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WILD DOWN  作者: plzY.A.
無幻世界編
31/73

第三十話:夜襲

 ~レイヴン内、宿~

 

 

 あの後、俺達四人は日が沈む頃合いを見計らって合流し、揃って帰途に就いた。見た所、全員が何かしらの収穫があったようで、充実した表情を覗かせている。オブロヤシの実に付いても、多少は確保できたみたいだし…これは後程、結果報告を聞くのが楽しみである。

 そしてそのまま宿に戻る…前に一度組合支部に顔を出す。少し早めに切り上げた事もあって、その日の内に依頼(クエスト)達成の報告を済ませる事が出来た。


 審査も瞬く間に終了し、俺達は無事依頼(クエスト)の完遂を認められるに至る。

 今回受注した依頼(クエスト)が推奨ランクより一つ上のランクだった事もあり、オプシーを除く三人は序とばかりに一ランク昇格。先の一件で時間を取られたことを除外するなら、かなり優秀なペースなのでは無かろうか?

 

 そう悦に浸る俺だが、ハッキリ言って冒険者のランク昇格など些事に過ぎない。それ以上に気を付けなければいけないあの案件…に限らずだが、フラウとキアンから話を聞いておきたいと思っていた。

 早速寄り道をするでもなく、真っ直ぐに俺達は宿に戻る事とする。一度お風呂やら夕食やらを一通り済ませ、一同は俺とキアンが滞在している部屋に集結した。

 寝間着(ねまき)姿で、俺達は情報の共有に努める事とする。


 まず口を開いたのはキアンだ。


「実はさ、探索中に魔族と遭遇しちゃってさ。そのまま捕えて尋問したんだよ」

「マジ?それ本気で言ってる?」

「本気だよ。その結果面白い事が判ってね」


 聞けば尋問した魔族は下っ端も下っ端。あまり大した情報を持っていないと、キアン自身あまり期待はしていなかったのだが、それでも見逃せない情報は幾つか獲得する事が出来たらしい。

 まず一つが特殊な回路(パス)。これが何処かの一点と繋がっており、その形状から魔族の得た情報を吸い上げている可能性が高い事が判明したのだそう。キアンの見立てでは、恐らくつながる先は魔王…そうでなければ、四天王の誰かであろうとの事だ。


「凄いな!よくそこまで探れたな」

「ルディのお陰だよ。教えて貰った「情報爆弾」、今では大分扱えるようになったからね」


 そう言ってウインクを決めるキアン。


 …野郎のウインクに需要は無いと言うのが俺の定説だが、それでも納得は出来た。別に教えたつもりは無かったのだが、その一連の過程の中で、情報爆弾や情報粒子(ヨクトダスト)に纏わる情報も敢えて落としておいたのだ。

 俺としてはキアンがこの情報をそもそも受け取れるのかどうか、受け取った場合何処まで物に出来るのかを試すための「試金石」の意味合いでこれを行った。その結果、キアンは正しくこれを受け取り、上手く自分のものに出来たようである。


 個人的には、ハッキリ言って出来ないと思っていた。それがこうも簡単に想定を超えられて、俺は驚きを隠せない。

 仮に教えたとして、使いこなせる者など数えられる程しかいないのに…


「でもあれ、高い演算能力が無いと脳神経が焼き切れるだろ?」

「うん、だからちょっとだけ使い方を工夫してる。ルディには及ばないけど、特定の情報だけに反応する状態にしておけば、情報を絞りながら収集出来るよね」


 そしてここまでの理解に至っているなら、俺が「情報爆弾」をどのように使っているかも理解したようである。そのせいか、キアンの俺に対する態度が何処か変わった気がする。

 一見するだけでは判らない些細(ささい)な変化だが…本人の中で、何かしら思う事があったんだろうな。


「それともう一つが重要かな。丁度今夜、ここに夜襲の予定あり

「…多分だけど、俺達の居場所が補足されたんだろ?」

「近いね。どうやら昨晩、この近辺で『八法術』の反応を感知したみたい。魔族の中でこの反応は周知の事実だったみたいで、この反応がある場所に四天王殺害の犯人が居ると推測してるみたいだよ」


 つまり魔族視点、俺達の『天威』は既に観測済みで、確信こそしていないが『天威』と「東方のキョンシー殺害の犯人」に関連性を見出す段階には行き着いていると言う事か。

 敵方も想像以上に情報収集能力が高いな、中々やるじゃん。


 しかしキアンの報告に対し満足そうな俺とは裏腹に、フラウとオプシーは気が気でない様子。


「ちょっと二人共、呑気な事言ってる場合じゃないですよこれ⁉」

「これが十大天魔、人の命など、アリの命と同等レベルと言う事か」

「言いがかりは止せ。それ以上に魔族の動向の一端は見えた、これは確かな進歩だ」

「全くだよ、こんな事なら早い内に魔族を捕らえて尋問しておくべきだったね。今夜襲撃してくる魔族から追加で尋問すれば、もっと入り組んだことが解るんじゃないかな?」


 確かに、その通りかもしれない。聞けば大規模な襲撃が計画されているみたいだし、その中に四天王の一人や二人紛れ込んで居そうだ。これを捕らえて尋問すれば、魔王の真意により近づける気がする。

 そうと解れば、話は早い。


「キアン、それと他二人も。魔族が攻めて来ても四天王の殺害は禁止だ。絶対に生かして捕らえよう」

「尋問は僕がやるより、ルディに任せた方が良いかな。ルディの「情報爆弾」の方が精度が高いと思うし、得られる情報も多いだろうしね」

「それは甘いな。逆に精度が高いからこそ情報処理に時間がかかるし、得られる情報が多いからこそ多方面での対策や抵抗が可能だ。場合によってはキアンの「情報爆弾」の方が優れている場合もある」


 俺が懇切丁寧に説明すると、キアンも「至言だ!」と納得してくれた。まぁ、生け捕りに出来さえすれば、その後の事は幾らでも選びようがあるだろう。

 だがこの時、俺達は気付いていなかった。俺達二人を冷ややかな目で見透かす、フラウとオプシーの両名の存在に。


「あのですね、普通は四天王の生け捕りなんて無理なんですよ。解りますか?」

「私達は人間、魔族は人間よりも強い、有り得ない過程」


 そうは言うけど、それは飽くまでも人間に任せた場合の話。

 ここには実力的に四天王を生け捕りに出来そうな人員が居るのだから、そこまで心配する必要も無いと思うのだ。最悪無理なら俺達二人にお任せでも良いのだし。


 とか言いいつつ、俺が四天王と直接、刃を突き付け合った事が無いのは若干の不安材料と言える。

 遭遇するだけした「南方のグール」と、それからキアンからの請負位しか知識が無いのが危ぶまれるが…


 それ曰く「東方のキョンシー」の実力であれば、俺でも生け捕りが出来そう…でも無いか。対して「南方のグール」の方は、若干だがキョンシーより強い印象。何はともあれ、最悪はキアンにお任せする羽目になりそうである。

 但しその「東方のキョンシー」は「瞬間移動」と言う厄介な技能(スキル)を有していたらしく、これの対策を行わないと生け捕りにするのは絶望的だ。キアンの場合は無属性の魔力(アルマ)で動きを封じたみたいだけど、俺の場合は…キアン程確実では無いけど、使うならあれかな。

 

 そう思案に耽っていると、女性陣からハイライトの消えた視線を向けられてしまう。これがまぁ、突き刺さって痛い痛い。この辺で止めにしておくとしよう。


「何であれ、早めに分かって何よりだ。直ちに備えはしておこう」


 こうなると、呑気に情報の擦り合わせ等行ってはいられない。俺達は速やかに解散し、何時でも表で戦闘が出来るよう支度をする事にした。

 偶然の賜物だが、最初に口を開いたのがキアンで助かった。これが違っていたら、事への対処が遅れてしまった可能性が高い。

 とは言いつつ、まだ支度(したく)途中で襲撃を受ける可能性もあるので、油断は出来ないのだが。


 …

 

 それからおよそ十分後、今度は完全防備の姿で一同俺とキアンの部屋に介する事となった。見れば何時に増して、オプシーが張り切っている。


「練習の成果を見せる時だな」

「実戦は初めてだけど、大丈夫、私はやればできる子」

「…特訓の成果、上々みたいだね」


 キアンの指摘通り、短い時間ながら特訓の成果は着実に出ていると断言出来た。しかし流石に「全身換装」までには至らず、その一つ前の段階「部分換装」の習得に留まっている。

 それでも初期の「武装」の状態から比べれば、戦闘能力は格段に向上する。「全身換装」には及ばないものの、この有事に際して「部分換装」を使えるようになった事は、オプシーにとって紛れもなく助けとなってくれるだろう。まだ精度は怪しいけど…

 しかし、全ての事を教える事は出来なかった。現在は、教導を一度中断と言う形で落ち着いている。


 …折角だし、戦闘中に教導を行えるよう、俺も敢えて「部分換装」で戦ってみるのはアリかもしれない。

 ハッキリ言って、「全身換装」の下位互換でしかないんだけど…


「情報共有の為、戦闘中は全員で念話を繋いでおこう。その時、何かわからない事があれば聞いてくれて構わないから」

「分った、私、頑張る」


 これで一応のアフターフォローも可能、と。

 だが一番肝心な内容、襲撃のタイミングについては情報を所持していなかったらしく、キアンの情報爆弾でも正確な時刻を掴む事が出来なかった。尋問したのが下っ端だったのが全てだと言えよう。

 これは仕方ない、暫くの間は周囲に気を配りながら、魔族の動向を探るよう努めるしかないだろう。


 そうして一度外に出ようとしたその時だった。宿からは若干遠いが、地響きを伴って確かな破壊音を聞き入れる事が出来た。

 慌てて出てみれば、街を囲む城壁の一部…恐らく西門に当たる場所で爆発があったようだ。まだ被害は然程広がっては居ないようだが、間違いなく火の手は上がっている。


「急ぐか…」

「でもこの場合、僕達って勝手に動いていいのかな?」


 確かにキアンの言う通り、状況によっては大人しくしておいた方が良いケースもある。しかしその場合、街の防衛機能が正しく機能する事が大前提となるのだが…


「魔族共の相手、この街の兵士達に出来ると思うか?」

「街に入る時に合った人達でしょ?無理だよね?」

「そうなればどのみち市街で乱戦突入だ。そうなれば、必然的に俺達も戦わなければいけなくなるだろう」


 それ以前に、この魔族の襲撃には俺達が多いに関係していると言って過言では無かった。

 しらばっくれたとして、どうせ向こうは俺達を標的にしてくる筈だ。最後まで無関係で押し通す事は出来ないのである。


「それに俺達が出向いた方が、一般人に対する被害も抑えられる…と思いたい」

「そこは自信持って断言して貰いたい所ですが」

「でも俺、魔族と戦うのは初めてだからさ…」

「でも僕の暴走を止めたのはルディなんでしょ?なら大丈夫だよ。こう見えて僕、一瞬で四天王を消し炭にした男だからね」


 誇らしげに歯を見せるキアンに内心呆れながらも、俺は途端に踵を返し、自身に「部分換装」…では無く、一度「全身換装」を施す事にした。

 やっぱり「部分換装」は、「全身換装」の下位互換と言って良い形態に該当する。体型やビジュアルもそう変わらないし、無理して使用する必要は無い。

 因みにオプシーも、最初は慣れ親しんだ「武装」形態を執ったようだ。幾ら「全身換装」の下位互換である「部分換装」とは言え、最初の内は負担も大きいし、納得は出来る判断だ。


「取り敢えず、俺とオプシーは空路で先行する。二人はこれに追随して」


 別に追いつけなくても良いから、と断りを入れつつ、俺とオプシーは飛び上がった。そのまま一直線に燃え盛る炎目掛けて突き進んで行く。

 その背後を、キアンとフラウが屋根を伝いながら追いかける形で追随する。流石に空を飛ぶのには敵わないが、それでも常軌を逸した速度で追いかけてくるのだから大したものである。


 …


 そうこうして凡そ一分、瞬く間に西門付近に辿り着いた俺達だったが…


「これは…」

「想像以上に被害が拡大している…敵の数も思いの外多いな」

 

 何故か知らないが、魔族の襲撃が本気である。マップを確認した所、推定でも千を超える魔族が一斉に襲い掛かって来ているようだ。それら一体一体のスペックが高く、最低でも基種。指揮官クラスと思われる主種に匹敵する反応も、百を超えて襲来していた。

 こんなの、たかが人間の一兵卒にどうこうできる相手ではない。案の定兵士達は惨殺され、既に魔族達は市街に侵入を始めていた。

 しかも最悪な事に、この近辺には逃げ遅れた民衆がかなりの数取り残されている。かと言って避難誘導を行う筈の兵士は殆どが物言わぬ(むくろ)に変えられてしまい、結果辺り一帯は混乱渦巻く地獄絵図と化していた。


 何と言ってもやらなければいけない事が多すぎる。生き残っている兵士もいない中、これはどうしたものか…


「避難誘導は…無理だな、この街に来てから日が浅すぎる」

「僕達は襲撃箇所を包囲しながら、敵の戦線を後退させるよう動くべきかな」

「それが良さそう、でも、現時点でかなり侵入されてる…」


 オプシーの指摘通り、既に西門は突破され、市街で惨劇が繰り広げられている。

 どうしても手遅れ感は否めないが、やるしかないだろう。フラウも同意見のようだな。


「しかし私達が食い止めないと、話になりません。万が一の事態を想定して、二人づつで別れて対処しませんか?」


 俺は一瞬考えこむ。キアンや俺なら何とかなるかもしれないが、フラウも守備面以外では太刀打ちできない相手が居るかもしれないし、オプシーもまた対処は困難だろう。

 俺はフラウの提案に同意の姿勢を示した。


「その方が良さそうだ。どうする?教導の続きも兼ねて、俺とオプシー、キアンとフラウで別れるか?」


 俺はそう進言したのだが、何故かフラウが難色を示していた。


「…ここはキアンとオプシー、私とルディで別れませんか?」

「何故に?」

「最近キアンと同時行動していて思ったのですが…」


 フラウ曰く、キアンとはどうしても歩調を合わせるのが困難なのだと。そうにもフラウは、ここの所キアンに着いて行けなくてもどかしく感じる事が多々あったようだ。

 かと言って、キアンが俺に変わったところで何が変わるのか?と言う素朴な疑問は尽きないが、本人がそう言うなら受け入れてみるのは一興だろう。実力の関係で俺とキアンを組ませる選択肢は無いが、そこの変更なら然したる問題は無い。

 キアンやオプシーも、特段異論は無い模様。


「分った。オプシーは「部分換装」を使う際、判らない事があったら念話で聞いてくれ」

「分った、こうして話している時間も惜しい、行こう」

「だね、そっちも頑張って!」


 と言う事で早速、俺達は各々の担当方面を決める。結果俺とフラウが右手側、キアンとオプシーが左手側と決まった。

 それを心得るや否や二手に分かれ、魔族の対処に向かったのであった。



 ~ルディウス、フラウメルサイド~


 

 俺とフラウは西門の右手側を担当する事になった。正直西門周辺は右手側も左手側も被害は甚大で、既に一般人にも少なくない死傷者が出ているようだった。

 早速激戦地に舞い降りるや否や、敵戦力の撲滅を開始する。とは言いつつ基本路線は、地上部をフラウが担当し、空中の敵を俺が対処すると言う事で話は着いていた。


 因みに、俺は多少魔族に対する基礎知識を有していた。

 魔族の雑多は基本的に基種だが、その実力…正確には技量が、通常の基種に比べて劣る傾向が大きい。それは「迷宮」の在り方に由来するものなのだが、ここは迷宮外なので気にする必要はあまり無いだろう。

 またこれは指揮官クラスにも同様に言える事で、動きを見る限りでも主種相当の技量を携えているようには見えない。魔種にとってはありがちな事態である。


 だがこの場面においては却って好都合。俺はそうこうしている間にも「障壁」を用いて形成し、これを「結界」でコーティングした特別製の銃弾で打ち抜いていく。

 恐らく四天王には抵抗されてしまう危険性があるものの、下っ端相手には十分に有効なようだ。二丁拳銃の引き金を引きながら、ヘッドショットを連続で決めていく。

 そして銃弾が当たるや否や頭部が吹っ飛び、そのまま地上に墜落していく様を確認出来た。


 ただ、墜落した個体で再生を始めるものと、そうでないものが存在しているようだ。先ずはこのカラクリを解き明かさなければなるまい。


「(銃弾がヒットした位置は覚えている。これらの違いは…)」


 分析する傍らで、フラウの戦いぶりも視界の隅に入れてみた。彼女もまた、ナイフや暗器を用いて魔族の首を刈り取っていた。

 しかしフラウの場合、倒した魔族が一人残らず再生を始めていた。フラウもこれに気付いたようで、非常に不機嫌そうな表情を浮かべている。


「(首を刈り取るだけでは不十分か。でもヘッドショットなら何とかなる()()()()()と)」


 この時点で俺はとある可能性に行き着いていた。それは「八宝術」を使える者なら、誰しもが的確に理解出来ているであろうあの器官。「芯脳」と呼ばれる、脳の中央部に存在するビー玉サイズの器官である。

 俺達はこの「芯脳」を介して八法術を行使したり、魔力(アルマ)法力(アルムス)に干渉を行っている。これは俺達の界隈でも有名な話で、科学的にも立証された定説である。

 要はこれを破壊してしまえば、魔族は再生が行えなくなるのでは?と俺は考えた。能力を使うのにも根幹の役割を担う器官だし、もしかすると魔族の再生能力もこれに該当するのではないかと踏んだのである。


 試してみる価値はある。

 俺は再度ヘッドショットを決めていくのだが、その弾道に必ず芯脳が含まれるよう軌道を調整した。この器官はかなり奥の方に存在しているので、威力が削れてしまう「跳弾による弾道の変更」は用いない。

 出来るだけ芯脳との距離が近い場所…つまり側面、こめかみからダイレクトに打ち抜くよう弾道計算を施した。


 そしてこの説は見事立証される。芯脳を打ち抜いて魔族は、一体たりとも再生を始めなかったのである。


「(これは共有しておくべきだろう…)」


 そう考えた俺は、即座に念話を繋げる事にした。


『敵の魔族だが、倒す際には必ず、頭の中央付近にある「芯脳」を砕くように。多分キアンはそれが何で何処にあるか、知っているんじゃないか?』

『うん、判るよ』

『オプシーは最悪キアンに聞いてくれ。もし無理なら、魔族の首から上を塵一つ残さず消滅させるしかないが…』

『そっちの方が難しいでしょう』


 まぁ…キアンは兎も角、フラウの戦闘スタイルなら厳しいか。

 ここでオプシーが、少々独特な切り口で可能性を示唆した。


『私の羅神器(アルティメイター)の能力、「座標切換」を使って、芯脳の位置座標を魔族の体外に変えれば…』

『それは上手く行くか謎だ。でも試してみる価値はある』


 オプシーの方法は、最悪飛ばした芯脳を起点に再生を始める可能性もあるので何とも言えない。

 その後連絡があったのだが、やはり俺の懸念通り、飛ばした芯脳を起点として魔族の肉体が再生してしまったようだ。無念。


 何はともあれ、共有は済んだ。俺は再び魔族の間引きを開始する。フラウも戦い方を変え、首を刈り取るや否やナイフを側面から深々と突き立て、止めを刺すようになった。

 しかし作業が一つ増えたせいで、フラウのキルペースがガクッと遅くなってしまった。実際フラウには不向きな方法かもしれない、ここは俺が頑張るしかない。


 そう奮起しようとした俺だが、そんな俺のやる気を削ぐ出来事が起きる。何と一般人の亡骸や魔族の死骸がある一点に集まって行き、そのまま繭を形作り、やがて虫の特徴を含んだ魔種…だと思われる何かに変貌したのである。

 何時ぞやの記憶…キアンの記憶にあった「虫型魔族」かな。

 それにしても、これはかなり面倒臭い。何よりも、その一体一体が王種に匹敵する反応を示しているのは反則だと思う。


 そんな虫型魔族だが、こちらも自身の肉体を安定させるや否や、魔族と共に侵攻を開始した。通常の魔族と同様、共だって一般人の虐殺に加担している。

 しかも記憶にあった通り、僅かだが人を殺す毎にその技量を上昇させているのが何とも忌々しい。

 その上、人を殺せば殺す程虫型魔族が生み出されてしまう。そしてそれが虐殺を開始し…地獄の連鎖反応がそこにあった。


「(今の方法では、何の解決にもなっていないってか?)」


 俺は舌打ちしながら、虫型魔族にも同様に対処する。こちらも魔族と同様「芯脳」を打ち抜かないと再生を始めてしまうのだが、これを無力化した所で新たな虫型魔族の材料と化してしまうだけであった。

 だが、俺はこの現象には何らかのカラクリがあると察していた。先ずはその元凶となっている何かを即座に叩く必要があるだろう。若しくは、虫型魔族を細胞の一つも残さず塵に変えるか、か…

 

 ここで素朴な疑問が浮かぶ。仮にあの死骸の保有エネルギーを合計したとして、その総量にはならない筈なのに…一体どういう事なのだろうか?

 何はともあれ、聞いてみよう。キアンの記憶には敵の首領、四天王がそれらしき魔法を使っていたようだが…


『ねぇ、あの「虫型魔族」だっけ?あれについて何か知ってる?』

『うーん、僕達も一度交戦しただけだしなぁ』

『私が知っているのは、敵の四天王が魔法を使った事で生まれた事、捕食した相手の技量を奪える事位』

『それと生まれて暫くは、若干の弱体化をしているみたいです。でも少し時間が経てば、従来通りのスペックを発揮出来るみたいですね』


 これを受けて、俺は事と次第を冷静に俯瞰(ふかん)してみる。

 虫型魔族が厄介な事は言うまでもない。そしてそれを消滅させたのはキアンで、その際には細胞が一つも残らないように塵に変えていた。

 だが話を聞く限りでは、どうしてもあの反応を説明出来ない。そうなると、虫型()()と言う点を考慮して考えられる事は…


「(術者の魔力(アルマ)だけを吸い上げた場合、あの自称は実現不可能。多分そのもっと大本、迷宮から直接吸い上げてるとかかな?)」


 虫型魔族を増産、維持するのに必要なエネルギーも莫大なものになる筈。これを単独の存在で賄うなど以ての外、四天王であっても到底間に合わないだろう。

 そうなると、これを賄っている存在が居ると考えた場合、俺には真っ先に迷宮が考えられた。虫型魔族は何らかの形で、迷宮から直接エネルギーを吸い上げながら活動を行っていると。


 だがこれはハッキリ言って異常事態だ。迷宮()で実現されているならまだしも、ここは迷宮()である。迷宮のシステムを理解していればより引っ掛かる部分であった。

 同様に、とある可能性が浮上してくるのだが…


『…確かめてみない事には何とも言えないか』

『?』

『多分今回の襲撃にも、「四天王」が絡んでいる可能性が高い。俺は一度、これを直接叩いて来ようと思ってさ』


 これが魔王の指示の下で行われているのか、それとも四天王の独断で行われているのか…これによって、全く事実は変わって来る。

 何が何でも確かめるべきだ、と俺は感じていた。


『少し持ち場を離れる。フラウは現状維持を頑張って』

『そんなの無茶ですよ!』

『無理なら即座に撤退して、キアン達と合流すれば良い。どの道このまま戦い続けても無意味だからな』


 羅神器(アルティメイター)もあるし、俺が動いた方が早い…と判断してのこの提案なのだが、意外にもあっさりと棄却されてしまう事になる。


『水臭いですよ。私達もお供します』

『え?別に来なくても…』

『多分ルディには何か考えがあるのでしょう?私達が居ると何か不都合でも?』

『それは…』


 ふと我になって考えてみたが、フラウは…居ても居なくても変わらないかな。

 本人が付いてきたいと言うなら、それでもいいかも知れない。フラウなら例の防御魔法があるし、そう簡単に死にはしないだろうから。


『分かった。それでどうする?ルディとオプシーも俺と同様に動くか?』

『そうだね…後ろを見てみたけど、増援は来てるみたいだね。後の事は、彼らにお任せしても良いかも』

『多分増援には期待できない、でもそれより先に、私達が対処すればいい話』


 どうやら全員の見解は一致しているようだ。


『なら全員に伝えておく。恐らく今回の襲撃、四天王が関与している可能性がある』

『四天王…「東方のキョンシー」や「南方のグール」の同僚ですか』

『確かに、この前虫型魔族を見た時も、四天王が何かやってた』

『と言うか、大方四天王が今回の襲撃の首魁だ。これを探そう』

『成程、それで前回同様塵に変えればいいんだね?』


 別にそこまでは言っていないのだが…まぁキアンはそれでもいいだろう。対する俺は、四天王から幾らか情報を聞き出してみる予定である。

 元より、四天王に関しては捕えて尋問する予定だったのだ。俺の方では何とかして、生け捕りを狙いたい所だ。


 そうと解れば、やる事も自ずと決まってくる。俺達は早々に戦線を離脱し、敵の首魁…だと予想される「四天王」の捜索を開始したのであった。



 ~~~~~



 そうは言いつつ、四天王は割と簡単に探し当てる事が出来た。マップを用いて、確認出来る大きな反応に手当たり次第コンタクトを取ってみたのだが、そうこうしている内に発見したのだ。

 俺が見つけた四天王は、癖っ毛を束ねたツインテールが特徴のメイド風の魔族。見た目だけなら、何処にでも居る人間の侍女にしか見えない。

 少なくとも、南方のグールとは別人だな。


「お前が今回の首魁だな」

「オッホッホッホ!人間風情の癖して、頭だけは回るようです。私は「西方のブルーカ」と申します。以降良しなに」


 そう言って様になったお辞儀(カーテシー)を披露する四天王。だがそいつが俺を見て人間と判断した時点で、俺は内心拍子抜けを食らったような気分になっていた。

 それはそうと、本題に入る。


「単刀直入に聞かせて貰おう。この虫型魔族、お前らの迷宮のモノじゃないよな?」

「⁉」

「オッホッホッホ!無論でございますとも。寧ろあの迷宮如きの功績だと認識されては、我等が偉大なる主の名折れと言った所でしょう。相も変わらず、かの御方は素晴らしい!」

「主?魔王ジュラキュリオンでは無いのか?」


 いきなり不穏な言葉に重ねて自分の主人を讃えるブルーカだが、その言葉はいくら何でも聞き逃せなかった。

 しかし俺の予想とは裏腹に、ブルーカはアッサリと真実を語り始める。


「あのような小娘に、我々が本気で従うとでも?私に関しては、この迷宮に来る前から偉大なる御方…「十界」に名を連ねるかの御方の忠実な下僕でしたとも」

「十界?それは魔王ジュラキュリオンとは関係ないのか?」


 俺がそうさり気なく問いかけると、途端にブルーカの機嫌が駄々下がりになる。そして明確な殺意を持って、俺を見つめてくる。


「貴様、何も解って居ないようですね…愚かなるお前に、死と共に現実を教えて差し上げましょう。我らが真に敬愛する主は、「十界:スヴァルトアールヴヘイム」。魔王如きとは格が違うのですよ!間違えても一緒にしないで頂きたいものですね!」


 この時点で俺は全てを察していた。

 おい魔王、お前の陣営に裏切者が居るじゃねーか。ちゃんと部下の手綱は握っておけよ。


 また詳しく聞いてみた感じ、今回の襲撃は十界に忠誠を誓う他の四天王と共謀し、両名が独断で行っているとの事。一人じゃないのか…

 また魔王は「俺とキアンとフラウの三人組を探し出せ」と命令を下していたそうなのだが、四天王二人はこれを利用して一般人を殺害。その上で虫型魔族の増産に勤しんでいたようだ。

 そうなると、今回の襲撃には魔王の意思が一切介在していない事になる。こいつ等を尋問する意味合いはかなり薄くなってしまった。


「(被害が拡大するだけだろうし、さっさと始末すべきだよな)」


 そう感じた俺は、激高しながらこちらに瞬間移動してきたブルーカに対し、その出現地点を割り出した上で特別製の銃弾を浴びせた。

 銃弾はクリーンヒット、しかし例の四天王には大したダメージが入っていないらしい。これを受けて俺は即座に距離を取り、再び銃口を突き付けた。


「オッホッホッホ!私は王種に該当する高位存在。物理攻撃が通用すると本当にお思いで?それにその気になれば、私が硬い外骨格を有する虫型魔族の上位種に進化する事も可能なのです。そうなればこのような児戯等通らない、続けるだけ無駄と言うものですよ」

「(コイツ、思ったより口が軽いな)」


 かと言って、その口から出てくるのは十界:スヴァルトアールヴヘイムに関する情報と、これを讃える言葉のみ。恍惚とした表情で、実に気持ち良さそうに、ありとあらゆる話を語り尽くしてくれる有様であった。

 他にも多数の情報を漏らしてくれており、俺の中で少しだけ、十界に関する知識が深まったようにも感じる。


 だが正直、この十界とやらもそれなりの重要人物なのかもしれないが、『天啓』を前にした今、俺としては同じ星職者(スターシード)でもある魔王の方が重要度が高かった。

 しかも口が軽い割には妙に締めるべき所を弁えているらしく、肝心の十界に纏わる情報を殆ど落とさない…と言うより、あまり深い事を知っていないようだった。


「しかし愚か者の割には見どころがあります。もし貴様が望むなら、かの御方との間を取り持つこともやぶさかではありませんが?」

「面倒だからパスで。そもそもお前、出来もしない事を口にするなよ」

「そうですか。ならばもう、慈悲の欠片も必要なさそうですねッ!」


 そう言って再び瞬間移動を使おうとするブルーカ。対する俺の反応は実に冷めたもので… 


「…もういいや」


 そう言いながら、今度は情報爆弾も撃ち込んでみたのだが…案の定肝心な事を殆ど知れない所か、十界との回路(パス)を辿る事すら出来なかった。

 西方のブルーカ…十界目線だと、下っ端も下っ端なのだろう。


「お、おああああ!」


 対するブルーカだが、俺の情報爆弾を受けて悲鳴を上げていた。

 情報爆弾は本来攻撃…それも対象を直接破壊するのではなく、特定の指向性を持たせた上で押し付ける事を目的とした技術。

 肉体を有する下位存在には「肉体の性質」が禍してほとんど通用しないが、逆に肉体から解き放たれた上位存在にはかなりの効果が期待出来るのだ。


 ブルーカは「王種」と言う中途半端な存在だが、それでも上位存在に片足を突っ込んでいた事もあり、効果は覿面(てきめん)だった。情報爆弾がヒットした箇所、顔面付近が崩壊を起こしている。

 元々情報爆弾は、上位存在でも感知や操作が困難な「情報粒子(ヨクトダスト)」の直接操作によって実現可能な技術だ。大抵の相手は、これに抵抗する事すら適わない。

 最も、肉体を持つ相手に対してはその必要すらなかったりする。肉体は意識せずとも維持が出来る位安定性が高く、情報爆弾程度ではその構成を揺るがす事が出来ない為、ほとんど通用しないのだが。


 何であれ、ブルーカには関係の無い話。話を聞く価値も無さそうなので、このまま始末するに限る。


「おのれ小癪(こしゃく)な…このような事をして、ただで済まされると…」

「それ以前に、お前を活かしておくと危険なんでな」


 そう言って俺は引き金を引こうとしたのだが…


「待った、後の事は俺達に任せろ」

「魔族から街を守るのが、僕達のお仕事なんでね!」


 そう言いながら突然、複数の人物が俺とブルーカの間に割って入ったのである。

 ク〇どうでも良い話ですが、私は必ず投稿後、各話に何かしらの修正を加えるようにしています。


 え?何故かって?


 いや、右端に「(改)」の文字が付くの、カッコよく無いですか?

 ほら、ドラゴンボ〇ル改、的な…

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