第七十五話:来客
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~一方その頃~
丁度俺達が堕天使徒を倒すべく、砦に向かって空の旅を楽しんでいた丁度その頃。俺達のホームグラウンドたる讃銃士のギルドホールに、とある奇妙な来客が訪れていた。
「やっほー、ユナイテッドくんは居るっすかー?」
そう言ってにこやかにほほ笑む人物を前に、そこに居合わせていた団員達はどうしたものかと、互いに顔を見合わせる始末。兎に角、その人物は奇妙過ぎた。
「ふーん、ここがユナイテッドくんの根城なんすね。活気があって良さそうじゃ無いっすか」
「マスター?ここはアウェーなんだし、もっと緊張感を持った方が良いんじゃない?」
「そうっすか?逆に険しい表情をしてる方が警戒されないっすか?」
「ワシもますたーに同意じゃな。別によく無いかのう?ワシらとて、ここに喧嘩を売りに来た訳ではあるまいし」
「そりゃそうだがよ…やっぱ今のマスターの口調、違和感しか無いぜ…」
まずその人物は、本来初めて訪れる筈の場所に、実に気兼ねない出で立ちで現れた。その様子が異様なまでに様になっており、周囲の団員たちに対し、まるでそこに長らく居たかのような錯覚を与えさせる。
しかもその人物は、本来であれば連れている筈の無さそうな人物を三名程同伴させている。この三人もまた飄々としており、尚且つ件の人物と非常に似た、油断ならない気配を醸し出しているのだ。
それだけではない、その人物の外見もまた問題だった。それがまあ、団員たちもよく知る人物に酷似していたのである。
一見、その人物は成人していない子供にしか見えない。だが、それでもこれを侮って掛かる者は一人として存在しなかった。
それもその筈。その人物は、見るからに只者では無い同伴者を三名程伴っており、傍から見るだけでも只者では無い事が明らかだったからだ。
それらが土足で敷居をまたぐや否や、いきなり旅団総領の名前を軽々しく口にする始末。その口調からして、旅団総領とも何らかの繋がりがありそうだ。
「あれ?中々出て来ないっすね?怒った方が良いっすか?いっその事、軽く暴れた方が気付いてもらえるっすかね?」
「いや、口調は変わっても中身はマスターのままだな。却って安心したぜ」
「だね、その物騒さがあってこそのマスターって感じするもんね」
今の発言のどこに安心する要素があるのか?その場にいた団員達の誰もがその真意に辿り着けずに居たが、やはりそんな事よりも訪問者があまりにも奇妙過ぎた。
明らかに旅団の幹部級、トップ3じゃない特待生に匹敵しそうな実力者だけで構成された一行なのだが、その全員が一切武装していない。そんな無防備な状態で戦闘系旅団の拠点に真正面から乗り込み、喧嘩を売っていると疑われても仕方ない位の過激な発言を繰り返しているのだから。
しかしそれで居て相手方の実力の高さは、戦闘慣れした団員達からしても明らか。これに対し真っ向から文句を言い付けるような人物は…あ、あのポンコツ四人組が居た。
「オイオイ、そこのガキンチョ?ウチのリーダーに似てるからって、同じ事をしても許されると思うんじゃねーぞ?」
「ガキンチョ?もしかして私の事っすか?」
「んだよ。ウチのリーダーの身内なのかもしれねーが、アンタはウチのメンバーじゃねぇ。同じ待遇を受けられるなんて思うんじゃねーぜ?」
因みに双子を含むパーティの教導役となっていたあのポンコツ四人組だが、どういう訳か羅紅玉の派閥に所属する事になっていた。聞けばあの四人、前線に出れば無能を晒す事が多いものの、裏方に回ればそれなりに優秀だったらしいのだ。
特にコンピューターの扱いに長けていたようで、それぞれ専門性の高い分野で高いパフォーマンスを発揮しているようだ。派閥内でも、各人の得意分野においてはそれなりに信頼されるようになっていらしい。
更に派閥に加入する際に色々とあったようで、四人の羅紅玉に対する恩義は限界突破しているとかどうとか。派閥に加入してから、四人はこれまでに増して真面目な働きぶりを見せるようになり、その存在感と能力を存分に発揮しているようだ。
しかし悲しきかな。彼女達は依然、得意分野以外においてはポンコツのままなのであった。
そんなポンコツな四人に対し、訪問者は実に生温かい視線を向けている。
「へぇ。アレもそこそこ慕われてるみたいっすね、意外っす」
「ま~ね。行き場の無かった私達を拾ってくれて、その上天職を見つけてくれたんだもん。もう足を向けて寝れないわ」
「そうデス。皆の足を引っ張ってばかりだった私達を拾ってくれた恩義がありますデス、私達はこの恩に報いるだけなのデス」
「違いないですね。少なくとも、今後私達がリーダーに背信行為を働く事は無いと断言しておきます」
「そうっすか。まぁ悪いんすけど、今貴女達に用は無いんすよ。私に絡む暇があるならユナイテッドくんを呼んでくれないっすか?」
そう言ってポンコツ四人組を軽くあしらう訪問者。これに対して四人は怒り心頭…となるも、これを制したのは、どういう訳か訪問者が連れてきた三人の同伴者達であった。
そのせいで、三人の怒りのボルテージは一気に冷めてしまう事となる。
「マスター、折角だしもう少し相手してあげようぜ。こんな機会、滅多に無いんだからよ」
「そうだよ!これが以前も言ったテンプレ「絶対強者がチンピラに絡まれるイベント」そのものなんだよ?もっと堪能しないと損だって」
「いやー。別に今回に限らず、少なく無い頻度で似たような事あるっすよ?特段珍しくも無いっすし、無理して楽しもうとも思わないっすね」
「ワシもますたーに同意じゃの。初めの内は良いかもしれんが、何度も何度も続けられる内に鬱陶しくなってくるからのぅ…」
「あれ?もしかして、二人共テンプレの被害者?」
「ふーん。つまりあれだ、現実は夢より奇なりって事か?」
「うーん…それはちょっと誤謬って言うか、話の筋から逸れてる気がするかも」
「そんなもんかね?」
もう団員達は、何が何か分からず仕舞いであった。話している内容も、その際に垣間見える表情は仕草も、彼らの常識ではとても図り切れないものであったからだ。
そして真っ先に噛みついた四人もまた、その後の対応を図りあぐねているようであった。左右を交互に見渡しながら、互いに困惑の表情を浮かべているのが伺える。
この何とも言えない状況を前に、場は一瞬にして喧騒に包まれる。そんな中、一人陰に隠れて舌打ちをしていた者が居た。
それは「魔法銃撃最強」の座を賜った特待生の一人にして、今回の特待生遠征に不参加を決め込んだ二人の内の片方ジオ=ガルフ=ゼオライトであった。
「(チッ…余計な邪魔が入っちまったぜ)」
言わずもがな、今回の「特待生達による遠征依頼」を受けなかったのはわざとであった。彼は実の事ロ密命を帯びており、他の特待生が居ない今のタイミングを見計らって、とある事を起こそうと計画していたのであった。
そうして数日かけて網を張り巡らし、もう少しで詰め…と言うタイミングでそれは現れた。本来であれば部外者であるその人物を気にする必要等微塵も無いのだが、何を隠そうその人物が厄介な人物と見た目が酷似しており、故に赤の他人と切って捨てる事が出来ずに居たのである。
只でさえ、あの厄介者には瓜二つな見た目をした者が随伴していたのだ。それがもう一人追加されたところで、驚く余地は無い。
だがそれでも、面倒なのは事実であった。
「(あの小娘…ぜってえあの双子の関係者だよな?何でこのタイミングで顔を出しやがった?)」
そう、その人物は羅紅玉と羅黄玉の姉妹とそっくりな外見をしていたのだ。彼女達は自分たちの事を「双子の姉妹」と紹介していたが、実は三つ子だったのでは無いか?と言う疑惑が浮上してくる程である。
それならば、却って謎が深まる。何故あの姉妹は、三つ子だった癖して一人だけ、姉妹の存在を隠していたのか?
在りもしない仮定なのかもしれないが、それでもジオは必然的に考えさせられる羽目となっていた。もしかすると、こうして勘繰らせる事こそが、向こう側の敷いた罠なのかもしれないとしても。
だが、肝心の人物は特段疑わしい様子は見せない。否、もっと意味深な事を言い始める。
「ありゃ?おかしいっすね。先日羅紅玉に手紙を渡させた筈なんすけど、もしかして読んで無いんすかね?」
おっと、早速その人物と羅紅玉に繋がりがある事が判明してしまった。
そうなるとジオも、その人物が幾ら部外者とは言え、易々と迂闊な行動には出られない。場合によっては、その人物が羅紅玉に対して告げ口をする可能性も否定出来ないからだ。
何と言っても、今自分が仕出かそうとしている事は立派な背信行為、それだけに不用意な言動は命取りとなり得ない。故に今はただ、じっと様子を窺う事しか出来ずにいた。
そんな中、状況は着々と動き出す。その人物の呟きに合わせて、慌てた様子の旅団総領が奥から姿を現したからである。
「いやー、申し訳御座いません。勿論、お話は伺っておりますよ?」
「良いっすよ、そっちはそっちで忙しいんでしょ?そんな事より、手紙にもあった本題について、落ち着いて話せる場所があれば良いんすけど」
「それなら、私の書斎に参りましょう。ご案内いたします」
そう言って、やけに恭しい態度でその人物を迎え入れるユナイテッド。この時点で、団員達は皆頭上に疑問符を浮かべていた。
それは勿論、ジオも同様である。あの人物と、それに繋がりがあると思われるあの姉妹、本当に何者なんだ?
「やだなー、何時に増して堅苦しいっすね。もっとフランクに接してくれて良いんすよ?」
「いえいえ、そうもいきません。何せ我々は、対等な取引相手ですからね」
「それ、私への当てつけにならないっすか?私、別に口調変えて無いっすからね」
取引相手、ユナイテッドの口からまたもや意味深な言葉が飛び出して来る。
そう言えば、組織の調査でも噂程度には情報を掴んでいた。ユナイテッドの背後には、何やら強大な組織が控えていると。その組織がスポンサーとなって、旅団に資金や備品の提供を行っていると。
もしかしたらその話が眉唾では無かったとしたら…
「あ、取引相手で思い出したっす。肝心の羅紅玉は何処っすか?あの娘、仲介役を申し出た筈っすよ?」
「羅紅玉でしたら、今は…」
そう言って、何やら耳打ちを始めるユナイテッド。これを受けて、その人物のこめかみにくっきりと青筋が浮かび上がる。
まぁ、肝心の羅紅玉は今頃、他の特待生達と無謀な遠征に出かけてるから…
「あのアホ、何やってんすか…これはお仕置きっすね」
「一応彼女はウチに所属してる団員ですし、どうかお手柔らかに…」
「しないっすよ?遠征だか何だか知らないっすけど、別に留守にしてる訳じゃ無いでしょ。居留守はナンセンスっす、出て来て欲しいっすね」
ここでその人物が、理屈の通っていない不可思議な発言を堂々とした口調で言い放つ。いやいや、本人がこの場に居ないんだから、どうやってもここに顔を出す事はあるまいよ。
なんて団員全員が同様の感想を抱いていると、何やら建物の奥の方が騒がしくなって来た。そうして少しして、全員は異様な光景を目の当たりにする事となる。
「ゴメン!ちゃんとアタシも残ってたからさ!どうか許して!」
『⁉』
「羅紅玉…クン?」
何と、どう言う訳か遠征に出かけている筈の羅紅玉が、建物の奥から姿を現したのである。
勿論ここに居る団員達は、全員が特待生による遠征の話を聞き入れている。その船頭を行っていたのが他でもない彼女であり、紛れも無く彼女が空を飛ぶ車に乗って飛び立っていくのを目の当たりにしている為、恐らくここに居た全員がその目を疑った事だろう。
実際その光景を見ていない筈のユナイテッドですら、目を大きく見開いて驚いている始末。彼が遠征の話を知らない筈も無く、当然の反応だとは思えるのだが…
「(オイ、嘘だろ⁉何でお前がここに残ってんだよ⁉)」
勿論ジオも、目の前の信じがたい光景を直視出来ずにいた。今日に至るまでその姿を一切見せなかったにも拘らず、こうもあっさり現実離れし登場を果たすとは。
と言うかジオ目線、羅紅玉が残っているとなると話が大きく変わってくる。あの計画は他の特待生達が居ない今だからこそ、好機と読んで実行に移したのに、まさかこんなサプライズが待ち構えているとは。
これはジオにとっても、流石に予想外であった。それと同時にあの姉妹…特に羅紅玉に対する警戒レベルがググっと上昇した一幕である。
対する来訪者だが、奥から現れた羅紅玉の姿を見て実に満足そうに頷いていた。逆に、それ以外のモノは全く見ていないように思われる。
「遅いっすよ。この話を持ち出してきたのはあんたなんだし、お出迎えの段階からしっかりしてもらいたいもんすね」
「仕方ないでしょ!アタシだって作業とか作業とか色々溜まってたんだって。二人も解るでしょ?アレ絡みなんだって!」
「アレってまさか…それ、人前で言って良いのかい?」
「だから濁してる。察しの良い二人なら解ってくれると信じて」
「んー、煙に巻かれたような気分っす。ま、今回は見逃してあげるっすけど…」
そうして当事者間で、何やら含みのある会話が為されている。
この時点で、これを傍から聞いていたジオは全身から大粒の冷や汗をかいていた。もしかしたら自分は、とんでもない危険なモノに手を出そうとしていないか?
幾ら組織からの命令とは言え、これを実行するとなると不安が拭えないのだが…
「しゃーなし、向こうの指詰めで勘弁しておくっす。そんな事より本題に…」
「僭越ながら、質問を宜しいでしょうか?」
「ちょっ、エステル、クン?」
ここでユナイテッドの背後に控えていたエステルが、無礼を承知で三人の会話に割り込んでいた。
全く、危ない橋を渡るものだ。その証拠に、来訪者と羅紅玉の笑顔が深まっている。
また、ユナイテッドもこれを受けて、しどろもどろになっているのが印象的だ。場は何とも言えない緊迫した空気間に包まれる。
しかし、来訪者はこれを咎めるでもなく、彼女の発言を素直に受け止めていた。
「良いっすよ、答えられる事なら答えるっすよ」
「それでは失礼致します。貴殿は一体何者なのでしょう?」
それは至極真っ当にして、この場に居る誰もが聞きたかった内容であった。その来訪者、ユナイテッドの知り合いだか何だか知らないが、ここに来て今に至るまで名乗りすらしていないのだ。
だがこれを受けて、来訪者は失念していたとばかりに舌を出していた。
「これは失敬、私は羅鋼玉っす。生産系って枠組みに属する正規旅団「大亜工房法人」の旅団総領にして、ここに居るユナイテッドくんの古馴染みっすよ」
そう言って何事も無いかの如く、サラッと自己紹介を行う来訪者…基羅鋼玉。もうその名前からして、あの姉妹と関連がある事を隠そうともしていない様子であった。
だがそれ以上に気になるのが大亜工房法人と言う旅団名、確か約一か月程前に出来たばかりの新進気鋭の旅団で、確か腕利きの職人や敏腕商人が数多く在籍していると噂に聞いた事がある。
未だ出来て間もないが、目立った競争相手も居ないと言う事もありめきめきと勢力を伸ばしている組織であった筈だ。
そんな彼らのモットーは「自社制作×自社販売」。正規で旅団でありながら戦闘関連の依頼は受け付けず、自分達でモノづくりを行い、自分達で販路を気付き上げる。
そんな商人の真似事のような事を、外見詐欺とも噂される正体不明の旅団総領が主導となって実行していると聞いていた。しかもそのやり口が妙に手馴れているとかどうとかで、噂ではマグノリア商会とも手を組みながら、目覚ましい勢いで手を広げつつあるとの事だ。
ジオは「まさか、こんな所でお目にかかれるとは思わなかった」なんて感想を抱くと同時に、その素顔を見て驚愕させられる他無かった。あの姉妹も含め、本当に何者なのか…?
それはジオだけでなく、その場に居た複数の団員達も同様に勘繰っているようで、その一人であるエステルも食い気味に質問を投げかけていた。
「…その噂に名高い「大亜工房法人」の旅団総領が、どうして我が旅団へ?」
「その言い方、照れるっすね。此度の来訪は他でも無い、商談の為っすよ」
「彼女は昔から仕事で付き合いのあった相手なんだよ。まさか今、冒険者をしているとは思わなかったけどね。それも生産職って…確かに、らしいと言えばらしいんだけど」
「冒険者は戦闘職として定義されてる訳でも無いっすからね。丁度冒険者に携わるいい機会だったし、試しにやってみただけっすよ。所謂、発想の転換って奴っす」
その羅鋼玉の言葉を聞いて、ジオの中で一部の情景が繋がった。そう言えば、確か羅紅玉が裏で「銃の修理を専門とする部署」なるモノの立ち上げを画策しているとか。
そして今回、ユナイテッドと羅鋼玉の対談を手引きしたのも羅紅玉であると言う。これはもう、両者が無関係とは到底思えなかった。
だが、それにしてはユナイテッドの態度が気になる。商談相手と言う名目にも拘らず、何処かユナイテッドの方が相手側に対して気を使っているように見受けられるのだ。
古馴染みとは紹介していたが、その実両者にはどのような関係性が生じているのやら…
「それともう一つ、貴殿はウチに所属している双子の姉妹とどのような関係にあるのでしょう?」
エステルはここでもう一つ、本題から逸れる質問を行っていた。これもまた、恐らくは団員達も気になっていた所。
しかしここで突如、場の空気が一変する。遠目に居たジオも感じ取っていた、彼女は何か地雷のようなものを踏み抜いたのかもしれないと。
実際、エステルは瞬時に何か危険を察知したようで、一瞬にして顔を強張らせていた。対する羅鋼玉は笑顔、だがこれが逆に怖い。
「見たら判ると思うっす。ぶっちゃけ、それ以上でもそれ以下でも無いっすね」
そして生優しい口調で告げる羅鋼玉。だが迷いなく吐き捨てた彼女は、依然終始作ったような笑顔を崩さない。
つまりこれの意味する所は即ち、これ以上詮索するなと言うメッセージに他ならない。エステルはそれなりに聡明な女性であったようで、これを受けてすぐさま口を紡いでいた。
当事者でないにもかかわらず、遠目からでもひしひしと伝わってくる圧力、刺すような冷たい威圧感。彼女は生産系旅団を率いているとの話だが、恐らく戦闘をさせてもそれなりに出来る筈だ。
いや、下手したらジオでも敵わない可能性さえあった。その立ち振る舞いからでも明らかではあったのだ場、間違いなく彼女は出来る人だ。
だが羅鋼玉には、そんなエステルよりも気になる対象があるようで。
「いやー、ちょっとギャラリーが集まり過ぎっすね。表沙汰には出来ないし、移動したいっす」
「済みません、ウチの者がご迷惑をおかけしております」
「ギルマスが謝る必要はないでしょう。そもそも半分強行も同然で押しかけて来たのは向こうだし、これを引き入れたのはアタシだし」
羅鋼玉の発言を受けて、ユナイテッドは平謝りに徹していたのだが、この状況下で空気の読めない発言を行う愚か者が居た。何を隠そう羅紅玉である。
コレには思わず、ジオも声を上げそうになってしまった。あの雌餓鬼、命知らずにも程があるだろう?ホラ、羅鋼玉の目が恐ろしい事になってる!
「ほう?羅紅玉、貴女いい度胸っすね」
「御託も茶番も良いから。さもなくばギルマスの心臓が危ないし、早急に済ませてしまいましょ」
「それもそうっすね。ま、ここはユナイテッドくんに免じて許してあげるっす」
だが案外血生臭い結果には至らず、そこに居た全員が秘かに胸をなでおろしていた。
しかしそんな周囲など置き去りにしながら、三人は連れを伴だって建物の奥に姿を消して行く。結局羅鋼玉らの威圧感が凄まじく、団員達はその様子を固唾を飲んで見守る事しか出来なかった。
「(全く、とんでもない邪魔が入っちまった。)」
勿論ジオもまた、他の団員に追随する事しか出来なかった。それにしても、これは組織に対してどのように報告したものか、そしてこの状況をどう判断すべきか…
一人頭を抱えるジオに対し、傍で奇妙な言葉を発する団員の姿があった。アレは確か、羅紅玉の派閥の者だったような気がする。
「あのリーダー、本当に本人だじょ?」
「それはどう言うコト?」
「匂いがあの来訪者と全く同じだじぇ。双子の姉妹にしても、ちょっと違和感だじぇ」
その者の話に拠れば、人は全員何らかの匂いを発しており、その匂いは原則個人個人で別のモノになるようだ。一応近縁の者同士や兄弟姉妹、親子間で似通う事こそあれど、その匂いが完全に一致する事は極めてまれだと言う。
流石に一卵性の双子ともなれば、その匂いは限りなく近いものとなるようだが…それでも、やはり個体が異なると言う事で、多少の誤差は生じる事が大半であるらしい。しかし、あの来訪者と奥から現れた羅紅玉の両名には、その差異を微塵も感じ取る事が出来なかったと言う。
「同一人物と言われても驚かないじぇ」
「そんな馬鹿なぁ、だって目の前で証明されてるじゃん?」
だが、結局これが全てだろう。
どのみち今回の会合でその真意を探る事は出来ないと判断したジオは、ひっそりとその場を後にしたのであった。
~砦~
あれから一時間程経っただろうか?未だに小黄とヴァンの両名は、眠りについたまま現実世界に戻って来ない。
まあ語るまでも無く、初めての御対面と言う事で、色々と手間取っているのだろう。一番最初の『審査』もあるだろうし、場合によっては数日かかる事も余裕で有り得た。
ここは暫くこの地に滞在して、二人が戻って来るのを待つしか無いかな?ホラ、ヴァンは兎も角、小黄の介抱って、場合によってはセクハラ案件になっちゃうかもだし…
…ダメだ。俺も未だに、男だった時の癖が抜けきっていないようだ。それに現状俺は満身創痍も良い所だし、純粋に休みたい思いもある。ある意味では都合が良いとも取れた。
そんな死屍累々な俺とは裏腹に、他の特待生達は元気そうであった。
「はぁ、誰も選ばれなかったっすね」
「このやりきれない気持ち、何処に向ければ良いのかしら?」
「全くですわ。夢を見せるだけ見せておいて、この結末を用意するだなんて残酷にも程がありましてよ」
そう言う三人の視線の先には、横たわる二人の羅神器の所有者達。悪いけど、この二人に対して八つ当たりをするのは俺が許さないよ。
「君達、ゴメンけど落ち着いててね。今二人は、物凄く大きな壁を前に頑張ってる所だから」
「「「…」」」
そう言ってボロボロの身体を頑張って動かしながら、二人の前に立ちはだかる俺。それでも依然やりきれなさそうな三人を前に、二人が目覚めるまでどうしたものかと頭を抱えるの事となった。
そんな中、三人の間で交わされていた会話の内容が突然にして180度切り替わる。
「しかしながら、仮に選ばれていたとしても羅紅玉さんには敵わないのでしょうね」
「それもそうね。残りの二人ですら、格が違い過ぎて動けずにいたものね」
まぁ彼女達の推論は的を射ていると思う。何せ、羅神器を手に入れた段階では最下級に該当する「第九級:小天使徒」しか使えないのに対し、俺達は逆に最上位の「第一級:熾天使徒」を使いこなせる訳だからな。
だがそれでも、仮に手に入れる事が出来ていれば、将来的に俺達と並び立つ為の資格を手に入れられることも事実。要するに、彼女達の発言は負け惜しみとも取れるだろう。
なんてひっそりと誇らしげに胸を張っていたのだが、話は思いもよらぬ方向に脱線し始める。その火付け役は、アデルであった。
「あの時の羅紅玉、何もしてなかった気がするっすけど…でも今回の勝利をお膳立てしたあの白い天使と、対等に話せてただけでも十分っすよね」
うっせえ!してたわ!君らの知らない所でめっちゃ仕事してたわ!
「しかし流石の羅紅玉でも、あの敵方には敵わなかったようですね。彼女、何をするでもなく両手両足を消し飛ばされておりましてよ」
敵う敵わないの話じゃねーよ!今回は俺が両手両足を欠損させられるって言う取り決めだったの!俗に言うロールプレイだっつーの!
「確かに、無抵抗でやられてたわね。あれ?羅紅玉って案外大した事ないのでは?口先だけは一丁前でも、その実中身が伴っていない可能性も?」
酷い言われようだがその可能性は有る!それは無暗に否定出来ない!だって君達を納得させられるだけの実績を用意出来なかったから!
でもまぁ、正直今回裏で計画していた内容をほぼ予定通りに遂行出来たので、個人的には満足のいく結果となっていた。と言うのも、今回の遠征を通して俺が狙っていた事は「特待生間のパワーバランスの均質化」だったのだから。
「(ツッコんではみたものの、この流れは寧ろ願ったり叶ったりだな)」
実はこれ、計画段階から幾重にもかけて考えに考えを重ねた事案であった。と言うのも特待生間における、トップ3とそれ以外の面々の間で無視出来ない格差が生じていたのが全てである。
直ぐにでも対策を打たないと、今後旅団内で大幅な内部分裂が生じる危険性が高かった。正論を言えば実力主義の世界なので、力有るものが権力を伸ばし力哭き者が置いて行かれるのは条理なのだが、今の俺の立場を鑑みるとこれを放置する訳にはいかなかった。
今の俺に求められている事は、旅団における最高幹部「銃将星」への就任。しかもユナイテッドと腹を割って話した事で、より一層銃将星にならねばならなくなった上、彼の意向で特待生間の格差を均す事を求められてしまったのである。
そこから俺は考えた。どうすればこの問題を解消する事が出来るのか。
ただ方法としては二つしか無いとも思っていた。トップ3以外の面々に実績を付与するか、トップ3の顔に泥を塗るかだ。
そして他の特待生達の実力、性格、言動等を踏まえて判断した結果、後者を選択する方が可能性が高いと判断した。やはり羅神器の有無は大きく、その権能以上に人格面における格差が開いているように感じたからだ。
なので適当に実績を与えるだけでは暖簾に腕押しとしかならないと判断し、実際に後者の方針に舵を切る事にしたのである。
そうなった時に、誰の顔に泥を塗るべきか。トップ3の評判や影響力を落としたい以上、これは間違いなくトップ3の中での最強格を嵌めるべきだ。
ではトップ3の中で最強なのは誰か…あまり自信満々に言うべき事では無いと思うが、ほぼほぼ間違いなく俺であった。やはりこの三人の中で唯一熾天使徒を使えると言うのもあるし、それぞれの奥の手を解放したとしても俺が他の二人を相手取って負けるケースが想定出来ないのだ。
「(そうなると、俺が最強である事をアピールした上で…そうだ、俺を完膚なきまでに叩きのめせば何とかなるんじゃね?)」
事前に俺を屠れるような敵役を用意しておき、ソイツに俺を半殺しにさせる。そして願わくば、他四人の特待生達には勝てずとも、ここで最低限の意地を見せて貰いたい所。
対して俺は他の特待生達の様子をじっくりと吟味した上で、俺自身は痛めつけられる具合を調整しながら上手く立ち回る。そうすれば最終的には良い感じにバランスが取れそうな、そんな予感がしたのである。
そこで今回の立ち回りである。実は期待には事前に連絡し、今回の作戦の仕掛け人として協力を要請していたのだ。
期待には事前にこの場所にて仕込みを行ってもらい、俺達が絶対に勝てる条件を設定してもらっていた。何時でも期待の裁量一つで堕天使徒を消せる状況を造った上で、特待生達がこの地に乗り込むよう示し合わせたのだ。
その後期待の示し合わせたタイミングで熾天使徒の形態を執り、同じく熾天使徒の形態を執った期待と対峙。その後格下の堕天使徒を嬲りながら、対等な口調で会話に勤しんだ。
更に堕天使徒を弱体化させる事で、他の特待生でも確実に勝てる状況を作り上げ、仕上げとばかりに俺の両手両足を爆散。この時俺が期待より立場が弱く、そして若干馬鹿っぽく見えるように調整したので、大立回りをした割には俺の評判は上がらない筈だ。
その証拠に、ほら。
「トップ3と言いましても、意外と大した事無いのかもしれませんわね」
「羅紅玉は兎も角、他二人に関しては私達と殆ど同じ事しかしていなかったものね」
「そうっすね。あの感じ、トップ3と言うのは眉唾で、実の所羅紅玉一強が正しいんじゃないっすか?あの二人、羅紅玉と対峙しても敵わないと思うんすよ」
…あれ?何かが違うような?
「それに思い出して下さいまし。今回の一番の立役者は期待?を名乗る純白の天使様でしたわ。その天使様が唯一眼中に留め、気を遣っていらしたのが羅紅玉だけでしてよ?」
「確かに、他の特待生…勿論自分の事も眼中に無さそうでしたっすね」
「お二方はお知り合いのようですが、同時に互いが互いの事を認め合い、リスペクトし合っているように伺えましたわ。つまり、羅紅玉とあの天使様は正真正銘の同格と言う事なのでしょう」
「あの両手両足を欠損させたのだって、多分ワザとっすよね?今は義手を付けて弱体化した風を装ってるみたいっすけど、多分実のところは大したハンディキャップにもなってないと思うんすよ」
あれ?何か色々とバレちゃいけない所がバレちゃってない?確かに両手両足の欠損なんて、しててもしてなくても大差は無いんだけどさ。
「これ、実質羅紅玉の大金星よね…」
「左様ですわね。と言うより今回の経緯となると、私達の手柄を主張できる訳がありませんわ」
「あの二人がMVPっすよね。他の特待生達は…みんなオブザーバーっす」
え?いやいや、ちゃんと皆が自分達の手で堕天使徒を倒したのは事実じゃん?
それが?傍から偉そうに指示出ししてただけの俺がMVPだ?頭湧いてるんじゃないのか?
困惑の極みに陥りつつあった俺は、思わず聞き返してしまっていた。
「何でアタシ?別にアタシ、何もしてなくない?」
とこの時、俺は自分の失敗を悟った。この質問だけは、何があってもしてはいけなかったのに。
「何故貴女が自分の手柄に異議を唱えるのでしょう?何が疑問なのでしょうか?」
「その言い方、手柄が欲しくないみたいな言い方ね」
「…もしかして羅紅玉、貴方、自分を差し置いて他の特待生に手柄を渡そうとか、妙な事を考えて無いっすか?」
アデルが核心を突いてくる。それ、知られているのと知られていないのでは印象がガラッと変わってしまうのだが…
俺は何も答えられないまま、フリーズしてしまう。
「沈黙って事は肯定っすか…そうっすか、自分達は花を持たせられただけだったんすね」
「何となくそんな気もしてたけど、そんな事されても何も嬉しくないから」
「舐められていますわね…成程、これが強者の余裕と言うものですか」
ある意味では、俺の顔に泥を塗る事に成功したとも言えよう。でも、これは思っていたのと違う!
いや、でも仕方ないだろう⁉事実、俺と他の特待生達の間に歴然たる実力差があるのは事実だし、俺だって頑張って隠したり誤魔化したり頑張ってるんだよ⁉
でもその程度では埋められない程に差が大き過ぎるんだよ。こんなのどうしろって言うんだよ⁉
…誰か教えてくれ、俺は一体何処で、何を間違えたんだと思う?




