
「おじさん、そう言うの良く分からないから全て任せるよ」
「おじさん逃げちゃダメだからね?ちゃんと試験官として働いて貰うからね」
「ユナイテッド…貴様、鬼だな」
「何とでも言うが良いさ」
そして俺以外の二人も、何やら騒がくしているのが伺える。まぁ、生産性は無さそうだ。
「…あ、返信来た。パトちゃん、こっちに顔出すって」
「え?そんなに早く?ボクが連絡入れても中々返信してくれないのに」
「うん、来てる。どれどれ…早ければ明日にでも行ける、って来てるけどどうする?」
「明日はちょっと急過ぎるね。でも偶然予定空いてるから、別に明日でも問題無いか。いっそ明日にしちゃう?」
急とかどうとか言っておきながら、別に不都合は無いらしい。それなら明日で良いよ、とこちらも返信しておいた。
その直後、恐るべき速度で返信が返ってくる。その内容を確認して、俺は思わずアッと声を上げた。
これは…
「え?何?怖いんだけど」
「皆さん、くれぐれも覚悟しておいて下さいね。あ、内容は明示出来ません」
「本当に何?怖いって。てか何で急に敬語になってるの?意味深だよ⁉」
まだ何も話していないにも拘らず、ユナイテッドが顔面蒼白となってこちらを見詰めて来ている。まぁ、全ては当日になれば判るさ。
投稿遅れて申し訳ございません。尚次回、登場人物紹介を投稿予定です。




