第七十八話:発表
その後俺達は地元「ウェンデル」の協会支部に顔を出し、依頼完遂の報告を行った。その際なるだけ多毎にならないようにと、自然な感じで報告を行ったのだが、その内容自体は衝撃的であった事に変わりは無く、普通に驚愕されていた。
また報告を担当した俺は自然体だったのだが、同行者たる特待生達は総じて所在無さげな様子で俺の後塵を拝していた。まぁ、事の経緯を鑑みれば、依頼完遂とは言え誇る事が出来ないのも無理は無いと思う。
また今回の依頼、皆して端末の操作を忘れていたようで、俺自身端末を操作して旅団に対して依頼完了の報告を上げるのがかなり遅くなってしまった。
今回は内容が内容だけに、期限等は特に設けられていなかったので大事にはならなかったが、通常の依頼では大失態に繋がるかもしれない危ない把握漏れである。二度とこう言う事が無いよう、万が一依頼で想定外の事態が起こった場合でも冷静を保ち、常に周囲の様々な箇所に目が行き届くような精神状態を維持し続けられるよう、頑張らないといけないね。
「小紅、よりにもよって、今気にするところそこ?」
何やら在野の内の一人、小黄が俺のズレた認識に異議を唱えているが、これは俺に限らず全員に共通した注意点だと思うのだ。他人事の体でツッコミに逃げるのは頂けないと思う。
だがそれとは別に、報告を上げた際の協会支部もまた、居心地が悪い事この上なかった。こちらはちゃっかりと、隙を見計らって逃げ出させて頂いている。
別に俺達、この街の英雄になりに来た訳じゃ無いんだよ。その代わりに衛勇候補やら新たな星職者にされていた事もあり、余計なレッテルが張られるのなんてもう懲り懲りなのだよ。
「さぁ、報告も上げ終わったしさっさと帰っちゃおう」
「WHAT‘S⁉もう帰るのかい?」
「うん、だって周り見てみな?この注目度が高い中ゆっくり出来ると思う?」
「I SEE…」
とそんな感じで、報告を上げ終わるや否やすぐさま陸空両用車両に乗り込み、逃げ帰るように本拠地「ボスケス」のギルドホールに戻って来ていた。尚、フライトの最中は特段トラブルやイベントのような事案は発生しなかったので、ここのダイジェストは割愛する。
そんなこんなで戻ってきた俺達。この時、俺達一行を待ち構えるかの如く、ギルドホールの中で盛大なお出迎え体制が用意されているようだった。
その中には何やら、普段旅団で顔を見ないような、あまり見覚えのない人員が幾らか混ざっている事が判る。あ、その中にはハクアの姿も混ざっているね。
取り敢えず、俺達が戻るや否や俺の元に駆け寄って来てくれた派閥のメンバーが複数居たので、彼らに話を聞いてみる事とする。
「ただいま~ってありゃ?何か騒がしいっすな」
「騒がしいじゃねえんすよ!つい先程、珍しく銃将星の方々が全員戻って来やして、何やら重大発表をするとかだそうでい…ってリーダー、その両手どうしたんでい?」
「気にしなくていいよ。それより何?重大発表?」
「そうだジェイ!ここのとりまとめ役のエステルさんだけじゃないジェイ、ギルマスと…あのアルフレッドさんが戻って来てるんだジェイ!」
「あれがアルフレッドの旦那か、直接その面を拝むのは初めてやんな」
俺の派閥のとりまとめ役の三人が、その概要を一から十まで教えてくれた。どうやら俺達が返ってくるタイミングに合わせて、とある重大発表の場が用意されていたらしい。
それもこれも、俺達が旅団に対し帰還予定日時を伝えていたので、これを基にスケジュールの調整をしたものと思われる。オムニバスらのお陰で時間の計算がしやすいの、今思えば画期的かもしれないね。
そんなこんなで派閥のメンバー達との談話に勤しんで居ると、丁度俺達の姿を見かけたのか、銃将星の三人がこちらに駆け寄ってくるのが伺えた。
その先頭に立っていたユナイテッドが、俺達に対し、実に嬉しそうな表情で激励の言葉をかけてくれた。
「お帰り。依頼完遂の報告は受けてるよ、流石だね」
「ええ、相手が良かったですね。他の依頼ならどうなっていた事やら」
「いやいや、今回の討伐依頼はボク達も聞き入れているけどね。アレを相手にするのは僕達でも骨が折れるから、普通に」
「そりゃ、アタシ達だって簡単にはいかなかったですし、当然ですね」
まぁ、簡単にいかなかった箇所が常軌を逸しているとは思うけど…それはそれとして。
やはりユナイテッド率いる二人の中に、見慣れない顔が一人。片方がエステルさんである事を加味すると、もう一人が噂にだけ聞いていたもう一人の銃将星なのだろう。
何と言うか、筋骨隆々の渋いおっさんであった。キセルを咥えていると良く似合いそうな風貌をしている。
「それで?何やら見覚えのない顔が」
「ほう?それはおじさんの事を言っているのかね?」
「おじさん⁉」
単一人称がよりにもよってそれか⁉このおっさん、高確率でキャラ濃いぞ。
だがこのおじさんを見て、周囲の面々の中には何やら畏怖しているかのような反応を示す者が少なくない数いた。だが絶対数は限りなく少なく、団員の中にもその顔を見知っている者は多くないようである。
「ああ、特待生の皆は知らなかったね。紹介しよう、ボク達の旅団が誇る三人の銃将星の内の一人にして、銃将星最強の男「アルフレッド=オブディシアン」だよ」
「その紹介方法はナンセンスとしか言いようが無い。やり直させて頂こう」
「え?また?」
何故かここで、ユナイテッドが動揺している。そんなユナイテッドを差し置き、アルフレッドおじさんの独壇場が始まった。
「ゴホン…聞いて驚け!この旅団には二人のおじさんがいる!酷く官能的且つ最強のおじさんと、そうでないおじさんだ!」
そう言いながら、前者として自分を、後者としてユナイテッドを指差すおじさん。
「そう!このおじさんこそが、大人の魅力と実力に溢れたパーフェクトダンディおじさんこと、アルフレッド=オブディシアンなのさ!カッカッカ!」
そう言って高笑いに走るアルフレッドおじさん。期待通り、キャラが濃そうで何よりである。
そんな濃厚な自己紹介に続いて、ユナイテッドが補足とばかりに話を付け足した。
「普段は別の場所での仕事をお願いしてるから、あまりここには顔を出さないし、団員の中でも知らない人は多いだろうね。でも今日は重要な日だからね、無理を言って戻って来てもらったんだ」
「そうだとも。このおじさん、わざわざ仕事をキャンセルしてここまで戻って来たんだ。それなのに何時も通り、ユナイテッドの扱いが雑いぜ」
「このおじさん曰く、ボクはそうで無いおじさんらしいからね。酷く官能的且つ最強のおじさんに忖度する必要は無いと思うんだ」
「そして相変わらずノリだけは良いな!そのセンス、無駄過ぎるぜ!」
酷く砕けたやりとりを披露する二人のおじさん、どうやら両者はかなり仲が宜しい様子。そんな二人の馴れ合いを背後で見ていたエステルさんが、肩をくすめながら溜息を吐いていた。
そして憎い事に、このアルフレッドおじさんはきちんとダンディな雰囲気を醸し出すイケオジで、その実力も旅団内最強と謳われるだけあって自他共に認めるものらしい。意外とキャラの強さに負けない程の付加価値も兼ね備えた、一見最強にも思えるおじさんなのであった。
ただ一つだけ勘違いしないで貰いたいのだが、実力や官能的かどうかは兎も角、キャラの濃さでは俺も負けていないと思うのだ。嘗て憤怒や危惧と一緒に武者修行した成果、ここで見せてやろうでは無いか!
「成程。貴殿が噂の、酷く官能的且つ最強のおじさんですか。あれ?アタシが鈍感なのがいけないのかな?琴線に全く触れないんですよね…もし宜しければ、貴方の官能的な要素が何処なのか教えてくれませんか?」
「ちょっと小紅⁉、いきなり何言いだしてるの?、貴女まで頭おかしくなっちゃった?」
「ちょっ、アタシの頭がおかしいのは今に始まった事じゃ無いでしょ!それ風評被害!わざわざ口に出して指摘する意味無いやつ!」
「何か小紅、気の所為か、あの偽物に似て来たね…」
「逆!アイツがアタシに寄せて来てんの!ルーツはこっち、影響受けてるの向こう側!」
何やら傍に居た小黄が狼狽えているが、無視する。と言うか小黄よ、貴様も大概だな。
そして同じことを、おじさんも感じたらしい。
「ほう?何だ?この生意気で、おじさんに匹敵しそうなポテンシャルを持ってそうな双子の女児リ二人組は?」
この指摘を受けて、刹那、俺と小黄の間に激震が走る。そのまま爆発した。
「「女児言うな!、私達は、大人だ!」」
「な、何だと⁉双子のユニゾン芸、まさか実在していたとはな」
「何に驚いているのか判らないけど、この二人が先にも言った「特待生」の双子だよ。二人して羅神器の所有者って言う、とんだ拾い物だよ」
そしてユナイテッドさん、アンタも大概だな。
だがまぁ…この下りを経て、俺のキャラが薄く無い事はアピール出来ると思う。何故だろう?不思議とこのおじさんには負けたくない、何かこう、ライバル心のようなものが芽生えてしまっていた。
「どうも、拾われた未成年の女の子、羅紅玉DEATH。社会的に夜露死苦」
「どうも、とんだ拾い物、羅黄玉だそうです」
「凄まじいな…この双子、出来るぞ!」
「何がかな?」
ユナイテッドからの鋭いツッコミが入るが、何やら二人揃って、おじさんから脅威認定されてしまったようだ。と言うか、普通に小黄の被せ方が強くて、案外俺のキャラが立たなかったのが残念で仕方ない。
今思ったけど俺達、別に血の繋がりは無いんだけど、双子設定が様になる位には息が合っている気がする。そして二人が力を合わせれば、どんな強敵にも(キャラの強さでは)負けなさそうだ。
「出来ると言えば、彼も負けてませんよ?ね?ヴァンたそ」
「MEかい?いきなり止めてくれまえ、心臓が止まると思ったYO」
「大丈夫。人間の心臓は二十四時間三百六十五日動き続ける臓器だから、そう簡単に止まって堪るか!」
「いやいや、MEはそう言う事を言いたい訳では無くてだNE?」
「ほう?奇妙な喋り方をする小僧だ。彼もおじさんみたく、ダンディなノリを身に着けたら、老後にナイスガイになりそうな予感がするぞ」
おじさんの言うダンディなノリとやらが意味不明だったが、若干しどろもどろになっているヴァンに代わって俺が彼の事を紹介してあげた。するとおじさんは、何かに驚くようなそぶりを見せていた。
尚、何に対して驚いたのかは俺視点では不明である。
「一応、この三人が特待生の中でも抜けてるね。他にも五人居るんだけど、そちらはそちらで中々の粒揃いだよ」
「成程な、特待生とやらはそれ相応に侮れない連中であるようだ。この調子ならば、讃銃士も安泰だな」
「え?、小紅に何か安泰要素、あったっけ?」
「こら、ワザとらしく驚くな!多分あるから安心しろ!」
「安泰…WHY⁉何故あ、あの時の黒歴史が蘇るんDA⁉」
「黒歴史?ああ、あの閉じ込められた時か!あれはアンタの自業自得でしょーが!」
特待生トップ3がネタに走る中、傍で塩らしく縮こまっていたのが他五人の特待生達であった。おじさんに対し真っ向から嚙み付く俺達を横目に、どうしたものか対応を図りかねている様子であった。
しかしそれも無理は無い。何せ彼らは彼らで特徴的な喋り方をするものの、トップ3程のキャラの濃さは有して居ないからだ。
あ、今気付いた。特待生トップ3って、影響力とか実力とかじゃなくて、キャラの濃さにおけるトップ3だった…のかもしれない。
取り敢えず、他五人の事も俺達三人で紹介しておいた。中には遠征について来ておらず、殆ど初対面のメンツも含まれていたが、気にする事なく自己紹介に終始した。これで一先ず、おじさん目線特待生全員の名前と顔が一致した筈である。
「とそんな事より、私達も良く知らないけど、何か重大発表があるとか」
「確かに、こんな無駄話に勤しんでる暇は無い筈」
「無駄話って…他でも無い二人が、喜々として広げていなかったかい?」
確かに、だが時間の無駄なのでこの辺でお開きとするべきだろう。
と言う事で心機一転、おじさんを始めとする銃将星の三名と向き合う俺達。良くも悪くも生意気な三人を横目に、ユナイテッドはため息をつきながらも話を軌道に戻してくれた。
「そうだね、こんな所で油を売ってる暇は無いよね。役者は全員揃ったみたいだし、本題に入ろうか」
そう言って、ギルドホールに設置された仮設の舞台に登壇する三人の銃将星。そこは俺達が今居る広場よりも高い場所となっており、これを機にそこに集まって居た全員が一斉に壇上を見上げる形となった。
そうして注目が集まった事を確認した上で、ユナイテッドが口火を切った。
「早速だけど、今回は重大発表が二つある」
そう厳かに語られた前置きを受けて、辺り一帯がズンと静まり返る。そうして重い沈黙が空間を支配する中、ユナイテッドが新たな言葉を紡ぎ始めた。
「まず一つ。第一回:旅団対抗界覇闘祭の出場メンバー選抜を実施する。これについては開催一か月前の時点までに審査を行い、選定は銃将星のメンバーが主導で行う。大会要項については一週間後に発表予定らしいから、解り次第団員全員に共有するよ」
まず一つは界覇闘祭に纏わるものだった、これについては俺も予想できる範囲だった。
しかし開催まで凡そ三か月と言った所まで迫っており、これを加味するとかなりスケジュールが詰まってしまう印象を受けた。大会要項の発表が一週間後となると、準備期間が二か月ちょっとしかない計算になってしまう。
その間で、どの旅団も急いで準備を済ませなければならないのか…しかもウチの旅団における選定を行う最高幹部もまた、現状三人しか存在していない。何処もかしこも大変だな、と他人事のように考えていたのだが…
「そして二つ目。向こう一か月までの間に、新たな最高幹部「銃将星」の選定を行う。候補はこちらが指定した者のみ。合格者については全員合格の可能性有りの条件を踏まえた上で、現行の銃将星が判断を行う」
あれ?何か嫌な予感。
「今から計六人の候補者を読み上げる。呼ばれた者は壇上に登壇する事」
そう言って、ユナイテッドは声高々に、新たな銃将星の候補者の名前を読み上げる。見れば俺の周囲の面々が、やけにそわそわしている事が伺えた。
「先ず一人目、ギルガメッシュ=エンスタタイト」
そう言って呼ばれたのは、俺もあまり良く知らない屈強な男性であった。緑色のツンツンな単発が特徴的な、見るからに気性が荒そうな印象を受ける。
だが決して侮る事勿れ。この男、多分実力だけで言えばトップ3ではない特待生に匹敵する。
「次こそは頑張れ!お前、頭の悪さ以外では銃将星に相応しい男なんだからよ!」
「実力だけならアルフレッドさんにも食らい付ける位なんだから、後は筆記試験だけ頑張れ!」
そして彼、どうやらヴァンの派閥に所属しているらしく、主にヴァン派閥の面々から熱い激励を受けていた。どうやら彼、知人の間では腕が立つ脳筋、と言う評価で落ち着いているらしい。
しかし、そんな明らかに馬鹿にされたような激励を受けて尚、ギルガメッシュは実に誇らしそうに壇上に上がっていた。確かに、何となく分かる気がする。
「二人目、クロア=キュープライト」
次に呼ばれたのは、赤褐色の髪が美しいお姉さん。かけている赤い太縁の眼鏡が何処か浮いた印象を受ける、何処かおどおどとした態度をしている女性であった。
彼女、俺も良く知らなかったのだが、何と小黄の派閥に所属しているらしい。そして彼女もまた、トップ3では無い特待生に匹敵するな…意外と特待生レベルの猛者って、潜んで要るものなんだね。
「貴女は、大舞台で動揺しなければ大丈夫、何時も通りの力を発揮出来れば問題無い」
「もうヘタレとか言わせるなー!ここで一発、大きな壁を越えて見せろー」
そして彼女に至っては、知人たちの間でヘタレ、若しくは豆腐メンタルとして通っているらしい。小黄らを始めとする、派閥の面々から激しい激励を受けていた。
しかし肝心の彼女は、これらの応援に底知れない圧力のようなものを感じていそうであった。何かに怯えたようにして、縮こまってしまっている。
大丈夫か?彼女。
「三人目、ナーシィ=オーシャンジャスパー」
おっと、今度は俺の派閥の中から指名が入った。だがその中でもナーシィと聞けば、納得の行くものがあった。
彼女は実力だけで言えば他二人の候補にも劣るが、その代わりに裏方の仕事が物凄く出来る。派閥のとりまとめ役には立候補しなかったものの、その代わりに事務方の分野は実質上彼女が指揮管理尾を子なっていると言っても過言ではない状況にあった。
「アンタは実技試験だけ頑張れば、十分銃将星になれるだろうさ」
「この前受けた時も、あと一歩足りなかっただけだしよぉ。本当に壁はそこだけだと思うで」
そして彼女に関しては、ギルガメッシュとは異なり実技方面での激励を大いに受けていた。団員達曰く、銃の扱いは旅団内でも上位に位置するのだが、如何せん最高幹部に求められるラインにギリギリ届かない位なのだそう。
皆して、何とかここが少しでも上振れれば、十分に銃将星の役目も務まるとの判断で居るようだ。確かに彼女、実際にハイスペックだからなぁ…何とか合格してもらいたいものである。
「四人目、ヴァン=ネクストレイ=ジルコン」
わお、ここでのヴァンかよ。と言うか、この感じのオオトリって…
「おお!我らがリーダーの独壇場だぜ!」
「アンタは素行以外は即戦力だからよ、絶対合格してくれよな!」
そしてヴァンに関しては、主に素行面での心配がされている様だが…これについては一言だけ言わせてもらいたい。アイツ、外では猫を被ってるからね?
あまり聞かない事例だけどアイツ、自分の評価を下げる為の猫の被り方をするような奴だからね?普通にやってれば、当たり前のように合格してしまいそうな予感がするよ。
「五人目、羅黄玉」
はい、そして六人目はもう判っちゃったようなものですね。知ってましたとも。
ただ小黄に関しても、結局はナーシィに似たような評価に落ち着くと思っている。彼女もまたハイスペックで、その上普通に特待生の中でも有数の銃の使い手と言うだけあって、実質上ナーシィの上位互換。
普通にいけば、ナーシィより合格は固いと思っているんだけど…
「頑張って欲しいのであります」
「小黄だったらまぁ、大丈夫そうだねぇ」
ちょっと面白く無いのが、小黄に関しては特段心配される要素が存在しない事位だろうか?普通の激励を受けていた。
でも今思い返しても、小黄の言動って時に毒舌が出るところ以外は、基本的に優等生のソレだもんな。多分俺よりも、総合評価が高いまである。
ま、頑張ってくださいませー
「ーそして最後、六人目、フェイン=ツァボライト」
…
……
………誰⁉
ちょっと予想外の名前が呼ばれてしまい、何故か俺達の派閥の間で落胆の声が上がる。
いやいや別に俺、何も悪い事やってないからね?確かに俺の普段の言動に問題があるとは思ってるけど、そんな曰く付きみたいな見方はしないで欲しい。
そうして静かに登壇したのは、黒髪を無造作に伸ばした、野性的な風貌の男性。しかし決して不衛生な印象は抱かせない、逆にワイルドで都会に居ても何らおかしくないようなセンスの良ささえ垣間見える始末。
因みにこの男性、所謂アルフレッドおじさんの同行者をしているらしく、普段は旅団に顔を出す事すら滅多に無いらしい。しかしアルフレッドおじさんが挑む困難な仕事内容について来れるだけあって、実力に関しては確かなものがありそうだ。
「以上が今回銃将星の試験を受ける、選ばれし六名だ」
さて…これで、候補者は全員が出揃った形となった。六人の候補者に向けて盛大な拍手が送られ、彼らもまた揃って壇上で誇らしげに輝いている様子が伺える。
まぁ俺に関しては、次回以降頑張るしか無いかね。そうだな、もっと普段の言動に気を付けるようにしないといけないかな。
この昂るムードの中、ユナイテッドが高らかに補足説明を続ける。
「彼らには約一か月後に実施される、銃将星試験を受けてもらう事となる。試験内容に関しては、事前説明において大まかな概要だけは申し伝えてあるので、原則それに準拠する予定だ」
俺は何も聞かされていないが、候補者達視点では、ある程度の予習は可能って事なのかね?と言うか、予習しても良い試験内容なのかね?
「そしてこちら、現職の銃将星が定める規定を上回った者を、新たな銃将星として承認する事とする。全員が合格する可能性もあれば、一人も合格者が出ない可能性もある。くれぐれも心してかかるように」
要するに定員を設けている訳では無く、基準を満たした者であれば幾らでも最高幹部を増やせる状況にあると言う事だね。この感じ、この旅団も人手不足な感が否めないな。
だが、話はこれで終わらなかった。
「だがこれで終わりでは無い。続いて、新たに銃将星の地位に就任する者を発表する。こちらの者もまた、名前を呼ばれ次第壇上に上がるように」
…WHAT'S⁉
「実は此度、候補者には事前に銃将星試験の概要を伝えてあった。その際「試験を実施するまでも無く銃将星の地位に就任して然り」と言う推薦を多方面から受けた者がいる為、こちらを先んじて新たな銃将星として任命する事とする。勿論、銃将星として相応しい人物である事は、ボク達現職の銃将星が保証する。この者には初仕事として、此度開催する銃将星試験の審査員長を担当してもらう予定だ」
誰だよソイツ⁉にしてもユナイテッド、無茶苦茶言ってやがんな。
そんな事いきなり銃将星にされたって、周囲から簡単に受け入れられる訳が無いだろう。絶対に贔屓だのコネだの、裏で叩かれまくるに違いない。
可哀そうだな、この新任の銃将星。南無阿弥陀仏。
「対象者は一人だ、羅鋼玉、別名羅紅玉」
この名前を聞いた瞬間、団員達の間で大きなどよめきが上がる。そして俺が壇上に向かって歩き出すより前に、何故か俺とそっくりな外見をした者が既に登壇を済ませていた。
って言うかちょっと待て⁉お前、どうしてウチの旅団に所属してます見たいな顔しちゃってる訳?って言うかそれ、明かしちゃって良かったの⁉
よ、よく判らないのだが、俺も一旦壇上に上がるだけは上がっておいた。しかし俺以外にも、もう一人俺とそっくりな者が同時に壇上に上がっていた。
何故か三人居る羅紅玉。余りにも意味の分からない光景を前に、場は混迷を極めていた。
これは壇上の候補者達も同様で、小黄やヴァンも嘗て見た事の無いようね奇妙な表情でこちらを睨みつけて来ている。き、気まずい…
「彼女はあの新進気鋭の生産系、及び商業系旅団「大亜工房法人」の旅団総領だよ」
これについて補足説明するかの如く、ユナイテッドが話を続けたのだが…その際に上がったどよめきは先程のものを大きく上回っていた。俺の想像に反して、有名になっているみたいだね。
ま、俺はさて置き。他の面々が頑張ってくれているみたいだし、やり方さえ下手じゃないなら当然かな。
「実は彼女、偽名を用いて既に僕達の旅団にも所属してたみたいなんだよね。アレ?逆だったっけ?」
「逆っすね。寧ろ羅鋼玉の方が偽名になるっすね。後「大亜工房法人」を設立したのも、讃銃士に所属した後の話になるっす」
「らしいね、まぁボクのところも、ましてや協会も「二つの旅団への同時所属」は禁止してなかったからね。一応相談は受けていて、当時のボクも水面下で認可してたんだよ」
「その節はお世話になったっす。お陰で大繁盛っすよ、あっちも」
なんて、青天の霹靂みたいな衝撃の事実が次々と、淡々と明かされる始末。当事者以外の面々が皆して置いてきぼりになるようなスピード感で話が進むが、残念ながらこの限りでは無い。
「実はこの度、ボク達二つの旅団で業務提携を行う事が決定した。彼女には兼ねてより設立をお願いされていた、兵装の研究開発の部門を担当してもらう」
「販路はこちらで用意したっすし、ある程度の資金援助も約束するっす。皆さんにも関係あるところで言えば、この部署に自前の武器を持ち込んでもらえれば、無償で点検や修理を行うっす。場合によっては改造も担当するっすし、自前でのメンテナンス方法も伝授するっすよ」
そう、俺達の派閥が設立を目指していた「研究開発部門」の設立は完了した。度重なる説得の末に、ユナイテッドを始めとする銃将星達も皆、その有用性に気付いてくれたのである。
後はしいて言うなら、医療関係の部門を立ち上げたいよね。俺はその方面への適性が然程でもないから、他の人に任せたい思いはあるんだけど…適任居るかな?
「とこんな感じで、実は現時点で旅団に対する貢献度は高いんだよね。加えて現職の銃将星や特待生達からの推薦も相次いでね。だったらもう、任命しちゃって良いかなって」
「雑っすね…」
「それに実力に関しても問題無いよ。だって同一人物だしね、その証拠にホラ」
ユナイテッドの合図に従って、遥か後方から一発の銃弾が、羅鋼玉目掛けて飛んでくる。俺もとい彼女は、これを義手を嵌めていない右手でキャッチする。
俺は両手両足を欠損したのだが、彼女は五体満足であるらしい。良いなぁ。
そしてよく見れば、羅鋼玉目掛けて銃弾を放ったのは、相当難しい位置に陣取っていた、自称天才のメルフィーナであった。アイツ、あの位置からの狙撃を成功させるなんて、地味と特待生に匹敵する銃の扱いが出来るよな。
そうして場が静まり返る傍らで、ユナイテッドが爆弾発言を繰り出した。
「あ、そうだ。そろそろキミ達、分身を解除しなよ。それで所信表明もお願い」
ぶ、分身⁉俺そんな芸当出来ないけど?って言いたい所なんだけど、出来るのは紛れも無い事実。でも何でそれをユナイテッドが知ってる訳⁉
ここで突如として、羅鋼玉から念話が繋がれて来る。
『ユナイテッドには、俺からそう言う伝え方をしてある。取り敢えず、そっちに統合するからそのつもりで』
『待って?今何使ってる?』
『大丈夫、抜かりなく人形を用意してる。ホムンクルスより安価で単純な造りのやつ』
それなら大丈夫…か?と判断した俺は、壇上の中央に行き、他に二人居た分身の統合を行った。これらの分身体が俺に融合すると共に、二人が居た場所に木製の人形がカランと言う音を立てて転がった。
何が安価で単純な造りなのやら。かなり貴重な木材使ってるじゃないか、なんて自嘲しつつ、これらの人形を羅神器の収納に仕舞った。
またここだけの話、俺達はそれぞれの分身を独立させて活動を行っていた為、相互で記憶や知識の共有を行っていなかった。これが統合を果たす事によって、俺の元に新規の情報が集約される。
成程、それならユナイテッドに羅鋼玉と羅紅玉が同一人物である事を明かしたのも納得だし、こうして銃将星に仕立て上げられたのも納得かもしれない。また俺の知らなかったありとあらゆる事実を知るに居たり、それらが繋がって色々な謎や不明点が説明出来るようになってくる。
ただこの銃将星就任イベント、実は俺に表立っては伝えられていない裏があるみたいだから、素直に喜ぶと痛い目に遭うから要注意だね。本当に油断ならない人達だよ、現職の銃将星の皆様。
そんな愚痴を心の中で零しつつ、俺は徐に壇上に登った。そして辺り一面を見渡した後、軽く咳払いをした末、事前に暗記してきていた言葉を紡ぎ出す。
「それでは…商会に預かりました、羅紅玉です。羅鋼玉名義で「大亜工房法人」の運営も行っています。此度、ユナイテッド氏の御好意の賜物により、新たな銃将星に就任する事となりました。今後とも両旅団の繁栄と友好を心よりお祈りすると同時に、両旅団の発展と躍進の為、より一層の働きを約束します。今後ともよろしくお願いします」
そう言って頭を下げる俺。だがこの後に響き渡ったのは、何処か力ない拍手と若干の動揺の音色。
それも無理は無く、俺は今回、主に旅団の上層部からの推薦を多く受けた結果、試験をすっ飛ばして最高幹部となったらしい。やはり特待生と言う事で、実力に問題が無い事は判っていても、いきなりの大出世となると「はいそうですか」と素直に受け入れられない人は多いと思われる。
何なら、下っ端の団員からすれば寝耳に水の話な訳だし、しかも最近入ったばかりの新人がいきなり上司になると言われても、納得がいかない先輩団員も少なく無い筈。ウチの派閥の面々からすれば別の話だろうけども、俺の事をそもそもよく知らないと言う面々も少なくないだろうしね。
何はともあれ、俺はこれから銃将星の一員として正式に認められた訳だ。
誰が何と言おうと、紛れも無い正規の最高幹部の一員となる。
いきなり過ぎて足元がおぼつかない感じは否めないが、それでも俺はたった今分身の統合を行った事で、この大役を承るに当たっての必要な前提知識を身に着けるにまで至って居た。どうやら俺の分身の一人が中心となって、事前に下準備を行っていたらしい。
だが、そんな事他の人達は知る由も無い訳で…結局この重大発表の集会は、何とも言えない動揺と混乱を孕みながら、鳴り止まぬ喧騒の中で幕引きを迎える羽目となったのであった。




