第七十六話:追及
~?~
「はぁ、はぁ、これでどう?」
《最初はこんなもん、いいでしょ、合格で》
あれからどれほどの時間が経っただろうか?私は目の前の天使徒に同族嫌悪のような感情を抱きつつも、そんな彼女から示された課題を何とかクリアする事が出来た。
これが彼女の言う「試練」に該当するそうで、羅神器の所有者は事ある事にこの「試練」を受けさせられる羽目になるらしい。これに合格している内は所有者のままで居られるが、一度失敗しようものなら途端に堕天使徒へと早変わり…と言う、割と洒落にならないイベントなのである。
これを受けさせられて初めて、私は小紅の言っていた言葉の意味を、ほんの少しだけ理解出来た気がした。確かにこれは、他人にどうこう出来る類のものでは無いわ。
「それにしても趣味悪い、ちゃんと理由があるんだろうけど、こんな形で自分と向き合わされるなんて」
《それが悲願たる「第一級:熾天使徒」に至る為に必要な事、所有者の意思なんて知らない、無理にでも付き合ってもらう》
そして目の前の天使徒は、私の愚痴に対してまるで聞く耳を持ってくれない。本当に熾天使徒になりたくて仕方ないみたいだ。
それにしても、熾天使徒か…
「それにしても、まさかこんな形であのお方と縁を繋げるなんて、私最高の選択しちゃったかも」
「あのお方…?、また出たその名前、いい加減誰の事か教えてくれても良いんじゃない?」
目の前の天使徒は言葉を濁しているが、流石に私にも予想が着いて来た。恐らく小紅と、後から現れた、いけ好かない純白の奴を差しているのだろう。
でも確かに、二人の言動はさておき、確かにあれは次元が違うと感じさせられてしまった。とてもでは無いが、今目の前に居る天使徒が、あれと並び立てるだけの存在になれる気がしない。
《そんな弱気では困る、確かにあのお方に追いつくのは大変だけど、それを実現させるのが私の役目》
「そういう大事そうな所で人任せ、本当、良い身分」
《仕方ない、だって私達だけでは無理だもん、こうするしかない》
小紅の事前説明があったお陰で、今の言葉の意味も、より鮮明に理解出来ている気がする。今思ったけど、小紅、実は私が思っている以上に凄い人なのでは?
あまり本人の前で言わない方が良いと思うけど、ぶっちゃけ、普段の言動では残念な箇所が目立って仕方ない。しかも若干ワザとらしいし。
《何を今更、あのお方は本当に凄いんだから、普段の言動を真に受けちゃダメ》
「むう、もう隠すつもりも無いと、それにしても何か知ってそうな言い方」
《うん、知ってる、こう見えて私も長生き》
聞いた話に拠れば、あのお方こと小紅は、天使徒の間でもかなり有名であるらしい。熾天使徒に到達した者は何人か居るようだが、その中でも特に世間一般には知られておらず、逆に天使徒の界隈では知らぬ者が殆ど居ない…そんな摩訶不思議な存在であるのだと。
しかも私の羅神器や天使徒とも接点があるようで、何でも何代か前の所有者が小紅に挑んだ事があるらしく、敢え無く返り討ちにあったとかどうとか。
これを聞いて、私は思わず背筋に鳥肌が立った。それはもう、色んな意味で。
「…馬鹿なの?、無謀にも程がある、あんなの絶対只者じゃ無い事は明白なのに」
今日に至るまで、口では強がってきたが、小紅に正面切って逆らおうとか考えた事は一度も無かった。その言動に思う所はいっぱいあるが、それ以上に心成しか逆らってはいけないような気がしたのである。
恐らくは女の直感、人としての本能が警鐘を鳴らしていた。小紅が表立って見せていないだけで、その実途轍もない恐ろしい何かを隠し持っていそうな、そんな気がして止まなかったからである。
そもそもあんな賢い言動と馬鹿な言動を織り交ぜるような人が、一般常識で測れるような相手である訳が無い。ここだけの話、何代か前の所有者は危機感が足りないのでは?と疑念を抱かずにはいられなかった。
《うん、私は過去の所有者と比べても賢くて聡いみたい、だからこそ気を付けて》
「ん?、だからこそ?、それは何故?」
またもや、天使徒が含みのある物言いに終始している。何だろう、次第に苛立ちが募って来て嫌になる。
しかも、私の質問には今は答えられないと来た。
《私は一心に熾天使徒を目指し続ければいい、そうすれば何れ何かを知っている私と同化し、必然的に思い知らされる事になるから》
そう言って不敵な笑みを浮かべる天使徒。果たしてこの誘いに乗っていいものか…否、乗る以外に選択肢はないも同然なのだが、それでも不安に感じてしまうこの頃である。
《…と、無駄話はこの辺で、外で誰かが呼んでる》
等と、突然天使徒が呟くと同時に、私の意識は何かに吸い込まれるように掻き消えて行った。
確かに、私を呼ぶ声が聞こえる。行かないと。
…この時、私はとある重要な事実を見落としていたのだが、結局最後まで気付く事が出来なかったのはここだけの話。
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結局二人が現実世界に戻ってくるまでに、二日程の時間を要した。その間現地で野営を行いながら、すっかり静まり返った砦にて時間を潰していた俺達。
だが決して暇だった訳では無い。何せ今回の依頼で、既に破格の報酬を得るに至ったからだ。
俺以外。
「因みに、皆はどんな報酬をもらったの?」
俺は作りました感満載の笑みを浮かべ、他の特待生達に詰め寄った。
と言うのも俺の場合、余り大声では言えない諸事情が絡む他、格下相手の蹂躙劇だった事もあり、これと言った褒章が発生しなかったのだ。だが他の面々からしてみれば、圧倒的な格上相手に勝利した事で、間違いなく通常では得られないような格別の褒章が発生している事だろう。
事実聞いた話に拠れば、堕天使徒を討伐した直後に謎の声が聞こえ、何かを授かったと言うアナウンスを聞き入れるに至って居たらしい。直後に色々あった為に気付けなかったが、確かに特別な褒章を獲得していたようだ。
「私は確か「衛勇候補」って言う称号と、「衛勇許可証」って言う謎の能力でした」
「MEもだNE。他にも能力のLEVELが上がったり、ORIGINAL?みたいな能力も幾つか獲得出来たYO」
「特別なアイテムも幾つか授かっておりましてよ、それらは全て魔力式容量拡張鞄に入れさせて頂きましたわ」
そんなシャーロットとヴァンとイザベラの報告に、他の特待生達もうんうんと頷いている。小黄が唯一人「衛勇候補?、何それ、そんなの貰ってない」と言いながら、置き去りになっている様子が伺えた。
これを受けて、俺は思わず頭を抱えていた。
「あれ?、小紅、どうしたの?」
「いや、確かに時期が時期だから予想は出来たかもだけど」
俺は怪訝そうな様子で問いかけて来る小黄の問いに、困った様子で答えた。そんな俺の様子をみて、小黄も何かを悟ってくれたようだ。
確かに、通例で珍しいアイテムや能力を獲得出来る事は知っている。だがそのラインナップの中に『天啓』絡みの褒章が含まれているとは思わなかったのだ。
しかもよりによって、「衛勇候補」とは何とやら。『天啓』が特定の条件を満たした者に下されるケース自体は知っていたが、まさか滅界因子の討伐そのものが条件だなんて思いもしなかった。
「と言う事は、皆『天啓』を新たに受けて、その神話の一部に取り込まれた訳かね?」
「『天啓』?、『天啓』って確か、あの時話してた」
「うん?私も説明はうけたっすよ?確か十年後くらいに『神話』が語られるんすよね?」
何と。既に皆して、小黄以外の全員がつい先程、『天啓』に纏わる説明を受けるに至ったようだ。
でもこれ、言って良いのかな?『神話』において、『衛勇』と『星職者』って要所で絡む場面があるんだけど。
「そう言えば、小紅は『星職者』だった筈、だったら知ってるかも」
「「「「「⁉」」」」」
そして俺が悩む間もなく、この中で唯一人部外者と化していた小黄が決定打を加えてしまった。派閥にこそ入れていないものの、俺が第一世代である事を話していた事が裏目った形だ。
だが小黄を責める事は出来ない。彼女は現状第二世代でしか無く、彼女視点では俺の正体を話してはいけないと伝えられていないからだ。
寧ろ悔やむべきは俺か、一番バレてはいけない相手にバレてしまった事が全てだろう。こうなってしまった以上、俺が案内役を務めるしかなくなるよな…已むを得ん。
「ふぅ…そこまで知られては仕方ない、これも何かの縁だろうな」
俺は一度深呼吸をした後、敢えて元の口調に戻してこれに答えた。そうする事で、より俺の言葉を印象付けさせる。
他の特待生達も、途端に場の空気間が一変した事を肌で感じ取ったらしい。俺の一挙一動に刮目し、固唾を飲んでその動向を見守っている。
「「「「「…」」」」」
却ってやり辛いな…コレ。
だがまあ、やる事自体は殆ど変わらないので気にはしない。
職務リストには記載されていないが、これも星職者の義務。ある意味、ここに居るのが経験豊富な俺で良かったまでもある。
何はともあれ、俺はカンペに則って重々しく言葉を紡ぎ出した。
「多分皆、各々で在野の『星職者』を探し出し、その者から直接説明を受けるように言われていると思う。それが『衛勇候補』に課せられた最初の課題、真なる『衛勇』になる為のスタートラインがそこだと聞かされた筈だ」
俺のあまりの変わりように、周囲の全員が口をパクパクさせながらどうしたものか、図りあぐねているようであった。しかし暫くして、徐々に落ち着きを取り戻して来たのか、ヴァンから順番に口を開き始めた。
「??、YOUは本当に小紅でいいのCA?」
「口調が戻ってるが、俺はアタシだぞ。ちょっとばかし豪運が過ぎる気がしないでも無いが、何であれ最初の課題はクリア出来た訳だ、おめでとう。そのご褒美として、君達に導きを授けよう」
「なんか急に偉そうっすね、元々そう言うキャラだったんすか?」
「その姿でその喋り方、違和感しか無いわね」
仕方ないだろ⁉こう言う話の運び方をしろって、カンペに書いてあるんだから!
因みに今俺は、羅神器を起動しており、その中から百科事典を閲覧しながら話している。ここに記されている手順に則って、極めて実直に事を進めているに他ならないのだ。
でも本当、この役目があの二人じゃ無かった事は幸運かもしれない。この役目、初めての人にはちょっと難しいからね。
「先ず前提条件の確認だ。皆は『神話』や『衛勇』について何処まで聞かされてる?」
俺は直接聞けていないので判らないが、恐らく全員がこれらに関する説明を受けている事だろう。しかし聞かされたのは断片的な情報で、恐らくその実態が掴める程十分には聞かされていない筈だ。
俺の経験則に則れば、過去の神話でも同様の事が発生していた事を覚えている。そんな場面に遭遇しては順次捕捉し、彼らの理解をより明確にする事こそが、俺達星職者の使命の一つでもあるのだ。
「聞き入れた情報はそう多くありませんわね。確か…」
「『星職者』が『天啓』を最初に受けた人達で、彼らが『神話』を運営する立ち位置にある事。それと、彼らを探し出すのに有用なキーワードなるものを教えていただきましたわ」
「結局必要無かったっすね、それ」
「まさか、こんなにも早く見つかってしまうとは思わなかったわ」
「成程、現時点ではそう多くは聞かされてい無いか」
要するに、必要な事や聞きたい事は星職者から直接聞けと言う事だろう。
いや、それにしても俺…これから全員に対して、その残酷な現実を突きつけなければいけないのか。何時も思うけど、実に残酷なお役目だよなぁ。
「取り合えず、一旦今回の『神話』の概要について、解ってる所を開示しようか」
後どうしても惜しまれるのが、俺達星職者もその全貌を知っている訳では無いと言う事だ。かく言う俺も、今回の神話について解っていない所は未だに多い。
だが俺の記憶が正しければ、彼ら『衛勇』達は道中で多くの『星職者』と邂逅し、それぞれが知り得る情報を逐一聞き入れていく必要があった筈だ。その時、確か一人の星職者が開示して良い情報に制限がかけられていたと記憶している。
つまり、最初の説明は俺が行うとして…その際でもそれ以外の場面でも良いのだが、何かしら踏み込んだ質問を受けた際、用意できる返答の数に限りがあると言う事だ。確認してみた所最大で二つまで、それ以上の事は開示してはいけないお約束。
…もしかすると、小黄が今回『衛勇候補』に選ばれなかったのは、先の邂逅が影響しているのかもしれない。それに小黄は、現時点で「第二世代」にもなってるしね。
あれ?これってひょっとしたら、今後の『天啓』で何かサプライズがあるのかもしれないぞ?
「んじゃ、先ずは今回受けた『天啓』について…」
俺はこの言葉に続けて、他の『星職者』が最初の『天啓』で受けた内容を、殆どそのまま詳らかにした。正直『衛勇』達にはあまり関係のない内容も多いのだが、ここまでは話しても良く、何なら『衛勇』に見つかった際にはこの内容を明かすよう伝えられても居るので問題ない。
この基本的な内容に加え、最大で二つまで、俺しか知らないような『天啓』に纏わる情報を彼らの脳に叩きこむ。これこそが今回俺に委ねられた仕事となる。
「とこんな感じだ。俺達は星職者こんな説明を受けた挙句、無理矢理各々の職務に邁進させられているって訳。これに加え、二つまでならとっておきの情報を開示出来る」
「ここまでは私も知ってた、実は小紅が直接『天啓』を受けた第一世代、私は第一世代に任命されてその一端を担う事になった第二世代の星職者に該当する」
途中で小黄も俺の仕事を手伝ってくれ、何とか二人で最初の事前説明をし終える事が出来た。その後幾つかの質問を受け付け、その結果特待生達は皆『天啓』の概要を理解するに至ってくれたようである。
「そしてここからは有料ゾーン。合計で二枠あるんだけど、その二枠を使って一番知っておきたいであろう『神話』と『衛勇』についての情報を開示する。これについて異論のある人は?」
俺が勝手に貴重な二枠を決めてしまったものの、案外この決定に異論反論は見られなかった。俺が進言するまでも無く、全員が『神話』や『衛勇』について知っておきたいと思っているからであろう。
皆が選ぶべき所なのだが、それを勝手に決めてしまって申し訳ない、と心の中で謝りつつ、俺は語り始めた。そもそも皆『天啓』に関する知識が殆どない状態で、質問内容を考える方が困難だとも思えるので、今回は俺が決めた方が良いと判断させて頂いた次第である。
「前回下された『天啓』は、端的に言えば『神話』が語られる事の予告と、その運営役に仕事を割り振る事を目的としてた。でも、『神話』の登場人物自体は大きく分けて三種類存在するのを覚えてる?」
これは先程、俺と期待との会話で出て来た『主人公陣営:栄雄者』と『宿敵陣営:蛮雄者』、そして『裏方陣営:星職者』の三者である。各々を掘り下げるとなると、それぞれで一枠使ってしまうのでここでは割愛する。
だが、『衛勇』と呼ばれる存在については一切の言及が無かったらしい。だからこそこうして、一枠を消費してでも説明すべきだと思ったのだ。
「今回皆は『衛勇』として認められた、その結果、半ば強制的に『神話』に参加させられる事が確定してる」
「WAIT!話が飛んでるYO」
「そうでも無いぞ。と言うのも君達『衛勇』は、現時点では『栄雄者』になるか『蛮雄者』になるかが確定してないんだ。つまり言い方を変えれば「『神話』の登場人物として選ばれる事が決定したけど、その役割が決まってないキャラ」これが今の君ら」
ここまで言ったは良いものの、全員未だに理解が追い付いていないようなので、補足説明を行う。
『衛勇』と言うのは、端的に言えば『神話の登場人物の中で、モブに該当しない名前付きのキャラクター』という意味合いがある。だが現時点で固有の登場人物として登場する事は決まっていても、どういう形で登場するかまでは決まっていない状態にある。
言わば『神話の登場人物のプロトタイプ』。ここから本人の言動や選択に応じて、徐々にその役割が定められていく。
「枠の関係であまり詳しくは言えないんだけど、今後の君達次第で、必ず星職者以外のどちらかの枠柄が割り当てられる事になる。ただ基準は全て『神話』の中にあって、自分達の意思では決められず、全て『天啓』によって強制的に定められる。だから現時点では何とも言えないかな」
「物凄くあやふやな言い方ですね…」
「こればっかりはその時々で変わるから仕方ない。まぁ、『栄雄者』になっても『蛮雄者』になっても、やる事為す事については『天啓』で指示が下るのは同じ事。だから今はどちらか決まるまで、音沙汰を待つしかないね」
決まってさえしまえば自分の立ち位置や役割が明確になるのだが、決まるまでは本当にどう転ぶか判らないと言うのが現実だ。そして何時どちらに決まるのかも不明、かと言ってどちらかなりたい方を狙って行動すると言うのも難しい。
こればかりは運が全てのカギを握る。そして定められた天命に従って、己が役目を全うするしか無いんじゃないかな?
「でもそれって、万が一『蛮雄者』になると悲惨っすよね」
「実はそうでも無い。その理由が、もう一枠を消費して語る『神話』に繋がって来るから」
実は両者はその在り様や役割が異なると言うだけで、大枠で見れば『神話』における存在意義、目指すべき方向性は変わらない。
「そもそも『神話』の最終目標は、時期『天上神祖』の選定にある。『栄雄者』だろうが『蛮雄者』だろうが、同様にその候補に名乗りを上げる事は出来るんだよね」
「「「「「⁉」」」」」
要はこれに尽きる。
どちらに選ばれようが、最終的に時期天上神祖の座をつかみ取った者が勝者。これだけが極論となるサバイバルレース、それこそが『神話』の神髄なのだ。
「理解は追いついた?つまり君らは今回の『神話』を通じて、時期天上神祖に選ばれる為、必要最低限の資格を獲得したって訳。そんで考える事は至極単純、時期天上神祖を目指す、この一点に尽きる」
ここまで吐き捨てて、当事者たる特待生達は事の壮大さにまるで着いて行けていない様子で、心ここに在らずと言った様子で呆けていた。
無理も無い、何せ自分達では到底想像すら出来ないような高位存在『天上神祖』の後継者候補だなんて、いきなり自覚しろと言う方が難しいだろう。
因みに、俺のような星職者にはまるで関係の無い話になる。時期天上神祖誕生の為、必要に応じて候補者達を教え導き、陰で支えるのが俺達の役目になるのだから。
果たして、どちらが真に幸せと言えるんだろうね?
「俺から言えるのはこの辺りかな。もっと詳しい話を聞きたければ、他の星職者を見つけ出して、問いただすと良い」
「質問、宜しくて?」
「内容による。答えられる範囲内なら」
一応星職者達は、一枠を消費して語っても良い内容にある程度の範囲が定められている。これを星職者らは知覚できるのだが、その範囲内に収まっていれば原則何度でも質問に答える事が可能となっている。
だが今回の二枠は、割と基本的な箇所に割いているのがミソとなる。内容自体が広めな分、浅くなってしまったので、あまり細かい所までは答えられないかもしれないな。
「ならお言葉に甘えて。素朴な疑問なのですが、『神話』が選定すると言う『天上神祖』とは一体何なのでしょう?」
おっと、ここでいきなりイザベラからグレーゾーンの質問が飛んできた。これは答えてはいけない所を伏せて、あやふやに答えるしか無さそうだ。
「一枠使うから詳しい事は答えられないけど、一言で言えば全世界で一番偉い存在。そんでもって『天啓』を下す張本人であり、尚且つ『神話』を語る張本人ってとこか?」
「意外とケチですのね」
「仕方ない、これを破ると俺を中心に不幸な結果を招いてしまう。そうなった場合、君らにも飛び火するかもよ?」
「物知りですのね、ここで癪に障ると感じてしまうのは何故なのでしょう?」
すまない、これが今の俺に出来る限界だ。申し訳ないが、これがルールなのでどうか理解だけしてもらいたい。
「そう言えば、『衛勇』が『栄雄者』と『蛮雄者』と言う二つの区分に分かれるのは何故なのかしら?話を聞いただけですと、そもそも別れる必要性をあまり感じないのだけど」
そして今度はシャーロットから質問が飛んできたのだが、これまたグレーゾーンに差し掛かっている。これまた辛い質問だ、殆ど詳しい話が出来ないが、果てさてどうしたものか。
「これまた一枠使っちゃうなぁ…これって結局、どちらが話の中心にいるかの違いでしか無いんだよね。一応、それぞれにメリットとデメリットは虚実に存在してるけども」
「その心は?」
「言えない、一枠使う事になる」
うーん…殊の外返答が窮屈になってしまい、それに比例して俺の肩身も狭くなってしまう。これにますます追い打ちをかけるかの如く、特待生達からの刺すような視線が突き刺さる。
全く、これが中間管理職の憂鬱って奴か。如何し難いぜ。
「ま、決まってみれば何となく解るよ」
「欲しい返答が中々帰って来ないわね、残念だわ」
そう言って急に鼻を啜りだすシャーロット。もう何をしようとしているか、分かってしまった。
「…泣き落としは通用しないぞ?この話は悪いけど終わりね」
俺の冷酷な宣言を受け、ぷくっと頬を膨らますシャーロット。この女、こんなにあざとい真似が出来たのか…個人的に衝撃であった。
「ま、前の説明と合わせて大枠は見えてきたっしょ?少しでも見えてくるものがあれば個人的には満足かな」
「「「私達は未だに欲求不満ですが!」」」
「ゴメンて。本当どうしようもないんだってば、俺だって唇から滲む血を啜りながら頑張ってるんだよ」
等と、俺が勢い任せにキレ散らかしたその時であった。
突如として脳裏に、何処か懐かしくも鬱陶しい音色が流れ込んでくる。噓でしょ?まさかこんな早いタイミングで次が来たのか⁉
って言うか、よりにもよって新たな衛勇候補が誕生したタイミングで来るなんて、まるで狙い澄ましたかのようだ。そこまでして俺を混乱させたいか⁉
何はともあれ、もうこの時点で限りなく確信に近い、嫌な予感がしているのは事実。俺はとあるケースを懸念していたのだが、見事に的中してしまった。
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『天啓である。これより10年後の1月1日、神代が開かれる。新たな神話が語られる事となろう。
故に選ばれし勇志に告ぐ、星より授りし職務を実行し、神話を創造せよ、神代の礎を築き上げよ。
これより新たな同胞を迎え、更なる段階への移行を実現せよ。これは有志達に向けた催促であると同時に、警告でもある。心して置くように』
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恐らくここに居る全員では無いかもしれない、だが俺を含め、どうやら小黄にも同様に聞こえているようだ。
突如として様子がおかしくなった俺達双子の姉妹を見て、何事かと周囲を見渡す特待生達。しかし周囲に目立った事は何も起こらず、只静寂に包まれた時間だけが過ぎていく。
だが当事者たる俺の脳内は、外部とは打って変わって騒がしい事この上なかった。何と、新たに俺の職務一覧を確認した所、新たな文字列が追加されている事を確認出来たのだ。
マジか…どうやら職務の進捗状況が全体で見ても芳しく無かったようで、新たに追加人員が用意された他、ペナルティのようなものが課されてしまったようである。
確かに今思えば、俺も未だに職務を殆ど進められていない。済マークが付いた職務は、初期段階で知らない間にクリアしていた「仏教世界」位なものである。
別に俺、サボってた訳では無かったんだけどなぁ…
「…小紅、後で話があります、これ以上は言わなくても大丈夫だよね?」
ここで俺は、ぎこちない挙動で首を縦に振った。そうする以外に選択肢は無かった。
どうやら俺達、知らず知らずの内にヘマをやらかして居たのかもしれない。こうなった以上逃げも隠れも出来ないが、より一層腹を括るしか無さそうだ。
「あの…二人共?」
結局、今回の『天啓』の影響下にあったのは俺と小黄の二人だけであったようだ。その他の者については、何が何だかと言った様子で首を傾げている。
丁度説明にひと段落着いた所だったのに、これでまた説明すべき内容が増えてしまったか…俺は項垂れながらも、再度瞳を座らせ、何処か所在無さげにしている特待生達に対し向き直ったのであった。




