第六十話:使徒
俺はあれから、ヴァンを相手に長々と、積もりに積もる談義を重ねた。あの神話級のやかんを使って淹れてみた紅茶も会話に花を添え、それはそれは盛り上がったものだ。
そして夕方位から、なんと夜通しで語り明かした俺とヴァンは…マブダチになっていた。
「何故?、どうして?、そうなるの⁉」
これを事後報告と言う体で小黄にも共有したのだが、その際彼女からまるで「人間性を疑う」と言わんがばかりの驚き具合で、痛烈なツッコミを頂いてしまった。彼女の悲痛な叫び声が、彼女自身の部屋に響き渡る。
でも確かに、今の小黄の視点からでは理解出来ないかもしれない。だが一つ魔法が解けさえしてしまえば、その場限りでは無いと思うのだ。
まぁ、これも順を追って説明すべきだろうか。
「小黄がヴァンたそと仲が悪い事は重々承知。でもだからと言って、彼が悪人って訳では無いから、そこは理解しておいてね?」
「ヴァンたそ⁉、え?、は?」
「あ、だからと言って逆に小黄が悪いって言いたい訳じゃ無いよ?ただ、二人の軋轢にはカラクリがあると思ったから、是非とも理解しておいてもらいたいと思って」
そう…俺にはすぐに思い当たった事なのだが、二人の仲が悪いのには単純な性格相性と言うだけでは無く、とある決定的な理由が関与している可能性が高いのである。
ただ一からこれを的確に理解してもらうためには、それ相応の時間を要する。だからこそ、俺は小黄に頭を下げた上で、こうして説明と釈明を行う為の場を用意してもらっていた。
「これはヴァンたそにも話した事なんだけど…小黄もヴァンたそも、羅神器の所有者やってるじゃん?」
「うん、認めたくないけど、アイツも羅神器に選ばれたのは知ってる」
「だからかもしれないよん?小黄とヴァンたそが仲良くなれないの」
「な、ん、で⁉」
これが俺の示唆する、決定的と思われる理由の一つである。
ただこれは、羅神器に習熟していない者ではその可能性に思い当たる事すら困難かもしれない可能性だ。そして小黄もまた、知らなかったようである。
実際ヴァンにこの話を振った際にも、彼はその事実を聞いて驚愕していた。一応同じ旅団に所属している訳だし、二人の今後の付き合い方を考え直す意味合いでも、小黄には是非とも知っておいてもらいたい。
「小黄はそもそも、羅神器に天使徒って言う付喪神的な何かが宿ってる事は知ってる?」
「天使徒…、確か以前軽く聞いた覚えがある、でも詳しくは…」
「小黄は現状大天使徒…つまり部分換装が限界だから、あんまり話をする事も無いかもね…でも羅神器に選ばれた時、一度は対面してるハズだと思うよ」
「それって契約の時…?、…あ、もしかして」
ここで漸く、小黄も天使徒の正体に心当たりが出来たようである。
ソイツこそが、「羅神器」と言う言葉の意味を「武器の等級の一つ」から「武器の枠を超えた力や可能性を内包する至高にして究極の武器」に誤解させやがった元凶である。
ソイツ、所有者が全身換装を使えるようにならない限り認識する機会すら無いのだが、これが当事者の認識以上に厄介極まりないやべーやつなのだ。
「ここでいきなり座学になっちゃう。そもそも「天使徒」って、羅神器が製造された直後、羅神器の中で誕生した「神種」なのは知ってた?」
「し、ん、しゅ?」
「そ、神種。ホラ、今回『天啓』を下した第弐拾参神祖って居たでしょ?これら神祖の直系の眷属が神種なんだってば」
言い伝えによれば、羅神器は七聖教の崇拝対象「七聖天」と対を為す存在である「三邪廃将」が創造したと言われている。これは飽くまでも仮説でしかないのだが、この仮説の信憑性が増す要因となっているのがこの「天使徒」と言う「神種」の存在だ。
「神種」は神祖が何らかの手段を用いて誕生させる事の出来る、「基準種族」と呼ばれる種族の一つであるらしい。目にする機会はかなり稀、寧ろ目撃出来れば奇跡レベルの希少種族なのだが...天使徒もまた、この神種に該当するらしいのだ。
「ところで、小紅は何で、そんな事を知ってるの?」
「アタシはほら、既に「全身換装」が出来るでしょ?これを会得した暁には、否が応でも自分の羅神器に宿った天使徒と対面させられるから」
ここまで言えばお分かりだろうが、俺は既に自分の羅神器に宿る天使徒と対面済みである。ここの所全く顔を合わせてなかったけど…
そんな事よりだ。正直な話、羅神器との付き合いはここからが本番と言っても過言では無い。
果てさて、小黄は何処まで行けるかな?なんて冗談を言える位、ほんのり愉快な気持ちになってきた俺とは裏腹に、小黄の表情は優れない。
「全身換装が出来るようになると同時に、天使徒の顔面、御開帳…」
「そう緊張しなくて良い良い。ま、アタシの場合は天使徒が無駄に博識でさ。色々と教えて貰えたんだわ」
「そう…、ところで小紅の天使徒って、ぶっちゃけどんな神種?」
「うーん…一言で言うなら、愛すべき変態?」
その愛すべき変態とも、ここ暫くはすっかりご無沙汰である。でも向こうからの声掛けも無いし、無理に対面する必要も無いんだよなぁ。
「と、それはどうでも良くてだね。大切なのは天使徒の生態だね」
これが今回のキモである。この天使徒とか言う連中、天使の名を関する癖して非常に厄介な性質を有しているのだ。
そのどうしようもない事実を知れば、大半の所有者は天使徒の事を悪魔と呼称するようになるだろう。
「まずこの天使徒。小黄も部分換装が出来るようになったことから経験済みだと思うけど、成長出来る存在なんだわ」
天使徒は特定の条件を満たす事で、順に「第九級:小天使徒」⇒「第八級:大天使徒」⇒「第七級:権天使徒」⇒「第六級:能天使徒」⇒「第五級:力天使徒」⇒「第四級:主天使徒」⇒「第三級:座天使徒」⇒「第二級:智天使徒」⇒「第一級:熾天使徒」⇒と自身の階級を上昇させる事が出来る。
そして重要なのが、天使徒は総じて「本能に従い、昇級を目指そうとする」ところにある事だろう。
だがここで、小黄が意味不明とばかりに首を傾げていた。
「え?、それって私の成長じゃないの?、どう言う事⁉」
「確かに、何も知らなければ自分が成長したと実感するよね…でも」
この話を語るにあたって、これまで何度か出て来た「部分換装」、それと「全身換装」が何たるかを正確に把握しておく必要がある。
「これ、衝撃の事実なんだけど…天使徒の形態変化って、この階級に由来する変化なんだわ」
「…、…?、…⁉」
「もっと噛み砕いて説明すると、天使徒の階級に従って、羅神器が執れる形態が増えていくんだよね。第九級が武装形態、第八級が部分換装、第七級が全身換装って具合に」
「…、…!、…⁉」
そう、先日小黄は部分換装を会得したが、これは単純に小黄本人が成長したと言う要因以外に、小黄の持つ羅神器に宿る天使徒が昇級したと言う事実も孕んでいたのである。
つまりこの時、小黄の天使徒は、第八級である大天使徒へと至っていたのだ。
「そしてその一つ上の階級、第七級に昇級すれば全身換装を会得出来る。その時点で、所有者は漸く自分の天使徒を目の当たりに出来るって寸法」
「それでも更に六つも上があるんでしょ?、確か小黄は以前、自分が教えられるのは全身換装までだって」
「そ、アタシが指導出来るのは精々第七級:権天使徒の階級まで。そこから先は他者による介入の余地が無くなって、後はひたすら自分と天使徒との共同作業…いや、戦争になっちゃうからなぁ」
「戦争…、何でそんな言い換えを…、何だか怖くなって来た」
小黄には悪いが、怖くなって来たと言ってしまう辺り、まだまだ想定が甘い。
無論今聞かされたばかりなので仕方ない事ではあるのだが、小黄の想像以上に天使徒と言う神種は恐ろしい存在なのだ。
「ただこればかりは、天使徒の気質や性格にも拠るから、確かなコトは言えない。ただ一つだけ言えるとするなら、もし最後まで生き残りたければ、最後まで天使徒と自分に勝ち続ける必要があるって事位かな?」
「…、もし、仮に負けたら」
「終わり、何もかも。でも今言った所で多分実感が湧かないと思うし、そこについてはまた機会があれば教えてあげよう」
小黄は不服そうだが、全身換装を会得していない今、不用意な事を言って怖がらせるのもどうかと思うのだ。大切な事なので何れ知ってもらう必要はあると思うのだが、そもそも今回主題とすべきはここでは無い。
「でも普通に考えて、「何で天使徒と戦争をしなければならないのか?」って疑問に思わない?天使徒の性格に拠れば、共存も出来そうな言い方だったもんね」
「野暮な事は言わない、それが出来ないからこその、前置きなんでしょ?」
「そ、もうこれは断言させて貰うけど、どう頑張っても天使徒との共存は出来ない。何方かがくたばるまで、延々と戦い続ける事となる」
これは天使徒の成長或いは昇級によって、実際に何が起こり得るのかを踏まえれば自ずと出て来てしまう結論だ。俺は天使徒との付き合いを経て、これを痛いほど痛感させられてしまっている。
それは天使徒の在り様にも由来するし、はたまた所有者自身の在り様にも由来する。両者が別々の存在と言うその一点において、互いが互いであるまま、折り合う事は出来ないのだから…
「ここで小黄に知っておいておいて欲しい事がある」
「え…、もう論ずるまでも無い、嫌な予感…」
俺は実に気軽な口調でその言葉を発したのだが、小黄は必要以上に身構える。今はそれでいい。
「まず一つ目、天使徒って原則、単独で活動出来ないんだわ。大本が武器って言う事情もあって、武器の在り様そのものに縛られちゃうんだよ」
天使徒は、羅神器の中に生まれ、これに宿る事を前提とした神種である。その在り様は、自身の本体とも言える羅神器に依存する事となる。
この羅神器は、区分としてはやはり武器に該当する。武器は単独では正しくその真価を発揮する事が出来ない。武器の使い手が居て初めて己が役割を全うでき、使い手の腕や技量に応じてその活躍度合いに天と地ほどの差が生じるのが常。
これは羅神器の一部である天使徒にも適用される。
つまり天使徒の本質は武器であり、自分を使う存在が居て初めて何かを成し得る事が出来る。また自分の使い手次第では、その結果に大きな差異が生じるのだ。
「だから羅神器…正確には天使徒は自身の所有者を選ぶ。出来るだけ腕の立つ者、見込みのある者に使ってもらいたいからね」
「成程、そう聞けば、凄く納得」
「それだけじゃない。天使徒は武器だから、単独では何もできない。つまり自分の階級を上げたくても、単独では上げられない。だから自分を武器として使ってくれる者…即ち所有者を利用する事で、自分の昇級を目指そうとするんだわ」
「言い方が悪いけど、確かに天使徒が昇級するにはそれ以外の手が無い…、あれ?」
ここで漸く、小黄も何かに辿り着きつつあるようだ。折角だし、ここは小黄本人に正解を導き出して貰おうかな。
「でもサ、普通に考えて天使徒と所有者の関係って、何処まで行っても武器とその使い手って関係に留まるよね?アレ?武器ってどれだけ使った所で、擦り減らす事は出来ても、その性能自体を変える…ましてや向上させる事は出来ないよね?」
「確かに、使い手は成長するけど武器そのものは成長しない…、あ」
「そ、天使徒は自分が成長したいのに、普通に使わせてたら自分の使い手だけが成長する事になるよね」
ここで考えるべきは、武器自身もまた固有の生命体と仮定した際に、「一人では成長出来ない自身」を成長させる為に「何が出来るか」だ。
そしてその一番近い存在として、自分を使う事で成長する所有者が居る、と言う構図があって…
小黄は必死に頭を回転させる。
「まさか、自分が成長する為に、所有者の成長に合わせて…」
「ちょっと違うかも、そこじゃなくて」
「自分と所有者を何らかの手法で繋ぐ、若しくは互いの存在位置を近づける事で、自分自身にも成長の恩恵が受けられるように改変する…?」
「近い、近いけど…」
「自分と所有者を融合させる、若しくは互い存在そのものを重ねる事で、所有者の成長を自身にも反映させる…とか?」
「ご名答」
そう…これ、天使徒自身の自我が薄い為に気付かないのだが、所有者は無意識化で天使徒と同一の存在にさせられているのだ。
感覚としては、多重人格が近いだろう。所有者が持つ自己の中に、所有者自身と言う主人格が存在しており、そこに天使徒と言う交代人格…初期状態では「内在性の交代人格」によく似た人格が侵入して来た状態にあるのだ。
これが何ともまぁ、非常に厄介極まりないのである。
「もう理解出来ちゃったと思うけど、小黄が羅神器に選ばれた時点で、小黄の中に天使徒って言う交代人格が生まれてる。それはまだ自我が薄くて、単独で活動する事は出来ないけど、確かに存在はしてるんだわ」
「…、う…、そ…」
この事実に恐れを成してか、小黄も隠す素振りも見せず顔を青ざめさせている。
だが俺は、心を鬼にしながら言葉を綴っていく。
「そして小黄の成長に合わせて…正確には羅神器を使って出来る事が増えるに従って、交代人格も成長する。すると比例して天使徒の階級も上昇していくし、希薄だった交代人格そのものの自我も強くなっていく訳で」
「…、…、…」
「あ、ちょっと違うか。正確には天使徒自身の自我が強くなる、と言うより小黄の自我をベースに独自の自我を確立させていくんだね。それが第七級:権天使徒に到達した辺りで、大体ベースとなる人格が出来上がると思っておいて良いかな」
「…、…、…」
小黄は既に、事と次第が受け止められないと言った様子だ。これに追い打ちをかけるようで俺としても心が痛いが、もう一つ重要な事を忘れてはならない。
「でもね。ここでは交代人格って表現したけど、天使徒自身の自我は全くの別物だから要注意だね」
「…、…、…⁉」
「そもそも交代人格って元来主人格の支配下にあって、何を差し置いても主人格に優先される事が無いのは知ってる?主人格から派生…もしくは分裂して誕生した以上、どう頑張っても主人格のパーツの一つでしかないし、主人格より強い人格として存在出来ない。だから交代人格は、どう足掻いても主人格に逆らえない。主人格の気の赴くまま、消されちゃう事もあるのが常」
「…、…、…」
割と普通に話してるけどこれ、あまりポピュラーな内容では無いような。ま、いっか。
「でも天使徒は違う。こちらは主人格から派生した訳じゃなくて、余所からやって来た人格。だから見方によっては、悪霊に近い存在とも取れるんだよね」
「小紅、それ以上は、もう…」
「止めないよ?まぁ簡潔に言えば、天使徒は厳密には交代人格じゃないから、主人格である所有者の人格にも逆らえる。万が一隙を見せたら、そのまま所有者の持つ全てを乗っ取られる事だって考えられるしね」
非常に残酷な事実だが、これが現実である。天使徒は決して、良き隣人などでは無い。
小黄もこんな事は聞きたくなかっただろうが、既に小黄自身もまた当事者である以上、嫌でも知っておくべきと俺は判断した。どの道賽が投げられてしまった以上、逃げ続ける事も出来ないので、こうして無理やりにでも言わせてもらった次第だ。
でも正直、こんな事を知ってしまったら、誰だって怖くなるに違いない。俺も昔はそうだった…かもしれない。
だが、残念ながらこれでもまた序の口。悪夢はまだ終わらない。
「これを踏まえて二つ目。天使徒が本能に従って昇級を目指そうとする、ってさっき話したよね?」
「…それがどうしたの?、要は天使徒が、昇級する事を強く望んでるって事でしょ?」
「少し違う、正確には「天使徒は昇級する事を前提とした存在である」って事。アタシ達が生きる事を前提とした存在で、生きる為なら何でもやるように、天使徒は昇級する事が全てだから、昇級する為に文字通り何でもやるんだわ」
個体によって差異は生じるものの、そのどれもが漏れなく、昇級する為なら手段を択ばない。自分が昇級する為なら、どんな困難な事であろうと、どんなに道理に外れた行いであっても、躊躇なく実行しようとするのだ。
だが、これを聞くだけでは小黄の理解は及ばなかったらしい。
「ん?、それが当たり前だとして、何が問題なの?」
「厳密には天使徒の在り様ってよりも、昇級出来る条件そのものが問題で…」
これは第七級:権天使徒以降の話になるのだが、天使徒が自身の階級を上昇させる方法は主に三つある。
一つが所有者を成長させる方法、これはさっき説明した通りだ。所有者の中に自身の人格を配置し、同一の存在となる事で、所有者自身の成長を自身にも反映させようとする試み。
これは正直、比較的健全な方法であると言える。所有者のポテンシャルが確かで、所有者と良い関係を構築出来れば、安定して可能性を上げられる方法と化すからだ。
強いて弱点を挙げるならば、前提条件として天使徒自身の「人を見る眼」が確かである必要がある事位か。これが備わっていないと、この方法での昇給は絶望と化してしまう。
また、所有者との性格相性も関係してくるだろう。その在り方の仕様上、所有者との仲が悪いと所有者自身にも悪影響を及ぼしてしまう。
これは初期状態では判明しにくいのだが、格が上がって来るに連れて天使徒自身の自我が強くなって来ると、次第に判ってくるケースも有る。こればかりはお互いの運次第と言ったとおころか…
このように正攻法ではあるのだが、前提条件を整えるのが非常に難しいと言うのが最大の欠点と言えるだろう。
「そして二つ目。実は羅神器所有者が他の羅神器所有者を殺害するだけで、ある程度の所までは昇級する事が出来るんだよね」
「え?、それ、言って良かったの⁉」
「どうにも、他の所有者を殺害すると経験点みたいなものを獲得出来るみたいでね。しかも殺害した所有者に宿った天使徒の階級が高ければ高い程、得られる経験点も多くなると言うオマケ付き…勿論、小黄がアタシを殺害すれば経験点を得られるから、その逆も然り」
「⁉、⁉、⁉」
「そう身構えないで。アタシは小黄を手に掛けるつもりは無いし、ましてや小黄に殺られてあげるつもりも無い。ただ、知識として知っておくと便利かも」
これをサラッと明かしてしまう辺り、俺も肝が据わっていると思う。だがこの方法、致命的な欠陥が存在する。
それは、この方法で昇級出来る限界が精々「第三級:座天使徒」までと言う事。それ以上の階級に昇格するには、他者を殺める方法だけでは足りないのである。
しかもこの方法…元々天使徒が他の天使徒を察知、基これに反応する能力を有している為、割と頻繁に巻き込まれる事があるのだけは忘れてはならない。
本人の意思に関係なく、他の所有者に襲撃されるのなんて日常茶飯事もいいところである。
「そして最後が三つ目、結局最後に物を言うのがこれかな?それは自分自身に打ち勝つ事だよ」
「ん?、何で?、いきなりそんなのが出てくるの?」
さっきの「他の所有者を殺す」と言う極論から一転、予想外の事を告げられたからか小黄が思いっきり混乱している。
でも、個人的には結局、これが全てだと思うんだよなぁ。
「ホラ、天使徒の交代人格が自我を強めるにあたって、所有者の主人格をベースにするって話したでしょ?」
「うん、確かにそんな事、言ってた」
「そうなるとだよ。必然的に天使徒の人格って、所有者の人格の影響をもろに受ける事になるよネ?それも根幹に影響するレベルで」
「!、ああ、そう言う事」
「そう、結果的に誕生した天使徒の人格って、所有者本人の現身みたいな人格になりがちなんだよねぇ」
そう、これが厄介な事に…天使徒の人格って、兎に角自分の嫌な所やコンプレックス、黒歴史を全部詰め込んだような、そんな人格に大抵の場合なる…と言うか殆ど絶対になってしまうのだ。
これと向き合うのは、大半の所有者からすれば苦痛にしか感じないかもしれない。その癖自分とそっくりだから、互いに同族嫌悪に走ってしまうし…これは俺の経験談である。
その癖逃げられないのだから、所有者は必然的に精神的苦痛を味わせられる事となる。勿論元となっているモノが違うので多少の差異は生じるのだが、これが何の慰めにもならない位によく似ているのだ。
「でもだからこそ、良い精神修行になるんだよねぇ。世の理不尽を味わい続けるより、天使徒の人格と正面切って話す方がよっぽど自分の為になるし、何よりキツイ!」
「成程、小紅の天使徒が変態って所、愛すべきかどうかは兎も角得心が行った」
「何で⁉」
だがまぁ、ここまでを踏まえれば小黄とヴァンの不仲について説明出来てしまう訳で。
勿論、単純に性格相性が悪いと言う可能性もあるけどね。でも大半がこっちの理由だと、俺は推測している。
「つまり、私とアイツがお互いに抱き合っているのは、殺意⁉」
「そゆこと。それぞれ自分の天使徒の交代人格を宿した状態で、互いを殺害すれば自分の階級を上げられるんだから。天使徒の本能に引っ張られて、相手を殺したくなっちゃうよねぇ?」
そう、二人は天使徒の能力によって互いの存在を察知し合い、互いに反応し合っている状態にある。
ここに天使徒の「他の天使徒を殺害してでも昇級したい」と言う本能の影響を受けた結果、本人の意思に依らず、互いに殺意を抱き合ってしまうのではないか、というのが俺の見解だ。
ここだけの話、不仲の原因がこれである以上、解決のしようが無い問題でもあるだろう。かくいう俺も、小黄に向けて「ヴァンと仲良くしろ」なんてとても言えない。
因みにこの話、昨晩の談義の最中でヴァンにも殆ど同じ内容を申し伝えてある。彼は彼なりに事実を受け止める事が出来たようだが、小黄はどうだろう?
一応、ヴァンに対して語った内容と全く同じ事を繰り返すでいいと思うが。
「だから小黄も、ヴァンと互いに殺意を向け合っちゃう事について僻む必要は無いと思うよ。只出来るだけ、荒事は避けて欲しいかなーなんて」
「ちょっと待って?、これ、おかしくない?」
「何が?」
ここで小黄が、何かに気付いたとばかりに俺の目を真っ直ぐに捉えてくる。これ、ヴァンの時にもあったような…
「今更だけど、小紅もまた、オリジナルの羅神器の所有者な筈」
「そうだね、ホント今更ってカンジー」
「ーなのに、私やヴァンと普通に接していられるのは何故?、殺意が湧かないのは何故?」
…
嗚呼、こういう時なんて言うんだったっけ。
そうだ、勘のいいガキは嫌いだよ。
…
……
………
…なんて愚痴ってはみたものの、タネは実に単純明快である。
「さっき小黄に話したのは飽くまでも一般論。実は何種類か裏技があって、これを使えば天使徒の本能や能力を誤魔化す事も出来るんだよね」
そう、俺はこの裏技の内、何れかを用いて他者の殺意を欺いているのだ。しかし、そんな事実を小黄が知る筈もなく…
「でも小紅の羅神器って、確か「反動操作」の能力だった筈、繋がらない」
「ちょいちょい、さっき軽く漏らしてたじゃん?何でアタシが第七級までしか到達してない前提になってるのさ?」
「⁉、もしかして、昇級すれば能力が増えたり変わったりする事もあると」
「そゆこと」
小黄も漸く、理解が追いついたようである。
実際問題、俺の羅神器は既に「第七級:全身換装」の更に先の領域に足を踏み入れている。ただそれだけの事なのだ。
だが俺視点、そこは無暗に足を踏み入れられたくない領域でもある。これ以上話を広げるのはなるだけ避けたい。
それにもう話したい事は全て伝えたので、この件についてはそろそろ打ち切りとしたいところ。
「ま、要するに小黄の羅神器道はまだまだ始まったばかり!精々頑張ると良いよ~」
「ちょっと?、あの、小紅?」
「先ずは第七級、全身換装を目指すところからだね~。そこまでだったらアタシも強力出来るかな~」
…もう勢いで誤魔化してしまう事にした。どうせ何時かは明るみに出ちゃうんだろうけどね。
ちょっと内容が難しいかもしれません。
その場合は…すんませんす。




