第四十七話:準備
すみません、先日思いっきり体調を崩してしまい、投稿間隔が大いに狂ってしまいました。大変申し訳ございません。
ですが丁度良い機会なので、これを機に第二章の改変を行っていこうと思います。なるべく早く最新話を更新出来るように頑張ってまいりますので、暫くの間お待ちいただければ幸いです。
~?~
先に聞いた話だと、どうにも俺達はこのまま「新人研修」と言うものに追われる羽目になるようで、自由時間がごっそりと奪われてしまうらしい。ほぼ二十四時間拘束されてしまうとかで、目途が付くまでは軍隊さながらの過酷な訓練を受けさせられるとの事。
それは正直困る、俺はそう感じていた。正直他にも色々とやりたい事も、やらなければいけない事も山積みだったからだ。それを何時終わるかも判らない新人研修で潰されてしまうのは、差し出がましい事を承知の上で言うが、割に合わない事この上ない。
この目先の問題を解消する為に、俺は薄暗い裏路地を進みながら、とある場所を目指して歩みを進めていた。さっきまで「明日から本気出す」とか謳って居たのだが、ふと思い立ってこうして街に繰り出したのである。
因みに小黄には断りを入れており、既に日が沈んでしまっているが、未だ目的の場所は明かりが灯っていると言う事で無理矢理出向かせて貰う事にした。因みに目的地に関しては、小黄にも明示していない。
そうして辿り着いたのは、何やら武骨な装いのビル。裏路地のかなり深い場所に佇んでいるこの建物の内部で、その店は経営されているとの事だ。
これはあの三人が寝静まっている間、俺が街の中に探りを入れた結果知り得た情報。これを頼りに、俺は一人ここに足を運んでいたのであった。
早速その店の扉を叩く。その先に居たのは、恐らくこの店の店主と思わしき中年男性。何とも胡散臭い装いで、見るからに真っ当な商売人には見えない。
だがその認識は正しい。そしてここに足を運んだ俺もまた、真っ当な人種とは言い難いかもしれない。
「いらっしゃいませ。おやおや、これはこれは」
「勘違いするな?アタシは客だ、金なら持ってる」
そう言って俺は、相応の金貨が入っている袋を提示した。これを見て、初めはまるで獲物を狙うような目をしていた店主が、途端に商売人特有の真摯な立ち振る舞いに早変わりする。
だが店主の対応も無理は無い。何せ今の俺のような少女は、彼にとっても手頃な商品になるだろうから。
だが、今の俺はその商品を買う側である。そこを間違えられるのは堪ったものでは無い。
「奴隷を買いに来た。早速在庫を見せてもらおうか」
そう、俺が訪れていたのは奴隷商。買いに来たものは勿論、奴隷である。
こう言っては何だが、人として当然のように持ち合わせている倫理観や道徳観上は度外視である。また事前に人身売買が裏社会で横行している事も聞き入れており、そこに対する驚きや嚇怒、ましてやこれを利用する事に対する躊躇いの感情も持ち合わせていない。
そもそも俺は、人の見た目こそしているが、人間なんてとっくの昔に辞めている。今更人間に対して、同情に似た感情は湧いて来ない。
最も、そんな事をした所で何の意味も無い事も同時に理解している。だからこそ、俺は当たり前のようにこれを享受する。
「畏まりました、ハイ。それで、どのような商品をご所望で?」
そう言って、一変して恭しい態度で遜る奴隷商。正直俺視点、この男の方が俺なんかよりも何倍も下種だと思うが…それはどうでも良い。
ここに来る前の時点で、目的の奴隷についてはある程度条件設定を明確にしてあった。
「容姿は問わない、兎に角健康で丈夫な女の奴隷を最低一人。それから他の商品も見て、目ぼしいものがあれば買っていく」
俺は何時に増して、高圧的な口調でそう告げる。
別に女と言う条件を突き付けたのは、下心や疚しい感情があっての事ではない。と言うか、そんな目的で奴隷を購入などしようものならアイツに殺されてしまう。
だが、俺の目的を鑑みるならば男よりも女の方が条件に適している。だからこその条件提示、しかし奴隷商の方は盛大に勘違いして居るようだった。
「はて?仕事をさせるなら基本的には男の方が力もありますし、お客様は少女…よく解りませんな?その理由、お聞きしても?」
「人手が必要になった、最低一人、それも男よりも女の方が都合が良いだけの事。ただ万が一の事を考えれば、人手は多い方が良い。何か文句はある?」
詳細な使用目的に関しては、それとなく濁させて貰う。だが、今回の購入目的は先に言った内容であながち間違っていない。
それ以上に、俺の有無を言わせないと言う態度に、店主も無駄だと判断した模様。それ以上野暮な質問を重ねる事は無く、それならばと俺を奥に案内してくれた。
…
だが、その前に一つイベントが用意されていたみたいだ。
俺が店主の案内で部屋の奥に連れて行かれるや否や、その部屋に隠れていた何者かから襲撃を受けた。手にはナイフ、恐らくその体裁きからしてプロの暗殺者。これが見えるだけでも最低四人、だが実際に襲い掛かって来たのは若干二名。
だが俺は、これらを意に介さず無防備な姿勢で受け止めた。しかし俺の絶対防御…基羅神器の結界を前に、ナイフは意図も簡単に弾かれてしまう。
「⁉」
「店主、これはどう言う事?まさか私を捕えて売り捌こうとか、そんな下らない考えに至ったとか言わないよね?」
「いえ、そんな滅相も無い…」
「まぁ良いや。これでチャラにしてあげる」
そう言って俺は、指を鳴らす。これを合図にして、その部屋に潜んでいた合計五人の暗殺者達が同時に崩れ落ちる。
どうやらあと一人、上手い事隠れ潜んでいたようである。流石はプロ、俺じゃなきゃ見逃してたね。
「い、一体何を⁉」
「言う訳ないじゃん。それで、お客様の要望には応えてくれないのかね?」
「ひいっ、も、申し訳ございません!これ以上無粋な真似は働きません、この通りです、ハイ」
そう言ってジャンピング土下座を決める店主。まぁ、こんな下らない茶番はどうでも良いので軽く流しておく。
だがこんな事があった直後だ、この失態はきちんと利用させてもらおう。俺は土下座をしている店主に向かって畳みかける。
ああ、余談だが、暗殺者?達はただ眠っているだけだ。死んではいない。
「誤って済むとでも?幾ら何でも、お宅に大金を落とそうとして来た大事なお客様に対して、誠意が為って無いよね?」
「勿論ですとも。お詫びとして此度、特別に割引させて頂きます、ハイ」
「当たり前だね」
そう吐き捨てる俺。まぁ、この位が後腐れなく済んで良いのでは無いだろうか。
すると店主は、土下座を解いて何事も無かったかのように手もみを始めていた。
「それでは、ウチの自慢の在庫をお披露目しましょう、ハイ」
だが彼は有言実行しますとばかりに、この後は一変して素直に商売人に戻りやがった。相当に良い性格しているな、コイツ。
そんな余計な感想をぐっと胸の内にしまい込みつつ、俺は店主の案内に従って、部屋の奥に保管されていた在庫とやらを拝見させてもらう。
だが案の定、奴隷達の管理環境はあまり宜しく無いらしい。劣悪と言って差し支えない環境下において、あまり健康そうには見えない様々な年齢種族の奴隷が多数、織の中に閉じ込められている様子が伺えた。
「お客様は相当な金額をお持ちとの事で。それならば、少々お高く付いてしまいますが、性奴隷や闘奴隷の方が条件に適するかもしれませんな、ハイ」
因みに店主が先に言った二つの奴隷は、こことは別の管理体制に置かれているらしい。
聞けば性奴隷は、特に見た目が良い若い女の奴隷がそれとして調教されているようで、状態も奴隷の中では良好な者が多いとの事。容姿が良い程値段は跳ね上がるが、確かに今回俺が提示した条件に適する者も多いだろう。
また闘奴隷は別名剣闘士とも呼ばれる類の奴隷で、こちらは戦闘力や体力に秀でた奴隷が多いとの事。
こちらは逆に男の奴隷が多いようだが、女も決して居ない訳では無く、こちらも戦闘力に優れ、且つこちらの奴隷に比べれば良好な環境下で管理されているとの事。
どちらも一般の奴隷とは違い、使い捨てと言う点では変わらないものの、特殊な運用をされる事が前提の奴隷達だ。逆に状態が悪いと店にクレームが相次ぐとかで、これらに関しては管理を厳重にしているのだと言う。
何と言うか、動機が不純だな…ま、奴隷商なんてそんなもんか。
「でも確かに、ここの奴隷達は状態があまり良くない。店主の勧めに従って、そちらを重点的に見せてもらおうか」
「畏まりました、ではこちらへ」
結局、真っ先に案内された場所に居た一般枠の奴隷達は、どれも栄養失調気味で、また病気にかかっている者も多かった。残念ながら、この者達を購入する訳にはいかない。
そうなると止むを得ない。最悪出費が嵩むのは覚悟の上で、店主の勧める両者から見繕うしか無いか…
「先ずはこちらが、性奴隷として販売している商品でございます、ハイ」
そうして並べられた奴隷達は、確かに店主の言う通り健康そうなものが多かった。その用途から、病気に関しても入念にチェックが施されており、特段目立った持病を抱える者も居ないとの事。
確かに、これならば俺の条件にも適する。普通に考えればこの中から選ぶのが無難。
だが、若干二名程別の意味で気になる者が紛れ込んでいるのが判った。これは別の意味で買いだな。
「そしてこちらが、闘奴隷でございます、ハイ」
続いて見せられたのが、女の闘奴隷達。確かに見た目からして他の奴隷に比べて屈強そうだが、性奴隷に比べるとどうしても状態が良いとは言い難い。まぁこちらは戦わせる事を目的とした奴隷で、一応個別に隔離してはあるようだが、性奴隷程のヘルスケアは施されていない。
だが、十分に条件を満たしている者も少なくは無かった。だからこの中から買っても問題無いのだが…
「うーん」
「お客様、如何でしょう?」
「イマイチ決定打に欠ける。もし良ければ、曰く付きの奴隷なんかも見せてもらいたい」
「⁉」
俺の言葉を聞いて、店主は瞳を点にしていた。それも無理は無い、俺は今回相応の金額を用意していたの上に、条件が条件だ。曰く付きの奴隷など、見る価値も無いと思うのが条理。
だが、万が一の場合がある。なので念の為にと前置きした上で、そちらも見せて貰う事にした。
「しかし、流石に曰く付きの連中に関しては管理が杜撰と言いますか…」
「見るだけだよ、見るだけね」
「はあ、ではこちらになります…」
見るからにテンションが駄々下がりしている店主を尻目に、今度は曰く付きの奴隷とやらを見せてもらう。
そしてそのエリアに足を踏み入れた途端、俺はすぐさま異変を感知した。これは何と言うか、人が居て良い空間では無いな。
「ここはあまりにも状態が悪い奴隷や、犯罪奴隷等を隔離してあるエリアです。見るのはお客様の勝手ですが、ここにお客様の条件に沿った商品は無いと存じますが…」
確かに、店主の言う通り見るに堪えない状態の奴隷も少なくは無い。見るのさえ憚られるレベルだ。
だが、中にはどう言う訳か、そこまで状態が悪い訳でも無い奴隷も混ざっている様子。しかも成人女性、まだ連れてこられたばかりなのだろうか?
「この女は?」
「そ、そいつですか?そいつは何と言いますか…」
「オイガキ、ここはお前みたいなガキンチョが来て良い場所じゃねーんだぜ」
いきなり、女性らしくない荒い口調で言葉を発する女奴隷。だがその容姿も口調に似て獰猛と言うか、見るからにアウトローな感じでヤバい雰囲気が漂っている。
だが、許可なく話しかけるのはご法度。すぐさま店主によって鞭打ちを食らっていたのだが、その割にはあまり痛がっていないと言うか、体に傷がついていないと言うか…
流石にこの女は、犯罪奴隷かな?第一印象で決めつけて、申し訳なくなるけど。
「この女は?」
「コイツはつい最近連れてこられたばかりなのですが、実は裏社会で有名な暴れ馬でして。犯した凶悪犯罪も数知れず…」
「おっふ…」
店主が丁寧にも、その女が仕出かした所業を事細かく並べ始める。正直俺は引いていた。そしてこれを、意図も簡単にあからさまにしてしまう店主も店主で悪辣だな。
いや、何が何でもこの女を買わせたくないんだろう。多分安いし、俺にはもっと他の所でお金を落としてもらいたいとか、そんな事を考えていそうであった。
「しかも素行に難があり、裏社会の各所から出禁を食らってる蛮獣のような女です。一応国際指名手配犯でもあるんですが、見ての通り常軌を逸した身体能力の持ち主で、誰にも手に負えず」
「の割には捕まってるじゃん」
逆に気になってしまう、この女をどうやって捕まえたのだろう?
すると俺の発言にイラっと来たのか、女の方から勝手にしゃべり始める。
「ほう、生意気な口を叩くガキだね。確かにアタシはヘマこいて捕まっちまったが、こんな陳腐な檻なんざ、何時でも抜け出してやんぜ」
「こら、許しを得ず喋るな!」
「チッ…痛ッてえな!クソが」
「…すみません。このように大口を叩いていますが、流石にこの女でもここの脱出は敵いますまい。彼女の拘束は、特に厳重にしてありますからな。見るまでも無く、犯罪奴隷です、ハイ」
まぁ、店主の回答に驚きは微塵も無かった。だが幸か不幸かこの女、あまりにも俺の提示した条件に適し過ぎていた。
何より、先にも見せてもらったが、彼女は常人に比べ頑強な肉体を有しているらしい。それは彼女が先天的に有している体能に由来するものなのだが、それ抜きでも彼女の肉体性能は素晴らしかった。
しかもあの目的で使用しても、良心が殆ど痛まないのも大きい。我ながら、性格が悪過ぎて思わず笑ってしまいそうになる。
「…決めた、この女は購入する」
「正気ですか⁉」
言うまでも無く、俺は正気である。最も、店主にとっては残念極まりない選択だと思うが…
「ああ、後あの二人も居たっけ。さっきの性奴隷の中に、二人程買いたい者が居た。それを連れて来てくれ」
「⁉畏まりました、どちらの者でしょう?」
「えーと…」
俺はさっきの性奴隷達の中に紛れ込んでいた、ちょっと気になる二人組を指名し、合わせて購入する事に決めた。聞けば目の前の犯罪奴隷はほぼ無料に近い値段で、二人の性奴隷についても幾らか割引してもらえるとの事だ。
だが、その前にやっておく事があるか。案の定、その女の方が不敵な笑みを浮かべているのを確認出来た。
「へぇ、とんだ物好きも居たもんだね。それなら、アタシも晴れて自由の身になれそうだ」
どうやらこの女。購入された後で、俺の元からだったら逃げられそうだとか、そんなしょーもない事を考えていそうだ。
だったら先ず、その前提条件が間違っている事を前以て知らしめねばなるまい。相変わらず勝手に無駄口を叩く女に対して、怒り心頭と言った様子の店主は放置して話を進める。
「本当に自由の身になれるかどうか、試してみる?」
「は?何が言いたい?」
「いや、ほら。こんな感じでさ?」
そう前置きしつつ、俺は女単体に対し殺気を放つ。羅神器の権能も混ぜながら、死なない程度に強い殺気を向けてみた。
すると女は、その威勢はどこへやら、途端に力なく地に崩れ落ちてしまう。他にも醜態をさらしており、僅か一瞬で見るに堪えない姿に変わり果てていた。
おっと、しまった。間違えて、殺気が店主の方に漏れてしまったではないか。
「⁉」
その直後、店主は腰を抜かしてしまったようで、地面にへたり込んでしまった。だが向けた殺気は女の比では無く、相応に弱められていたので、驚くだけでそれ以上の事にはならなかったようだが。
言うまでも無く、趣返しのつもりである。だが、店主は冗談ならないと言った様子で俺を睨みつけていた。
「お、お客様?」
「説明が面倒だから、今アタシがこの女奴隷に対してやった事と同じ事をしただけ。勿論、店主に向けたのはかなり弱めにしてあるから」
一応誤魔化しも兼ねて、懇切丁寧に説明しておく。だが、対する店主は怒り心頭と言った様子だ。
「そ、そんな暴挙を働くなら、割引の件は無しですね。これでイーブンとしましょう、ハイ」
「…は?」
俺はそう言いながら、へたり込む店主を睨みつけた。すると店主はすっかり委縮してしまったようで、まるで萎えた菜っ葉のようになってしまう。
因みに今回、殺気は一切向けていない。
「今、何か言った?こちとら、さっき刺客を差し向けられたんだけど?まさかさっきのチンケなジャンピング土下座で、許して貰えたとでも?」
「いえ、そんな事は…すみません、出過ぎた真似をしました、ハイ」
結局、何か言いたげではあったが店主はその言葉を飲み込んだ。俺、今後何処かで再度刺客を差し向けられそうだな。
ま、良いか。
「それじゃ、お勘定を」
「畏まりました、ではこちらに」
その後俺は、店主の提示した代金を差し出す代わりに、購入した三人の奴隷を受け取った。因みに俺の調べ曰く、今回店主が割引をするどころか、逆に吹っ掛けてきている事は把握済みである。
この期に及んでいい度胸だとは思うが、それはこの後清算させてもらうとして…今回購入した奴隷の中に犯罪奴隷も含まれている、この奴隷については何があっても開放しないようにと念押しを受けた俺であった。
だが肝心の女奴隷が、もう逃亡の意思がまるで無さそうな位に怯えまくっている。さっきの殺気を受けて、俺からは逃げられないと悟ってくれたみたいで何より。
対する性奴隷の二人は、まるで訳が分からないと言った様子で挙動不審となっている。彼女達に関しては、後で詳しい話を聞く必要がありそうだ。
「では、取引成立と言う事で、ハイ」
そう言ってお辞儀をし、俺達を見送ろうとする店主。さっきの逆切れは何処へやら、今では随分と人の悪そうな満面の笑みを浮かべているではないか。
ここで俺は、念押しとばかりに追撃を入れておく事にする。
「ああ、最後に一つだけ言っておかなきゃいけない事があった」
「ハイ、如何しましたか?」
だが俺がそう呟いた結果、店主が途端に片眉を吊り上げる。判り易くて何よりである、そして俺は今から店主の懸念…否、想定を上回るジャブを打ってやる。
「今回、割引をするとか言いながら、結局ぼったくってたね」
「⁉」
「いや、このお店の相場では、適正価格は小金貨二枚と小銅貨五枚ってとこでしょ?今回二倍以上の金額を払わされた事、きちんと把握してあるからね」
「な、何故それを⁉」
因みに、今回の購入金額は小金貨五枚。逆恨みのつもりかどうか知らないが、ちょっと過払いが過ぎると思う。
だが、店主も店主で引っ込みがつかなくなっている様だ。だからこそ、正論を以て反撃し返して来る。
「ですが、既に契約は成立しています!今更払戻し等受け付けませんからね!」
「そんなの端から承知の上、今アタシが言いたい事はお分かり?」
「…はて、何の事やら」
最初から、過払いの件などどうでも良いのだ。俺も最初から分かった上で判を押しており、何なら寧ろ事前の約束通り割引してくれなくて良かったまである。
確かに高くはついたが、今後の展望もコミコミで十分に適正価格の範囲内だと思う。正直この過払いに関しても、最早必要経費として割り切って問題無いと俺は考えていた。
「確かにアタシは店主に殺気を向けたけど、アタシは逆に刺客を差し向けられた挙句相場以上の代金を支払ってる。これ以上余計な事は考えない事、良いね?」
そう、これが狙い。最も、店主が俺の言う通りにするとは信じていないが。
店主も店主で裏社会の人間、ここまでしても逆恨みで襲撃とか、普通にあり得そうなのが厄介だ。と言うか、今も尚苦虫を磨り潰したような表情で俺を睨んできている辺り、かなり濃厚だった。
一応過払いの件を人質代わりにして襲撃を避ける狙いがあったのだが、案外的外れだっただろうか?この店主、俺が思っていた以上に頭が弱いのだろうか?
「言いたい事はそれだけ、以降正当な理由無くアタシに関わらないでね」
「ほう、正当な理由無く、ですかな?」
そう言いながら、何やら含みのある視線を向けて来る店主。
そこを聞き返してくる辺り、どうやら店主は俺が思っていた以上に残念な人であるらしい。こうなったら、止むを得ないか…
「うん、正当な理由があっても絡まないで欲しいけどね。って言うか、ここならもう言っちゃっても良いか」
「?」
「いや、アタシ実はね」
そう言って俺は、一時的にチェンジリングの変装を解除する。そして元の関心の姿に戻ったのだが、そのカラーリングを変えた状態で真の姿を晒す事にした。
すると店主は、想像通り両目を大きく見開きながら絶句している。やはり、店主も知っていたか。
「これ以上、言う必要ある?」
「いえ、これまでの御無礼、大変失礼しました!もし宜しければ過払い分も返金致しましょう」
そして面白い位に態度が早変わりする店主。そうか、やはり店主にとっても奴は恐ろしいか。
だが、勿論この申し出は受けない。
「いや、返金は良い。そもそも俺だって、お忍びで来てた訳だしね」
「それは、何とやら」
「兎に角、俺が今日ここに来た事は他言無用だ。後以降余計な真似は働くな。…ああ、別にやっても良いけど、その場合は十分に覚悟しておくと良いよ。楽しい事してあげちゃう」
「滅相もございません!」
結局、ここまでする事で店主も漸く理解してくれたようだ。全く、奴の所業には辟易させられるばかりだが、こういう所では役に立っちゃうのが何とも。
正直、こうなっては奴の方を警戒しなければいけないが…まぁ、そこは何とかしよう。結局俺は再び変装を施した後、そのまま奴隷商を後にした。
因みに、変装を解除した際に犯罪奴隷の女が店主と同様に怯え切ってしまっていた。こちらも知り合いだったのか、面倒な…
余談だが、後日どういう訳か俺の元に刺客が差し向けられたので、結局俺が出向いて直々に奴隷商を潰す羽目となってしまった。結果は言うまでも無い、生存者は居ないだろう。
これも全て、俺があの姿を使ってしまった事が元凶だな。もう少し慎重な行動を心がけないと、と俺は反省させられる羽目となったのである。
~~~~~
ここからはダイジェストでお送りする。
なんてあたかも簡単そうな言い方をしたが、所詮今の俺達は仮所属に過ぎず…その後暫くの間は、只管過酷な新人研修に明け暮れる事となった。
つい先程新人全員が参加するシャトルランが終了し、俺達は揃って大粒の汗を流しながら、肩で息をしている所だった。
だがそうしない内に、今度は長距離走の時間がやって来る。
まさに鬼の所業、まさに軍隊の訓練。行き着く暇も無いとはまさにこの事。
そんな中、ゼヒュー、ゼヒューと肺に穴でも開いたかの如く、息を荒くした小黄が思わず吐露する。
「死ぬ、こんなの、死ぬ」
「気持ちは解るかも。こんな軍隊レベルの訓練、中々受ける機会ないもんね」
「小紅のばけもの、何でこの期に及んで、息切れ一つしてないの?」
俺にはまだまだ余裕があったが、奇しくも小黄は、未だこれに堪え得るだけの体力を持ち合わせて居ないようだった。
しかし「じゃあ止めちゃう?」と聞けば「ふざけるな、私だって、まだまだ出来る」と抜かす辺り、まだまだ限界には程遠いようで何よりである。
「でもこれ…、本当、何時まで続くの…」
「確か、次の「正所属審査」が二か月後だったような」
「うっ…、そんなの、最早死刑宣告」
そう言いながら項垂れる小黄、コレには俺も同情せざるを得ない。
そんな感じで俺達が毎度日論困憊となってしまう新人研修の大まかな内容は、一言で言えば「基礎固め」。
一人前の冒険者としてやっていけるだけの基礎体力をつけ、座学で基礎知識を身に付ける。これを延々と繰り返す。
その上で定期的に開催される「正所属審査」と言うテストを受験し、全ての項目において旅団が定めた合格基準を上回れば、漸く正所属を勝ち取る事が出来るのだ。
だが次の「正所属審査」は今から二か月後との事。少なくともそれまでの間は、俺達に大きな変化は訪れない。
最低でも二か月間、殆ど休みなくしごかれるので気が遠くなってしまうが、泣き言は言って居られない。俺達は心を無にして励み続けた。
「放課後、これか…、きっつい」
「でもやらないとね」
「解ってる、私なんて他の人達より経験が薄いから、解ってるけど」
だがこれは飽くまでも、旅団が定めた最低限の内容に過ぎない。
大半の新人は研修だけで疲れ切って寝こけてしまうようだが、俺達の目指すところが「銃将星」である以上、この程度でへばって居られない。周りと同じことをしているだけでは、周りと差を付けられない。
そこで俺達は、旅団の許可を得た上で射撃場の一角を借り受け、独自に射撃の訓練に励む事にした。これは小黄たっての希望であり、俺もこれに呼応したのである。
ただ休む時に休むのも必要事項なので、止め時はきっちりと見極めねばならない。そんな感じで、日中は新人研修、放課後は無理のない範囲で射撃訓練に励む毎日が続いた。
因みに射撃訓練では、主に俺が小黄に対して銃の使い方を教える事が殆どだったのだが…小黄の成長速度が常軌を逸していた。
その速度には目を見張るどころか、最早脅威と言って差し仕えない程である。どうにも俺の指導が小黄本人に合っていた事も相まって、彼女の銃の腕がメキメキと上達の一途を辿って行ったのだ。
「小黄ってサァ…今改めて思うケド、天才だよねぇ」
「…、ん?、何が?」
別の日。そう言ってよそ見をしながら、片手に持った拳銃で、三十メートル離れた的の中心を打ち抜く小黄。その後も数発続けて弾を放っており、それらが全て的の中央付近に集まっているのが何とも恐ろしく感じられた。
本格的に教え始めてから約二か月でこのレベルに到達し、既に基礎はバッチリ。ただ若干日によって調子にムラがあるので、これを意図的に修正出来るようになれば、その時点で言う事は無くなるだろう。
応用はまだまだだが、それでも知識としてはそれなりの量を頭に詰め込んでいる。今後上手い事経験を積んでいけば、応用を使いこなせるようになるのも時間の問題だと思われた。
これには流石の俺も危機感を感じ始めており、俺は俺で射撃訓練に勤しむようになっていた。
対する俺は小黄とは違って「射撃スキル」を所持していないので、どうしてもハンデを受けてしまうのだ。これを克服しない限り、この世界で銃を仕事にしていく事は出来ないだろう。
とは言え、暫定的に「八法術」を利用する事で対処は出来ていた。だが俺が目指すのはその先である。
一応ハンデの特性自体はほぼ完全と言って良い具合に把握できたので、今はこれを逆手に取って活用する術を模索中なのであった。
しかし、これが思いの外難しい。
最近では小黄も銃の話に付いて来れるようになっていたので、彼女にも相談を仰ぎながら試行錯誤を繰り返していた。
「でも不思議、小紅って確か、凄そうな固有能力を持ってた筈」
「逆にそれ以外が皆無で…私の体質にも困ったもんだわ」
因みに先日の測定による結果、俺は心技体それぞれで固有能力と呼ばれる能力を一つづつ所有している事が判明している。
名前は確か、それぞれ「心能目録」「技能目録」「体能目録」だったか。しかし今回の測定だけでは、その効果が判明しなかった。
ただ個人的な感想を述べるなら、これらの能力が何らかの仕事をしてくれている実感は全く無い。名前だけは大層だが、蓋を開ければショボそうな雰囲気が漂う。
逆に小黄は、「銃撃技能」を一つと、これまたよく判らない固有心能と固有体能を一つづつ所有していた。
そのうち片方…確か固有体能の方が「偶像結界」と言う名前なのは判っているが、もう一つの能力については名前すら読み取る事が出来なかった。無論、それらの詳しい効果については現状不明である。
聞いてみたが、本人には何の心当たりも無いらしい。
しかし効果が不明とは言え、固有能力と言うものは所有している者自体が少なく、その殆どが希少で強力なものなのだと。聞けば固有能力より格上の能力もあるそうだが、それとして強力無比な能力である事に変わりないとの評価だ。
但し現時点で効果が判明しなかった為、このようなふわふわした言い方になっているが、依然俺達が固有能力を所有している事だけは確かなのである。
「そうは言われても、肝心の内容が判らない今、持て余すだけ」
「相違ない。まぁ、これから頑張って解明していこ」
そんな俺達だが、実は二人きりでは無い。
と言うのも、俺達が旅団所有の射撃場で居残り訓練を行っていると知った同期入団の新人冒険者で、俺達と一緒に訓練をやりたいと申し出た者が三名程居たのである。
その二人も小黄の隣で引き金を引き続けていたのだが、一区切りついたのか手元の拳銃を置いて俺達に話しかけてくる。
「ふわぁぁぁ…二人共凄いねぇ、流石は特待生だよねぇ」
「小紅殿の指導のお陰で私達も上達したのでありますが、まだまだ二人には遠く及ばないのであります…」
「いいなー、私も羅神器に選ばれたら二人みたいになれるのかなー?」
そう言って近寄って来る女子三人組。それぞれ桜色の髪をツインテールにした小動物のような少女がネーム=タルク、深緑色の髪をポニーテールで纏めた古風な少女がアナベル=アホー、黒髪ショートの丸眼鏡をかけた中性的な少女がシャロン=エレスチャルと言った。
因みに二人は俺達とはタイプが違ったようなので、俺はそちらに合わせた指導を行っていた。そちらが上手い事二人にマッチしたようで、二人が参加し始めてからおよそ一か月と言った所だが、その間で見違える程の成長を遂げていた。
「そりゃ、アタシとは歴が違うもん。でも二人共才能あるんだねぇ」
「小紅殿には感謝なのであります!視覚映像優位性と聴覚言語優位性の概念…これを理解するだけで、自分のやるべき事が纏まって来たのであります」
「確かわたし達はぁ、ちょうかくげんごゆういせい、なんだよねぇ?」
「私は視覚映像優勢、みたいだねー」
「そだネ。アタシ達視覚優位性とは、やるべき事も得意不得意も全く変わるから。自分の認知タイプが解ったら、それに合わせた活用方法だけを使えば効率的ってワケ」
別に俺、特別な事は何もしていない。
因みにここで言う「視覚映像優位性」と「聴覚言語優位性」と言うのは、端的に言えば認知特徴の分類である。この概念が銃の扱いに大きく影響し、それぞれのタイプによって必要なアプローチ方法が変わる事は、既に検証済みであった。
要はこの考えと、それぞれのタイプの特徴と、これに合わせた練習方法を伝授しただけの話なのだ。俺と小黄とシャロンは視覚映像優位型、ネームとアナベルの二人は聴覚言語優位型だったので、これを前提とした簡単な指導を行ったに過ぎない。
その結果、ここに居る三人は目覚ましい成長を遂げたと言う訳である。小黄はそれを遥かに上回る成長を遂げたと言う、ただそれだけの話なのだ。
また見てみれば、ネームとアナベルとシャロンの才能も素晴らしい。
流石に小黄と比べるのは酷だが、少なくとも並みの銃使いよりかは上。上手く行けば銃士長を目指せるのでは?と言える程の腕を有しているように感じられた。
実際俺達が射撃練習をしている横で、既に正規所属となっている冒険者の先輩達が、同様の練習している姿を垣間見る事が何度かあった。これを見た感じ、旅団内における銃の実力の目安はある程度判って来ているのだ。
その物差しが正しければ、ここに居る五人は既に並みの団員を凌駕する実力を有している。実戦ではいざ知らず、練習の段階ではそのように判断する事が出来たのである。
「有難うなのであります!これで次の正所属審査もバッチリなのであります」
「何か不思議、アナベルが言うと、途端に不安になる」
「小黄殿、それは酷いであります!」
「ん-、でも大丈夫だと思うなぁ。何とかなるよぉ、多分」
「ネームはネームで、別の意味で不安になるんだよね…」
「ホントだよー、私なんて不安で夜しか眠れないのにー」
なんて下らない雑談に花を咲かせられる程、俺達の間には友情が芽生えていた。彼女達が俺の指導に感謝の念を感じてくれている事もあり、流石に一か月も一緒に居れば、それなりに親しくなれると言うものだろう。
一応念押ししておくと、女性のコミュニティにはシビアな派閥闘争が存在するのが常だが、少なくともこの三人に関しては表立って敵対する事にはならなさそうな気がした。
と言うか、この感じで三人共馬鹿では無いのだ。何ならここの五人で派閥を形成しそうな予感まで漂う。
俺目線未だ完全に相互理解が為されたとは断言出来ないが、少なくとも他に誰も知人が居ない異邦の地において、彼女たちのような存在は実に有り難い。またこの三人に関しては嫌悪感のようなものを感じなかったので、それはそれでアリかなと感じ始めているこの頃であった。
そんな感じで四人でわちゃわちゃしながらも、やるべき時にはしっかりと気を引き締め…そんな感じで汗と汚れに塗れた泥臭い日々は過ぎ去っていく。
そうして励み続ける事二か月余り、遂にその時がやって来る。
改変を行っていくに当たって、幾つかエピソードを追加する事になると思います。今回みたく、割り込みでの投稿も何度が発生すると思いますので、ご了承いただければと思います<(_ _)>




