第七十七話:引越
~紅翼団仮設拠点~
一方その頃。仕事の為、俺は永木に亘って遠方に出向いていたのだが、久し振りに紅翼団が仮の拠点としていた場所に戻って来た。
が…
「何これ」
戻ってみて言葉を失った。何故かその拠点は、何者かの手によって荒らされた形跡があったからだ。
もう内部は酷い有様で、中には家具を始めとする少なくない道具を配置していたのだが、そのどれもが再利用すら難しいと思える程に破壊されていたからである。被害総額を換算すると、下手したら小金貨は下らないと思われる。
日本円にして百万に相当する大損害だが、一体誰がこんな事を…
「って、被害総額なんて気にしてる場合じゃない!もっと変えの利かないモノを心配すべきだって」
俺は早速、紅翼団のメンバー一人一人に念話を繋ぎ、安否確認を行った。緊張した面持ちで、俺はひたすらにコール音を鳴らし続ける。
その結果、無事メンバー六人全員からの応答が確認された。どうやら被害当時、メンバーは全員出払っていたとの事である。
また同時に、メンバー全員が仮の拠点が荒らされた事を知らなかったようだ。メンバー全員が俺の通達を受けて、驚愕したような反応を示していた事からもそれは明らかっぽい。
メンバーの立ち寄る頻度が定かで無い以上確かな事は言えないが、個人的には「恐らく直近の犯行なのでは無いか?」との見立てを行っていた。と言うのも残骸を見る限り、全く埃が被っていなかったからだ。
また念の為にマップを見てみたのだが、現時点でこの近辺に人影が確認出来るのだ。その割に姿を目視出来ない事から、ワンチャン犯人がこの周辺に潜伏している…と言う線も追えなくないのである。
ただ、それにしても謎なのが、一体誰がこんな事をしたのかと言う一点に尽きる。生憎と、今の俺には心当たりと言える心当たりが思い浮かばなかったのである。
「敵対組織って、何かあったっけな…?」
「おや、残党のお出ましのようでしね」
「何奴⁉」
突然、俺の他に誰も居ない筈の狭い空間に声が響き渡る。男の声なのだが、その主は隠れているようでその姿を視認する事が出来ない。
ただマップを見てみれば、男がどこにいるかは一目瞭然だった。ただその位置はどう頑張っても、俺の居る場所からは目視する事の出来ない絶妙な場所となっていた。
この時、ちょっと今の羅紅玉の姿に似つかない声を上げてしまったが、それも無理は無いと思う。まさか隠れている何者かから話しかけられるなんて、まるで想定していなかったからだ。
それ以前に、その謎の声の主の発言が引っかかっていたのもある。
「その残党って言い回し、アンタが空き巣の正体って事ね」
「とんだ言いがかりでしね。我々は正義の元に天罰を下したまででし」
「正義?」
どうにも胡散臭い謳い文句だが、やっている事は誰が何と言おうと犯罪行為である。そんな犯罪行為を強要するような神とか、少なくとも俺にはその存在を許容出来ないのだが。
「惚けるのもいい加減にするでし!貴様らの悪行を神は存じ上げているのでし、神は貴様らを神敵として処罰する事を告げられたのでし!」
「はい?」
何だこりゃ、カルト教団的な何かなのだろうか?言っている事が微塵も理解出来なくて、俺は完全に困惑の極みにあった。
と言うか、俺は曲りなりにも『天啓』を受けた星職者なのだ。俺の背後には天上神祖、あの第弐拾参のアホがバックに憑いて…否、着いているも同然なのである。
これを神敵として処罰するとか、俺としてはその神とやらの正気を疑うね。ましてや第弐拾参のアホが、たった今暴言を吐いた俺を処罰するならまだしも、目の前のソイツは第弐拾参のアホとは何ら関係も無さそうだしなぁ。
最低限話が通じる相手だと良いのだけど、ちょっと期待薄だよねぇ。
「貴様は我らが親愛なる信徒に手を掛けた無法者でし、その愚行を地獄の底で悔いるがヨロシ!」
「信徒?申し訳ない、もっと嚙み砕いて説明して欲しい」
「貴様、この期に及んで往生際が悪過ぎなのでし!大人しくその首を差し出すがヨロシ!」
そう言っていきなり飛び出し、ナイフを片手に斬りかかって来る謎の男。全く油断していなかった俺は、ナイフの刃が身体に接近した所でひらりと躱し、そのまま男の腕を掴んで勢いのまま後方に投げ飛ばした。
俺は銃撃専門で、近接戦闘はあまり得意では無いのだ。いきなりそんな、苦手分野に持ち込まないで欲しい。
だがそんな俺の訴えは聞き届けられなかったようで、投げ飛ばされた男がゆっくりと立ち上がり、恨み節を綴り始める。
それにしてもこの男…全身白ずくめだなんて、妙な格好をしているよな。
「ぐっ…この期に及んで愚行を重ねるとは、我々の想像以上に罪深き神敵みたいでし…」
「もう神だの何だの御託は良いよ。アンタらの正体を明かしなよ」
「その言い方、自分の置かれている状況には気付いているようでしね…全く、それなら大人しくやられておけば良いものを」
「え?普通に嫌だ、私の命そんなに軽く無いし」
そう、マップを確認する事で気付けたのだが、今現在この拠点は何者かによって取り囲まれている状況にあるのだ。数は凡そ二十名、それが広範囲に亘って展開して居るようで、真っ当な手段を以てすればここを脱出する事さえ難しそうであった。
そして恐らくは、ここの周辺に居るのは男とグルの連中であると思われる。星職者を手にかけろとか言うふざけたお告げを下す神だが、不幸にも信奉者は少なく無いらしい。
そもそも神って…天種の付属物として、世界の管理を担うだけの中間管理職違うんかい⁉
そして敵方さん、案の定話は通じ無さそうである。その正体だって、明かすつもりは微塵も無さそうだしね。
「減らず口を!お前達、今すぐ全員で突入するでし!」
「うっわ、どっちが賊だよオイ」
しかも何と言う事でしょう。敵さん、対話を放棄して暴力的な手段を強行したではありませんか。
なんて黄昏ている間にも男の手の者、それも全身白ずくめ服に身を包んだの集団が、次々と狭い部屋の中になだれ込んで来る。もしかしなくても俺、絶体絶命のピンチ⁉
おっと、そうこうしている内に男の手の者によって出入口が完全に封鎖されてしまった。これが俗に言う、袋の中のネズミ⁉
「ちゅうちゅう」
「ついに頭がおかしくなったようでし、このまま止めを刺すでし!」
頭がおかしくなった事については否定出来ない。が、このまま止めを刺される事については全力で否定しようと思います。
「行くでし!」
男の合図に合わせて、各種武器を手にした屈強…でも無い、白ずくめの連中が一斉に攻撃を仕掛けて来た。俺はこれに対し特段反応を示すでは無く、無防備な状態で受け止めて見せた。
そうして敵さんの武器と俺の身体が触れ合うと同時に、甲高い金属音のような音が幾重にも響き渡る。集中砲火を浴びた筈の俺は、あろう事か無傷でその場に立ち尽くしていたのであった。
その現実的に有り得ない光景を前に、敵方は思わず立ち竦んでしまっている。まぁ、俺の呪いが災エバ当然の結果かな。
「な⁉有り得ないでし、人の所業では無いでし」
「そりゃそうだよ、だってアタシ人間じゃないもん」
俺の正確な種族は幻星種だ。見た目は兎も角、人間如きと一緒にしないで頂きたい。
だが相も変わらず、敵さんは俺の言葉に耳を傾けてくれないようだ。
「何か小細工を施しているに違いないでし。皆の者、神の秘奥を使うでし!」
そう言って何かを始める敵さん。するとどう言う訳か、彼らの持つ武器の周囲をどす黒い何かが覆い始めた。
何らかの異能の力だとは思われるのだが、その正体を察する事は出来ない。この世界で流行りの能力の一種か、俺の知らない未知の異能力か。
ただ何にせよ、羅神器の所有者たる俺には、それが羅神器関連の力では無い事だけは判っていた。後はアレだ、百代魔とも違うな。
「それが神の秘奥?っていう割には、完全にダークサイドのソレだよね」
「抜かすでし!我らが神の秘奥は、「純白な心を黒き煩悩で塗り潰した末に悟りに至る」と言う教義を具現化したものなのでし!この秘奥を使いこなしてこそ、我らは最終到達点へと足を踏み入れる事が出来るのでし!」
「これはアレだね、物は言いようって事だよね?」
「信仰心の欠片も無い咎人は黙るでし!皆の者、確実に葬り去るでし!」
別に自分達が真に正義なら、咎人には好き勝手喋らせておいても良いのでは…なんて思わなくは無いのだが、彼らに理屈を求める方が誤りと言うものであろう。何はともあれ、襲い掛かってくる以上応戦するのみ。
ただどうしようコレ?生半可な攻撃手段なら俺の身体を傷付ける事すら敵わないのだが、これを真っ向から受け止めても大丈夫な物なのだろうか?
「うわー、ちょっと直では触りたくないなぁ」
ちょっと心配になってしまったので、俺は咄嗟に全身換装を施す事にした。一瞬にして、俺の全身が真っ黒な装甲で包まれる。
こうする事で、黒い何かが触れてしまったとしても、装甲を瞬時にパージする事で逃げる事が出来る。シビアなタイミングを要求されるが、そこは俺の腕の見せ所であろう。
また俺の羅神器の能力「反動操作」を上手く使えば、防御手段としても利用出来る事は当然知っている。迎撃時に発生した反動を利用して他からの干渉を跳ね返す、即ちこれらの攻撃に対し自ら攻撃を仕掛けていく事で「攻撃は最大の防御」を体現する事が出来るのだ。
と言う事で、敵さんが四方八方から向けて来る、どす黒くて気持ち悪い武器を受け止める…では無く、これに拳を突き付ける事で対処する事にした。目には目を、歯には歯を、攻撃には攻撃を、これこそが真理にして、この場における鉄則でもあると思うのだ。
俺は神経をいつも以上に研ぎ澄ませ、敵の立てる一挙一動に耳を傾けた。そして常軌を逸した反応速度を叩き出し、向かってくる刃全てを確実に、原則側面から当てるように意識しながら殴り返す。
この時威力云々はさて置き、かなりの勢いをつけた事も相まって、敵の刃はへし折れるか、手から弾き飛ばされるかの究極の二択を迫られていた。結論敵が仕掛けた攻撃の嵐は、そうしない内に鳴り止んでしまったのである。
「ふーん、その黒いの。触れるだけでは何とも無いみたいじゃん?」
「有り得ないでし!神の秘奥は、触れた物全てを一瞬にして無に帰す驚異の力…」
「その割には無事な人が…ああ、その意能力が効力を発する為には何かしらの条件設定が必要なのか。」
「有り得ないでし。貴様が神の恩寵を受けている筈がー」
「ー成程、大方概要が掴めたわ。そしてどうやら、アタシの羅神器で防げるっぽいね」
今回俺は、羅神器の結界と「反動操作」の能力を併用し、この黒い何かに触れた結果起こる事象を観測していた。一撃一撃殴る中で、それぞれの力を使ったり使わなかったりしながら、色んな条件設定を施して敵の能力を推し量っていたのだ。
その結果能力は愚か、結界だけでも防げることが判明した。結局敵の能力の効果を見る事は出来なかったが、それも自力で防ぐ事が出来ると判ったので良しとする。
まぁ効果が何であれ、結局俺に危害を加える事が出来ない事だけは確か。それならば、無理に脅威に感じる必要も無さそうである。
それにしてもコレ、何由来の能力なんだろう?それだけは未だに謎なんだよな。
本気を出して無理矢理推し量る術もあるけど、身体にかかる負荷が大きいからやりたく無いんだよね。って事で、聞いてみた。
「ねえねえ、その黒いの。何らかの能力なの?」
「こ、答える訳無いのでし」
そう答える男の視線は見るまでも無く泳いでいた。
「…その反応、違うっぽいな。じゃあ何だろう?他に心当たりが無くて困っちゃう」
「な、何でそれを⁉」
敵さん、情報の管理体制が杜撰だなぁ…まぁ、俺にとっては却って好都合。
兎も角、俺の知らない新機軸の異能力が存在すると言う事は確かだろう。今回は何とかなったけど、今後も同様に対処できるとは到底思えない。
そうなった際にどうやって対策を立てるべきか…うーん、悩ましい。
「(って言うかちょっと待て?何で俺、情報爆弾を使うの忘れてた?)」
そうだよ、情報爆弾をアレにぶつければその正体を探る事が出来るじゃないか。と言う事で俺は早速、全身に情報爆弾を纏わせた。この状態で一度あの黒いのに触れてみたいな。
ただ一番勿体無いのが、最後まで俺があの黒いのに触れられずに終わる事。これを避ける為、俺は念の為に一丁の拳銃を顕現させ、それを左手に持って備えた。
また見れば、敵さんもそうこうしている内に武器を拾い上げ、再びあの黒いのを纏わせていた。そうなれば、先手必勝!
「そんじゃ、今度はこっちから反撃させてもらうよ!」
そう言って俺は、左手に持っていた件銃を構え、速射で敵の武器目掛けて「情報爆弾」をぶっ放す。それは複数回的中し、その際に得られた情報が情報粒子を通じて俺の元に運ばれてくる。
その結果、思いの他多くの事実が判明した。どうやら敵方は、サイバーセキュリティや情報管理の分野に疎いらしく、特にこれと言った抵抗を受ける事無く情報を奪取する事に成功した。
と言うか俺の想定以上に、そちらの方面に理解のある存在って少ない気がする。イヴの背後に居た奴と、後記憶喪失の蒼哥位かな?出会った中で抵抗されたの。
そんなこんなで俺が、得られた情報を吟味していたその時だった。突然、敵さんが刃に纏わせていた黒い何かに包まれ、藻掻き苦しみ始めたのだ。
先頭に立っていた男だけに留まらない、この部屋に集まっていた白ずくめの全員が同様に黒い何かに包まれ、その中で苦しんでいる様子が伺える。
「ぎゃああああ!神よ、神よぉ!」
「え?急に何⁉」
「神よ!どうして、どうして我らに裁きを降すのでし⁉ぐわわわわ」
さっきの男の話を鑑みると、この黒い何かはここに居ない何者かの能力で、その何者かが白ずくめの連中に与えていた恩寵とやらを取り上げたのかもしれないね。見るからに、これまで武器として仕えていた筈の黒い何かが、打って変わって白ずくめ達を蝕んでいるのが伺えるし。
だがお陰で、その黒い何かの効能を確認する事が出来た。何と言うか、悍ましいの一言に尽きる。
黒い何かが身体に纏わりついた瞬間、その箇所がいきなりドロドロに溶け始めたのである。まるで強アルカリ性の液体をかけたかの如く、肉体が原形を留めないまでに液状化し始めたのである。
しかも黒い何かが肉体に触れる事で、何やら呪印のようなものまで刻まれていた。この呪印もまた禍々しく蠢きながら、何かしらの効力を発揮している様子が伺える。
うっわ、グロい…ってちょっと待った、その液体が俺の方にまで流れ込んでくる!やめろ!
「これ、宙に浮いたら触らずに済むかな?」
取り敢えず飛んでみた、それで一旦その場をやり過ごす事とする。そうこうしている内にも、俺の傍で襲撃者達の挙げる断末魔が木霊し続けている。
…
そんなこんなで事が収まるのを待つ事数分。結局この場には俺だけが取り残され、襲撃者達は全員が物言わぬドロドロの液体と化してしまった。その液体には未だ呪印が刻まれており、正に何としてでも呪印を刻んだ対象を逃がすまいと言う強い意志が垣間見える。
だがこの一連の所業の最中にも、俺は時々情報爆弾を打ち込み続けた事で、何が起きたかを大まかに把握する事が出来ていた。どうやらこの黒い何かを扱う能力は持ち主が別に居り、この持ち主の判断によって襲撃者達が味方から敵へと扱いを変更され、攻撃対象となった結果黒い何かの餌食にされてしまったようだ。
だが俺の情報爆弾に対し、これと言った対抗策を打ってくる事は無かった。恐らく口封じでは無いと思われるので、もっと別の理由があると思われるのだが…
「…ここ、もう使いたくないなぁ」
俺は秘かに落胆していた。元々仮の拠点として利用していた場所ではあったのだが、正体不明の襲撃者達の手によって完膚なきまでに汚されてしまったからだ。
仮に掃除をしようにも、溶けた液体に呪印が走っており、これに対し無暗に触れる事さえ憚られる始末。一応羅神器によって防げることは判明しているのだが、それでも気持ちの問題は解消出来なかったのである。
この汚染物質、どうやって除去しようかね?
「うーん」
「ますたー、無事かの?」
「話は聞いたぜ…って中は中で酷えなこれ⁉」
おっと、俺がこの惨状を前に立ち尽くしていると、外出していたと思われる新人四人組が一緒になって駆け付けてくれた。まだ外には連中の取り巻きが潜んでいたと思うのだが、よくここまで辿り着けたものだ。
ただ残りの二人に関してはお取込み中だそうで、現状ここには来れないとの事だ。
「いや、それがさ。何か外に奇妙なドロドロした液体が散乱してたんだよ。それで御主人様が中に居るって聞いて、焦って引き返して来たんだよ」
「そうなんですよぉ、御主人様今頃どうなってるかなってぇ」
「言い方ってもんがあんだろ…ま、簡単にやられるタマとは思ってなかったけど、やっぱ無事だったみてーだな」
気の所為か、日増しに奴隷達の俺に対する扱いが雑になって行っているような気がしないでも無いが、まぁ気にせずに行こう。奴隷から雑に扱われるって、妙に新鮮味があって面白いし。
だが今回の襲撃について、本当に誰も聞き及んでいなかったようだ。全員が青天の霹靂と言った様子で、やや挙動不審なまま辺りを見渡している。
そんな中、ロリババアハイエルフことキャスパリーグが、襲撃者達の残骸を前に手を翳しながら奇妙な事を言い始めた。
「むぅ、この呪印。『預言者』の聖刻に似ておるな…いや、正にその聖刻のようじゃの」
「預言者の聖刻?何だそりゃ?」
キャスパリーグの口から、聞いた事も無い謎の単語が飛び出して来る…いや、ちょっと待て?何処かで薄っすらと聞いた覚えがあるような?
でも何処だったっけな…?全く思い出せない。
だが俺が思い出すまでも無く、キャスパリーグは殊の外『預言者』について豊富な知識を有して居たようだ。
「ワシも聞きかじっただけの話なのじゃが…」
キャスパリーグ曰く、『預言者』とは右手に握りしめていた『種』を発芽させ、これを成長させる事でなれる特殊な種族であるらしい。この『預言者』とやらは所謂固有種族に該当する枠組みで、元の種族の枠組みを超えた存在になるようだ。
ふむ、成程判らん。
「そもそもだわ、種を右手に握りしめるって何よ?」
「どうも『預言者』とやらは資格を有する者のみがなれるそうじゃ。その資格とやらも、生まれた段階で有する者とそうで無い者が一目で判るらしいぞえ」
「私も聞いた事ありますねぇ。確か『預言者』予備軍の人って、生まれた時から右手が癒着して離れないんでしょぉ?」
「左様。じゃが『預言者』として覚醒すると、その開かぬ右手の中に秘められし『種』が発芽するそうじゃ。そうして初めて右手が使えるようになり、『預言者』として特殊な力に目覚めるようじゃの」
どうやらメルも『預言者』に纏わる知識を有しているようで、キャスパリーグの話に着いて行けている様子。ちょっぴり敗北感。
だが彼女達の会話の中から聞こえて来たとある言葉だけは、右も左も判らない俺に微かな道標を与えてくれるような気がした。
うん?右手が開かない?その中に『種』とやらが握られてる?
あれ?ちょっと待てよ?微かに残る俺の記憶が違わなければ、今の俺って…
「ふむふむ、こ奴らはその『預言者』から特殊能力を借り受けておったようじゃの」
「あぁ!今思えば『預言者』って、その大半が手下引き連れてましたねぇ。今私の脳裏で確かに繋がりましたよ!手下ってそう言う使い方するものだったんですねぇ」
「お主…いや、ワシはもう何も言うまい。じゃが、めるふぃーなの言う通りみたいじゃの。これを見るに『預言者』が他者に特殊能力を貸与出来る事は確かなようじゃ」
そうして『預言者』によって能力の一端を貸し与えられた際、対象者には『聖刻』と呼ばれる刻印が刻まれるらしい。これは肉体や精神、割いては魂にまで多重に刻まれるかなり強固なもので、原則対象者側からの除去は不可能であるらしい。
対象者はこの刻印を介して『預言者』本人から力を引き出す事が出来る代わりに、代償として『預言者』の支配下に置かれてしまう。この支配力も相当な強制力を誇っており、やはり対象者は抗う事が出来ないとか。
と言うより、全ての要素をくまなく支配されてしまう為に、これに抗うと言う思考すら失われてしまうと言うのが実情みたいだ。最も、話を聞く限りでは抜け道が有りそうな気もしないでは無いけど…
「キャスパリーグさん?物知りだね?」
「むむ?これはワシの能力による賜物じゃ。方法は秘密じゃが、あるモノを媒介にして事象の解析を行う事が出来るのじゃ」
「へー、凄いね」
「その棒読み、秘かに傷付くぞえ…」
そう、キャスパリーグは事象解析が可能な能力、それも最上位の完全能力を有して居る。これは心技体全ての要素を用いて行使可能な能力で、流石は最上位に区分される能力と言う事もあって効果は強力だし、出来る事も多い。
またその希少性は間違いなく、キャスパリーグ曰く、他の完全能力を片手で数える程しか知らないとの事。またそのどれもが有用な能力らしいのだが、前提条件の調整が難しかったり効能が限定的だったりと、使いどころを選ぶモノが多いらしい。
だが他の能力では絶対に再現不可能な唯一無二の効果を発揮出来るようで、基本的には変えが効かない模様。実際完全能力を所有していると言うだけで、各所のありとあらゆる勢力から引っ張りだことなってしまうとかどうとか。
因みに俺は、訳あって彼女が完全能力を保有して居る事を一方的に知っている。少なくとも俺に対しては、変に濁す必要など無い事をここに記しておく。
尚キャスパリーグは、こう言った面倒事を嫌っていたようで、これまで全力で完全能力の存在を秘匿していたようだ。しかし残念ながら俺の前には無力であり、尚且つ今のどうしようもない状況に追い込まれている事を考えると、彼女の選択が正しかったとは到底思えないのだが…
「ふむふむ…この力の正体を探る事までは出来るんじゃが、その大本までは辿り着けぬの。恐らくは預言者本人が、こ奴らとの繋がりを断ち切ったようじゃな」
「へぇ、よく判るな」
「痕跡が残っておったからのぅ。じゃが、残念な事にあまり踏み込んだ事は判らんかったわい」
悲しきかな。彼女の能力は間違いなく強力なのだが、それでも羅神器には遠く及ばないのが現状だ。
と言うより羅神器が複数の能力を極限まで突き詰めて、それらを複合させたような能力を行使出来るのが戴けない。もう格が違うのだ。
そもそもこう言った能力と呼ばれる異能力群は、何処まで行っても基本的には何か特定の何かを基軸として、それを派生させて様々な事を行えると言った効果を持つ事が基本なのだ。
キャスパリーグの能力も同様で、彼女の場合は「エネルギー」に対する干渉権限を有しており、エネルギーが介在する対象であれば様々な働きかけが出来ると言った具合である。
しかもキャスパリーグの場合、これに加えて行使する前段階で細かな条件設定が必要だった。この条件設定が災いし、能力の適用範囲が広い割に効果が尖ってしまう他、殊の外小回りが利かないのが難点だった。
端的に言えば、使い勝手があまり宜しく無いのである。
「それに比べて、ますたーの羅神器は馴染むのぉ」
対して羅神器は、最下級のモノでも中位程度の能力に匹敵する能力を携えるだけでなく、これをさらに成長させる事が出来る。最上位の熾天使徒ともなれば、完全能力の上位互換と言って差し支えないレベルの権能を最低四つ、他にも条件を整えればこれを六つも内包する事が出来るのだから笑えない。
しかも天使徒がこれらの能力を所有者に合わせて調整してくれるので、使い勝手も悪くは無い。それどころか、天使徒の格が上がれば上がる程、より洗練されていくと言うオマケ付き。
後この他に属性由来の権能もあって、これも最大で三つは追加されるか。そしてこちらも、所有者に合わせてチューンアップされるのは言うまでも無いだろう。
もう格が違うのは明白だし、使い勝手を含めても完全に上位互換。ここまで聞かされれば、この世界で羅神器が持て囃されるのも納得出来ると言うものだった。
「キャスパリーグの能力も便利で強力なんだけどね…」
「羅神器って本当に何なんじゃろうか?これを前にするとワシ、呆れて物も言えなくなるんじゃが…」
酷い言われようだが、俺が彼らを実質上奴隷にする事と引き換えに、俺が眷属器の使用権限を与えた事は紛れも無い事実だ。幸か不幸か、今の俺が眷属器に関する様々な権限を有して居たのがいけないと思う。
本当、何でこんな奴にそんな大層な権限なんて与えてしまったのか…
後、無論眷属器を貸与するに当たって、事前段階で適性の有無を確認しておく必要があるのは言うまでも無い。と言うのも眷属器の大本が羅神器と言う事もあり、眷属器も多少は使い手を選ぶ傾向にあるからだ。
ただ羅神器程厳正な審査基準は無く、必ずしも適性もとい相性が最高である必要は無い。相性が悪くない、或いは普通より上であれば誰にでも使わせる事が可能だった。
そもそも俺が適正の無い者を無償で助けたりはしないので、端から題材にする必要性も無いと思うのだが。
「結論を言うとな。その『預言者』の能力も、どう頑張ったところで能力の発展形に過ぎぬ。曲りなりにも羅神器を扱える我らの敵では無いじゃろう」
「ああ、眷属器って奴だろ?アレも実質熾天使徒って事を考えると、アドバンテージはデカいどころじゃねーよな」
しかも笑えないのが、俺が皆に渡した眷属器は適性のある者に対し、最高位に相当する熾天使徒の権能を、与えられる権限によっては万遍無く使わせる事が出来る事だろう。
これは大前提として、「眷属器」が熾天使徒に到達した羅神器の複製品である事が関連している。要は、熾天使徒に到達した羅神器をより多くの者に使えるよう調整し、それをコピーした代物こそが眷属器に該当するのである。
無論、対象者の熟練度によって何処まで力を引き出せるかは変わって来るが、それでも理論上、眷属器を授けられた全員が、最終的に熾天使徒の権能を行使出来るようになるのだ。あんまり自覚無かったけど、羅神器って想像以上のバランスブレーカーみたいだね。
そんな眷属器だが、元から権限を好き勝手出来るモノが俺の手の内にあった事が全てだろう。これを活用すべく、俺は常日頃からこれに適合する在野の人材を求めていたのだが、それがいきなり六人も見つかるとは、俺も中々にツイているようだ。
因みに眷属器だが、ここに居る四人に留まらず、先に購入した二人にも同様に貸与している。結論俺達紅翼団は、眷属器の所有者だけで構成された恐るべき集団と化していたのである。
「でもさ。君らも眷属器の概要については知らされてるとは思うけど、俺が用意した奴って基本サポート向きだからね?戦闘にはあんまり向かないよ?」
「って言うけどよ。第一眷属器って、元が熾天使徒じゃねーと用意出来ねーんだろ?元が熾天使徒で、俺らでもその一端を引き出せるって時点で破格だろ」
正論だと思う。と言うか身近に熾天使徒の羅神器があるせいで、他に凄そうな異能力が登場しても拍子抜けになるのが戴けない。
その『預言者』とやらも、一般常識の範囲内で考えれば普通に脅威だと思うんだけど、良くも悪くも俺が常識の範囲を逸脱していた事が原因でイマイチ危機感が掴めずにいた。こうして油断していた中で、寝首を掻かれなければいいのだが。
「なんか変だよね?僕の記憶が正しければ、あっさりと手渡された記憶があるんだけど?」
「御主人様って基本頭おかしいからねぇ?きっちり制約を用意してる所は抜かりないけど、それでもやってる事異常だって。やっぱアイツ半端無いって」
酷い言われようだが、原則眷属器は対象者に応じてチューンナップを施した状態で手渡される。俺は事前にメンバー六人のパーソナルデータを洗い流しているので、これを基に彼らの特性に応じた調整を適宜施す事が出来るのだ。
だからこそ、眷属器を瞬時に使用可能な状態に出来る為、こうしてホイホイと手渡す事が出来る。それも全て、俺がしっかりと羅神器に精通しているお陰と言えるだろうな。
とここでメルがいきなり話の流れを断ち切り、鋭い指摘を繰り出して来た。
「あのぉ、そもそも何故この仮の拠点が『預言者』からの襲撃を受けたのでしょう?」
それは俺も不可解に思っていた所だ。現状『預言者』の知り合い、思い当る人が一人も見当たらないんだけど?
「もしかして私達、知らず知らずの内に『預言者』の手の者に喧嘩を売ってしまっていたのでしょうか?」
「だとして何処じゃ?クォーツ一族かの?それとも反能力勢力かのぅ?」
「少なくともエレイン経由では、そんな話は聞いた事は無いからなぁ。消去法で反能力勢力になるのかね?」
「反能力勢力ですかぁ。普通に有りそうですねぇ、その可能性」
反能力勢力…俺達の調べに拠れば、どうやら能力に恵まれなかった者が集まって出来た組織だとかどうとか。自分達の事を無能力者もとい弱者であると謳い、強力な能力を有する者達に対するアンチテーゼを展開しているようだ。
そしてこの世界には、全体的に見て能力や異能力の持ち主を持て囃す傾向のある国家、組織が多く、反能力勢力はこれらに対して明確な敵対意思を示しているとの事である。殊の外過激な行い、テロ紛いの危険行為も繰り返しているとかで、世界各国でその身を追われているのも有名な話だ。
まぁ何であれ、連中の事は犯罪者集団、若しくは過激派のテロ集団と認識しておけば問題無いと思われる。彼らの主義主張の是非はさて置き、そのやる事為す事が真っ当で無い事は明らかだろう。
だが無能力者かどうかはさて置き、真に無能力者=弱者なのであれば、既に為す術も無く淘汰されている筈。何らかのカラクリがあるとは疑っているが、それこそが『預言者』絡みの異能力になるのだろうか?
ってあれ?ちょっと待て?
「今思ったけどさ。その理屈で言うと、完全能力持ちのキャスパリーグが居る時点で、俺達って必然的に反能力勢力と敵対する事になるよな?」
「あー、それは申し訳ないのぉ」
「いやいや、別に謝る必要は無い。大切なのは、もし犯人が反能力勢力だとしたら、早くも在るべき形に移行したって事だ。これで遠慮無く、反能力勢力に報復出来るぞ」
「ますたー、どうしてそう言う発想に至るのじゃ…」
何故か?それは君達の知らない所で、俺がとばっちりを受けたからに決まっている。
…と言うのは表向きの理由。と言うより宣戦布告も無しに攻撃を受けてしまった居るのだから、襲撃者の正体が反能力勢力と判明した段階で敵認定するのは自然な流れ。まぁ現時点でほぼほぼ確定的なので、時期が来ればこちらから仕掛けてみても良いかもしれない。
それにしてもだ。元々裏社会の組織として設立したわけでは無い「紅翼団」だが、現時点で言い訳が利かない程に裏社会にどっぷり浸かってしまっている。
今ならまだ抜け出せない状況でも無いが、かと言って今後、金輪際裏社会と繋がりを持たずに組織を運営していけるとも到底思えない。なんやかんやで、裏社会に顔を出す事もあるだろう。
それ以前に、エレインが裏社会の大所帯「クォーツ一族」の幹部やってるんだった。もうこの時点で無関係と言い張るのは無理があるよね。
「取り敢えず、大亜工房法人の拠点に俺達紅翼団の新規拠点を設立出来た。丁度良いし、ここは引き払って向こうに居を移すとしようか」
「お邪魔するのは良いんですけどぉ、何か良い感じの言い訳とか考えてあるんですかぁ?」
「言い訳って言うか、秘密裏に行いたい業務があるって前置きしつつ、デスクワークと荒事をどちらも任せられる人材を雇ったって言う予定だな。皆事務作業は出来るし、ある意味で信用が置けるのも事実だし」
そして表向きのアピールも兼ねて、実際に幾らかの業務を委託する予定ではある。しかし飽くまでも副業程度に収まるよう仕事量の調整は行い、皆には基本紅翼団としての業務に従事してもらいたいとは思っている。
そこのマネジメントは、俺の腕にかかっていると言っても過言では無いだろう。
「ここの掃除は後でやるとして、一旦みんな向こうに移る支度をー」
その時だった。少し前にも聞いた覚えのある懐かしい響きが辺り一帯に響き渡る。
そう遠くない未来で来るとは予想していたが、まさかこのタイミングで来るとは思わなかった。しかし今か…ちょっとタイミング悪いなぁ、どうやって弁明するべきか。
周りを見てみた感じでも、ここに居る四人全員が、俺と同様の声を聞き入れている様子なのが困った所。後々の事を考えると億劫でしかないが、こればかりは俺の意思ではどうにもならないのでしょうがない。
何はともあれ『天啓』だ。さぁ、立ち上がれ!新たな社畜共よ!
お待たせしました。一旦書き直しに目途が着いたので、再度更新を再開します。
今後の更新予定についてですが、以前と同様に毎月1、4、7、10、13、16、19、22、25、28の6:00更新。ただこのペースだと無理があるようなので、不定期での投稿にさせて頂ければと思います。
不定期とは言うものの、何とか週一話以上の投稿頻度には出来るよう頑張りたいと思います。今後ともご迷惑をおかけするかと存じますが、何卒よろしくお願いいたします。




