表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
WILD DOWN  作者: 暁優
権能世界編
75/81

第七十三話:裏表

 目標の鼓動が静まると同時に、けたたましかった銃声の多重奏も鳴り止んだ。

 沈黙が場を支配すると同時に、煩わしかった心音も落ち着きを取り戻していた。

 しかし依然現実と幻想の狭間に取り残された俺達を包み込む、張り詰めた空気が鼻につく。

 そしてその亡骸が地に叩き付けられた時の鈍い衝突音を合図に、止まっていた時間が動き出す。



 ~~~~~



 時間の流れを知覚出来ない者でも、その瞬間時間の流れに何らかの変化が生じた事だけは察する事が出来た筈だ。どうやら時間を止めていた張本人である「期待」がこの場から消え失せた事で、時間の流れが本来あるべき形に戻ったようだ。

 そうなると、俺達は真っ先にこちらに迫り来るアンデッドの大群に対し備えねばならない…とはならなかった。こちらもまた、動かしていた張本人である「堕天使徒(フォルティマ)」が潰えた事で、死体達が本来あるべき形に戻されたからである。


 しかし、これらはどちらも羅神器(アルティメイター)の権能を用いて強引に為されていた所業であり、そのしわ寄せが現実世界に及んでしまう。

 即ち、これらの力を用いた代償が発生したのだ。そして然るべき対象に対し、突如として襲い掛かったのである。


 その差、その変化は歴然だった。


 先ず時間の流れが元に戻った事によって、これまで切り離されていた俺達の居た空間と外部の空間が繋がり、その狭間で凄まじい旋風が発生する事となった。窓が殆どなく、風通しが良いとは言えない空間内を猛烈な突風が襲う。


「全員、伏せて!」


 俺は咄嗟に、ここに居た全員に対して呼びかける。この掛け声を合図に全員が突風に備えた結果、俺達は何とかこの風の潮流に飲み込まれる事なく耐える事が出来た。

 しかしこの時、俺達の周囲に蔓延っていたアンデッド達は耐える事が出来なかったようで、敢え無く吹き飛ばされ、その拍子に砦の壁に叩き付けられては沈んで行くを繰り返していた。見るからに俺達よりも図体の大きいアンデッドなんかも居たのだが、これも荒れ狂う突風の前には無力であったようで、他のアンデッド同様、敢え無く吹き飛ばされていた。

 俺達は改めて、自然の猛威の恐ろしさを再確認させられたのであった。


 また、変化はこれだけに留まらない。何と先程まで俺達を取り囲んでいたアンデッドらが、全員見る見るうちに干乾びていき…最終的には粉末となって搔き消えてしまったのだ。

 その様はまさに、此度の戦闘で全ての力を使い果たしたかの如し。最早死体としての在り様を維持するだけのリソースも残っていなかったようで、その全てが瞬く間に原形を留めないまでに散り散りになってしまったのである。


 しかもこれは、アンデッドに留まらない。堕天使徒(フォルティマ)だったモノですら、他のアンデッド達と同様の結末を辿る羽目となっていた。既に物言わぬ亡骸となったそれもまた、そうしない内に粉末となって風の中に消えてしまったのである。

 そうしてその肉体全てを塵に変えた堕天使徒(フォルティマ)が居た場所には、たった一振りの刃物だけが残されていた。恐らくこれが、堕天使徒(フォルティマ)の原型となっていた羅神器(アルティメイター)なのだろう。

 どうやらこの羅神器(アルティメイター)は、前の所有者を手放す決断を下したようである。


「終わった…のかしら?」


 シャーロットを始めとする特待生達は、何が何だか分からないと言った様子で目を白黒させている。最早先程までの光景が現実離れし過ぎていて、現状に実感が湧いていないのだろう。

 だが、これは紛れも無い現実だ。特待生達にとっては不本意かもしれないが、今回の戦闘は俺達同士二人組の手によって「勝利」が与えられたのである。

 そして忘れてならないのが、今回倒した敵が「宮災認定(メネシスアラート)」であると言う事。これから対象者に対し、天より祝福が与えられる。


 いや、それより先にもう一つの祝福…羅神器(アルティメイター)の方での変容があったようだ。


「あっ…、これ…、無理…」

「OOPS⁉」


 突然、(シャオ)(ファン)とヴァンが崩れ落ちるように倒れ込んだ。

 恐らく堕天使徒(フォルティマ)を自分たちの手で討伐した事により、俗に言う経験値を獲得したからであろう。そして現在進行形で、二人の所有している羅神器(アルティメイター)に宿る天使徒(アルティマ)が己の階級を上昇させつつある筈だ。

 そしてこのまま、二人は恐らく、初めて天使徒(アルティマ)と対面する事になるだろう。現実世界に戻って来た時が楽しみであり、同時に不安でもあるこの頃である。


 因みに俺は、既に最高位の天使徒(アルティマ)に該当する熾天使徒(セラフィマ)に至っている為、特にこれと言ったフィードバックは無かった。

 そんな事より、一早くこの熾天使徒(セラフィマ)の形態を解除しないといけないだろう。依然精神的には快適なのだが、そろそろ身体的にキツくなって来た、と言うか既に限界を超えているとさえ思う。

 と言う事で、すぐさま俺はこの形態を解除した。ああ、そう言えばそうだったね…


「痛ッッッ⁉」


 全身換装している時には気にならなかった四肢の欠損部位、ここが変身を解除すると同時に、急激に痛み始めた。ここの所負っていなかった深手、その為自分が覚悟していた以上の痛みを感じさせる羽目となっている。

 だが俺の身体は、これに加えてもう一つの要因を以てして、悲鳴を上げる事となっていた。現在変装しているお陰で表立っては確認出来ないが、恐らく変装を解いたら見るに堪えない姿に変わり果てている事だろう。


 と言うのも、今回用いた熾天使徒(セラフィマ)の形態は、全ての天使徒(アルティマ)の中で最上位と言う事もあり、それに相応しい性能を誇っている。使える権能の数も多く、その全てが飛びぬけて強力だ。

 だが代わりに、その使用難易度も飛び抜けて高い。先ずそんじょそこらの腕利き程度には使いこなす事は出来ない…否、人の身で使いこなせるような生半可な性能はしていないのである。

 またその権能が強力な事が災いし、使用時の反動が凄まじい。一度権能を使用すれば対価として、想像を絶する代償を支払わされる事となる。

 恐らく常人であれば、一回の使用で数年分の寿命を持っていかれるレベル。先ず人の身で使っていい代物では無いのだが、今回俺の羅神器(アルティメイター)を酷使した張本人は…否、この場では止めておこう。


「…」


 何はともあれ、今の俺はボロボロだった。まだ変装しているお陰もあって、大分マシな絵面に放っている筈だが…その見るに堪えない惨状に、思わず俺を見て目を塞ぐ特待生の姿も見受けられた。

 だが、駆け寄ってくる者は一人も居なかった。どうやら色んな理由が重なって、周囲から距離を置かれているように思う。

 ま、自業自得だし仕方ないね。


 ここで一旦、俺は目を瞑る。外から見れば何もしてい無いかのように見えるが、俺は人知れず羅神器(アルティメイター)を用いてコンディショニングの調整を行っていた。

 そうしてある程度整ってきたところで、更にこの身体に鞭を打つ事とする。続け様に、即興ではあるが羅神器(アルティメイター)を用いて義手と義足を両手両足に形成した。


「ふぅ…即興だけど、間に合わせとしては十分でしょ」


 そうして出来上がった義手と義足は、どう言う訳か何時も使っているペンタブラックでは無く、全体的に金色の成分が多いものとなっている。まぁ、カラーリングに関しては後からでも変えられるので、今は気にしなくても良い。

 ただ一つ気になるのが、見た感じ「消し飛ばせなかった」と言っていた筈の右手が明らかに欠損していた事位だろうか?ともあれ右腕が無い事に変わりは無いので、右腕にも義手を精製しておく事とする。


 そんな事を余所眼に、今現在特待生達の視線を一身に集めているモノがあった。それは堕天使徒(フォルティマ)の亡き後姿を現した、所有者のいない羅神器(アルティメイター)であった。

 誰もかしこも、大けがをした俺なんかよりそちらの方が気になって仕方ないようだ。視線の大半は、まるで俺から目を逸らすようにしながら、その一点に向かって流れるように移ろっている事が伺えた。


「…」


 全員表立っては口に出さないが、その姿が「その羅神器(アルティメイター)の所有者になりたい」と物語っていた。

 こればかりは羅神器(アルティメイター)次第なので何とも言えないのだが、やはり羅神器(アルティメイター)と言うモノは、俺の認識以上に羨望を集めるアイテムである事に間違いは無いようだ。果てさて、この中に選ばれる者は居るのだろうか…


 とここで、特待生達に動きがあった。


「皆、考える事は同じみたいっすね」

「無論でしてよ。それでしたら、私達が申し上げたい事柄もお分かりでは無くて?」


 何を思ってか話を切り出したアデルに対し、イザベラが何処か棘のある物言いで返していた。どうやら羅神器(アルティメイター)争奪戦と称して、特待生達の間で腹の探り合いが行われているみたいだね。

 恐らく彼らが勝ち取りたいのは優先権。選ばれるかどうかは置いておいて、先に自分がその審査を受けたい。最低限審査の結果を持ち帰り、あわよくば選ばれれば御の字…と言ったところか。

 仮に自分が試すまでも無く所有者が決まってしまうなど、彼らは断じて認められないだろうからな。不完全燃焼にも似た、行き場のないやりきれなさと焦燥感を抱いて終わりになりかねないし…


「おや?一体何を仰っているのでしょう?私にはさっぱり理解出来ませんわ」

「うわー、悪辣。わかっててそう言う事しちゃう辺り性格悪いっすよねー。そんな意地汚い子悪人、オリジナルの羅神器(アルティメイター)に選ばれる訳が無いっす」

「言ってくださいますわね…そう言う事なら、かの堕天使徒(フォルティマ)も優れた人格をお持ちだとは到底思えませんでしたが」


 いや、堕天使徒(フォルティマ)の性格が良い訳無いだろう。だって堕天使徒(フォルティマ)は、基本的に所有者の醜い所を増長させたような人格を形成するし…


「もしかして、逆に性格が悪い位が丁度宜しいのでは?この羅神器(アルティメイター)が、必ずしも人格者を選びたいとは考えていないでしょうし。お姫様もそう思いません事?」

「それはそうね!そんな事よりイザベラ、あんた私を差し置いて抜け駆けしようと企んでいない?」

「まさか。そんなはしたない真似、する訳がございませんわ」

「ムッキー!未だ選ばれても無いのに、何勝ち取った気になってるんすか!」


 何やら不穏な単語も聞こえてきたが、正直これに関しては何とも言えないと言うのが俺の見解だ。と言うのも、羅神器(アルティメイター)による所有者の選定基準は、本当に天使徒(アルティマ)次第だとしか言いようが無いからだ。

 自我が弱いとは言っても、天使徒(アルティマ)にだってそれぞれ異なった性格や特徴、後能力を備えている。これ等を加味するかどうさえ、天使徒(アルティマ)によって面白い位に差が生じるのが如何し難い所。


 一応俺が知っている事例だと…上昇志向が強く、兎に角ポテンシャル抜群で有望な者を所有者に選ぶのが居れば、逆にそう言う事に無頓着で、フィーリングで適当に選ぶようなのも居たっけ。

 だが全体的に見て、有望そうな者を所有者に選ぶ傾向が強いように感じる。大半の場合は王道に該当する真っ当な手段を以て、自身の昇格を目指すのが大半となっていた筈だ。

 そんな中でも曲者は潜んでおり、悪巧みに走る天使徒(アルティマ)なんかは非常に厄介である。例えば手段を選ばず、所有者をとことん利用し尽くそうとする根っからの悪党も居るし…中にはずっと時期を窺い続け、丁度良い所で所有者の首をかっさらう事で堕天使徒(フォルティマ)になる事を狙う者も居た。


 そういう意味では、この羅神器(アルティメイター)に宿る天使徒(アルティマ)がどんな考えを持ち、どんな性格をしているのかが運命の分かれ道になるのでは無かろうか。

 特待生達が何やら言い合っているところすまないが、ハッキリ言ってその議論に生産性があるとは思えない。


「兎も角!今回コイツに止めを刺したのは私が放った銃弾でしてよ、ならば私に優先権があるのでは無くて?」

「ズルい!あんた、従者の癖して私を差し置くんじゃないわよ」

「そうっすよ!って言うか今回に関しては、正直自分達の活躍は殆ど無いに等しいと思うっす。羅神器(アルティメイター)だって、有りもしない自分の手柄を主張するような人なんて、選ばないと思うんすよね」

「はあ?それを言うならあんたも同じでしょ?何で一人だけ、高みの見物を決め込んでる訳⁉」

「まぁお姫様、かのお方は高みの見物に徹するご様子でしてよ。それならば、そこで大人しくして頂こうではありません事?」

「良いわねそれ、そして主人である私が真っ先に試せば万々歳ね」

「いえ、お姫様相手でもそれは譲れません」

「二人とも仲良いっすね。その間に自分が試させてもらうっすよ」

「「抜け駆け禁止!」」


 だがこのままでは、只々特待生達が喧嘩をし続けるだけし続け、無駄な時間を弄するだけして終わってしまうだろう。どのみちここに居る特待生達だけでは、混迷を極める「場」を収められる気がしなかったので、彼らには悪いが俺が先に動かせて貰う事にした。

 俺は徐に、その羅神器(アルティメイター)に向かって歩みを進める。ハッキリ言って抜け駆けも同然、案の定これを黙って逃がす特待生達では無かった。


(シャオ)(ホン)さん?貴女、どう言うおつもりですか?」

「何でアンタが抜け駆けすんのよ⁉そこまでして二本目が欲しいって訳⁉」

「ちょっと⁉まさか、羅神器(アルティメイター)の二つ持ちを狙ってるっすか?それは傲慢っすよ」


 もう言いたい放題の特待生達、だが生憎と彼らの心配している通りにはならない。


「あのね…羅神器(アルティメイター)の二つ持ちとか、原則出来ないから安心しな?羅神器(アルティメイター)の所有者は、他の武器を使えなくなっちゃうんだからね?」


 俺もそうだが、羅神器(アルティメイター)の所有者はこれに選ばれた瞬間、羅神器(アルティメイター)以外の武器を使おうとすると拒絶反応が出るようになる。これは羅神器(アルティメイター)の中に居る天使徒(アルティマ)が、自分以外の武器や羅神器(アルティメイター)に対して攻撃的になってしまうからだ。

 一応抜け道が無い訳では無いのだが、少なくともその手段は今の俺には使えない。つまり俺が羅神器(アルティメイター)を所有している以上、この羅神器(アルティメイター)の所有者に選ばれる可能性はゼロと断言して構わないまであるのだ。


 だがそれはそれとして、俺としてはこの羅神器(アルティメイター)の性能位は確認しておきたい所。別に誰が所有者に選ばれようが知った事では無いのだが、やはり危険物である事には変わりなく、扱い方を間違えると大惨事を招きかねない危険な代物である事も事実だからだ。

 なので独自に、コレの性能を調べてみようと思った次第である。単純に気になるってのもあるけどね。


「兎に角!アタシがこれに選ばれる事は絶対無いから!心配ご無用、ただその前にちょっとだけ中身を見させて欲しくてね」

「何か煙に巻かれてる気がするっすね」

「そう言われて、私達が納得出来ると、本当にお思いなのでしょうか?」

「相変わらず、弁の立つ小娘ね」

「そう言う貴女も小娘でしょうが…まぁ良いや、一旦失礼するよ」

「「「こら!」」」


 まあ俺の頼み事も中々にイカれているとは思うのだが、対する特待生達もまあ煩い。何としても、羅神器(アルティメイター)を確保したいんだろうな…色んな意味で。

 だが俺は先に見せた通り。第一級:熾天使徒(セラフィマ)に到達した類稀なる所有者である。正直特待生達の銃撃を防ぐ手立ても無くは無いので、これらの雑音は気にする事なく接近を試みた。

 途中「それ以上動かないでいただけません?貴女目線では大丈夫でも、私達には到底安心出来ませんわ」と言うセリフと同時に銃口を向けられたり…やけに物騒な色んなものが飛び交っては居たのだが、これを掻い潜って俺は歩みを進めて行く。


 最終的に体には当てられなかったものの、実際に発砲されたりと少々荒事はあった中で、結局それらを全て跳ねのけて俺はその羅神器(アルティメイター)の元に辿り着いた。

 それは大型の包丁のような形状の片刃刀で、刀身が美しい銀色の光沢を放つ、非常にシンプルながらもほれぼれする造りの素晴らしい一振りであった。全く…これが所有者を選んだ途端姿を変えてしまうなんて、本当に勿体無いと思うほどの一品である。

 そんな芸術品のようなそれを前にして、俺は周囲の是非を確認するでもなく、義手を装着した右手でその刀剣の柄を握った。


「「「「⁉」」」」

「やっぱり、拒絶反応は出るよね。知ってた」


 判り切っていた事ではあるのだが、俺はこの羅神器(アルティメイター)に選ばれなかったようだ。俺の持つ羅神器(アルティメイター)の拒絶反応と、今持っている羅神器(アルティメイター)拒絶反応が(せめ)ぎ合い、この空間内を満たす空気やら壁谷ら床やらが激しく振動を起こしていた。

 これ、長くは持っていられないな。だが、かと言って直ぐに離す事も出来ない。


 ここで俺は、すぐさま「情報爆弾」をこれに流し込んだ。そしてこの刀の内部を探り、一瞬にして内部に宿る天使徒(アルティマ)の正体と、その能力を垣間見る事に成功した。

 これを確認し終わるや否や、俺はそれを放り投げるような勢いで手放した。持っていた義手が凍って動かなくなっており、後謎の悪臭を孕んだ痛覚を伴う謎の染みが着いていて、これがまあ凄まじい。


「ゴメンゴメン、でも抜け駆けした結果、色んな事が判ったから良かったよ」


 そう言って俺は、若干申し訳なさそうに笑って見せる。だがそんな俺に待っていたものは、四方八方から浴びせられるブーイングの嵐であった。

 だが、今回得られた情報は、彼らからすればのどから手が出る程に欲しい情報だろう。全員が全員、表向きは抜け駆けした俺を攻め立てつつも、その実俺の動向を注意深く見張っている事が判る。

 やり辛いな、これ…


「まぁ、所有者になった人が居れば教えてあげる。失敗すれば手がこんな事になっちゃうけど、それでも良ければ試してみれば?」


 そう言って俺は、先程拒絶反応を受けた右手を見せつける。謎の黒っぽい染みが掌に広がっており、そこから強烈な痛みが生じる他、嗅ぐとまあ臭い。

 一応風属性に纏わる能力を持っているみたいで、実際にこの染みは徐々にではあるが、空気中に溶けて消えて行っている様子が確認出来ていた。だから一生このままと言う事は無いだろうが、元に戻るまでにそれ相応の時間を要しそうである。

 だがこの拒絶反応、他の羅神器(アルティメイター)の物に比べればかなりマシな部類に入ると思う。この拒絶反応ならば選ばれなかった者であっても死にはしないだろう、そういう意味では中の天使徒(アルティマ)は良心的な人格をお持ちかもしれないな。

 残念ながら、「情報爆弾」だけではこれを感知する事は出来ても、対話を行う事は出来ない。だがその能力と拒絶反応で、大体の使い道が見えて来た俺であった。


 そんなどこか他人事の俺とは異なり、他四人の特待生達は全員が闘志を漲らせていた。高揚で胸が昂っている様子、これはもう邪魔しない方が良さそうだ。

 だが、俺が強引に動いた事で先頭云々の話はうやむやになったようである。順当に、特待生の序列順に基づいてこれに触れてみる事となった。


「…え?特待生ってトップ3以外で序列なんてあったの?」

「あんた、知らなかったの?いや、今気にすべき事では無いでしょうね」

「お姫様、必ず選ばれて下さいまし!」


 イザベラの励ましを受けて、トップバッターのシャーロットが羅神器(アルティメイター)と向かい合った。結局俺の素朴な疑問は、当たり前の如く流されてしまった…なんかショック。

 そんな感じで項垂れる俺とは裏腹に、希望と不安の入り混じった複雑な面持ちのシャーロットが、満を持してこれに触れた。


「ーッ!」


 しかし結果は残念、シャーロットは羅神器(アルティメイター)に選ばれなかったようだ。その掌が染みで染まり、その周囲で悪臭を放っているのがこちらからでも見て取れた。

 因みにシャーロットは、あからさまに落ち込んでいた。こればかりはどうしようもないのだが、本人の中ではそれ相応にショックな結果となってしまったようだ。

 まあ、他にも羅神器(アルティメイター)はあるのだ。そちらに期待だね。


「痛たたたた!何よこれ⁉」

「副作用だね、ドンマイ」

「うう…折角の、千載一遇の好機を…」

「好機も何も、選ばれなかったら元も子も無いっす。さて、次は自分っすね」


 そして序列順に拠れば、次はアデルになると言う事。こちらは割とあっさりとした様子で、流れるように触れていた。


「くーっ、自分もダメっすか!そんでもって痛いっすねこれ!」


 こちらも残念な結果に終わってしまう、彼女の掌には大きな染みが出来ていた。


「おや?貴女も選ばれなかったようですわね?折角の好機を掴めなくて哀れですわ」

「自分と同じく、選ばれなかった人には言われたくないっすね!」

「次は私ですわね…私としましては、お姫様が選ばれて下さるのが最良でしたのに」


 そうは言いながらも、シャーロットと同様、煩悩と恐怖心が合わさった何とも言えない表情を浮かべながら、イザベラもこれに触れた。


「…ッッッッッ!」

「ああ、イザベラもお眼鏡に適わなかったようね…」

「うん、ま、二人らしいっちゃらしい結末っすね」

「…何か、仰いまして?」

「本当にあんた、一言多いわよね」


 おっと、アデルが余計な一言を挟むせいで一触即発の様相に。

 って言うか結局、ここに居るメンツは誰も羅神器(アルティメイター)に選ばれなかったな。結果論だが、順番なんて決めても何も変わらなかった訳だ。

 ただそうなったらそうなったで、これを持ち帰る必要がありそうだが…どうやって持ち帰ろうかね?


「うーん、一旦アタシの「収納」に放り込んでおくのが丸いか?」

「ちょっと?まだ何かを企んで居るのかしら?」

「いや、だってこれ、持ち帰らなきゃじゃん?討伐した証を見せろ、とか言われた際に必要になるでしょ」


 まぁこれが全てだ。どっちみちここに居る三人は選ばれなかった訳だし、既に羅神器(アルティメイター)を所有しているトップ3が選ばれる訳も無いし、結論この場で羅神器(アルティメイター)の新たな所有者が誕生する謂れはないのだ。

 それよりも最悪なのが、ここに居ない第三者にこれを持って行かれてしまう事だろう。別に俺は良いのだが、周囲から不満が出るのは確実だし、何よりも討伐した証拠となり得る貴重な物証を搔っ攫われるのは、一冒険者として失格も同然の失態だと思うのだ。

 それに旅団(ギルド)側としても、仮に所有者がその場で決まらずともこれを確保しておきたい筈。そしてゆくゆくは誰か適合する団員にでも与える事が出来れば、必然的に旅団(ギルド)そのものの強化にも繋がるだろう。


 結論、特待生の中に所有者が現れなかった以上、これを無事に持ち帰る事こそが俺達にとって最優先課題と言えたのである。


「ま、選ばれなかった人達には何も言わせる気は無いかな。ほぅれ!」

「「「ああ⁉」」」


 そう言って俺は、あっさりと自分の「収納」内にこれを放り込んだ。その瞬間周囲からどよめきの声が上がったが、もう完全無視を決め込む事とする。


「兎も角、コレは一度旅団(ギルド)に持ち帰って、旅団総領(ギルドマスター)に預ける事にする。所有権も旅団(ギルド)に譲り渡す想定だね」

「はぁ?何でアンタが勝手に決めてんのよ?」

「そりゃ、今回の依頼における一番の立役者だもん。決定権を貰っても文句は言えない筈だよ?」

「立役者って…」


 未だに何か言いたそうなシャーロットではあったが、ある種俺の言い分に整合性が取れている事もあって、口を紡ぐ事しか出来なかったようだ。まぁ、立役者ってよりかは仕掛け人と称した方が正確かもしれないけど。

 それに傍から見ても、一番の立役者は俺では無く期待になるだろう。最も、当の本人は堕天使徒(フォルティマ)が居なくなると同時に消えてしまったので、その次に活躍した俺が優先決定権を貰っても不条理では無い筈。


 ただそれ以上に、他の特待生達だけではあの堕天使徒(フォルティマ)を倒せなかったことは事実。それを自覚しているからこそ、強気に噛みつく事が出来ずに居るのだろう。

 まぁどう足掻いても、この三人がこの羅神器(アルティメイター)に選ばれる事は金輪際無いのだ。この決定を以て、素直に諦めてもらいたいものである。


「「「…」」」

「何?文句があったとて、アタシには受け付けられないよ?」

「「「…」」」


 この感じ、暫くは引き摺る事になりそうだ。その間、俺が何かの間違いで襲撃されない事を切に願うだけである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ