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WILD DOWN  作者: plzY.A.
無幻世界編
6/55

第五話:結託

 結局三人はそのまま歩き続けたものの、日が暮れても街に辿り着く事が出来なかった。

 そこで止む無く、野宿をする事となった。森の中に開けた場所を見つけたので、今晩はそこが宿泊場所となる。


「ま、馬鹿正直に野宿しなくてもいいよな」


 そう言うと関心は、何処からか立方体のオブジェを取り出し、それを開けた場所の丁度ど真ん中に投げ込んだ。見慣れないデザインのキューブで、イヴと青年にはその正体に検討が着く(よし)も無い。

 すると何やら魔術のようなものが発動し、それに呼応するかの如く魔力(アルマ)が特定の意思を纏って渦を巻く。やがて気が付けば、立方体の小さな小屋らしき建物がそこに姿を現していた。三メートル四方の立方体で、真っ白で無機質な物体である。


「何でしょう?こんな魔術、見た事がありません…」

「これ、建物だよね?」


 よく見れば、キューブの一角にぽつんと小さな扉が付いていた。しかしその外見から推察するに、中はあまり広く無いと思われる。三人が寝泊まりするには無理があるのでは無いか?と二人は疑念を抱いていたのだが…当の関心は、そんな二人を一瞥(いちべつ)するや否や扉の取っ手に手をかける。


「ただの仮設住宅なんだけど…取り敢えず中に入ろう」

 

 関心は軽く口にするが、いヴと青年の二人は完全に置いてきぼりであった。それと同時に、関心の常識は二人には当てはまらない、そんな身も蓋も無い事実を確実に理解し始めていたのである。


 結局、明らかに非現実的な所業を為しておきながら全く気にする様子のない関心に連れられ、三人はその屋敷の扉を押し開けた。

 哀しきかな。他二人は関心にツッコむ事も出来ないまま、その後塵を拝する事しか出来なかった。しかしそれもまだまだ序の口、彼らの夜はまだ終わらない。



 ~~~~~



 扉を開けると、その先には想像もつかない別空間が広がっていた。

 外見が石造りであったにも拘らず、内装は機能的で近代的な造りになっている。世界基準では異例と言って過言では無いのだが、中はオール家電でお湯や水も際限なく使えるようになっていた。

 先の無機質な外観からは想像が出来る筈も無い。


 関心は「友達からのアドバイスを基に皆で作成した」と語っていたが、その意味が良く判らないイヴと青年である。もう思考回路はショート寸前であった。

 二人には見慣れない調度品の数々が多数設置されており、完全に異世界…いや、理解の範疇を超えていた。それはもう、これを「関心が作成した」と言う驚愕な事実を聞き逃すくらいには圧倒されていたのである。


「あ、そこで靴脱いでね」


 関心は玄関を指差しながら忠告する。

 二人の知る常識でもあるが、この世界における一般住宅において靴は脱がないのが基本だ。事実、そんな文化を二人は欠片も知りはしない。

 しかしこの仮設住宅においてはそれはNGであるらしい。

 掃除の関係だと関心は語っていたが、二人は何処か納得出来ないでいた。それ以上に、この状況下で文句を吐き捨てる方が論外なので、そっと胸の内にしまったのはここだけの話。


 その後関心は玄関の壁に取り付けられた見慣れない計器に、カード端末の読取(スキャン)を行っていた。ピッと言う音が鳴り、計器の画面が変化する。

 これは俗に言うタイムカードと呼ばれる代物である。勿論、これもイヴと青年にとって見慣れない物である事は言うまでもない。とは言え、これに関しては二人が「携帯電話」に該当する子機端末を所有していた事もあり、然程理解が及ばない物でも無いと言えた。

 世界毎に差はあるが、現代文明が発展している世界で暮らしていた二人である。一部はその用途が想像出来る物も存在しているのだが、ここはそんな二人の知識経験を上回るハイテクノロジーが駆使、適用された建物である事は紛れも無い事実であった。


「それは?」

「これ?実はこの家、俺の『同士』と共用してる物件でさ。取り決めで、ここを使う際にはこうして使用履歴を残すようになっててさ。因みに今は…おや、先客が居るみたいだ」

「先客?」

「うん、多分自分の部屋に要るっぽい。まぁ邪魔しなきゃ大丈夫だろ」


 関心曰く、どうやら既にこの家に関心の同士が来ているらしい。一体誰が何処から…


 イヴと青年の二人はそんな疑問を胸に秘め、そのまま想像以上に長い廊下を進んで行く。「有り得ない」と共通した感想を抱きつつも、やがて二人は奥にあるリビングに案内された。

 そこはダイニングキッチンと併設されており、奥には広く機能的なキッチンと多種多様な電化製品の数々を確認する事が出来た。


 二人は関心の勧めに従い、リビングにあるソファに腰かけた。それと共に、気も腰も抜けてしまったようだ。二人は倒れ込むようにソファに身を任せる。

 それとは別に、イヴは先の戦闘でお釈迦となったナイフを取り出した。刃の部分がぽっきりと折れており、修復は絶望的と言えるくらいの損傷具合である。


「はぁ…貴重なナイフだったのに、勿体無いです…本当に、もう」 


 イヴは柄の部分だけになったナイフを片手に、がっくりと肩を落とす。実はこれ、先にも軽く口にしていたが「切断」の魔術を刻印した特注の武器で、世間に出回っている武器の中では上位の性能を誇る。等級にして特宝級(エクストラ)に相当する希少品である。しかし今回の戦闘を通じて、今ではただのガラクタと化していたのであった。

 もしそれが男性の肉体に出来た傷ならば「男の勲章」と誇る事も出来たが、女性であり傷ついたのがナイフであるイヴにとっては関係ない話である。余計なお世話であると言えよう。

 

 しかし関心は思った、ある意味運がいいかもしれないぞ?、と。


「…今度鍛冶場を借りれたら、打ち直そうか?」

「え?関心ってそんな事出来るんですか?」

「まぁね。因みに俺の職務(タスク)、忘れちゃ無いよな?」

「ああ…そう言えば、「道具の作成」って言うのがありましたね」


 そう…最近はめっきり鋼材に触れる機会も無かったが、関心は一応鍛冶技術も有しているのだ。最も、ブランクが長いのと、肝心の仕事場が無いので開店休業も良い所だが。

 しかし、それでも多少の腕鳴らしさえすれば、ある程度の感覚を思い出せると関心は睨んでいた。もっと言うと、思い出さないと肝心の職務(タスク)に甚大な影響が出てしまう為、嫌でも思い出さなければならなかったのだが。


 イヴは少し考えこむ。しかし考えるまでも無いだろう。どの道、このガラクタを持っていた所で手持無沙汰(てもちぶさた)になるだけなのだから。迷う理由も無かった。


「そうですね…折角ですし、お願いします」

「了解。今度機会があれば頑張るから」


 何はともあれ、イヴは関心の申し出を快く引き受ける事になった。但し、時期は未定である。


「それじゃ、ちっと待ってて。用意するから」


 そんなこんなで話が着いた途端、今度は関心がキッチンの収納をゴソゴソと漁り始める。そしてティーセットと何個かカップ麺を取り出して二人の前に運んで来た。そのままポットでお湯を沸かし始める。


「二人はお茶とコーヒー、どっちがいい?」

「私はお茶で…」

「僕もそれでいいよ」

「お茶ね…今は紅茶しかないや」


 そう言ってお茶の用意をする関心の姿は手慣れて居そうではあったが、どこか様にならない…と言うか違和感しかなかった。なんせ見た目は中学生に満たないくらいの子供だ、見た目とやっている事のギャップが違和感しかない。

 そうこうする内にポットのお湯が沸きあがると、関心はリビングの中央にあるテーブルでお茶を注ぐ。しかしポットで沸かしたお湯にはまだまだ余裕があるように見える。過剰に沸かしているようにも思える二人である…が、その些細な疑念は直ぐに解消された。(おもむろ)に関心が断りを入れる。


「悪い、今ちょうど食材切らしてるみたいで。カップ麺で我慢してくれ」

「カップ麺?見た事ない物…って食材?これ、食べられるの?」

「うん、こうして蓋を開けて、火薬とスープを取り出して…」


 関心が説明に合わせて、二人もこれに追随する。

 ここからはお馴染み、皆も知るお決まりの手順を踏むことでアツアツのカップラーメンが完成する。しかしこの世界において、カップ麺と言う食べ物は馴染みの深いものでは無い。ごく一部の限られた地域でしか普及していないと聞く。急遽’招かれた二人からしてもそれは未知の体験で、実に興味深そうにこれを見つめていた。

 そんな二人を他所目に、関心が促す。


「早く食べな、麵伸びるよ」

「あ、はい」

「関心は食べないんですか?」

「いやー、俺は咀嚼(そしゃく)に難があってさ。カップ麺食べられないんだわ、悪いな」

「「?」」

 

 そう言って関心はお茶だけを頂いている。

 関心の言い分は全く理解できなかった二人ではあるが、未知の食べ物であったカップ麺に関しては案外美味しく頂けた。紅茶も想定外に美味しかったようで、特にイヴなんかは「こんなにおいしいお茶を淹れられる人は教会にも居ないかも…」とまで呟いている。青年は紅茶を殆ど飲んだことが無い…以前に記憶が無く、イマイチ実感が湧かないでいたのであった。


 やがて完食した頃には満腹…とまでは行かなかったが、小腹が膨れるくらいの丁度良い満足感を得る事が出来た二人である。その後関心の勧めで「お風呂」と呼ばれるものに浸かり、こちらも存分に堪能出来たようである。これを見て満足そうな関心がそこに居た。

 しかし二人は生憎と着替えを持っていなかったので、家に備え付けてあった予備のパジャマに身を包む。その後二人は、もう一度リビングのソファに腰を掛けた。その目的は勿論、本日の総括であろう。

 最も、二人は長くお風呂に使っていた為、若干のぼせ気味だった。


「ふぅ…お風呂ってのはここまで気持ちいものなんですね…」

「僕はちょっとクラクラする…」

「ちょっとのぼせてんな。コーヒー牛乳でも飲んで休んどけ」


 そう言って関心によって差し出されたコーヒー牛乳はキンキンに冷やされており、これを口にすると頭が冴えわたるような感覚に襲われた。

 イヴは、案外気持ちいいな…と半分キマリかけの状態で悦に浸る。

 青年的には、もう少しパンチの効いた飲み物でも良い気がしないでもない、と言いつつ心地よさげであった。


 それはさて置き、話は先程の顛末へと移行する。

 すると唐突に、関心は青年に向かって啖呵を切った。


「でも良かったじゃん。記憶を取り戻す手がかり、一つ見つかったな」 

「え?何かあったっけ?」

「お前の種族「英種」だよ」

「ああ、さっき言ってましたね」

「英種?」


 青年は何も知らないらしい。関心は溜息を付きつつも、懇切丁寧に説明を始める。

 英種…それはこの世界に存在する種族の一つで、「固有種族」と言う枠組みに分類される極めて稀有な種族である。遺伝子異常によって偶発的に発生する事があるも、子孫に遺伝しない一代限りの種族となっているのが特徴なのだとか。

 そんな英種、かなり尖った特性を生得的に備えていると言う。


「まず一つが主属性。これが「負属性」って言う極めて希少な属性なんだ」

「属性って確か、「法術」で用いられる概念ですよね?」

「良く知ってるな。(実は属性(エレメント)ちょっと違うんだけど…)あまり詳しく話すと時間が足りなくなるから省くけど、この属性の面白いところはさっき現れた「魔族」の主属性、「正属性」と対になる属性ってとこだ」


 途中でボリュームを落としつつも、関心の話は続く。

 余談だが、「主属性」だの「正属性」だの意味の分からない単語が飛び交う為二人の脳内は?マークで埋め尽くされていた。しかし「そこは重要じゃないから後回しで良い」と関心に一蹴されてしまう。それでいいのか?と内心ツッコミを入れる二人である。

 これを受けて、関心も何を思ったのか説明を始める。


 この世界の住民は総じて何らかの「種族」に属している。これに付随する要素として「属性」が存在し、両者は互いに対応し合っているのが特徴である。自身の有する「種族」に応じてこれら「属性」を獲得する他、場合によっては複数の種族や属性を獲得出来るらしい。

 この時、複数獲得した「種族」や「属性」には()()()()()()()において差異が生じるそうで、その差異に応じて名称の区分が為されているのだそうだ。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


〇正種族

・全ての存在が先天的に()()()()()()は獲得する、「世界系」の特性を用いてのみ入れ替える事が出来る概念。

・対応する種族に応じて、「主属性」と「属性(エレメント)適性(魔法行使に影響する)」を一つ獲得する。

・「世界のルール」と「種族(単一種族と複合種族)」と「正属性」と「特性」と「魔法行使」に影響する概念で、単一の存在が保有出来る枠数は1。最大覚醒限界は極位天種。


〇優勢副種族

・全ての存在が後天的に()()()()()は獲得出来、「世界系」と「領域系」の特性を用いて入れ替える事が出来る概念。

・対応する種族に応じて、「副属性」と「属性(エレメント)適性(魔法行使に影響する)」を一つ獲得する。

・「世界のルール」と「種族(複合種族の場合のみ)」と「副属性」と「特性」と「魔法行使」に影響する概念で、単一の存在が保有出来る枠数は1。最大成長限界は超位天種。


〇劣勢副種族

・全ての存在が後天的に()()獲得出来、「世界系」と「領域系」の特性を用いて入れ替える事が出来る概念。

・対応する種族に応じて、「属性(エレメント)適性(魔法行使に影響する)」を一つ獲得する。

・「世界のルール」と「特性」と「魔法行使」に影響する概念で、単一の存在が保有出来る枠数に限度はないが、劣勢副種族に一つでも天種があると原則1(適用の可否を「世界系」や「領域系」の権能によって設定可能で、その場合枠数が変化)。最大成長限界は上位天種。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 と言った具合に。

 見慣れない単語は多々あるが、「ここでは雰囲気だけ掴めればいい」と関心は言う。

 細かい区分についてだが、ここではあまり意味が無いのだそうだ。二人は若干不服そうな表情を見せるも、同時に頭をフル回転させる。


 関心は説明を続ける。これら「種族」や「属性」だが、複数存在する中で対になる組み合わせが存在するらしい。

 「属性」毎に対になっていて解り易い物から、「種族」の特性や性質によって対になっていたりと判別方法は複数存在するようだ。


 これらの中で今回ピックアップすべきが「英種」と呼ばれる種族であろう。

 関心曰く、端的に言えば「魔族(魔種)」と「英種」は対極に位置する種族同士なのだそう。そしてその「主属性」もまた「正属性」と「負属性」で対になっており、本質で見ても正反対に位置する種族同士なのだそうだ。

 これを聞いて、二人の理解が徐々に追いついていく。


「それで言うなら私は「聖人」だそうですが、その対に「邪人」が居るようなものですか」

「へぇ、イヴは「聖種」なのか。まあ似たようなもんだね」

「そ、そうなんでしょうか?」

「多分…判定してみないと断言は出来ないけどさ」

「「…」」


 関心は何やらその方面で知識を有しているようだが、依然イマイチ感覚を掴みきれない二人であった。まだまだ、両者の理解度には大きな差があると言わざるを得ない。


「正直そこは気にしなくていい。後に話す二つ目と三つ目、それと四つ目が重要だ」

「え?まだあるの?もういっぱいいっぱいなんだけど」

「貴方…いえ、続けて下さい」


 青年から余計な茶々が入ったが、イヴがすぐさま諫める。これを気にする様子も無く関心は続ける。


 そうして二つ目に話したのは、「英種」が持ち合わせる特性。それは「魔術と法術の完全無効化」である。

 簡単に説明すると、魔術と法術はそれぞれ異能の力に分類される特別な術式行使を差し、両者を纏めて「魔法」と総称する事がある。共に魔力(アルマ)と呼ばれる、この世界の住民ならば全員に存在する「芯脳」と呼ばれる器官に関係するエネルギー源を用い、術式を組んでこれに作用させる事で発動出来るらしい。

 しかし魔術と法術はそれぞれ発動形態や発動プロセスが異なり、その本質は全くの別物である。


 魔術に関しては、術者の周囲に存在する事象や物体を総じて「素体(エレメント)」として認識し、そこに対し術式を用いる事で、素体(エレメント)に対し直接作用させる事で発動する事が出来る。

 即ちありとあらゆる事象を「道具」と捉え、そこに対し魔力(アルマ)由来の「物理法則に基づいた複数パターンの事象改変」を術式として組み込む術を指すのだ。規模こそ控えめであるものの、術の操作性が高く安定性にも優れるのが特徴で、物理法則に則る範囲内であればあらゆる事象を再現可能である。


 対して法術に関しては、術者の周囲に存在する()()()()()物体や事象を「属性(エレメント)」として認識し、そこに対し術式を用いる事で、属性(エレメント)に宿る自然由来のエネルギー「法力(アルムス)」に作用して発動させる特徴を持つ。

 法術のキモは「魔力(アルマ)法力(アルムス)の合成反応」に基づく点にあり、一般的に魔術よりも規模が大きく、より術者と密接な術式となる事が多い。意外にも制御難易度や消耗は魔術と同程度で、その上で物理法則を超えた超常現象も引き起こせるが、反面反動も大きくなりがちである。


 実は英種の「魔術と法術の完全無効化」は、要約すると「魔力(アルマ)法力(アルムス)の拒絶」。もっと言うと自身の魔力(アルマ)を「負属性」に変質させ、その結果他者の魔力(アルマ)法力(アルムス)の影響を受けず、更には打ち消してしまう状態にする事が出来るのである。

 つまるところいかなる術であれ、魔力(アルマ)が尽きない限り、英種である青年には効果を為さないのだ。自身も「属性(エレメント)」に馴染みある「種族」であるにも拘らず、これを受け付けない…そんな珍しい特徴を「負属性」は有していたのである。


「これは利点であり、同時に欠点でもある。魔術法術問わず敵の攻撃術式が効かないが、逆に味方の回復術式や支援目的の術式も受け付けないからな」

「つまり、僕は魔術や法術と相容れない、と言う事だね」

「厳密には「体内のエネルギー…魔力(アルマ)が尽きない限り、無条件でこれらを打ち消してしまう」が正しい。更に魔法薬(ポーション)も効かない筈だ。大きな怪我したらそれだけで命取りにになる」


 関心の指摘を受けて、青年は思わず戦慄した。


 魔法薬(ポーション)…魔術や法術を用いて効能を調整した回復薬の総称である。価格設定は総じて高めだが、この世界においては様々な品質、等級で普及している、極めてポピュラーなアイテムであった。

 これが効かないのはかなり致命的だ、なんせ今の時代は、怪我の治療の大半がこの魔法薬(ポーション)によって行われるからである。


 そしてもう一つ厄介な特徴がある。それは自分の魔力(アルマ)を外界に放出する事で、魔術や法術の発動を阻害出来るのだ。

 これは使いようによっては優れた妨害作用を発揮するが、逆に味方の首を絞めてしまう事も少なくない。扱いに困る厄介な特性であると言えた。


「そう考えると僕、危機管理が甘かったような気がするよ…」

「でも彼、現実離れした再生力も身に着けてましたよね?」

「それが三つ目、厳密には「自死能力の欠如」だな」


 青年とイヴの会話を受けて、関心は指摘する。


 どうやらこの英種、総じて自殺する事が出来なくなるようなのである。厳密に言えば「自殺行為を行った場合必ず失敗し、損失物の復元が無限に行われる」のだそうだ。

 そしてこの復元には特にエネルギーを用いる訳では無いと言う。つまり数ある再生手段の中で見ても、再生能力だけは最高峰を誇るのだ。 

 因みに、先ほど銃でハチの巣にされながらも身体が再生を続けていたカラクリの正体がこれである。あの時は青年が自分から危険区域に赴いたため、自殺行為と判断されたようである。

 

 これを聞いて黙っていられなくなったのがイヴである。


「それって、もう無敵では無いですか!」

「そうも行かないぞ。自殺は出来ないが、他者が殺害する事は可能だからな。但しその場合、逃げれば殺されるが、逆に立ち向かうと殺されないと言う面白い特徴もあるぞ」

「立ち向かうって、そんなの出来ないよ!あれ、死にはしないけど物凄く痛いんだから!」

「まぁ、再生するだけで怪我は防げないし、痛覚には何の影響も為さないからなぁ」


 関心と青年が何やらじゃれ合っていたが…この時点で、イヴの背筋には鳥肌が立ちまくっていた。

 確かに無敵にはなれるかもしれないが、逆にここまで無敵になりたくないと思った事も無いかもしれない。


「最後に四つ目…これが厄介なんだが、逆運が極めて強くなる」

「逆運…だね、ちょっと思い当たる節が…」


 関心の指摘を受けて、青年があからさまに落ち込んでいる。

 因みにこの逆運、生半可なものでは無いらしく、一般人と比較にならない(くらい)命を危険に晒される羽目になるようだ。

 無論悪い事ばかりではなく、時に常識的に考えて有り得ない珍しい光景に遭遇する事もあるのだが…


「この特徴のせいで、英種の殆どが成人前に殺害されたり…若しくは事故死したりしているぞ」

「「怖っ‼」」

「だからお前、すげーよ!普通そんな年齢まで生き延びられないって」

「ううっ、何か嬉しくない…」


 青年はたじろぐが、この時イヴは密かに邪推していた。


 ーもしかすると記憶を失ったのも、捕虜となったのも、魔族と相対したのも、下手したらこの逆運の強さが関係しているのではないか?


 しかし判断材料が少ないし、別に命がどうにかなるような出来事でも…あった。下手したら何時死んでもおかしくない場面ばかりである。やはり、関心の言う事も全くの迷信では無さそうである。


「俺からアドバイス出来るとしたら、魔力量を増やしつつ魔力制御(アルマコントロール)を磨く事と、逆運に対して常に立ち向かう心を忘れない事かな。そうすりゃ早々死なないだろ」

「はぁ、それにしても関心って詳し過ぎない?」

「いや、実は俺の知り合いにも英種がいてさ…」

「成程、経験者は語ると言う事か」

「俺のは請負(うけおい)だけどな」


 関心は「俺は見た目以上に経験豊富なのさ!」と強調していたが、何か裏の意味合いも含まれてそうだ、とイヴは再び邪推を始めたのであった。

 それはそうと、イヴはとある奇妙な場面を思い出していた。


「そう言えば、あのいけ好かない男が持ってた武器、羅神器(アルティメイター)とか言ってましたっけ?関心さんの拳銃、何で無事だったんですか?」

「ん?どゆこと?」


 関心は何事も無かったように(とぼ)けて見せるが、イヴは気にせず問い詰める。


「ほら、あいつのせいで私のナイフがお釈迦になったんですよ?なのに関心さん、その剣撃を拳銃で直接受け止めてましたし、そのあと普通に発砲してたじゃないですか」

「ああ、あれ?多分俺の時は能力使ってなかったんじゃない?」

「でも私のナイフが通らなかったのに、関心さんの銃弾は当たってましたよ?」

「特別製の銃弾だったからな」

「それを言うなら私のナイフだって…そもそも、あの武器の正体を言い当ててましたもんね、何か隠そうとしてません?」

「くっ…鋭いな、そういうの嫌いだぜ」


 関心は参ったと言わんがばかりに両手を挙げた。

 しかしその口から発せられた回答は、極めて単純明快で何の捻りもない物だった。


「そりゃ、羅神器(アルティメイター)に張り合える武器なんざ、同じ羅神器(アルティメイター)しかないだろ?」


 何てことはない。あの場に居た羅神器(アルティメイター)の所有者が()()()()()()()()だけの話なのである。


「あの二丁拳銃は俺の羅神器(アルティメイター)「3/12」の副武装(サブウェポン)だ。あいつが使ってた「結界」も使えるし、特殊能力も幾つか備えてる」

副武装(サブウェポン)、ですか」

羅神器(アルティメイター)は所有者の適性や性格に応じて形態変化出来るんだけど、俺のは「装甲」に変化するんだよ」


 羅神器(アルティメイター)は所有者の適性や性格等に応じて基本形態…即ち主武装たる「メインウェポン」の形態を自由に変化させる事が出来る。

 ミハイルの主武装(メインウェポン)形態が火器複合刀剣(ガンブレード)だったのに対し、関心の主武装(メインウェポン)形態は外部装甲、即ち鎧の形態を執るのだそうだ。


 それに加えて、それなりの練度があれば主武装の形態を維持したまま、副武装たる「サブウェポン」を出現させる事が出来る。これは周囲に適した材料さえあれば何時如何なる場所でも権限可能で、特に種類に関しても制約はない。

 しかし性能面で制約が生じ、どうしても主武装(メインウェポン)には遠く及ばない性能に落ち着いてしまうのだそう。


「残念ながら、あの時の俺にはあれ以上の性能を持つ副武装(サブウェポン)の顕現は不可能だな」

「それで敵の主武装(メインウェポン)とやり合えるなら十分だと思うよ」

「それは相手の羅神器(アルティメイター)が格下だったからだ、同格以上相手にはああはいかない」


 聞けばあの時、「結界」こそ用いたものの、持ち前の特殊能力の方は一切使っていなかったようだ。ただあの時点で関心の羅神器(アルティメイター)が格上だったお陰で、強引に力勝負に持ち込めたのである。

 二人が特殊能力について尋ねるも、「いやぁ、俺のはなぁ…」とはぐらかされてしまった。

 そう言えば、関心は羅神器(アルティメイター)の特殊能力について「当たり」なんて妙なことを口走っていた。関心はもしかすると、その「外れ」の方を引いてしまったのかもしれない。そう二人は愚考した。


 そんな二人を怪訝そうに一瞥しつつ、関心は呟く。


「最後に奴にヒットした銃弾も特別製だけど、奴の結界を貫通する性能は有していなかった」

「じゃあ、どうやって」

「簡単な事、銃弾に「結界」を張ったんだ。こっちの結界の方が強力だったから、あんな結果になったと言う訳」


 関心曰く、両者が用いた結界は同じ結界ではあるが、こちらも様々な要因で練度や質に変化が生じる。結果的に両者の結界を比べた場合、関心の方が上であった。

 だから相手の羅神器(アルティメイター)の特殊能力を通さず、こちらの銃弾を貫通させる事が出来ただけの話なのである。そう関心は豪語している。


「でもその割に苦戦してませんでした?」

「あ、あれは情報収集の為の演技だって。でもその甲斐あってほら、種明かしはしてくれたじゃん?」

「成程、狡猾だね!」


 青年の何気ない感想に、イヴも半信半疑ながら同意する。

 何てことは無い、関心が万が一を嫌っただけの事である。実際近接戦闘は関心の苦手分野ではあったのだが、それでもミハイル()()であれば凌ぐ事は難しくもなかったようだ。


 それはそうと、関心が居心地悪そうに話を逸らす。


「それにしても巫女様があんなに動けるとは思わなかった。暗殺術か?やるね」

「厳密には、暗殺術を応用した護身術ですけど…教会の内部って本当に魑魅魍魎(ちみもうりょう)の巣なんですよ。自衛の手段を身につけないと途端に食い尽くされてしまいます」


 そう語るイヴは、いつも以上に物憂(ものう)し気で達観した様子である。


「だから教会に戻りたがらなかったんだ?」

「少し違います」


 関心は得心が行ったように尋ねるが、それは本質から少し離れた物であるらしい。

 聞けば「神祖の巫女」はその力以上に、その地位に価値があるとされているそうだ。その為、望まなくても欲深い人や汚い大人達は寄ってくるし、彼らは巫女であるイヴの事を道具と強いて利用する気満々なのだ、とイヴは言う。

 その過程の中で、イヴもまたその命を何度も狙われたようだ。


「そんな下らない権力争いに巻き込まれて、命を狙われるのは真っ平御免です」


 そりゃそうだ、この話を聞いていた二人も同意する。

 しかし、必ずしも悪い奴ら一辺倒な訳でも無いらしい。中には他人に親切な人や優しい人、奉仕活動に精を出すサービス精神豊富な人も多く存在しているのだとか。

 確かに教会の上層部に限って言えば、腐敗していると言っても過言では無い状況だ。しかしイヴは、末端に行けば然程でも無いと言う。


「この暗殺術と護身術は、異端審問軍に所属する私の師と仰ぐ方から特別に教えて頂きました。あのナイフも師匠から貰った大事な物だったんです…」

「異端審問軍って、今回襲いかかってきたやつらだよな?」

「彼らとは別口です。異端審問軍って言っても、一枚岩とはいきませんから」


 聞けばその師匠とやら、イヴに対して親切にしてくれた人であるらしく、時に他の権力者の干渉を防いでぎ時に救って貰った大の恩人なのだそうだ。但し、聞けばその恩人は既に亡くなっているらしい。何でも教会内の権力闘争の狭間で何者かに殺害されてしまったようだ。イヴのナイフは、そんな恩人の形見の品であったらしい。

 他にも権力争いとは無縁で、イヴに対して優しくしてくれたり親切に接してくれた人も少なくはないとの事。しかし逆にイヴにとって危険極まりない人物が闊歩(かっぽ)しているのもまた事実。教会に対しての想いは実に複雑な物であるようだ。

 

「教会内に居る全ての人が悪い人ではない事は知っています。なのでほんの少し、後ろめたさはあります」


 依然物憂しげな表情を浮かべ、遠方に視線を向けるイヴ。流石の二人も、これには何も言えないでいた。


 そんな時、階段からドタドタと言う物音が聞こえた。先程先客が居ると関心が言っていたが、当の本人なのだろうか。


 やがてその物音の正体はキッチンに姿を現した。桃色の髪をオールバックに固め、黒の瞳を持つ茶色い縁の眼鏡をかけた美青年で、その見た目と色彩がミスマッチなクールな雰囲気を身に纏っている。

 彼の手にはマグカップが握られており、どこか眠たそうな表情をしている…と言うか(やつ)れていた。よく見れば、目の下のクマがどす黒いと形容できるくらいに濃く出ている。


「ふわぁぁ…糖分が足りん、至急摂取せねば」

「お、誰かと思えば『危惧』じゃん」

「んん?そういうお前は…『関心』か。珍しい顔だな、奥の二人はお客様か?」


 これを受けて関心は軽く挨拶。「関心」と「危惧と名乗る青年」は知り合いのようである。

 青年とイヴの二人も軽く会釈する、危惧は見た目に反して意外と気さくな人であるようで、手を挙げて答えてくれた。


「関心さん、知り合いですか?」

「ああ、俺の同士の一人、『危惧』君だ」

「厳密にはお前では無いがな」

「あ、そうだった…まぁ、気心知れた中ではあるよ」

「厳密にはお前では無いがな」

「「…」」


 関心と危惧の反応はどこかちぐはぐだ。しかし気心知れた仲、と言うのは間違いなさそうである。


「彼はちょっとツンデレさんなんだよ、気にしないであげてね」

「厳密には俺では無いがな。そんな事よりココアとグミは何処だ?」

「…え?倉庫の段ボールに入って無かった?」

「ああ、切らしているようだ。すまんが買ってきてくれ、このままだと糖分失調症で錯乱してしまう」

「はあ?何で俺が?てか結構な量買い溜めてあっただろ?あれ全部食い尽くしたってのか?」

「まぁな」

「照れるな!それはそうと、俺は何もできないぞ…てかどうやったら、あの量をこの短期間で消費し切れるんだよ」

「知らん、俺の担当では無いからな」

「俺の担当でもねーよ!」


 何やら内輪の問題でもめ始めた二人、招かれたイヴと青年は完全に置き去り状態であった。


「已むを得ん…ミルクティとアイスクリームで我慢するか」

「それでいいじゃんよ…」


 別に甘い物であればグミとココアに拘っていたい訳でもないらしい。二人にとっては良く判らないまま、危惧の「糖分失調症による錯乱状態」は未然に防がれる事となった。

 しかしそれはそうとて、どうやら危惧には関心に対し別件での用事があるらしい。


「そう言えば、メールは確認したか?」

「いや、何か来てるのか?」

「ああ、『容認』の奴がどうにも閃いたようだぞ」

「へぇ、容認なんだ…」


 そう言いながら、関心は自分の羅神器(アルティメイター)と思われる装甲を操作する。それは何故か通信端末としての機能も有しているようで、ここから直接メールのアプリケーションを立ち上げていた。

 そうして肝心の内容が空中に映し出されたスクリーンに表示される。このスクリーンは操作した本人にしか視認出来ない特別仕様なのだが、ここに書かれた内容を見て関心は眉を寄せる。

 

「これ…取り敢えず「YES」を選択すればいい訳?」

「多分な、俺も適当にそう回答しておいた」

「雑だなぁ…まあいいけど」


 そう言って関心は言われるがままに操作を行う。そこに書かれていたのは「…勢力『CLOCK WORKS』への参加是非を…」。

 これの意味する所は、イヴと青年の二人は愚か、参加表明した二人ですら把握できていない。残念ながら、質問を投げかけられても、答えられる人はこの中には居なかった。


 そうして関心が事を済ませると、危惧は用は済んだと言わんがばかりに、アツアツのミルクティとキンキンのアイスクリームを手に部屋を出ていった。

 尚、相変わらず眠そうな表情に変化はない。そんな危惧を見やって、穏やかな表情で関心が問いかける。

 

「また()()か?」

「ああ、そうでもしないと作業失調症で発狂してしまうからな」


 そう満面の笑顔で言い残して、危惧はそそくさとリビングを後にした。彼は先程と同様、また部屋に戻るようである。そして部屋の中で「作業」を続けるようだ。

 但し、部屋に居た三人全員が「それってワークホリックなのでは?」と、彼の身を案じたのはここだけの話。


 …


「何だったんでしょう、あの人…」

「さぁ…」


 呆然としたまま、思わずどうでもいい事を口に出してしまうイヴ。青年も意図しないまま反応してしまっていた。

 それに唯一、真面目に答えるのが関心であった。


「ただの変人、気にしない気にしない。それよりも提案なんだが」


 そうして関心の口から告げられた提案の内容、それは「派閥(チーム)の結成」であった。

 この提案にイヴと青年の二人は目を見開いて反応する。


「正直、まだ相互間で隠し事や秘密にしている事はあるだろう。俺にもあるしな」


 記憶喪失の青年は訳も分からず目を泳がせていたが、イヴに関しては何か思い当たる節があるようで神妙な顔つきを崩さなかった。

 しかし関心は気に留める事無く、話を続ける。


「以前職務(タスク)を見させてもらった時にも思ったが、三人とも一か所に留まって出来るような内容じゃなかったよな?」

「関心さんの「道具作成」を除けば、そうですね…」

「そもそも僕もイヴさんも、全貌が明らかになってないからね」

「まぁ俺の「道具作成」に関しては何とかする。それはそうと、何だかんだ三人全員が旅をすることになるだろう。だったら、道中の身の危険を加味して集団行動した方が良くないか?」


 関心は強く力説するが、ここでイヴは咄嗟にこれを否定した。青年も同様に賛同しかねると言った反応を見せる。


「それは止めた方がいいです!私の立場を忘れていませんか?私は七聖教に追われる身なんですよ?」

「僕も同意見かな。関心さんが言ってたよね、僕の逆運が強くなるとかどうとか…」

「気にするな。今日の一件でどっちみち、七聖教からもクロス=ウォール王国からもお尋ね者さ、今更だって。それに逆運が強いって言ったって、半分は迷信みたいなもんだって。要は気の持ちようだろ」


 関心の言い分は常軌を逸していた。ハッキリ言って正気の沙汰じゃない。強がりか、はたまた虚勢の表れか。しかし思いの外関心の表情はすっきりとしたものになっている。

 この時点で二人は悟った、何であれ関心は本気だ。

 それを裏付けるかの如く、関心は続ける。


「それに、端から俺は七聖教の信者でも何でもないし、一人ではあれど英種の友人を長らく観察して来たんだ」

「神祖の巫女の前で言い切ってしまうんですね…」

「友人を観察って…」

「うん。でもまあ、それでも結局何とかなってるし…今回も何とかなるっしょ」

「「(軽っ⁉)」」


 どうやらこのマセガキ、二人の提起した問題点をそもそも問題点として認識していない…と言うより認識するつもりが無いようである。

 この時点で、二人は関心の事が良く判らなくなってきていた。先程の理知的で狡猾な一面を見せたと思えば、掌返しでこの適当で楽観的な対応。まるで別人のようである。


「そんなムサい顔してないで、この空になったカップ麺とお風呂の心地よさに免じて、どうよ?」


 そして今度は何食わぬ顔で、事後承諾の交換条件を突き付けてくる。そんな関心は満面の笑顔、この時点で二人は悟った。これはそう簡単には逃げられない。

 堪忍したように、青年とイヴが口を開いた。


「分かったよ…それで、関心に何のメリットがあるの?」

「単純に俺らは同じ勢力(レギオン)のメンバー。少なくとも『天啓』に関しては敵対する可能性が低いから信用は出来るし、『天啓』について隠し事をする必要もない。後単純に二人に同行すると面白そう」

「ど、動機がちょっと不純…対して私達のメリットは?」

「イヴに関しては、多分逃走のお手伝いが出来ると思う。今泊ってるこの建物内も外界から隔絶されてるし、意外とこれでも顔は広い自信があるしな。名前のない君に対しては、そうさな…記憶がない今、日常生活すら困るこの頃だろう。寧ろそちらからお願いしたい立場なんじゃないか?」

「その言い方はずるいよ!でも確かに…」

「成程、ちゃんと考えているんですね…解りました」


 結局、二人は関心の提案を受け入れる事にした。不可解な点や不安な点はある。しかし表面上は利害の一致と言う形で落ち着いたと言う訳だ。

 すると丁度いいタイミングで、各人の所有する端末にメッセージが届けられた。

 関心は自分の羅神器(アルティメイター)から、イヴは教会に内緒で持ち出してきたスマートフォンに似た形状の携帯電話から、青年もイヴと同様の…何故か中身のデータが奇麗に消されていた携帯電話を取り出して確認する。


星職者(スターシード)関心より申請がありました。

 派閥(チーム)「名称未定」に参加しますか?〈YES/NO〉》


 …


「うわっ!こんな感じになるんだね」

「意外と便利ですね、この機能。何かに使えるかも」

「…これ、俺だけNOを選択したら面白いんじゃね?」

「「やめてね!」」


 余計な茶々は入るものの、三人は満場一致でYESを選択する事となった。

 こうして、ここに一つの派閥(チーム)が結成されたのであった。

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